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取材報告

2012
J-SUMMITS Special Seminar
震災復興における医療ITの重要性とユーザーメードの役割を探る

■ セミナー
■ ユーザーメードを支援する企業による各種のセミナーや展示を開催
■ INTERVIEW◆ ファイルメーカー 社長 ビル・エプリング氏

会場風景
会場風景

吉田 茂氏 (名古屋大学)
吉田 茂氏
(名古屋大学)

國井重男氏 (東北大学)
國井重男氏
(東北大学)

松波和寿氏 (松波総合病院)
松波和寿氏
(松波総合病院)

佛坂俊輔氏 (佐賀県立病院好生館)
佛坂俊輔氏
(佐賀県立病院好生館)

草深裕光氏 (名古屋記念病院)
草深裕光氏
(名古屋記念病院)

平松晋介氏 (製鉄記念広畑病院)
平松晋介氏
(製鉄記念広畑病院)

千場良司氏 (仙台厚生病院)
千場良司氏
(仙台厚生病院)

木村 敦氏 (ゆうあいホスピタル)
木村 敦氏
(ゆうあいホスピタル)

太田原顕氏 (山陰労災病院)
太田原顕氏
(山陰労災病院)

岡垣篤彦氏 (大阪医療センター)
岡垣篤彦氏
(大阪医療センター)

山本康仁氏 (東京都立広尾病院)
山本康仁氏
(東京都立広尾病院)

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子

蒲生真紀夫氏(大崎市民病院)
蒲生真紀夫氏
(大崎市民病院)

 ユーザーによる医療ITシステム構築の普及,促進を目的として活動を行っている日本ユーザーメード医療IT研究会(J-SUMMITS)は,6月8日(金),宮城県仙台市のウェスティンホテル仙台でJ-SUMMITS Special Seminarを開催した。本来は昨年5月に東北で初めてのセミナーイベントとして開催の予定だったが震災の影響で中止となり,1年越しの開催となった。
  開会の挨拶でJ-SUMMITS代表の吉田 茂氏は(名古屋大学医学部附属病院メディカルITセンター長)は,J-SUMMITSの活動内容を紹介し,「J-SUMMITSは,2004年に仙台で行われた日本クリニカルパス学会の企画のひとつとして産声を上げた。仙台は誕生の地でもあり“戻ってきた”ということになる。東日本大震災からの復興と,ユーザーメードの取り組みが東北の地に広がることを期待して今回のセミナーを企画した」と述べた。

  午前のセッションでは,基調講演として,國井重男氏(東北大学病院メディカルITセンター准教授)が「震災復興における医療ITの重要性」を行った。國井氏は,3.11後の東北大学での被災状況を説明し,病院情報システム関係では古い棟にあった臨床検査,生理検査は立ち入り禁止になったため使用できず引っ越しを余儀なくされたが,サーバルームなどは免震・災害対策を実施していたためほとんど影響を受けなかったことを紹介した。
  國井氏は,今回の震災を経験して感じた課題として,病院完結から地域連携医療へという政府が進めてきた医療制度の改革に,現実の医療提供体制が追いついていないこと,その中で医療情報システムも初期の役割(医事会計)に縛られ診療支援やコミュニケーションツールとしての機能が不充分なことを挙げた。特に,災害を想定した場合には,地域完結型に対応した連携を基本とするシステムを一本化して構築し,平時から運用を継続して災害時に備えることが必要ではと提案した。そのためには,相互運用性だけでなくメーカー間での検査データなどの標準化も必要だと強調した。
  宮城県では,みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会(MMWIN)など,地域医療復興のための新しいネットワークづくりが始まっているが,國井氏は国の「マイナンバー」制度に先駆けて“医療共通ID”に宮城県で一足先に取り組みたいと構想を語った。必要な条件として,全国に普及することを前提とした番号体系にすること,オフラインでミニマムデータセットが参照できること,本人認証の仕組みを取り入れることなどを挙げ,「医療連携をスムーズに進めるためには共通IDが必須になる。マイナンバーの運用開始を待っては遅すぎるので,後からでも連携できるような仕組みで宮城県から先行したい」と構想を語った。
  続いて行われた特別講演では,「災害時病院情報統合管理システム MedPower」と題して吉田氏が登壇した。吉田氏は,阪神淡路大震災の被災者としての経験から東日本大震災に対する支援として,被災地の医療で問題となる“医療リソース(患者,医療者,医療機器,薬剤など)”の偏在を解決するWeb型情報共有による災害時病院情報統合管理システム「MedPower」を作成した。MedPowerは,電気や水道と入ったライフラインの状況や,手術の対応状況などの病院機能の情報を病院側から発信し共有が可能なサービスで,ファイルメーカー社などの協力でFileMakerとFileMaker Serverを使って,吉田氏が震災後のわずかな期間で作成し公開した。MedPowerのほかに,小児科に特化し特殊な手術や処置への対応や入院の情報を提供する「PedPower」,妊娠や分娩への対応状況を確認できる「ObsPower」,日本循環器学会認定施設などの情報を提供する「CardioPower」を構築した。また,被災地の病院を支援したい医師と,受け入れる病院側のマッチングを行う「応援医師派遣登録」の仕組みも構築した。吉田氏は,こういったシステムを平常時から構築し運用していくことが,災害など非常時のために重要だと述べた。

  午後のプログラムは,J-SUMMITSの精鋭メンバーによるプレゼンテーション「医療現場における事例研究」が行われた。進行は,松波和寿氏(松波総合病院副院長・産婦人科部長)。
  第1部は「医療現場で工夫するユーザーメードITシステム」として,4名が登壇した。最初に登場した佛坂俊輔氏(佐賀県立病院好生館整形外科医長)は,「手術説明・同意書冊子化ツールによる同意書作成業務の効率化」として,FileMakerで構築した同意書などの作成とインフォームドコンセントをサポートするツールの紹介と,その利用の効果を検証した結果を報告した。
  続いて,草深裕光氏(名古屋記念病院副院長)が,「電子カルテ-FileMaker-ProRecord(DACS)連携」を講演した。名古屋記念病院では,2012年1月から電子カルテ(OCS-Cube CL:両備システムズ)が稼働した。紙カルテからの移行に当たってFileMakerとProrecord(富士ゼロックス)で構築した電子カルテの連携システムを紹介した。
  「電子カルテ情報を利用した診断書作成支援」を講演した平松晋介氏(製鉄記念広畑病院第一産婦人科部長)は,50社以上の保険会社で書式がすべて異なる診断書を,電子カルテのデータを利用してFileMakerで作成できるシステムを紹介した。また,平松氏は,特定疾患治療研究事業で指定された56疾患の臨床調査個人票についてもFileMakerで作成できるシステムを構築し,入力や作成の手間や時間が軽減されたと述べた。
  第1部の最後は,千場良司氏(仙台厚生病院臨床検査センター病理部部長)による「病院病理部門におけるエンドユーザーコンピューティング」。病理検査の手順を説明し,特殊な運用や項目など現場で必要とされるシステムをFileMakerで構築した「外部受託病理検査システム」開発の経験を述べ,ユーザーが現場で構築できるFileMakerのメリットについて概説した。

  第2部は,同じく松波氏を進行役として「ユーザーメードITシステムの電子カルテ連携」について4名の演者が登場した。
  まず,木村 敦氏(徳島大学大学院・ゆうあいホスピタル)が,「薬剤識別支援システム(DISS)の設計・開発・評価」について講演した。薬剤の識別は,災害時はもちろん日常の診療でも重要になるが,木村氏は,FileMakerおよびFileMaker Goと,iPhone,iPadを用いて薬剤の色や形,識別コードなどから,該当する薬剤名を絞り込むシステムを開発し,検索スピードの向上,音声認識(Siri)への対応などバージョンアップへの取り組みを紹介した。
  続いて太田原顕氏(山陰労災病院第三循環器科部長)が,「紙の特性を利用した電子カルテ連携」を講演した。同院では,両備システムズ(OCS-Cube)の電子カルテとFileMakerを組み合わせて,必要な紙を残し,転記をなくし情報を集約するシステムを構築した。紙の持つ特性を生かすため,電子カルテの情報をFileMakerで取り込み帳票作成を行い,作成した帳票はQRコードを使ってPDF形式で電子カルテに保管する仕組みとなっている。
  岡垣篤彦氏(国立病院機構大阪医療センター医療情報部長兼産婦人科医長)は,「大手ベンダーの電子カルテを包括するユーザーメードシステムの制作と運用」と題して講演し,大阪医療センターで構築した,ベンダー(富士通)製の電子カルテをベースのシステムとして,入力インターフェイスをFileMakerで置き換えることでさまざまなデータの解析を行ったり,他ベンダーのシステムと接続するためのハブとして機能するユーザーメードのシステムについて紹介した。
  最後に,山本康仁氏(東京都立広尾病院小児科医長兼IT推進担当)が,「基幹システムとのリアルタイム連携と医療現場のAmbient Intelligenceの実現について」を講演し,同院でHOPE/EGMAIN-GX(富士通)と連携して構築したFileMakerによる“診療判断支援システム”について概説した。
  山本氏は,FileMakerで構築したデータキューブで電子カルテなどで発生するあらゆる情報をリアルタイムで処理し,位置情報などと連動して警告など適切な情報を提供する仕組みを紹介した。

  パネルディスカッションでは,「医療現場が求める医療IT・震災時のIT活用」と題して,吉田氏と蒲生真紀夫氏(大崎市民病院腫瘍センター長)を座長として,本日発表を行った演者が登壇しディスカッションを行った。ディスカッションでは,ユーザーメードの仲間を増やすための方法や,現場のニーズを適確に反映させるためのプロジェクトの進め方などが話題になったほか,会場からもFileMakerを使った具体的な構築法などの質問が寄せられた。山本氏は,FileMakerによる開発のメリットとして,スピーディな開発ができることを挙げ,「スピードがユーザーと構築側双方の“成功体験”になって次のステップを生む」として次のように述べた。「システムをこうして欲しいという依頼に,すぐに何かを返してあげることが大事。レスポンスが遅いとユーザーはあきらめて,現状を甘受し改善する方向に向かわなくなる。スピーディな対応がコミュニケーションを生み,より良いシステムの構築につながる」。

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ユーザーメードを支援する企業による各種のセミナーや展示を開催

  今回のSpecial Seminarには,ファイルメーカー,ソフトバンクテレコム,インターシステムズジャパン,富士通,富士ゼロックス,両備システムズ,コンバージェンス・シーティー・ジャパンの各社が協賛し,関連する展示やセミナーなどが行われた。
  セミナーでは,協賛企業の企画も盛り込まれた。スポンサープレゼンテーションでは,ファイルメーカーが「医療現場で活躍するiPad」と題して,ビル・エプリング社長が登壇し国立長寿医療センターや葵鐘会ロイヤルベルクリニックなどの事例をビデオを交えて紹介した。ソフトバンクテレコムは,「スマートフォンとクラウドが創る医療ICTの未来」で,愛知県の医仁会さくら総合病院の救急医療やリハビリテーションでのiPhone,iPadの活用事例を取り上げて,クラウドとモバイル端末によるこれからの可能性について述べた。
  ランチョンセッションでは,インターシステムズが「InterSystems医療システム導入事例紹介」として,海外での豊富な実績や,千葉大学,成育医療研究センター,宮崎大学,名古屋市立大学などでの事例を紹介した。

  また,講演会場前のホワイエでは,協賛各社による展示が行われた。
協賛企業による展示が行われた。

●ソフトバンクテレコム
三栄メディシスのiPadで診療情報の参照できる「smart viewer」,アルファシステムの「ORCA連動FileMaker DB」を展示した。
ソフトバンクテレコム

●富士通
富士通は,名古屋大学,都立広尾病院,大阪医療センター,製鉄記念広畑病院などJ-SUMMITSの会員施設でユーザーメードとの連携実績を積み重ねているが,電子カルテや地域医療ネットワーク「HumanBridge EHRソリューション」などを紹介した。
富士通

●富士ゼロックス
名古屋記念病院の事例で紹介されたDACSのコンセプトを実現する「Apeos PEMaster ProRecord Medical」,紙文書管理のためのソフトウエア「DocuWorks 7.3」など,電子カルテと紙文書を統合管理するソリューションを提案した。
富士ゼロックス

●両備システムズ
両備システムズのクラウド型電子カルテシステム「OCS-Cube CL」は,名古屋記念病院,山陰労災病院に導入されており,事例研究の講演でも紹介された。そのほか,仮想化サービスやデータセンターを活用した各種のサービスを紹介していた。
両備システムズ

コンバージェンス・シーティー・ジャパン
病院内の診療・研究データを収集し一元管理してさまざまな形で活用するためのソフトウエアであるClinical Data Warehouse(CDW)を展示した。クラウド環境や院内設置型などでのさまざまな形態での運用が可能となっている。
コンバージェンス・シーティー・ジャパン

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INTERVIEW◆
ファイルメーカー株式会社 ビル・エプリング社長
FileMakerのスキルアップ支援プログラムなどで東北復興に貢献したい
ビル・エプリング社長
ビル・エプリング社長

  医療機関における情報システムのユーザーメードの構築を支えているのが,FileMakerである。今回のJ-SUMMITS Special Seminarの開催も中心的にサポートした。

  ファイルメーカーは米国Apple社の100%子会社であり,主力製品であるFileMakerは全世界で17言語,60か国で1800万本以上が販売されている。中でも日本はその25%を占める重要な市場と位置づけられている。セミナーのプレゼンテーションで仙台での無料セミナー開催などサポートプログラムを発表し,最後に日本語で“がんばれ東北”とメッセージを送ったビル・エプリング社長に,日本でのユーザーメードの活動と復興支援への取り組みをインタビューした。

— J-SUMMITS Special Seminarへの協賛についてお聞かせください。

● FileMakerを積極的に活用されているユーザーによるセミナーの開催は,FileMakerのマーケットを広げてくれる活動としてうれしいことで,われわれとしてもスタッフの派遣やFBA(FileMaker Business Alliance)メンバーの誘致などで支援しています。なにより,大きな災害の被害を受けた東北の地で,復興に向けた取り組みのひとつとして少しでも貢献できることがうれしいですね。
  日本の医療分野でのFileMakerの利用状況は,一般病院で46%,大学病院に限れば163施設のうち88%で利用されています。その中でも,J-SUMMITSはFileMakerを深く理解し,高いスキルを持つパワーユーザーの集まりであり,FileMakerによるシステムの構築に関して他のユーザーに大きな影響力を持つ心強い存在です。

— 東日本大震災の復興支援の活動についておうかがいします。

● セミナーでも紹介しましたが,6,7月に仙台でハンズオンセミナーを無料で開催するほか,7月にはFileMaker開発技術者養成講座を半額で提供する予定です。東北では,政府を中心に震災の復興支援が行われていますが,われわれとしてはFileMakerの開発者トレーニングなどを通じて若い人たちのスキルアップをサポートし,FileMakerによるスタートアップや雇用創出につながればと考えています。今回,仙台だけでなく石巻などの被災地を視察して一層その想いを強くしました。

— インナビネットの読者にメッセージをお願いします。

● FileMakerは,医療分野では“ユーザーメード”のアプリケーションを作るソフトウエアとしては市場をリードしています。シェアではMacとiOSでは1位,Windowsで2位であり,この3つのプラットフォームをカバーする唯一のソフトウエアです。誰でもすぐに始めることができ,どんな環境でも対応でき,効率的な運用が可能になります。さらに,新しいバージョン12では,iOS向けのFileMaker Goが無料となり,より簡単にFileMaker Pro 12で作成されたデータベースアプリを活用できるようになりました。FileMaker Goのオブジェクトフィールドでは,画像や音声などのマルチメディアファイルを簡単に取り込め,画像データをiPadなどでどこでも扱うことができますので,放射線領域での診療支援に大きな力を発揮できるでしょう。

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●問い合わせ先
日本ユーザーメード医療IT研究会(J-SUMMITS)事務局
TEL 052-744-1977
E-mail jsummits-admin@umin.ac.jp
http://www.j-summits.jp


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