セミナーレポート(富士フイルムヘルスケア)

第95回日本消化器内視鏡学会総会が2018年5月10日(木)〜12日(土)の3日間,グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)にて開催された。11日(金)に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー20では,順天堂大学医学部附属順天堂医院消化器内科教授の伊佐山浩通氏が座長を務め,東邦大学医療センター大森病院消化器内科助教の岡野直樹氏が「慢性膵炎に関する内視鏡治療の最前線」をテーマに講演した。

2018年8月号

第95回日本消化器内視鏡学会総会ランチョンセミナー20

慢性膵炎に関する内視鏡治療の最前線

岡野 直樹(東邦大学医療センター大森病院消化器内科)

東邦大学医療センター大森病院消化器内科では,五十嵐良典教授を中心に慢性膵炎に対する内視鏡治療に積極的に取り組んでいる。本講演では,日立社製「CUREVISTA」の特長と,当院における内視鏡治療の実際について,症例を提示し報告する。

CUREVISTAの特長

CUREVISTAの機能のうち,内視鏡治療に特に有用なのは,透視を拡大して手技をサポートする高解像度モードの“詳細透視”である。通常透視の2×2ピクセルに対し,詳細透視では撮影画像と同じく1×1ピクセルの透視像が表示可能となった。これによりズーム時にも高精度な透視像が得られ,特にマイクロデバイスを用いた手技では,ステントのメッシュ部分まで明瞭に描出される(図1)。膵管や肝内胆管にガイドワイヤを進める際に詳細な画像を確認できることは,非常に大きなメリットである。
また,CUREVISTAでは,2ウェイアームの採用によって,長手方向と横手方向の2方向にアーム(X線管)を移動できるようになり,テーブルの完全固定化を実現した。これにより,内視鏡を挿入した状態でも患者を動かすことなく,安全に手技を行えるようになった。

図1 通常透視と詳細透視の画像比較

図1 通常透視と詳細透視の画像比較

 

当院の慢性膵炎症例に関する検討

当院の内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)件数は増加しており,慢性膵炎が占める割合もかなり増加している。慢性膵炎の成因には,アルコール性,特発性,自己免疫性,遺伝性,高脂血症性などがある。当院における2003〜2016年までの慢性膵炎症例数は209例(男性84%,女性16%)で,アルコール性が77%(161例)と最も多く,次が特発性(19.4%,40例)で,男女に傾向の差は見られなかった。そこで,「慢性膵炎臨床診断基準2009」に挙げられている診断項目のうち,「1日80g以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴」に着目して,当院のアルコール性の患者161例の飲酒状況を調べたところ,83例(約51%)が80g以上を摂取していた。また,209例の喫煙率は約80%(167例)と,きわめて高かった。他臓器がんの合併も11例に認められ,発症部位は喫煙との関連が指摘されている肺,食道,喉頭部などであった。以上から,慢性膵炎症例は上部消化管内視鏡も含めた定期的なスクリーニングが必要と思われる。

慢性膵炎の内視鏡治療の実際

慢性膵炎の内視鏡治療で最も問題となるのが膵石とそれに伴う膵管狭窄である。「膵石症の内視鏡治療ガイドライン2014」によると,膵石症の治療適応は,主に疼痛のある膵石症と主膵管内結石で,ERCPのほか,症例によっては体外衝撃波結石破砕術(ESWL)を併用する。分枝内結石でも主膵管に移動する例もあるため,内視鏡治療の適応となる場合もある。当院の209例における治療理由を見ると,80%以上が急性増悪や心窩部痛・背部痛などであった。また,スクリーニング発見例については,疼痛のない主膵管内結石で,上流膵の実質が保たれており,膵機能の温存が期待できる症例を治療適応としている。そのほか,過去に膵炎の既応がある症例や,無症状で萎縮がない症例も適応となる。
症例1は,50歳,男性,アルコール性の膵石・慢性膵炎急性増悪症例である。CTでは膵体部にびまん性に結石が存在しており,肝表面には腹水が出現していた。そこで,ERCPを施行したところ,膵頭部の膵管は保たれているが,膵体部の膵管内に陰影欠損像と,その上流膵管の拡張が認められた(図2 a)。治療後のERCPでは,膵体部の責任膵石,腹水,陰影欠損はいずれも消失していた(図2 b)。このような症例は内視鏡治療の良い適応と思われる。
当院の治療の流れは,主膵管に嵌頓する結石には,まず内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)と内視鏡的膵管口切開術(EPST)を実施し,ESWLに移行するか,膵管狭窄がある場合はステントや胆道拡張用のバルーンカテーテルなどを用いて拡張術を行う。その後は,ステントを留置してESWLを行うか,ステントを留置せずにESWLを行う。

図2 症例1:アルコール性の膵石・慢性膵炎急性増悪

図2 症例1:アルコール性の膵石・慢性膵炎急性増悪

 

膵石・膵管狭窄の治療のピットフォール

膵石・膵管狭窄の治療のピットフォールには,乳頭への処置(EPST,EPST+バルーン拡張),膵管狭窄への対応,膵石破砕除去がある。

1)乳頭への処置
膵石症の患者は乳頭炎が背景にあることが多く,EPSTを施行しても膵管は容易に見えないため,基本的にはEPST後にバルーン拡張を行い,結石を除去する。また,当院の場合,胆管だけでなく,膵管にもラージバルーン拡張を行うこともある。実際にラージバルーンにて膵管拡張を得られた症例を経験しており(症例2:図3),膵管径が10mm以上の症例では施行する意義があると考える。

図3 症例2:膵管口ラージバルーン拡張

図3 症例2:膵管口ラージバルーン拡張

 

2)膵管狭窄への対応
膵管狭窄に対しては,基本的に拡張用カテーテル(5〜10Fr)で拡張を開始し,狭窄を解除できない場合はバルーン(6〜8mm)拡張を行い,それでも解除できない場合は膵管ステント(8.5〜10Fr)を留置する。当院では狭窄解除用デバイスとして,Cook Medical社製の“Soehendra Stent Retriever(SSR)”を多用している。
症例3は50歳代,男性,高度狭窄症例で,通常のカテーテルでは狭窄部から先に進めることができないため,SSRを用いて拡張を行った。はじめにガイドワイヤを末梢まで挿入し(図4 a),次にSSRを回転させながら少しずつ進めていくことで(図4 b),最終的には狭窄を解除することができた(図4 c)。このように,SSRがあれば,かなりの確率で狭窄を解除することができる。

図4 症例3:高度狭窄症例へのSSRの適応

図4 症例3:高度狭窄症例へのSSRの適応

 

3)膵石破砕除去
SSRでも狭窄が解除できない,もしくは結石を突破できない場合は,ESWLを行う。破砕を繰り返すことで,最終的に結石は自然に排出される。
ESWLで破砕困難な場合は,電気水圧衝撃波結石破砕装置(EHL)を用いるが,膵管鏡下で行うとスコープが壊れる可能性があるため,当院では透視下で行うことが多い。ただし,EHLプローブは1.9Frと細く,通常透視では電極が非常に見えづらい(図5 a)。一方,CUREVISTAの詳細透視では電極の先端が明瞭で,結石に当たっていることがはっきりと確認できるなど,きわめて有用である(図5 b)。

図5 詳細透視による1.9FrのEHLプローブの描出

図5 詳細透視による1.9FrのEHLプローブの描出

 

当院の内視鏡治療の成績

当院における2005年1月〜2016年12月の膵石症206例の内視鏡治療の成績を見ると,131例が奏功,30例が外科的治療に移行,27例は経過観察となった。ただし,2017年1月にESWLの装置更新後に治療を行った18例については,16例が奏効しており,平均ERCP回数も以前の6.9回から3.6回に減少している。また,ERCP偶発症〔ERCP後膵炎(PEP)を除く〕は,2005年1月〜2017年12月までの225症例,1490件のうち,膵管損傷8件,十二指腸穿孔2件,乳頭部穿孔・門脈気腫症・膵液瘻が各1件であった。

慢性膵炎・膵石症治療の問題点

慢性膵炎(膵石症)においては,内視鏡治療が困難な症例も存在するほか,専用デバイスの不足や,ESWLの保険点数の算定方法など保険診療の問題点,偶発症,再発への対応などさまざまな課題があり,内視鏡治療から外科的治療に移行するタイミングなど,考慮すべき点も多い。今後,これらの課題が議論の中心になると思われる。

 

岡野 直樹

岡野 直樹(Okano Naoki)
1994年 東邦大学医学部医学科卒業。同大学医学部内科学第一講座,牛久愛和総合病院,東邦大学医療センター大森病院消化器内科,川崎社会保険病院などを経て,2012年 東邦大学医療センター大森病院消化器内科助教。2017年〜同医局長。

 

 

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