inNavi インナビ・アイズ
第4回 クリニカルインジケータと医療機関経営

●医療機能情報提供制度とクリニカルインジケータ

 平成19年4月,医療法改正にともなって各都道府県では「医療機能情報提供制度」がスタートしている。医療機関の標榜診療科目から専門領域・保有機器,果てはアメニティに関する情報まで,都道府県のホームページを通じて住民に情報を提供しようという制度である。現時点では毎年7月に届け出る病院報告と同様の内容であり,事務職以外のスタッフが情報をまとめるというケースは少ないと思われる。そのため臨床現場では,この制度のことが十分に理解されていないようだ。

実績 改正された医療法では「国及び地方公共団体は,医療を受ける者が病院,診療所又は助産所の選択に関して必要な情報を容易に得られるように,必要な措置を講ずるよう努めなければならない(医療法第6条の2)」として,医療情報の提供を国や地方自治体の責務と規定している。公開される情報の中で注目すべきは「医療の実績,結果に関する事項」が含まれていることである。例えば「法令に基づく義務以外の医療安全対策」として,相談窓口の有無や医療事故情報収集等事業への参加の有無を公表することになっている。医療機関からの回答(報告)がなければ,ホームページ上では「確認中」と表示される。しかしホームページを見る住民・患者にとっては,「確認中=有り」とは判断しないだろう。どの医療機関を受診するかを検討している者にとって「有り」という表記の施設のみが,選択の対象なのである。つまり,この制度に対応できない医療機関は“患者から選ばれない”ことになるのだ。

 現在は「実績,結果」に関する事項といっても,有無を回答すればいい。しかし,今後は癌の術後5年生存率・術後の合併症発症率・院内感染の発生率などのデータ公開が求められる時代が到来するだろう。制度検討当初は,これらも情報提供すべきといった議論が行われていた。最終的に重症度の違いなど,データを補正する手法が確立していないということで見送りとされたが,“手法が確立された時点で,情報提供項目に加えていく”というのが厚生労働省のスタンスである。先に述べた指標ばかりでなく,それ以外のデータについても報告・公開の対象となるものが増加するであろう。その時になって“データがない・出せない”という事態に陥ったとしても,後の祭りである。繰り返しになるが「データがない=選ばれない」というのが結論なのだ。クリニカルインジケータを抽出(管理)できる体制は,医療機関の存続を決める条件になる可能性が極めて高い。そして,制度そのものはすでに始まっているのである。

●診療報酬とクリニカルインジケータ

 08年診療報酬改定では,周知のとおり「医療の質」「診療実績」による施設基準(=診療報酬点数)が導入されている。従来の“診療行為が実施されれば(結果を問わず)診療報酬が支払われる”という体系は,今後崩れていくことになるだろう。06年改定では“リハビリテーションを長期に行っても,効果は薄い”として,疾患別の上限日数を設定している。こうした考え方が,診療報酬の主流になることが予想されるのである。

  「医療の質」「診療実績」は,どのように定義されるのか。客観的判断をするためには,数値による評価が行われなければならない。すなわち「クリニカルインジケータによる評価」の導入である。“(医療の)質が高いこと”に対するインセンティブとして診療報酬体系が見直されていくならば,医療機関は当然対応せざるを得ない。ましてや「P4P(Pay for performance)」のように,医療の質に対する支払い方式が検討されている昨今である。質の向上は経営の維持や改善に直結する。医療機能情報提供制度と同様,施設の存続はクリニカルインジケータにかかってくるのだ。

 医療におけるITの導入は,これまで効率化をはじめとした経済的側面を中心に語られていた。それはそれで重要なことであるが,導入時のイニシャルコストが高額であることから,実現が難しいというのが現状である。問題なのは「高額なコスト」ではなく,「この状態が十数年間継続したままである」という点ではないだろうか。仮に医療におけるIT化が国の方針・政策であるならば,明らかに行政の怠慢であると言うことができよう。

 今後ITは,経済的側面ではなく「医療の質」を通じた経営的側面から語られることになるに違いない。そうでなければIT化は進まないであろうし,同時に医療そのものも後退してしまう恐れがある。昨年,聖路加国際病院は『Quality Indicator−「医療の質」を測る』を作成・出版しているが,同院の福井院長は“電子カルテシステムがあったからこそ,医療の質を数値化することが可能”と語っている。ITが万能であると言うつもりはないが,必要性は高まっている。すべての医療機関が「どのようにITを活用するか」を再度考える時期に来ているのではないだろうか。