インナビネット特集 インタビュー
(社)日本画像医療システム工業会(JIRA)猪俣 博 会長 より良い医療に大きく貢献する画像医療機器システム ─技術に対する適正な評価が望まれる─

画像とITの医療情報ポータルサイト「inNavi.NET」の特集企画[インナビ・インタビュー]。
第1回目のゲストには,(社)日本画像医療システム工業会(JIRA) の猪俣 博 会長にご登場いただきました。いまや崩壊の危機に陥っていると言われる日本の医療について,画像医療システムという先端技術を提供する立場からのご意見・ご提案をお話しいただきました。毎年1月には,恒例のJIRA会長による年頭所感が発表されます。そこでは,業界の事業分析や活動方針が発表されるのですが,平成19年度の国内市場は一部を除いて減少したという調査結果が報告され,厳しい現状認識が示されました。難しい舵取りが求められるJIRAおよび日本の医療の今後を展望していただきます。

● わが国の医療を取り巻く状況はますます厳しさを増していますが,日本画像医療システム工業会(以下,JIRA)としての現状分析をお願いします。

医用画像情報の始まりは,いまから100年以上も前の1895年,レントゲン博士によるX線の発見に遡ります。しかし,X線CTや超音波,MRIなどさまざまなモダリティが登場し,急速に進歩したのは,たかだかここ30年くらいの間です。日本政府は,2025年までのイノベーション創造のための長期的戦略指針である「イノベーション25」をスタートさせました。そこでは日本の医療の方向性が打ち出されていますが国民の健康な生活を高める診断・治療機器の研究開発を重点科学技術に指定しています。私はその中で,画像医療システムが貢献する部分がかなり大きいと考えています。

しかし,その反面,新しい機器を活用していくためには,適正な評価とそれに見合った診療報酬上のインセンティブが必要だということが十分に認識されていないと考えます。いまだ従来の診療報酬の体系のまま進んできていることが問題です。

近年,画像医療システムの国内市場は右肩上がりで伸びていましたが,2007年(1〜12月)のJIRAの市場統計では,前年比91%で減少していることが懸念されます。医療機関の経営状況の悪化が医療機器の買い換え,新規導入などの設備投資を難しくしている状況がうかがえます。最近の買い換え状況の調査では10年を超えていますが,安全性や診断精度などの面からも問題があると言えます。画像医療システムの技術は,10年前では考えられないようなレベルに進歩しているわけですから,それを活用していくことが効率性の良い,高いレベルの医療を実現させるものと考えます。JIRAとしては,画像医療システムの価値を改めてアピールしていかねばならないし,それに対する適正な評価を求めて積極的な提言を行っていきたいと思います。

また,安全・安心な医療を提供するための取り組みも重要だと考えています。

(JIRAは2006年より,その活動をまとめた『画像診断機器関連産業』 を毎年刊行しています。ご参照ください。)

● JIRAとしての具体的な取り組みをお聞かせください。

画像医療システムが医療の中で実際にどのように役立つかということを認識していただく必要があるわけですが,まず薬事法での承認と保険収載に向けた治験の問題が挙げられます。いまの薬事認可の仕組みは医薬品中心の規定であり,審査に非常に時間がかかり,治験の内容も厳しいものになっていますので,医療機器に対しては規制が重すぎるのではないかと考えます。医師の裁量に委ねられるところが大きいという医療機器の特性に合わせた規制緩和などの働きかけをしていますが,最近になってようやく,医薬品と医療機器は違うということを認識していただけるようになったとは思います。また,医療機器といってもずいぶん幅広く,メスからCT,MRIのような大型の装置まで千差万別ですから,それぞれの区分に分けて規制を行う,あるいはインセンティブをつけることが必要なのではないかと思います。画像医療システムを使った新しい医療の価値を認めていただき,応援していただくことで,より良い日本の医療が実現していくと思います。そのためには,どういうメリットがあるのかをご理解いただかなければいけないわけで,JIRAとしては行政はもちろん,患者さんや一般の人たちに対しても積極的にアピールしていかなければならないと考えています。

● 一般の人たちへの広報活動にも力を入れていくわけですね。

医療機器は非常に幅広い分野にわたっており,また通常,一般の人たちの目にふれる機会が少なく,医療行為の中の1つのツールという位置づけなのでなじみが薄いという問題猪俣博氏があります。そこで直接,一般の人たちに情報提供し,理解を深めてもらうことが重要と考えています。

具体的には,今年の1月に日本医療機器産業連合会(医機連:JFMDA)主催の「第3回医療機器市民フォーラム」が開催されました。これは2006年から始まった,一般の人たち向けのイベントで,今年のテーマは救急医療と医療機器でした。また,毎春開催される「JRC」に合わせて,大会長の地元で“市民公開講座”が企画されます。今年は金沢で3月30日,「がんと血管病:画像診断による早期発見と身体にやさしい治療」をテーマに行われます。(社)日本放射線技師会でも毎年,X線が発見された11月8日前後に“レントゲン週間”というイベントを行い,JIRAも機器を提供して協力しています。さらに今年の8月には,国立科学博物館でレントゲン装置に関する1週間くらいの展示を行うことを企画しています(詳細未定)。

このようなイベントは,画像医療システムの技術的な進歩が,医療にどのように使われ,役立っていくのかをアピールする良い機会だと思いますし,今後も積極的に行っていく予定です。

● インナービジョンでは4月より,新しい画像とITの医療情報ポータルサイト「inNavi.NET」を開設しました。inNavi.NETは,「モダリティ・ナビ」という医療機器の検索機能を中心に,新しい技術や製品,臨床動向などの情報をいち早く提供する専門家向けポータルサイトです。より多くの方々への情報提供のひとつの手段として活用していただければと思います。

専門家の持つ情報を一般の人たちにどのように伝えていくかということでは, このようなWebサイトがアピールの手段になっていったらうれしいですね。患者さんの視点での考え方や取り組み方が,日本のより良い医療をつくっていくためにはどうしても必要なことだと思っています。JIRAとしてもいろいろな方法で情報提供の機会をつくっていきますが,ネット上でもこのような検索サイトがあると非常に助かると思います。

● 平成20年度診療報酬改定案が答申されましたが,現時点ではどのように評価・分析していますか。

今回,特殊CT・MRIという,いわゆる管腔描出画像の点数が廃止され,新たに冠動脈CT,心臓MRIが加算されました。CT,MRIの特徴を生かす適応がかなり限定的になったということで,これが牽引力になるかどうかが注目されます。疾患を限定しているという面では,今後,いわゆる画像診断の価値が認められることになるのではないかとも考えられますが,いまのところ減点と増点のバランスがどうなるのかは判断できません。

また,画像診断管理加算の1と2の増点は,診療所から病院への報酬のスライドという方向性の一部として放射線科に加算されたことが,全体としては評価されていると言えるのではないかと思います。ただ,病院全体の経営が危機的状況にある中で,診療報酬の増加に医療機器が貢献しているという評価に向いてくれればと思っています。

一方,デジタル映像化処理加算が大幅に減額され,平成21年度末まで2年間の経過処置になりました。これは診療所の運営にはマイナスの方向に働くでしょう。診療所のデジタル化はいまだ進んでいるようには見えませんし,むしろもっとデジタル機器を普及させていくことが全体のレベルアップにつながると考えます。デジタル化することで,病診連携における画像データのやり取りなどが容易になり,情報の共有が可能になります。それによって質の高い医療をめざさないと,日本の状況は変わらないし,逆に悪くなる一方ではないかと思います。

医療費は今後もマイナス改定が続いていくのではないかと思いますが,良い医療に見合った対価は支払われるべきですし,日本としては逆に医療費をもっと増やしていいのではないかと考えています。そうでないと日本のあるべき医療のイノベーションは進まないのではないでしょうか。将来を見据えた戦略的なプランが必要だと思います。
08年改定の詳細は,月刊インナービジョン4月号88〜91頁参照)

● JIRAとして1年の中で最大のイベントである「ITEM2008」が始まります。

国際医用画像総合展「ITEM」は,有限責任中間法人日本ラジオロジー協会(JRC)を構成する3学会(日本医学放射線学会,日本放射線技術学会,日本医学物理学会)と併設されるのがポイントであり,医師(主に放射線科医)や診療放射線技師の先生方,出展企業の関係者など,人と人,人と技術,技術と技術の交流がテーマだと思います。そのためには一人でも多くの先生方に展示会場に足を運んでいただきたい。年々,入場者実数は増えて,昨2007年は2万2千人ですが,そのうち医師と技師では7千人ちょっとです。

また,学会併設の展示という特徴を生かして,各社の展示発表も学術的な情報を盛り込んでいただきたいと思います。つまり,数からクオリティの評価への転換です。製品技術のエビデンスなどを示すような展示ポスターの表現を心がけるよう各社にはお願いしています。

今年のテーマは,「よりよい放射線医療を求めて −ナノからテラまでの戦略−」です。目には見えない微小な技術から巨大な技術までに支えられている画像医療システムの役割はますます大きくなってきますし,そこにこそ日本の技術が生かせるのではないかと思っています。

(2008年3月3日(月)取材:文責 inNavi.NET)

〈略歴〉
新潟県長岡市出身。
勤王でも佐幕でもなく,地方の自立を目指して新政府と戦い敗れ、北越の龍と謳われた河井継之助,そして,教育によって荒廃した長岡の再起を目指した“米百俵”の小林虎三郎という,幕末から明治維新にかけて異色の2人の偉人を輩出した郷土「長岡」をこよなく愛する。河井継之助を描いた司馬遼太郎作『峠』を含めて,趣味はジャンルを問わず読書全般。何枚か宮部みゆきや平岩弓枝など,女性作家の作品が話題に上がる。

1961年3月 新潟大学工学部電気工学科卒業。4月,日立製作所那珂工場入社
1980年4月 同 医用機器設計部長
1991年6月 同 工場長
1997年6月 日立製作所 取締役計測器事業部長
2001年6月 日立メディコ代表取締役社長
2005年6月 日立メディコ取締役会長
2007年4月 日立メディコ相談役(現在に至る)
2006年6月 日本画像医療システム工業会会長

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