特別企画 2010年度診療報酬改定で何が変わる 放射線医療における改定のポイントと評価
画像診断に必要な4つの要素が正しく評価されるために科学的な根拠を示していくことが重要−外傷全身CT加算など画像診断の重要性が高まる中,放射線科医の質の向上を図っていく−水沼 仁孝 氏 大田原赤十字病院副院長・放射線科部長/日本放射線科専門医会・医会理事長/外科系学会社会保険委員会連合(外保連)手術委員会副委員長
今回の診療報酬改定では,デジタルエックス線撮影料が新設されたほか,CTやMRIのクラス分けがさらに進んだ。また,外傷全身CTの新設など,画像診断領域ではプラスに結びつく内容となっている。そこで,放射線科医の立場から,今回の診療報酬改定をどのように評価しているのか,日本放射線科専門医会・医会理事長,外科系学会社会保険委員会連合(外保連)手術委員会副委員長の水沼仁孝氏にインタビューした。
一般撮影のデジタルとアナログの分離とCT,MRIのクラス分けが進んだことが大きなポイント

─2010年度の診療報酬改定における画像診断・放射線治療関連の内容で主だったものは何でしょうか。

水沼:今回の改定で大きなものは,一般撮影がデジタルとアナログに分けられたことです(図1)。デジタルが加算されて,アナログが下げられています。しかし,デジタル撮影料の加算分の3点は,電子画像管理加算が下げられているので相殺されてしまい,もともとデジタル化されている施設では,大きな影響はないかもしれません。
  また,CTの撮影料については,16列以上のマルチスライスCT,16列未満のマルチスライスCT,シングルスライスCTの3つに分けられました。16列以上は900点と点数が上がりましたが,16列未満は少し下げられ,シングルスライスは大幅に下げられました。MRIも1.5T装置が引き上げられましたが,それ以外は引き下げとなりました。
  このほか,CT,MRIに関して大きな動きがあったのが,同じ月の2回目以降の撮影について,80%の点数が算定できることです。従来,MRIは1回目1300点で2回目650点,CTは1回目850点で2回目650点となっていて,MRIの下げ率が大きかったのですが,今回の改定で100分の80に相当する点数となり,同じ算定になりました(図2)。
  このほかの大きな変更点としては,FDG-PETの適用が拡大され,悪性腫瘍の再発にも使用できるようになったことが挙げられます。加えて,施設共同利用率の要件が緩和されました。
  一方で,放射線治療については,IGRT(画像誘導放射線治療)加算(300点)が設けられたことが,大きな点です。IGRTは,いままでの放射線治療に比べ短時間で終えることができるため,高齢者などの治療に適しています。また,正確な照射により,ほかの臓器への影響が少ないという点で優れており,これに加算が設けられたことは大変良いことだと思います。

図1 新設されたデジタルエックス線撮影料
図1 新設されたデジタルエックス線撮影料
出典:厚生労働省保険局医療課「平成22年度診療報酬改定の概要【医科診療報酬】」

図2 さらに進んだCT,MRIのクラス分け
図2 さらに進んだCT,MRIのクラス分け
出典:厚生労働省保険局医療課「平成22年度診療報酬改定の概要【医科診療報酬】」

DPC制度化での画像診断の評価に課題

─全体としてプラス改定となりましたが,今回の改定の問題点などがありましたらお聞かせください。

水沼:今回の改定で,課題を残したと言えるものの1つが,電子画像管理加算です。これは画像診断項目になっていますが,DPC対象病院では,入院の場合,包括払いに含まれてしまいます。日本放射線科専門医会・医会では,1件あたりの点数などを試算した上で,2004年から電子画像管理加算を要望してきましたが,2006年度の改定で認められて,2008年度の改定において,要望していた点数になりました。しかし,DPCにより,入院の場合にこれが算定できないため,PACSの導入や運用のための原資の確保が難しくなっています。
  当院を例にとってみると,2008年度までは年間4800万円が算定できていましたが,DPC対象病院となった2009年度は45%がなくなってしまうことになります。専門医会では,電子画像管理加算について,本来,PACSやその端末の更新費用として積算していました。PACSを導入すれば,端末に使うPCやデータを保存するサーバの更新を継続的に行っていかなくてはいけないため,そのための原資が必要になります。特に端末やモニタなどは,実際の運用においては長期間使用するのは難しく,ある程度消耗品として考えなければいけませんが,その原資を確保できない状況になっています。
  DPCによる包括という点では,今回の改定で新設された,外傷全身CT加算(800点)にも問題点が含まれています。外傷全身CT加算については,算定要件として,救命救急入院料の施設基準を満たすこと,64列以上のマルチスライスCTを有すること,画像診断管理加算2の施設基準を満たすこととされています(図3)。しかし,この施設要件を満たした施設のほとんどはDPC対象病院となっています。しかも,外傷全身CT撮影は,全身打撲症例がほとんどで,そのまま入院してしまうため包括払いとなり,算定できなくなってしまいます。私たちも日本救急医学会などとともに,救命救急外来に到着後48時間以内は出来高払いとするよう要望してきましたが,今回は認められませんでした。これは大変重要な問題で,救命救急で多くの人を動員し,医療機器・材料など用いて検査や治療を行っても,包括払いになってしまうということでは,収入と支出のバランスがとれません。例えば外傷全身CTの場合,1回の撮影で1700スライスもの画像ができますが,それを保存するためのサーバも大容量のものが必要ですし,高速で画像を配信するためには,インフラを含め高機能のシステムが必要になります。こうしたことを考えると,現行のDPC制度は,救命救急医療の実態に即していないと言えます。

図3 外傷全身CT加算などについての説明
図3 外傷全身CT加算などについての説明
出典:厚生労働省保険局医療課「平成22年度診療報酬改定の概要【医科診療報酬】」

手術への高い評価によりIVRも増点されたもののまだ不十分

─専門医会や学会としてこれまで主張してきたことで,今回の改定で認められたことや認められなかったものはございますか。

北村 善明 氏 社団法人日本放射線技師会会長,中央社会保険医療協議会委員,チーム医療推進協議会代表水沼:日本医学放射線学会,日本インターベンショナルラジオロジー学会(日本IVR学会)では,IVRの増点をこれまで主張してきましたが,今回の改定では,重点課題の「救急,産科,小児,外科等の医療の再建」の観点から,引き上げられました。例えば,血管塞栓術(頭部,胸腔,腹腔内)は,今回1万6510点となりましたが,2000年度の診療報酬改定で,1万5300点が1万2700点に引き下げられ,その後そのままとなっていたことを考えると,もとの点数に戻ったという感があり,十分納得できるものではありません。
  また,IVRにおける材料については,血管塞栓術に用いるゼラチンスポンジの費用を請求できるよう要望してきましたが,薬事法上で血管塞栓術への使用が認められていないため,見送られてしまいました。ゼラチンスポンジは1970年代から国内で使用されており,IVR医であれば安全に扱えます。日本IVR学会のホームページでもこのことを主張してきました。特に肝細胞がんの血管塞栓術にはよく使われているほか,外傷の出血についても,これを詰めた後に正常細胞が生き残るという利点があり,救急での血管塞栓術にも有効です。このため,救急での血管塞栓術で請求できるよう要望してきましたが,薬事法上で認められていないために,審議が途中で止まってしまいました。
  このほか,日本IVR学会では,IVR施行前にCTアンギオグラフィでガイド画像を作成するナビゲーション加算を要望しました。これは,IVR施行時に被ばくや造影剤量を低減することにつながる有効なものですが,これについても今回は認められませんでした。また,日本医学放射線学会からは3T MRIへの加算やPET/CTの増点について要望がありましたが,同様に今回は見送られています。

画像診断領域は通常の診療を行っている病院であればプラスに

─放射線医療の改定内容全体については,どのように評価されていますか。

水沼:画像診断に関して言えば,通常の診療を行っている病院であれば,減る要素がなく,プラスになるという点で評価できます。しかし,先ほど述べたように,DPC対象病院の電子画像管理加算や外傷全身CTについては,今後見直しが必要です。

─今回の診療報酬改定全体についての評価はいかがでしょうか。

水沼:病院診療に対して手厚く評価されたということは確かだと思います。例えば,放射線治療病室管理加算が500点だったものを2500点に大幅に増点するなど,ほかの施設ではできない医療を行っているということに対しての評価がなされています。そのような形で,手術の点数も上がっていますが,あまり行われない手術の方が増点されているので,医療機関の収益にどれくらい貢献するのかは疑問です。

─重点課題の2つ目の「病院勤務医の負担の軽減」のために,医師事務作業補助体制加算が拡大されましたが,これについてはどのようにお考えですか。

水沼:当院の場合は50対1のクラークの配置となっていますが,15対1,20対1の加算をつけるためには,人員のトレーニングも必要になってくるので,すぐに算定できる施設は限られるのではないでしょうか。また,当院は13人のクラークがいますが,保険収入で雇えるのは4人程度であり,事務員の人件費などのコストを見ても,厳しいものがあります。

画像診断に必要な4つの要素が評価されるような取り組みを

─次回改定に向けてどのようなことに取り組んでいきますか。

水沼:今回の改定では,点数を上げる根拠が明らかなものについては評価がされています。例えば,外保連の手術試案では,D項目が30%,E項目が50%増点されています。それだけに今後は,科学的根拠が示しにくい診療行為をどのように評価してもらうかが重要になってきます。外保連の試案では,その手術に必要なスタッフの数,時間,材料などを一覧表にして提出していますが,画像診断においても,どのような装置で検査して,どのような結果が得られるということを示す必要があります。現在は,ただマルチスライスCTで検査しただけで点数がつくだけで,結果や医師,診療放射線技師のパフォーマンスに対する評価がなされていません。先ほど述べた外傷全身CTにしても,救命救急センターに隣接して64列マルチスライスCTが設置され,24時間稼働するよう,トレーニングを受けた診療放射線技師を確保し,フィルムレス運用を行い,放射線科医が24時間体制で読影できるようにして,初めて診断ができるようになるわけです。画像診断を行う放射線科医,トレーニングを受けた診療放射線技師,装置,フィルムレス運用の4つの要素が整っていないと,うまくいきません。もはや,単純に装置のスペックで評価するという時代ではありません。画像診断においては,この4つの要素が重要であり,それが評価されるようにしていく必要があります。

─専門医会としても,これら4つの要素が評価されるよう活動をされていくのですか。

水沼:そう考えています。これまでの診療報酬改定では,先進画像加算が新設されてきました。例えば2008年度の改定では,冠動脈CT 600点,心臓MRI 300点の加算が新設されました。このような先進的な画像診断は,行っている施設が少ない,珍しいということで評価されるべきではなく,4つの要素が整っているから実施できるのであり,その点が評価されなければいけません。逆に言えば,4つの要素が整っていない施設は,評価が下げられてもよいのではないかと思います。64列マルチスライスCTで脳神経外科の術後検査を行った場合と,外傷全身CTが同じ評価になるというのはあり得ないことです。脳神経外科の術後検査ならば,脳神経外科医でも診断できますが,外傷全身CTでは,頭部や胸部,腹部などの広い領域を読影できる放射線科医が必要となります。このような人材,体制を含めて評価すべきです。

「質」の高い画像診断ができるように放射線科医のレベルアップを図っていく

─前回の改定後はフィルムレス化が進みましたが,今回の改定の影響はどのように診療現場に表れてくるでしょうか。

水沼:MRIの買い替え需要が出てくると思います。これまで2回目の撮像の点数が低かったので買い替えのサイクルが鈍っていましたが,今回は1回目の80%が算定できるようになったので,更新する動機にはなります。また,MRIについては,1.5T以上の点数が増点されましたが,今後は1.5Tでも,チャンネル数が多く,全身DWIや全身MRAに対応するフルスペックの装置とそれ以外の機種とで差をつける必要があるのではないかと思います。

─次回改定に向けての動きはありますか。

水沼:次回の診療報酬改定の前にDPCの見直しがあるので,DPCにおける画像診断の評価をきちんとしてもらうよう,根拠を示していく必要があると考えています。また,次回の診療報酬改定に向けては,外保連の手術,検査,処置の3つの試案のうち,私は手術のコーディングの責任者をしているので,レセプトデータなどをもとに今年いっぱいかけて見直しを行い,来年の3月までには試案の第8版を作成する予定です。

─外傷全身CTなどで放射線科医の重要性がますます高まっていく中で,放射線科医の質の向上を図っていくことも重要になってきますが,どのように取り組んでいかれますか。

水沼:日本医学放射線学会では,臓器別に分科会を設けて,それぞれの領域でRSNA(北米放射線学会)のリフレッシャーコースのような教育講演を行う研究会があり,放射線科医が自分の専門領域以外の研修ができるようになっています。また,救急放射線研究会なども教育講演を行っているので,日常の診療の間に受講していただきたいです。放射線科医がサブスペシャリティの領域を2つくらい持っていれば,限られたスタッフしかいない施設でも,お互いにカバーし合いながら診療ができます。これを発展させていって,グループ診療化につながっていけばよいのではないかと思います。
  また,これからは「質」が問われるので,専門医会でもセミナーコースの見直しに取り組んでいきます。特に今年から専門医制度が変わったので,初期研修の中で,施設内では学べないようなことを専門医会が提供していくように,プログラムの充実化を図っていくつもりです。

(2010年3月取材:文責inNavi.NET)

◎プロフィール
1979年東京医科大学卒業。84年東京慈恵会医科大学大学院修了。同大学放射線医学教室助手を経て,86年に米国クリーブランドクリニックMRセンターに留学。88年に大田原赤十字病院放射線科部長となり,その後,東京慈恵会医科大学放射線医学教室講師などを経て,99年に再び大田原赤十字病院放射線科部長。2003年から栃木県放射線科医会会長,2008年から同院副院長,2009年日本放射線科専門医会・医会理事長。現在,外科系学会社会保険委員会連合(外保連)手術委員会副委員長も務める。

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