Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2020年10月号

80列CTに“AiCE-i”を新たに搭載し高画質と被ばく線量低減を両立 〜急性期中核病院としてCT2台による即日検査で、地域住民の健康・医療を守る〜

鳥取赤十字病院

Aquilion Prime SP × 鳥取赤十字病院

 

鳥取赤十字病院は、鳥取県東部の急性期医療を担う中核病院として長く地域に貢献してきた。2018年には最新設備を備えた新本館がグランドオープンし、放射線科ではキヤノンメディカルシステムズの80列CT「Aquilion Prime SP」など2台のCTで、待ち時間なしの即日検査の体制が構築された。2020年8月には、ディープラーニングを用いた画像再構成技術である“Advanced intelligent Clear-IQ Engine-integrated(AiCE-i)”がAquilion Prime SPに搭載された。同院でのCTの運用とAquilion Prime SPの評価について、西土井英昭院長と放射線科の小林正美部長、放射線技術課の山根晴一係長に取材した。

西土井英昭 院長

西土井英昭 院長

小林正美 部長

小林正美 部長

山根晴一 係長

山根晴一 係長

 

県東部の急性期医療を担う中核病院

1915(大正4)年開設という歴史のある同院は、鳥取市の市街地の中心に位置し県東部の中核病院として急性期医療を担ってきた。2018年には増改築工事が終了し、1〜3階に救急や手術室、画像検査といった診療部門と350床の病棟を備えた7階建ての本館がグランドオープンした。新本館では免震構造を採用し、大規模災害時の診療継続性の確保や陰圧室や除染室などを備えた救急診察室など、地域住民の命を守る医療機関としての機能を充実させた。
診療科は24科で、内視鏡(消化器病)、リウマチ、頭頸部外科、健診の4つのセンターを開設。内視鏡センターでは年間1万1000件以上の内視鏡検査を行い、外科にはロボット手術も導入されている。西土井院長は、「最新の設備や機器をそろえることができ、鳥取県東部の医療を支える病院としての体制が整備できました。地域からの信頼に応えるべく、患者さんだけでなくスタッフも含めて“皆が輝く”病院として診療を展開しています」と述べる。

“一括従量課金契約”で3モダリティを新規導入

放射線部門は、水害などの災害を想定して本館2階に設置された。グランドオープンに合わせ、CT、MRI、血管撮影装置(心臓用)を増設し、それぞれ2台体制となった。西土井院長は画像診断機器整備のねらいについて、「従来はCTもMRIも1台で、新患や急患に対して十分な対応ができないケースが少なからずありました。2台体制によって、即日検査が可能になり、迅速な診断と適切な治療につながります」と説明する。
今回の増設では、キヤノンメディカルファイナンスが提供する、検査数に応じて月額金額リース料が変動する“従量課金制メンテナンスリース”が採用された。これによって導入時のイニシャルコストをかけずに、装置本体の金額と保守費用を含めた毎月の基本使用料と、月額使用料のみで導入が可能になった。さらに同院では、3つのモダリティの稼働件数を合算して単価設定を行う“一括従量課金契約”によって、採算割れが懸念された血管撮影装置も含めた導入が可能になった。西土井院長は、一括従量課金契約による機器導入を次のように述べる。
「赤十字病院は独立採算制であり、新病院建設などの設備投資は経営を圧迫します。しかし、病院として高度医療機器は整備したいというジレンマがあります。今回のファイナンスプランによって、初期投資を抑えて最新の機器を整備できました。さらに、一括従量課金によって、採算の点であきらめていた心臓用血管撮影装置まで導入することができました」

80列と64列CTの2台体制で即日検査を提供

CTは、80列のAquilion Prime SP(以下、Prime SP)を新規導入し、既設の64列CT「Aquilion/CXL Edition」(以下、Aquilion/CXL)を外来棟地下から移設した。検査件数は2台で約70件で、1台の運用時の1.5倍となった。山根係長は、「2台体制になって当日検査が可能になり、診療科や患者さんへの利便性は大きく向上していると思います」と述べる。
Prime SPは、X線光学系技術“PUREViSION Optics”による高画質と高速撮影・高速画像再構成による高スループット、78cm大開口径ガントリなど、高機能をコンパクトにパッケージした最新の80列CTである。山根係長はPrime SPの運用について、「スキャノ撮影後の寝台移動がコンソールから可能な“SUREPosition”や、患者情報を確認できるガントリの情報ディスプレイなどでスムーズな検査が可能です」と説明する。
Prime SPは金属アーチファクト低減技術“SEMAR”を標準搭載し、そのほかDual Energy撮影やサブトラクションなど豊富なアプリケーションを搭載するのも特徴だ。小林部長はSEMARについて、「これまではインプラントがある患者では、人工骨頭周囲の軟部組織や歯科口腔領域の義歯周囲の描出はあきらめていたのですが、SEMARでは情報が得られるようになって診療科からも高く評価されています。これにAiCE-iの効果が加わることで、画像ノイズが除去されて読影が可能な症例が増えると期待しています」と述べる。

Prime SP+AiCE-iで画質改善と被ばく低減を実現

2020年8月、バージョンアップによってPrime SPにディープラーニングを用いた画像再構成技術であるAiCE-iが搭載された。AiCE-iは、ノイズと信号成分を識別した処理を行い、空間分解能を維持したままノイズの除去が可能で、大幅な画質改善と被ばく線量の低減を実現する。さらに、ディープラーニングを用いることでより速い処理時間で画像を提供できることも特徴だ。同院では処理ユニットの追加でAiCE-iの利用が可能になった。AiCE-i導入後の初期の印象について山根技師は、「視覚評価のレベルですが、AiCE-i導入前の画像と見比べると明らかに画質が向上しています。これは、放射線科医や診療科の医師だけでなく、誰が見てもAiCE-iの画像だとわかるくらい違いは明白です」と言う。
同院では、AiCE-iについてBody Sharpのパラメータを採用して、頸部から骨盤部までの撮影、3D再構成やシンスライスでの読影が必要な検査に適用している。小林部長はAiCE-iの画質について、「読影では、5mm厚のデータと2mm再構成のシンスライスデータを使っていますが、特にシンスライスではAiCE-iの効果を実感しています。ノイズの大幅な低減によって、造影時の血管像を末梢まで追うことができます」と述べる。山根係長は、「術前シミュレーション用の造影3D画像でも、従来に比べて末梢血管まで描出されており、消化器外科医からも高く評価されています」と説明する。
AiCE-iの適用について山根係長は、「AIDR 3Dでは、腹部CTの場合、Volume ECの設定SDを7としてプロトコールを組んでいました。AiCE-iはノイズ低減効果に優れているため、設定SDを検討する必要があります。以前と同等の画質であれば、被ばく線量を3~4割低減できるのではと期待しています。また、画像再構成のスピードについてもAIDR 3Dとほとんど変わらないスループットでの検査が可能です」と述べる。
同院では、地域医療支援病院として開業医からの紹介検査を積極的に受け入れている。CT、MRI、RI検査などで月間120件前後の依頼がある。西土井院長は、「当院は、鳥取県で最初に地域医療支援病院の承認を受けましたが、以前から地域の医療機関とは密接な関係を築いてきました。紹介検査の件数も多いですが、今回のAiCE-iの導入で画像のクオリティが高くなることは地域の医療機関にとっても大きなメリットで、今後、病院としてもアピールしていきたいですね」と述べる。

■Aquilion Prime SP+AiCE-iによる臨床画像

図1 HRCTの画像比較(50mAs) 50mAsの低線量撮影でも、AiCE-iを用いることで劇的にノイズが低減した。放射線科読影医からも線量を下げて撮影しても問題ないと評価が得られており、肺がん検診などのプロトコールへの適用を検討中。

図1 HRCTの画像比較(50mAs)
50mAsの低線量撮影でも、AiCE-iを用いることで劇的にノイズが低減した。放射線科読影医からも線量を下げて撮影しても問題ないと評価が得られており、肺がん検診などのプロトコールへの適用を検討中。

 

図2 術前造影3D画像 a:AIDR 3D b:AiCE-i AiCE-iを用いることで、ノイズに埋もれていた末梢血管の描出能が向上した。外科から術前の3DやMIPでの血管構築を求められた際、より精細な画像を提供することが可能になった。

図2 術前造影3D画像
a:AIDR 3D b:AiCE-i
AiCE-iを用いることで、ノイズに埋もれていた末梢血管の描出能が向上した。外科から術前の3DやMIPでの血管構築を求められた際、より精細な画像を提供することが可能になった。

 

図3 右咬筋膿瘍、下顎骨右筋突起裏面膿瘍の治療効果判定 SEMARとAiCE-iの併用により、義歯周辺の金属アーチファクトが劇的に低減するだけでなく、効果的にノイズ低減が可能となり、周囲組織の辺縁を明瞭に観察可能であった。

図3 右咬筋膿瘍、下顎骨右筋突起裏面膿瘍の治療効果判定
SEMARとAiCE-iの併用により、義歯周辺の金属アーチファクトが劇的に低減するだけでなく、効果的にノイズ低減が可能となり、周囲組織の辺縁を明瞭に観察可能であった。

 

AiCE-i活用でさらなる低侵襲検査に取り組む

同院では2台のCTについて、AiCE-i導入前はスタッフ配置の関係から、主にPrime SPでは造影検査やSEMARが必要な検査を中心に、Aquilion/CXLは救急を中心にした単純撮影と使い分けてきた。しかし、Prime SPへのAiCE-iの搭載で、装置間に画質や被ばく線量の差が出てきたことで、今後は検査の振り分けを検討する必要もあると小林部長は言う。「これまでは2台の装置で診断能や被ばく線量に大きな違いはありませんでしたが、今後は検査の適応をより適切に判断することが必要で、症例やデータを集めて検討していきます」。
さらに、造影剤の使用に制限のある患者に対する検査の際に低電圧撮影(80kV、100kV)とAiCE-iを組み合わせることで、少ない造影剤でも造影効果を保った画像を得ることができるのではと山根係長は期待する。西土井院長は、「CTの高精細画像による診断が提供できる体制が整ったことは、患者さんからも医療者からも安心感が大きいです」と、Prime SP+AiCE-iに期待している。

(2020年9月7日取材)

 

鳥取赤十字病院

鳥取赤十字病院
鳥取県鳥取市尚徳町117
TEL 0857-24-8111

 

 モダリティEXPO

 

●そのほかの施設取材報告はこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP