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取材報告

2012
第13回 富士通病院経営戦略フォーラム開催
医療と介護をつないだ患者中心のシームレスな連携を考える

富田博樹氏(前・武蔵野赤十字病院院長)
富田博樹氏
(前・武蔵野赤十字病院院長)

鈴木邦彦氏(博仁会志村大宮病院理事長)
鈴木邦彦氏
(博仁会志村大宮病院理事長)

福島道子氏(国際医療福祉大学教授)
福島道子氏
(国際医療福祉大学教授)

野中 博氏(博腎会野中医院院長)
野中 博氏
(博腎会野中医院院長)

唐澤 剛氏(厚生労働省大臣官房審議官)
唐澤 剛氏
(厚生労働省大臣官房審議官)

コーディネーター:渡辺俊介氏(東京女子医科大学医学部客員教授)
コーディネーター:渡辺俊介氏
(東京女子医科大学医学部客員教授)

会場風景
会場風景

  第13回富士通病院経営戦略フォーラムが,5月17日(木),東京・千代田区の東京国際フォーラムで開催された。テーマは「患者中心の連携とは〜病院,在宅医療,介護のシームレスな連携を考える」。17,18日の両日に行われた富士通の総合イベントである「富士通フォーラム」のプログラムの1つとして行われた。病院経営戦略フォーラムでは,元日本経済新聞論説委員で東京女子医科大学客員教授の渡辺俊介氏がコーディネーターを務め,「患者中心の連携を現場で具体的に実践しているパネリストからシームレスな連携のあり方と課題を探る」ことをテーマとして,パネリストからの講演とディスカッションが行われた。

  最初に,武蔵野赤十字病院前院長(現・日本赤十字社事業部長)の富田博樹氏が,「地域中核病院としての地域への係わり方〜医療・介護・福祉の地域連携の中核として」と題して,武蔵野赤十字病院で取り組んだ脳卒中ネットワークシステム構築の経験を紹介した。同院では,2000年頃から地域完結型の脳卒中の診療体制の構築をめざしたが,当初,東京都北多摩南部医療圏(100万人7000床)に回復期リハビリ病棟は0床であり,急性期病院自らが中心となって回復期,維持期の病棟開設など連携のための下地づくりに取り組んだ。2001年に立ち上げた“北多摩南部脳卒中ネットワーク研究会”を中心に,地域での課題の検討や講演会,リハビリスタッフの養成,確保などを行政まで巻き込んで展開し,2010年には回復期病床300,老健施設200床まで増えて連携パスによるネットワークに成長した。さらに,罹患前からの市民への周知が必要との認識から市民対象の講演(辻説法)を4年間で105回行い,住民参加の連携を進めている。富田氏は,同院の元院長である故三宅祥三氏の「連携を行うには『利他』の精神がもっとも大切である」であるという言葉を紹介し,これからの連携構築における急性期中核病院の役割の重要性を強調した。

  続いて,日本医師会常任理事で中央社会保険医療協議会委員を務める鈴木邦彦氏が登壇し,「平成24年度診療報酬・介護報酬の同時改定と地域医療再生計画の見直しについて」を講演した。
  鈴木氏は,まず今回の診療報酬と介護報酬の同時改定の概要とポイントについて説明し,医療連携や在宅医療に重点を置いた改定となっていることを強調した。さらに,鈴木氏が理事長を務める志村大宮病院(茨城県常陸大宮市)がある茨城県央・県北地域で取り組んでいる,民間の回復期施設が中心となった脳卒中地域連携パスの構築の状況について説明した。欧米各国と比べ日本の医療は,高齢化率に比べて総医療費支出は低く(対GNP比),公的給付の割合が高い(8割以上),しかも医療サービスの質も高く健康状態も高い。これを達成しているのは,日本の医療が公(国民皆保険,多様な財源など)+民(民間中心の医療提供体制)のハイブリッド型であり,中小病院,有床診療所が多い,診療所の質が高いことが日本型医療システムの特徴であるとした。その上で,これからの超高齢社会を乗り切るためには,中小病院,有床診療所など既存資源を活用した日本型在宅支援モデルが必要となると述べた。

  国際医療福祉大学教授の福島道子氏は,「患者にとっての『退院』の現状と退院支援の実践」と題して,栃木県の太田原赤十字病院の看護部と取り組んでいる退院支援の実践について講演した。福島氏は,最初に現在の病院における『退院』が患者にとっても,看護師やソーシャルワーカーにとっても制度や政策に縛られた不本意なものになっていることを現場の声として紹介した。それを打破する取り組みとして,太田原赤十字病院で1997年から退院支援事業に取り組み,看護師の退院支援能力の促進やツールの開発などから,地域連携室,入退院センター,退院調整看護師の設置,地域連携パスの活用などへと発展させてきた。実際の退院支援では,病棟のプライマリーナースが中心となって,入院前の入退院センターから情報把握を行うことが重要であり,地域のケアマネージャーなども入った拡大カンファレンスと地域との連携が求められる。福島氏は,退院支援が患者中心から経営中心になっていることが最大の課題ではないかと問題提起した。

  東京・浅草で在宅医療に取り組んできた野中医院院長で東京都医師会会長の野中博氏は,「『治す医療』から『支える医療』へ」として,これからの在宅医療を含めた地域で連携した医療の考え方について講演した。野中氏は,医療連携は医療機関の経営上のメリットからではなく,“地域の生活者の生涯を支えるための連携”でなければならないとして次のように述べた。
  「国民の医療への期待は,入院して適切な治療によって病気が治り自宅に戻ることだが,在院日数の短縮など環境の変化によってシームレスな地域連携医療が不可欠であり,そこで重要になるのが退院調整である。退院調整で重要なことは,病院の“入院機能”の充実であり看護師を中心に入院中のケアをしっかりと行うことが退院後の医療と生活の安定につながる。地域の中での患者の自立を支援するためには,かかりつけ医が中心となって地域のさまざまな施設や職種との協力による在宅医療が必要だ。これからの高齢社会においては,従来の“治す医療(EBM)”から,“支える医療(Narrative Based Medicine)”への転換が求められている」

  最後に,厚生労働省大臣官房審議官の唐澤 剛氏が,「地域ネットワーク型医療介護システムの必然性」について講演した。日本の医療には,国民皆保険,フリーアクセス,民間中心の医療提供体制という3つの特徴があり,これからの医療制度を考える時にはこの固有の医療システムをベースにした総合的な対応が必要になる。唐澤氏は,これからの医療提供体制をどうするかは,その時代に合わせてそれぞれの地域の実情にあったものを地域ごとに考えていくことが必要だとした。連携という観点では,医療と介護の循環的な提供体制の構築が重要で,急性期から回復期,慢性期,さらに介護,在宅へと次のステージに円滑に移行できる体制が必要となる。そういった連携型モデルと同時に,患者や市民参加型のシステムの構築が求められると述べた。

  後半のパネルディスカッションでは,渡辺氏の司会のもとパネリストが登壇し,地域での医療連携を全国どこでも成功させるためには何が必要か,在宅医療をより普及発展させていくための方法論,地域の住民を含めた医療連携を推進するにはなどのテーマでディスカッションが行われた。会場からも多くの質問が寄せられ,活発な議論が展開された。


●富士通フォーラム

  富士通フォーラムは,「Reshaping ICT - Reshaping Business」をテーマとして行われた。昨年は東日本大震災の影響で中止となったため2年ぶりの開催となる。社会生活やビジネスを支えるITの活用の取り組み,スーパーコンピュータなどの最先端技術,クラウドコンピューティングなどサービスやテクノロジーについて,92のセミナーと展示が行われた。

  展示会場では,「地域の新たな価値づくり」のコーナーで,高齢化社会を支える在宅医療を支援(祐ホームクリニック),みんながつながる医療を実現(HumanBridge EHRソリューション)などが出展された。

展示会場
展示会場
「地域の新たな価値づくり」で医療関連システムを展示
「地域の新たな価値づくり」で医療関連システムを展示

●問い合わせ先
富士通(株)
富士通病院経営戦略フォーラム事務局
TEL 03-6252-2572
http://jp.fujitsu.com/


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