Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年4月号

4D-Perfusionによる画像解析で急性期脳梗塞の迅速、的確な適応判断を支援〜ベイズ推定アルゴリズムを用いたPerfusion解析で、虚血領域のサマリーマップをスピード提供

川崎幸病院

Aquilion ONE+Vitrea × 川崎幸病院

 

“断らない医療”を理念に川崎市南部の救急医療を支える社会医療法人財団石心会川崎幸病院(山本 晋院長)では、ERセンターにキヤノンメディカルシステムズのADCT「Aquilion ONE」を導入して緊急検査に活用してきた。脳神経外科では、急性期脳梗塞に対するCT Perfusionの解析に同社の医用画像処理ワークステーション「Vitrea」に搭載されたソフトウエア“Brain Perfusion Bayesian(以下、ベイズ推定4D-Perfusion)”での評価を行っている。血栓回収療法の適応拡大で、さらに迅速で的確な適応判断が求められる急性期脳梗塞の診療の現状とベイズ推定4D-Perfusionの評価について取材した。

植田宏幸 事務部長

植田宏幸 事務部長

脳神経外科・壷井祥史 部長代行

脳神経外科・
壷井祥史 部長代行

放射線科・石田和史 技師

放射線科・
石田和史 技師

 

“断らない医療”で川崎市南部の急性期医療を支える

川崎幸病院は、透析部門や外来機能などを分離し、救急と入院機能の提供など急性期の高度な治療を担う病院として、救急(ER)、脳心血管疾患、がん医療の3つの柱で診療を展開している。2012年に、分院の62床と、“重症患者救急対応病院”として川崎市から移譲された61床を合わせて増床し、現在地に新築移転した。救急医療については、“断らない医療”を理念として、24時間365日の診療体制を取り、設備としては2階部分にERセンターとして集約、緊急検査用のCTとしてAquilion ONEを導入した。時間外の体制としては、ER部門に当直医師3名、そのほか各センターの6つのケアユニット(HCU、SCU、CCU、ICUなど)に基本的に1名が当直する体制を取っている。植田宏幸事務部長は同院での救急医療体制について、「移転後の新病院では、川崎市の救急医療を守るため、当院が実践してきた“断らない救急”をさらに充実させています。また、疾患別のセンターを設置し充実した治療設備による高度医療の提供、放射線治療や化学療法などによるがん医療の提供などに力を入れています。病院の機能分化が求められる中で、川崎市の急性期医療を担う中核病院として役割を果たせるよう、地域の医療機関とも連携しながら診療科の拡充や体制の強化を図っています」と述べる。

急性期脳梗塞への迅速な対応のためプロトコールを作成

同院では、急性期脳梗塞に対しては脳血管センターを中心に24時間365日対応可能な体制を整えている。脳神経外科/脳血管センターの壷井祥史部長代行/副センター長は急性期脳梗塞への対応について、「1分1秒でも早い治療のスタートが求められており、当院では脳卒中の救急にかかわるスタッフの対応をチャート化した“急性期脳梗塞対応プロトコール”を作成して時間短縮を図っています」と説明する。プロトコールでは、患者搬送が決まった時点から、医師、看護師、診療放射線技師など各部署のスタッフの対応項目(医師は2名が待機しあらかじめ検査オーダを出す、技師はCT撮影の準備を行うなど)が決められており、救急搬送依頼があってから各部署が同時に動くことで時間短縮を図り、30分以内にカテーテル室へ患者を搬送することを目標としている。
救急対応のプロトコール作成のねらいを壷井部長代行は、「従来の血栓溶解療法(t-PA)に加え、脳梗塞に対する血管内治療の有用性が明らかになり、血管内治療(血栓回収療法)の提供が重要になっています。その適応判断を迅速に行うことが求められるようになりました。当院では、虚血の判断材料となる灌流(perfusion)画像についても、スピードを優先してCTを選択しています。MRIも24時間検査が可能な体制ですが、初療室とは階が異なり、1分でも2分でも時間を短縮したいと考え、CTファーストにしました」と言う。

Vitreaのベイズ推定4D-Perfusionで迅速に治療適応を判断

Vitreaのベイズ推定4D-Perfusionで
迅速に治療適応を判断

 

急性期脳梗塞に対する血管内治療の適応が拡大

急性期脳梗塞に対する血管内治療は、2011年以降、Penumbraシステムやステントリトリーバー(Solitaireなど)が登場し、臨床応用が拡大している。適応については、当初は発症から6時間以内とされていたが、海外を中心にさまざまなエビデンスが出され、2018年の米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)の“脳卒中ガイドライン”では24時間以内へと改訂された。壷井部長代行は、「日本ではガイドラインへの記載はまだですが、学会ではコンセンサスが得られており、当院でも血栓回収療法は発症から24時間以内で運用しています」と述べる。さらに、再開通のための適応判断として、造影灌流画像を用いた局所脳血流測定によって、虚血性コア(脳梗塞)と思われる部分と低灌流領域(ペナンブラ)と思われる部分の体積や割合で判断することが求められている。
従来、CTでは、CTPのデータから脳血流量(cerebral blood flow:CBF)、脳血液量(cerebral blood volume:CBV)、平均通過時間(mean transit time:MTT)などを解析し、各指標をカラーマップとして表示し、視覚的に評価する。例えば、虚血性コア領域ではCBVが減少し、ペナンブラ領域では増加するため、CBFやMTTとのミスマッチをカラーマップで判断する。定性的な評価で客観性に乏しいことに加え、さまざまな解析アルゴリズムがあり、その違いにより結果が異なること、標準的なSVD法ではMTT延長域の過小評価や左右差の視認が難しいなどの問題があった。

ベイズ推定アルゴリズムを用いた4D-Perfusion解析

2018年11月から、同院ではVitreaの新バージョンに搭載されたベイズ推定4D-Perfusionの臨床評価を行っている。
ベイズ推定を用いて精度良く伝達関数を再現するとともに、ピクセル間のTDC類似性を利用する新しいノイズ除去フィルタ(4D Similarity Filter)により、従来のSVD法の課題に対応した解析が可能である。Vitreaのベイズ推定4D-Perfusionでは、CBF、CBV、MTT、TTP(time to peak)、Delay(Tmax)のほか、虚血性コアと思われる部分とペナンブラと思われる部分の領域を色づけした“サマリーマップ”を作成できるのが特長だ。サマリーマップは、CBVとCBFの対側比を基にカットオフ値を下回るものを赤く(虚血性コア)、TTPとDelayを基に上回る領域を黄色(ペナンブラ)で表示する。それぞれの領域には、volumeとmismatch ratioが算出され数値として表示される。適応判断における有用性について壷井部長代行は、「コアの可能性のある部分とペナンブラの可能性のある部分が、画像上に表示され、さらにそれぞれ体積を確認できるので、虚血領域の判断がしやすくなりました。従来のCBVなどの指標は視覚的な評価で客観性に乏しく、あいまいな部分がありました。ベイズ推定4D-Perfusionでは、数値として客観的に評価できるメリットが大きいです」と評価する。
また、実際の臨床症例について、壷井部長代行は、「発症から30分の急性期脳梗塞の症例に対して、血管内治療を行ったところ、ベイズ推定4D-Perfusionでコアと表示された領域は、後日撮像したMRIのディフュージョン画像で高信号に描出され、梗塞となっていることが確認できました。従来のCTPでは、画像だけでなく時間や患者さんの症状を総合的に判断して適応を判断していましたが、ベイズ推定4D-Perfusionを用いれば、虚血領域をより正確に評価することができ、適切な治療適応が判断できると実感しました」と述べる。
放射線科の石田和史技師は、「ほとんどの症例では、他社製ワークステーションのスタンダートなSVD法の解析とVitreaのベイズ推定4D-Perfusionのどちらも虚血領域は判断できますが、Vitreaでなければわからなかった症例も経験しています。循環動態を正確に反映しているのに加え、対側比など定量的な情報が提示されるので、直感的にわかりやすく大変有用です。解析についても、操作はほとんど必要なく、Vitreaにデータを読み込むだけで2分前後で解析が終了します」と評価する。

■Aquilion ONE+Vitreaによる急性期脳梗塞ソリューション

Aquilion ONE+Vitreaによる急性期脳梗塞ソリューション

 

脳梗塞の血管内治療の適応判断

壷井部長代行は、「ベイズ推定4D-Perfusionでの解析結果が脳の循環動態を正確に反映しているという確証が得られたので、次はどの程度の体積や割合であれば、治療して効果があるのかの基準を決める必要があると感じています」と、これからの取り組みを述べる。灌流画像から虚血領域の評価を行うソフトウエアとして、欧米で実績のある“RAPID”やASIST-japanの“perfusion mismatch analyzer(PMA)”があるが、いずれも薬機法未承認で臨床使用はできない状況だ。石田技師は、「客観的な情報を臨床医に提供できるメリットは大きいので、臨床的な価値を示せるように症例を蓄積してエビデンスを出していきたいですね」と述べる。
急性期脳梗塞に対する血管内治療は、今後さらに拡大することが期待される。壷井部長代行は、「脳梗塞の患者さんを救うためには、全国で血管内治療が可能な施設を整備することが必要です。適応判断のためのソフトウエアも含めて今後の展開に期待しています」と述べた。

(2019年2月25日取材)

 

社会医療法人財団 石心会 川崎幸病院

社会医療法人財団 石心会 川崎幸病院
神奈川県川崎市幸区大宮町31-27
TEL 044-544-4611
http://saiwaihp.jp

 

 モダリティEXPO

 

●そのほかの施設取材報告はこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP