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第11回 医師不足の対応策は十分か?

●病院勤務医の短時間正規雇用に見込みはあるか

 09年1月20〜21日に厚生労働省は「全国厚生労働担当部局長会議」を開催した。その中では,医政局における重点事項の第1点目として,医師不足解消に関わる予算と諸政策が説明された。医師確保対策に関する予算は07年度の92億円,08年度の161億円に引き続き,09年度は272億円が計上された。07年度に比較して,この2年間で約3倍に増加したことになる。諸政策については「図表1」に示したとおりである。これらの内容について,考えてみたい。

図表1 医師不足・医師養成の対応策

 まず「病院勤務医の環境改善」は,どのように進められるであろうか。現状を確認するためには,08年12月3日に日本医師会が発表した「医師確保のための実態調査」のデータを見ていく必要がある。本調査では,医師の充足状況を地域別に見ているが,病院勤務医の状況について47都道府県中,42の都道府県医師会が「不足」「やや不足」と回答した。診療科別では,産婦人科・小児科・救急医療・麻酔科の順で,「医師が不足している」という回答が多い。また,医師不足が原因で生じた問題点では「外来の閉鎖・休止・縮小(18.3%)」「病棟閉鎖・病床縮小(9.5%)」「夜間などの救急対応休止(7.1%)」などが挙げられている。これらの結果を見る限り,医師不足は確実に地域医療に影響を与えていると断言できるのである。

 病院勤務医の環境改善のため,厚生労働省は2つの施策を予定している。1つ目は「短時間正規雇用や交代勤務制を導入する病院への財政支援」である。関連する予算は15.2億円を充てることとなった。「短時間正規雇用」とは,“フルタイムの正職員に対し,恒常的あるいは一定期間,所定労働時間が短縮され,残業の発生がない「正職員」。就業時間に比例した待遇と,社会保険の適用を受ける者”と厚生労働省は定義した。こうした短時間勤務の医師を採用した場合の資金援助を,厚生労働省は予算化したわけである。

 この方針を継続していくためには,診療報酬で定められている施設基準の“常勤医師要件”を,一定程度緩和することが必要となるだろう。現在「常勤医師」は,週30時間以上の勤務が求められている。2010年の診療報酬改定では,そこに短時間勤務の医師を加えるかどうかが,議論になるのではないだろうか。この点の変更がなければ,短時間勤務医師の定着は“絵に描いた餅”となってしまう恐れがある。例えば「麻酔管理料」は,08年改定によって“常勤の麻酔科標榜医の氏名”を届出することとされた。週5日間,各5時間の勤務であれば,現在の常勤要件をクリアすることはできない。短時間正規雇用の医師を加えることができれば,麻酔管理料の算定によって医療機関の経営は大きく改善されることが予想可能だ。もしも短時間正規雇用が常勤医師とみなされなければ,これまでのとおり常勤医師を探すしか,手段はないのである。

●“診療科偏在”は解決可能か

 すでに述べたとおり,産婦人科や小児科・麻酔・救急などの分野において,医師不足は顕著となっている。そこに「へき地医療」を加えて,厚生労働省は財政支援を行うという方針が継続される見込みだ。新規の予算として「救急医療を担う医師の支援(20.5億円)」「産科医療を担う医師の支援(28.4億円)」が計上された。

 まず,我が国の標榜診療科に関する状況を見てみたい。「図表2」によれば,8年間で大きく減少したのが外科・内科・産婦人科である。そのうち外科と内科は“部位別・臓器別”に見ると増加したことになる。必ずしも広い範囲を診療することは難しくても,専門領域を限定すれば決して「減った」とは言い切れないのである。この点は,医療機関(医師)の標榜方法や広報宣伝の能力不足が,患者や住民に誤解を与えたり,あるいは集患に結び付いていなかったりする要因と考えられる。

図表2 診療科別医師数の推移

 産婦人科の医師数減少は,危機的な状況と言える。特に分娩を取り扱う医療機関が,ここ数年の間で大きく減少したことは周知のとおりである。厚生労働省は産科医の集中を図り,地域における総合周産期母子医療センターの設置と,それ以外の施設の“サテライト化”をすすめている。一方で「無過失保障制度」を実施するなど,出産時のリスク対応にも着手し始めた。いづれにしても産婦人科医のなり手は,少なくなっているのである。

 こうした状況に“待った”をかけようというのが,09年度予算であるが,残念ながら医師の診療科偏在にはつながらないであろう。予算のあり方は「医療機関への援助」であって,医師個人に行われるのではない。救急や産婦人科を担当する医師の給与を決めるのは,あくまでも施設側である。支援金をどう使うかは,医療機関が決定することなのだ。09年介護報酬改定は3%プラスという結果になった。これさえも「介護職の給与に全額割り当てられるものではない」という見解を,厚生労働省は示してはいない。この点は,注意が必要なところである。

 結局,“魅力のある医療機関”に医師が多く集まるという従来のスタイルは,大きく変化しないと思われる。厚生労働省の予算は悪い話ではないが,やや「的外れ」的な印象を持たざるを得ない。医療機関にとって重要なのは,自院の魅力(専門性・医療機能など)を外部にアピールするための戦略・戦術を持ち,積極的な広報を実現することなのである。