inNavi IHE超入門ガイド
Vol. 3 既存システムへのIHE対応とその意義
ナビゲータ 江本 豊 藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室助教授 Vol.3
武藤 晃一 藤田保健衛生大学衛生学部診療放射線学科講師
桑山 喜文 藤田保健衛生大学病院放射線部主任
ビジター 康田 雅人 社団法人岡崎市医師会公衆衛生センター
事業部診療課課長
山本 崇宏 社団法人岡崎市医師会公衆衛生センター
総合検診課係長
(月刊インナービジョン2007年3月号より転載)
 
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●IHEを既存システムに実装した場合,時間と費用はどのくらいかかりますか?

Q(山本):
公衆衛生センターでは,人間ドック,出張・施設内健診,会員からの依頼検査を行う診療部門,および血液や病理検査などを行う検査部門の,大きく4つの業務を行っています。情報システムにはそれぞれコンピュータがあり,独自開発したLANでつないで各モダリティへと情報を送っています。これらの既存システムへのIHEの実装を検討した場合,どの程度の時間と費用がかかるでしょうか。

A(江本):
公衆衛生センターにはRISがまだ導入されていませんが,藤田保健衛生大学病院(以下,保大病院)のように,画像と生理をひとくくりにして,その業務を管理するシステムをRISとして導入するのも1つの方法だと思います。そうしますと,HISとRISとの情報連携はさておき,RISとモダリティの連携についてはIHEの枠組みがありますし,対応するベンダーもありますので,ワークリストの管理や,場合によっては「PIR(患者情報の整合性確保の統合プロファイル)」も実現できます。

Q(山本):
既存のシステムにIHEを実装する場合と,すでにIHEを実装している製品を導入するのとでは,時間やコストにかなり差があるということでしょうか。

A(江本):
例えば,岡崎市民病院のように,IHEにかなり忠実にシステム構築することをめざすなら,既存システムへの実装というのは確かに大変です。ですが,特定のシステム同士を連携したい,あるいは患者情報が変わったら,手作業ではなくもっと簡単に変更できるようにしたい,ということであれば,IHEを実装する方がよいと思います。

Q(山本):
そこがちょっとわかりにくいのですが。考え方として,まずIHEありきなのか,業務の流れに問題があるからIHEを取り入れようということなのか…。

A(武藤):
もちろん後者です。既存の情報システムを使う場合,IHEではいまある問題をこんな風に解決したいというシナリオがあります。それを実現するために,システム間でどのようにデータを受け渡せば全体がうまくいくかということをIHEが決めています。そのシナリオは統合プロファイルとして定義されていますので,それがわかればIHEをどう実装すればよいかも理解できると思います。

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●IHEで患者情報の整合性を確保することは可能ですか?

Q(康田):
公衆衛生センターは健診が多いため,結婚などで患者の姓が変わったり,職場が変わっていて同一人物と特定できないということがよくあります。ですから,患者情報の整合性の確保にはとても苦労していまして,1人の患者のIDが2つ,3つできてしまうこともよくあります。気づいたときはホストとPACSの両方を手入力で直すのですが,診療部門に情報が来ないため,過去画像が認識できないという問題も実際に出てきています。それを解決するためにもIHEを実装したいと考えています。

A(武藤):
IHEを使わずに,そういった仕様を自分で考えるとなると,なかなか大変です。例えば,患者名が変わったときに,どうすれば部門システム間できちんと整合性が取れて,もれなく伝わるのかということを情報の受け渡しについて細かく全部検討しなければならないわけです。それを自分ですべて行ってからベンダーにシステム構築を依頼するのか,それとも,情報の受け渡しについてはすでに検討されているIHEを選択するのか,ということだと思います。

A(江本):
もし,独自に仕様を決めたり,ベンダーとの打ち合わせをして,きちんと稼働するシステムを作ろうとしたら,まさに膨大な労力と費用がかかります。それなら,IHEには「PIR」という枠組みが用意されていますし,動くかどうかのチェックもコネクタソンでちゃんとすんでいますので,使えるものは使ってくださいということなんです。その上で,IHEにないものについては個別に検討すれば,手間がだいぶ省けます。

Q(山本):
IHEを実装する際には,統合プロファイルに各医療機関がワークフローを合わせるということなのでしょうか。

A(武藤):
PIRを実現したいなら,PIRが前提とするワークフローに合わせることになります。PIRに対応しないシステムも存在する場合には,従来のワークフローも残ることになり,複雑になります。ただ,PIR未対応のシステムをPIRに合わせて改造し運用したいと思っても,システムの内部の動作がPIRを前提とした設計になっていないと実現は難しいでしょう。既存システムをIHEに対応させるのは,事実上困難なことが多いと思います。
埼玉医科大学総合医療センターや岡崎市民病院のように,すでにPIRが実現できている医療機関では,PIRが実現できるようにシステムを開発し,導入してきた経緯があります。

A(江本):
ですから,すでに対応ずみのシステムを採用すれば,PIR実現のための新たな開発や検査は必要ありません。IHEに準拠した製品自体がまだまだ少ないですが,ベンダーにとってもIHEに準拠すれば製品開発がしやすくなりますので,これから徐々に増えていくものと期待しています。

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●IHEを実装する際には,どんな準備が必要ですか?

Q(山本):
既存システムにIHEを実装するにあたっては,まず各部門の問題点を洗い出すことから始めればよいのでしょうか。

A(武藤):
はじめに“何を実現したいのか”というニーズがあって,IHEで実現できるものについてはIHEを採用するという考え方です。先ほども言いましたが,業務のシナリオとして統合プロファイルがあり,その中にたくさんのアクタがあって,どういうことが想定されているかということがすべて書いてあります。ただ,それらは国によって事情が違いますので,本来はその国ごとの使い方を文書にしているのですが,残念ながら,日本にはまだありません。

A(江本):
ちなみに,日本の事情については,先日行われたRSNAでの会議に日本から技術担当者が参加して説明してきました。実は,米国はHL7の2.4という古いバージョンを使っているのですが,日本では対応できない部分があるため,Ver.2.5や3を使いたいと提案しています。今後は少しずつ バージョンを上げていく方向になりますので,日本でも開発しやすくなると思っています。

Q(山本):
システム構築の際に,ベンダー側からIHEを実装した場合のメリットが説明されたり,問題を解決するための方策としてIHEが提案されることは期待できますか。

A(江本):
積極的に,という意味では難しいでしょうね。DICOMもそうでしたが,いまはDICOMを実装しているのが当たり前でも,以前はそうではありませんでした。IHEも同じで,ベンダーはIHEを実装してほしいと依頼されればIHE準拠の製品を提供しますが,基本的には実装されていない製品として販売しています。ただ,システム選定の際には,IHE-Jのホームページに関連ベンダーの問い合わせ先などをまとめた資料がありますので,それを積極的に活用してベンダーの中でもIHEに詳しい人に問い合わせることをお勧めします。

Q(山本):
マルチベンダーの接続をスムーズに行うためにIHEがあるというのはわかるのですが,そもそもシングルベンダーでシステムを構築した方が管理しやすいのではないでしょうか。

A(桑山):
そうですね。確かに,システムの幅が広くなると,全体の機能を構成するための箱が多くなりますので,メンテナンスがその分必要になります。ただ,IHEの場合は,実際には1つのサーバであっても,その中でいくつものアクタが動いていることもあるわけです。そして,その1つ1つは小さいのでメンテナンスのコストは安くすみます。

A(江本):
例えば,電子カルテのような大きなシステムを1社で全部作るとします。その際,基本設計がしっかりしたものが作れればいいのですが,実際には大手一流メーカーでもなかなかそうはいきません。そうなると,どこかに不具合が出た場合でも,1か所を直そうとするとあちこちに影響が出てしまうため,結局は手を入れられないケースも出てきます。それに対して,IHEはアクタというまとまりで構成されています。製品開発の際は,ベンダーはアクタの範囲内なら自由にアレンジできますので,そこで独自性を出しながら整合性を取れます。一方,トランザクションという通信の部分はしっかりと決められていますので,何か問題があれば,どこに不具合があるかがおおよそわかります。アクタの範囲内であれば,大きなシステムよりもずっと低コストで直せますので,そういうメリットがあるというのがマルチベンダーの良さだと思います。

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●医療連携においてはどんなことが実現できますか?

Q(康田):
公衆衛生センターでは,将来的には病診連携や遠隔読影なども視野に入れてシステム開発を行っていきたいと考えてます。IHEでそれを実現する場合は,「XDS(施設間データ共有の統合プロファイル)」を採用するということになると思います。そこで,例えば,ある疾患の患者情報を共有する場合に,患者さんの了解を得たかどうか,また,その疾患に関係ない情報は見せないようにしたいなどの細かい設定を,IHEの中で行うことは可能なのでしょうか。

A(武藤):
XDSや「XDS-I(レポート・画像情報の施設間共有の統合プロファイル)」には,情報を見せるか見せないかを選択するフラグが用意されています。それをどういう条件下で使うかというのは施設間で決めることができます。また,アクタの作り込みによっては条件設定がしやすくなったり,自動的に設定されるようにすることも可能です。

Q(康田):
いま実際に画像を提供する際には,読影できる画像が必要か必要ないか,レポートを付けるか付けないかなど,さまざまなケースがありますので,それらにすべて対応できるのかというのが非常に心配です。

A(武藤):
XDS-Iなどはかなり細かい仕様になっていますし,参照画像はDICOMでもJPEGでも提供できます。

Q(康田):
現在も,依頼診療については医師会の会員の先生方にJPEGで画像を提供しています。ただ,人間ドックや健診については,オンラインではまだ無理です。ですが,XDS-Iでの画像のやり取りが可能になれば,先生がセンターに来られなくても,ご自身の施設で読影していただくことが可能になるわけですね。

A(江本):
そうです。XDSにはIDの照合の仕組みもありますので,作り込みによっては,連携先の施設の医師は自院のIDでの検索も可能になります。セキュリティの問題もありますが,それはXDSの枠組みとはまた別にIHEで用意されていますので,情報連携のルールをまずはきちんと決めることが大切です。

Q(康田):
実際にXDSやXDS-Iを採用するとしたら,事前にどの程度の勉強が必要でしょうか。

A(江本):
おおよその概要がわかっていれば大丈夫です。ベンダーに地域連携の情報共有はIHEのXDSでやりたいということを提案して,技術的な細かい点についてはIHEのテクニカルフレームワークを見てもらうようにするというのが一番早いと思います。そして,細かい打ち合わせをするときになったら勉強すればよいのではないでしょうか。

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●コストを考えると,IHEの導入は時期尚早に思えるのですが?
  -- まずは放射線部門からIHEを考えよう!

Q(康田):
IHEに準拠していることが基本となっているシステムやモダリティがあたり前になれば,公衆衛生センターでもIHEを導入できると思います。ただコスト面を考えると,IHEの導入は,いまは時期尚早に思えるのですが…。

A(武藤):
コストというのは,放射線部門で考えると,RISの導入にどの程度のコストがかかるかということですね。
実を言うと,IHEについてまったく考慮されていないRISのシステムというのは,現状ではほとんどないと思います。RISとモダリティとの情報連携はDICOMですし,IHEも放射線部門から検討が進んできましたので,IHEで考えられているデータフローがRISには必ず含まれているわけです。ですから,RISを導入するということは,すなわちIHEに対応可能な状況であるということです。

Q(康田):
それならもう少し,IHEに対する一般的な認識が広がっていてもいいような気がします。

A(江本):
そうですね。ただ,導入施設はIHEを意識していなくても,ベンダーはIHEを意識して製品を開発している,という話はよく聞きます。特に,最近新しく発売されたシステムについては,その多くが部分的にはIHE対応になっています。システムを導入する際には製品自体のコストと,打ち合わせなどのコストがありますが,IHEであれば打ち合わせが簡単ですし,将来的な拡張や更新の際にも独自開発したものよりはコスト面でのメリットがあります。
当院では,2005年に内視鏡システムを追加したのですが,オーダ連携をする際に,オーダをHIS,RISのどちらから取るかという選択になります。HISベンダーはHISから取った方がシンプルだと提案したのですが,HISと内視鏡それぞれのベンダーとの打ち合わせが必要ですし,使用する通信方式によっては何時間もかかります。そして当然,その分費用も高くなるわけです。しかし,IHEの枠組みではRISから取ることになっていますし,当院ではIHEを実装していたために,“ワークリストはDICOMのMWMで”と伝えるだけですみました。業務のどの段階でどの情報が流れるかがわかっていますので,使い方もだいたい決まっているわけです。

A(桑山):
本当に打ち合わせは楽でしたね。顔合わせは30分,あとはメールを1〜2回やりとりするだけですんでしまいました。

Q(康田):
短期的なメリット,長期的なメリットがあるということですね。しかも,知らずにIHEを使っていたということであれば,それが一番のメリットです。

A(江本):
本当にそのとおりです。放射線部門では実際に,知らずにIHEを使っているところも多いと思います。また,現在は循環器科など,放射線科以外の分野でもIHEの検討が進んでいますので,今後はますます広がっていくでしょう。

Q(康田):
長期的には仕様が少しずつ変わるということがあると思うのですが,現状のシステムが将来的に使えなくなるということはあるのでしょうか。

A(桑山):
基本的にはないと思います。ただ,新しい機能ができて,DICOMの中でタグがないということであれば,新しいタグがDICOM規格に追加されることがあります。既存システムで新しい機能に対応しようとすると改造が必要になりますが,DICOMやHL7ではデータの取り出し方も決まっているので,改造も楽だと思います。

Q(康田):
公衆衛生センターで一番困っているのは患者情報の管理なので,まずそれをどうするかということをしっかり考えればいいということですね。

A(江本):
いまはそういったシステムは単独では製品化されていませんが,RISの機能の中にうまく作り込んでくださいと,ベンダーにお願いすることです。いずれにしても,最終的に採用するかどうかは別にして,IHEでもできるかどうかということを,システム検討の際にはいつも話題にするというのも1つの方法かもしれませんね。

A(桑山):
私のように現場の立場から見ると,いま現在,技師の仕事として余分なことは1つもしていません。それでも,自然に必要なデータが流れてPACSまで届いて保存されているという状況が作れているのは,やはりIHEという支えがあるからだと思います。

Q(山本):
これまでいろいろな資料を読んで,IHEを難しいと感じていた部分があったのですが,結局は,自院のワークフローに問題があり,それを解決するために使えるものからIHEを利用すればいいということなんですね。ちょっと気が楽になりました。

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*IHE-J協賛団体:
日本医学放射線学会(JRS),日本放射線技術学会(JSRT),日本医療情報学会(JAMI),医療情報システム開発センター(MEDIS-DC),保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS),日本画像医療システム工業会(JIRA),経済産業省,厚生労働省