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平成20年度診療報酬改定のポイント -画像診断,放射線領域を中心に-

2月13日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)総会では,2008年4月に行われる診療報酬改定について厚生労働大臣からの諮問に対し,答申書を提出した。その後,3月5日には官報告示が行われ,同日,厚生労働省通知が発布されている。今後,疑義解釈などの別途通知が行われるであろうが,昨2007年10月からスタートした改定論議は最終段階を迎えたことになる。 改めて述べるまでもないが,診療報酬本体の+0.38%改定の財源をはじめ,合計約1500億円が,「緊急課題」とされた“産科・小児科をはじめとする勤務医の負担軽減策”に投じられている。その意味では,「厚生労働省の危機感が伝わってくる改定」と言うことができる。しかし,厚生労働省の“ねらい”は,それだけにはとどまらないだろう。ここでは平成20年度診療報酬改定(以下,08年改定)のポイントとともに,特に画像診断や放射線領域に関する内容をまとめ,今後の対応について考えてみたいと思う。
(インナービジョン2008年4月号 より転載)

●08年改定のポイント

 中医協での議論ならびに答申書から読み取ることができる08年改定のポイントは,以下の4点に大別される。

(1)勤務医に手厚く,開業医に厳しい改定

 08年改定では「基本的な考え方」として,「緊急課題:勤務医の負担軽減」が掲げられている。その措置として,新しい診療報酬項目が多数設定された。その1つが救急外来の軽症患者対応に関する診療の軽減である。肩代わりとして実施されるのが,診療所を中心とした開業時間の変化を求める政策誘導と考えられる。厚生労働省は,“従来の開業時間のままでは,経営が厳しくなりますよ”というスタンスを示したことになり,医療機関側も対応が必要となるであろう。

  さらに「医師事務作業補助体制加算」を新設し,地域医療計画の「5事業」を実施する急性期病院などで算定できるようにした(表1)。本点数は対象となる医療機関が限定されているが,算定できなくても対応しなければならない。それは何故か。この制度によって事務作業から開放され,臨床に力を注げるようになった医師が,事務作業をサポートする体制のない医療機関に異動しようとは思わなくなるためだ。つまり,医師が医療機関を評価するポイントの1つとして,“事務作業の支援体制の有無”が生じるわけである。今後,医師を募集する際には,「当院では医師の事務作業をサポートする体制を整えています」という文言が,キャッチフレーズになることは間違いないと思われる。

 

 

 

 

 

表1 医師事務作業補助体制加算の施設要件 (病院の担う機能と算定可能な医師事務作業補助体制加算の関係)
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(2)地域でのポジショニングを明確にする改定

 第2のポイントは,「医療機能とともに,地域での“位置付け”を明らかにするための改定」が挙げられる。第1期地域医療計画が4月からスタートし,医療機関は改めて地域での“ポジショニング”を明確にすることが求められよう。各医療機関が,自院にはどのような役割があり,機能や体制をどう整備していくのかを考えなくてはならないということだ。

 08年改定のトピックスとして,脳卒中が地域連携パスに加えられた。同時に「超急性期脳卒中加算」が新設され,t-PA製剤投与を可能とする施設に対する評価が拡大している。施設基準として,診療放射線技師・臨床検査技師などが“常時勤務している”ことが求められた。この加算を算定しようとする医療機関は,コ・メディカルの当直体制が必要となるのである。点数は12000点という破格のものであり,脳卒中ケアユニット(SCU)を設置する施設も増えるのではないだろうか。

 また,医療機関と訪問看護ステーションとの共同カンファレンスなども,診療報酬で大きく評価されている。このことによって,これまで以上に「連携」の幅が広がり,かつ地域での医療提供体制が具体化されるであろう。

 

(3)医療提供体制を変革する改定

 第3のポイントは,「救急や在宅など,医療提供体制そのものを変革する改定」が挙げられる。診療所の夜間開業をはじめとして,居住系施設における在宅医療の評価,DPCの拡大と制限要件など,改革が目白押しとなっている。なかでも最も注目に値するのは「外来診療シフト」であろう。厚生労働省は,急性期病院や大規模病院の一般外来を抑制して,中小規模病院・診療所へと受療行動を移行させようと目論んでいる。そのための診療報酬による評価変更が,例えば「入院時医学管理加算」などの項目で,算定要件見直し(表2)という形で実施されているのである。

 7対1入院基本料や回復期リハビリテーション入院料に導入された“重症患者”に関する要件,あるいは後期高齢者医療制度に見られる「連携先医療機関」をあらかじめ定めた診療計画作成など,改定後は患者の“流れ”が大きく変化することも予想される。昨年4月から実施されている医療機能情報提供制度と併せて,“患者に選択される医療機関”だけが生き残りを果たす時代が到来したと言えよう。

 

 

 

表2 入院時医学管理加算
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(4)医療の質で施設を評価する改定

 第4のポイントが,「医療の質を数値化・指標化し,医療機関を評価するための改定」という点である。これまでわが国の保険診療は「一物一価」が原則であり,その前提として“高水準で統一された医療レベル”があったように思われる。ところが,08年改定では「提供されている“医療の質”に差が生じていること」を認め,質に応じた点数体系の設定に踏み切ったのである。これはきわめて重大な判断と言えよう。従来,医療の質的評価は「施設基準」という形式で,医療従事者の配置数や経験年数,あるいは床面積などの固定的なもので実施されていた。前回の改定では,“医療機器の質”という観点から,CT・MRIのスペック別に診療報酬体系を区分している。しかし08年改定では,「患者の疾患や状態」や「医療の成果(実績)」といった“流動的要素”を質の評価に取り入れたのである。

 すでに述べた患者の重症度を中心に,回復期リハビリテーション病棟における回復度合い,さらには「精神科地域移行実施加算」のように,長期入院患者の退院実績に基づく加算の新設も行われている。これらは一種の「P4P(=Pay for Performance)」と呼ぶこともできる。これからの診療報酬体系を大きく変えるための道筋が,08年改定で作られたと言っても過言ではないだろう。

●画像診断領域の改定と影響

 それでは具体的に改定内容を確認していきたい。まず,「画像診断領域」であるが,医療機関経営に最もインパクトがあると思われるのは“デジタル映像化処理加算の廃止・電子画像管理加算の拡大”であろう。各点数については表3を参照していただきたい。デジタル映像化処理加算廃止は,次回改定が行われる2010年3月末までの経過措置として,大幅に減額された点数を算定することになっている。厚生労働省はデジタル映像化処理加算の普及が70%を超えたため当初の目的を果たしたと理解し,“環境などへの配慮から”フィルムレスを推進するために電子画像管理加算へと転換した。現在わが国では,年間400億円前後のフィルム代金が使われている。医療機関ばかりではなく,当然,企業にとっても大きな転換が求められる改定内容となった。さらに,同様の考え方に基づいて,“UCGにおけるパルスドプラ法加算”も廃止されている。パルスドプラ機能が超音波検査機器に標準搭載されている(=普及している)ことが,その理由として中医協では明示された。検査手技そのものはプラス改定となっているものの,加算点数が200点であったため,医療機関にとっては実質的にマイナスという結果になっている。

  次に大きな影響を与えそうな項目が,“画像診断管理加算”(表4)である。本加算は加算1・2とも増点となっているものの,放射線科医の業務要件が厳しくなっている。特に,加算2におけるCT・MRIは,読影結果の8割以上が撮影の翌診療日までに,主治医に対する文書での報告が義務付けられている。その報告書も参照画像を添付することが求められており,放射線科医の業務が一層繁忙になることは疑う余地もない。この改定の主旨は,前項で挙げたポイントの1つである“医療の質”にかかわる項目である。加算2については,大規模病院を中心に算定するものと見込まれる。改定の「緊急課題」として医師の負担軽減を掲げているが,医療の質を担保するために,これまで以上の激務が発生するのではないだろうか。また,経営に対する影響を考えた場合,従来は加算2を算定していた医療機関が加算1を算定せざるを得ないということも想定される。この場合,点数上は改定前の87点から70点へとマイナスになってしまう。一見するとプラス改定と思えそうな項目であるが,慎重に評価する必要がある。

 3点目の内容としては,“特殊CT・特殊MRIの廃止”が挙げられるだろう。施設間の共同利用を推進・評価するための点数であったが,撮影機器の普及に伴って,実際に算定されるケースの少ない点数だったと思われる。また,MRIの基準が1.0テスラであったことも,現在の状況から見ると問題があったのかもしれない。とは言え,医療機能の分化と連携を図ることが目的となっている第1期地域医療計画の初年度に特殊撮影が廃止となったことは,深刻なことと受け止めなければならない。次項で解説する新規技術などに財源が移行したということも想像できるが,いずれにしても,これまで本点数を算定していた医療機関にとっては,まさに“寝耳に水”の事態であろう。

 
表3 デジタル映像化処理加算廃止・電子画像管理加算の新設
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表4 画像診断管理加算
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●新規技術などの評価

 08年改定の特徴の1つに,新規技術を積極的に導入したことが挙げられる。先進医療から新規に保険収載された技術は改定全体で24種類,画像診断・放射線領域関連は表5に示すとおり,4種類となっている。強度変調放射線治療(IMRT)の導入によって放射線治療管理料の点数も引き上げられており,新規技術の評価の高さがうかがわれる。新規技術が保険収載されるためには,(1)患者の負担軽減 (2)治療効果の向上 (3)より正確な手術の支援などが08年改定では条件とされた。評価の対象となった技術は,先進医療以外にも681技術が数えられ,うち42種類が新規技術として保険収載されている。医療の高度化や機器の進歩により,先進医療は年を追うごとに増加している。前回改定以降の先進医療の状況を表6にまとめたが,今後も改定の度に新規技術導入は増え続けるものと思われる。

 一方,既存技術についても見直し・再評価が行われた。「冠動脈CT加算(600点)」や「心臓MRI加算(300点)」の新設などは,地域医療計画における4疾病5事業の対象疾患である,急性心筋梗塞の急性期機能を意図した見直しであると考えられる。また「MRI 1.5テスラ以上(1230点→1300点)」については,医療機関経営から見ても大きな前進である。さらに「造影剤注入手技料(動脈・静脈カテーテルとも3600点へ)」など,複雑な手技を要する技術が重要視された点も見逃せない。

 
表5 画像診断・放射線領域関係の新規保険収載技術
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表6 先進医療の届出と適否の状況
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●悪性腫瘍の治療は外来・在宅へ

 08年改定では悪性腫瘍の治療について,(1)放射線治療の評価拡大,(2)外来化学療法の再評価,(3)緩和ケアの見直し,(4)在宅悪性腫瘍末期患者の麻薬取り扱いという4点において大きな変化を見せている。特筆すべきは,(1)の“放射線治療の評価拡大”であろう。放射線治療管理料が「分布図の作成1回につき1回,一連につき2回限り」と,変更された。同時に外来で実施される放射線治療については,高エネルギー放射線治療および強度変調放射線治療を実施した場合,1日につき100点の加算が算定できるとされている。

 放射線治療以外の項目から判断しても,改定内容の主旨は,“悪性腫瘍の治療は入院から外来・在宅へ移行せよ”という厚生労働省のメッセージととらえることができよう。図1は,昨年7月20日の地域医療計画策定に関わる厚生労働省通知から,悪性腫瘍の医療連携について図示したものである。予防を除く3つの機能がネットワークを構築し,悪性腫瘍の治療に従事するというのが厚生労働省の意図であることを理解しておかなければならないだろう。

 
図1 悪性腫瘍の診療連携体制
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●おわりに

 今後,疑義解釈や厚生労働省通知などで,改定の詳細部分がより明確になると思われる。画像診断・放射線関連の点数の増減に一喜一憂するのではなく,医療機関の経営戦略と次回改定以降を見据えた運用の構築が必要である。05年 12月に公表された「医療制度改革大綱」の流れで,06年改定・医療法改正・08年改定が行われてきた。さらに,第1期地域医療計画期間の5年間(08年4月〜13年3月)には,10年・12年の改定が実施される。現在の医療費抑制政策は,来るべき2回の改定でも継続されるであろう。医療技術の発展とともに経営に貢献できる放射線部門であることを切に望みたい。