緊急インタビュー 地域医療の崩壊をどう救う?ITと地域連携 行政編
厚生労働省 標準化とセキュリティ対策の基盤整備を進め地域連携におけるIT導入を推進していく 三宅 邦明 氏 厚生労働省医政局政策医療課医療技術情報推進室長
厚生労働省では,ITを地域連携のための情報共有ツールと位置づけ,標準化とセキュリティ対策の基盤整備を進めてきました。現在,総務省,経済産業省と合同で「健康情報活用基盤実証事業」を行い,日本版EHR(Electronic Health Record)の実現にも取り組んでいます。
ITは地域連携のための強力な情報共有ツール

 地域連携の重要なキーワードは「情報の共有」であり,そのための強力なツールとなるのがITです。その切り口は2つあり,1つは医療機関同士,医療従事者同士の情報の共有,もう1つは国民と医療機関との間での情報の共有です。これを進めていくことが地域連携には重要だと考えています。
 これまでは,主に医療機関間の連携にITを活用するための施策を進めてきましたが,近年は国民と医療機関との情報を共有するための施策を進めており,2007年4月から都道府県が医療機関の機能情報を提供する医療機能情報公表制度を始めています。この制度により,国民が医療機関を容易に調べられるようになりました。

標準化とセキュリティの基盤を整備

 一方,医療機関間の情報共有のためには,標準化とセキュリティ対策に取り組んできました。標準化については,電子カルテなど医療情報システムのターミノロジーの共通化を図るために,医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)に委託し標準マスターを作成しています。また,2006年には「厚生労働省電子的診療情報交換推進事業(SS-MIX)」を実施し,診療情報の出入力における標準化を図っています。
 セキュリティ対策としては,医療情報ネットワーク基盤検討会を開催し,「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を作成しています。今年の3月に第4版が公表されましたが,ITの分野は日進月歩なので,内容が古くならないよう必要に応じて改定を行っています。このほか,医療従事者の資格確認ができる保健医療福祉分野の公開鍵基盤(HPKI:Healthcare Public Key Infrastructure)などの整備にも取り組んでいます。
 さらに,2008年度から,沖縄県浦添市において3年間の予定で,総務省,経済産業省と合同で「健康情報活用基盤実証事業」を開始しました。これは住民が自ら健康情報を管理し,医療機関と情報を共有するもので,個人を核とした地域連携のモデル事業です。厚生労働省は,地域住民の健康づくり支援,被保険者への健康指導支援,患者中心の医療などを目標に施策を進めています。これ以外にも,昨年度,総務省とともに遠隔医療の懇談会を設け,それに基づいたモデル事業を全国10か所で開始しています。

日本版EHRの実現に向け取り組む

 今年の7月には,IT戦略本部が「i-Japan戦略2015」をとりまとめました。この中で,医療・健康分野をIT化の重要分野の1つと位置づけ,地域の医師不足などの問題への対応と日本版EHR(仮称)の実現が目標に掲げられました。厚生労働省としては,その実現のために,これまで取り組んできた標準化とセキュリティ対策の基盤整備をさらに進めていきます。それとともに,国民が診療・健康情報を持つ日本版EHRは地域連携にも役に立つと考えていますので,「健康情報活用基盤実証事業」の成果を活用し,実現に向けて取り組んでいきます。
  厚生労働省では,今年3月に「病院におけるIT導入の評価系」(PDF)をまとめました。ITは万能薬ではありませんが,効率化や医療安全にも有効です。医療機関の方々には,これを参考に目的を明確にして,導入を進めていただきたいと思います。

(「ITvision」No.19(2009年10月25日発行)「特集 地域連携はどこまで進んだか」より転載)

(みやけ くにあき)
1995年慶應義塾大学医学部卒業後,厚生省(現・厚生労働省)入省。同省医政局研究開発振興課課長補佐,大臣官房厚生科学課課長補佐,健康局結核感染症課課長補佐,医政局国立病院課高度・専門医療指導官などを経て,2009年から現職。

緊急インタビュートップへ インナビネット トップへ