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第5回 『5つの安心プラン』を斬る

●「5つの安心プラン」とは何か

  政府は7月29日,社会保障の機能強化のために実施する緊急対策(「5つの安心プラン」)を公表した。このプランは,(1)高齢者が活力を持って,安心して暮らせる社会 (2)健康に心配があれば,誰もが医療を受けられる社会 (3)未来を担う「子どもたち」を守り育てる社会 (4)派遣やパートなどで働く人が将来に希望を持てる社会 (5)厚生労働行政に対する信頼回復 − となっている。そして項目ごとに,緊急の対策と実施工程を明示した。

  ここで取り上げたいのは,2点目に挙げられている「医療の保障」に関する部分である。詳細は「図」で示すが,各種の経済援助やドクターヘリの導入拡大など,新しい地域医療計画の「5事業」のうち,小児医療・周産期医療・救急医療・へき地医療に関わる財政的措置と次回診療報酬改定に向けた見直し(=評価拡大)が示唆された内容となっている。08年度診療報酬改定でも「緊急課題」とされた勤務医の負担軽減についても言及しているが,特段,政策に関して目新しさは感じられない。厚生労働省はこれら各項目に必要な財源を来年度予算の概算要求基準(シーリング)に盛り込むとしているが,社会保障費2200億円削減が求められるなかで,どれだけ可能なのかも疑問が残るところである。

図
(第2回「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会資料より)

 とは言え,国民に対してプランを公表した以上,“お金がないので実現できませんでした”ということでは済まされない。ここがもっとも重要なポイントである。「5つの安心プラン」は,合計すると約150項目の対応策が提示されている。当然,それぞれに財政的な裏付けが必要であり,医療にだけ財源を投入することはできない。つまり“医療費全体の財源が増えるわけではない”ということである。次回の診療報酬改定において「安心プラン」に財源を配分するのであれば,他の部分を削って行われるということは,すでに明白な事実と考えていいだろう。

 現在の医療政策の方向性は「地域医療計画(4疾病5事業)の内容を地域医療に根付かせる」ことで一貫している。診療報酬についても同様であり,今後の病院・診療所の経営や運営を考える場合,収益改善の一手段として“地域医療計画に適切に対応する”ことが必要とされる。「安心プラン」の対応策と自院の機能をマッチさせ,増収・増患を図るための戦略立案が急がれるであろう。

●見逃せない「医療費適正化計画」の内容

 「安心プラン」が地域医療計画の推進とマッチする形で実施されるのに対して,同時期に取り組まれる「医療費適正化計画」については,医療関係者の認識は薄いと言わざるを得ない。各都道府県では療養病床数と平均在院日数短縮・医療費総額に関して5年後の目標値を設定しており,今後は実効力のあるプランが展開される。例えば愛知県の医療費適正化計画(素案)では,療養病床を14574床から8977床へと40%以上削減,平均在院日数を27.4日から26.6日に短縮,総医療費は2兆751億円(適正化効果は149億円)と目標設定している。

 厚生労働省は2014年改定を「県別特例」と位置付けている。これは「地域の実情に応じ,かつ合理的な範囲内で都道府県の診療報酬の特例を設定することができる」という,改正された医療法に基づく措置である。医療費適正化計画がどれだけ実現するかによっては,全国一律であった診療報酬の“地域減算”が行われるということだ。医療機関側から見ると,健全経営のために増収を図れば,“しっぺ返し”が待っているということになる。この仕組みを打破するためには,地域医療計画で推進される「4疾病5事業」を重視しなければならない。自らの地域でどのような計画が作られているのかを知らなければ,これからの医療機関経営は成り立たないのである。