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第14回日本術中画像情報学会
安全で有効な術中MRIの普及に向けた「術中MRIガイドライン」原案を公開

2014-9-25


大会長 成田善孝 氏 (国立がん研究センター中央病院)

大会長 成田善孝 氏
(国立がん研究センター中央病院)

第14回日本術中画像情報学会が2014年7月12日(土),東京大学伊藤国際学術研究センターにて開催された。大会長は成田善孝氏(国立がん研究センター中央病院脳脊髄腫瘍科科長)が務め,テーマに「新技術の評価法とエンドポイント」が掲げられた。プログラムは,シンポジウムが4セッション25題,一般口演3セッション15題のほか,基調講演,特別講演,ワークショップ,Work in Progressで構成され,術中MRIやナビゲーション技術,術前シミュレーション,医療機器開発など,手術を安全・確実に行うための支援技術に関する発表が行われた。これらの進展のためには医工連携が必須であることから,理工系や企業にも広く参加を呼びかけ,参加者は216名に上った。

本邦における術中MRIは,2000年に東京女子医科大学,滋賀医科大学で始まって以降,現在17施設に導入されるまでに至った。学会では,術中MRIの安全かつ有効な運用に資することを目的に「術中MRIガイドライン」を作成中であるが,今回原案が公開され,ワークショップでは,その構成や内容についての解説が行われた〔大会ホームページ(http://jsii14.umin.ne.jp )参照〕。ガイドラインは,意見公募・集約を経て,関係学会の承認を得た上で発行される。英訳版の発行も予定しており,世界初の術中MRIガイドラインとして有効に活用されることが期待される。

術中MRIに関するシンポジウムは,2セッションが設けられた。術中MRIを導入している国内17施設のうち,半数近くの施設が日立メディコ社製の中低磁場オープンMRIを採用している。シンポジウムではこのうち,名古屋大学(0.4T),東京慈恵会医科大学柏病院(0.7T),鹿児島大学(0.3T),東京女子医科大学(0.4T),岡山大学(1.2T)から発表が行われた。

シンポジウム(1)「術中MRIの撮影に関する問題点」では,座長を吉田 純氏(名古屋大学・さくら総合病院)と青木茂樹氏(順天堂大学)が務めた。0.4T オープンMRI「APERTO」をBrain THEATERに導入している名古屋大学からは前澤 聡氏が,「術中MRIによるナビゲーション情報の更新」と題して講演。手術ナビゲーションの位置情報のズレ補正に術中MRIによる再レジストレーションが有用であるとし,その方法や精度向上のための工夫について説明した。

座長 吉田 純 氏(名古屋大学・さくら総合病院) 青木茂樹 氏(順天堂大学)

座長
吉田 純 氏(名古屋大学・さくら総合病院)
青木茂樹 氏(順天堂大学)

前澤 聡 氏(名古屋大学)

前澤 聡 氏
(名古屋大学)

 

座長 若林俊彦 氏(名古屋大学) 平野宏文 氏(鹿児島大学)

座長
若林俊彦 氏(名古屋大学)
平野宏文 氏(鹿児島大学)

日立メディコの共催で行われたシンポジウム(2)「術中MRIの有用性と安全性」では,若林俊彦氏(名古屋大学)と平野宏文氏(鹿児島大学)が座長を務めた。まず,東京慈恵会医科大学柏病院の山本洋平氏が「当院における術中MRIの下垂体手術への応用」を講演し,2014年4月より開始した術中MRIを利用した内視鏡単独経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出術の現状について,また残存腫瘍の確認・摘出率向上への寄与などについて報告した。座長の平野氏による発表「術中MRIは膠芽腫の生存率改善に影響しているか」では,膠芽腫開頭摘出術を行った91例を対象とした検討結果を報告し,術中MRI後の追加摘出が術後初期の生存率を上げ,また,術中MRIは部分摘出例の生存期間の延長に貢献する可能性があると述べた。続いて,2013年に術中MRI用装置を0.3Tから0.4Tに更新した東京女子医科大学の田村 学氏は,「術中MRI(0.4T)変更後における運用経験」と題し,装置変更に伴う有用性や安全性についての検証や,実際の運用経験を説明した。次に,岡山大学の市川智継氏が登壇し,「当院の術中MRI導入と安全管理」を発表。1.2TオープンMRI「OASIS」を採用し,2013年6月より稼働している術中MRIの概要について,また,安全管理の取り組みについて紹介した。シンポジウム(2)の最後には,大会事務局長を務めた宮北康二氏(国立がん研究センター中央病院)が,事務局報告として術中MRIのインシデント全国調査の結果を報告し,インシデントや問題点を共有して安全性の確保を喚起した。

山本洋平 氏(東京慈恵会医科大学柏病院)

山本洋平 氏
(東京慈恵会医科大学柏病院)

平野宏文 氏(鹿児島大学)

平野宏文 氏
(鹿児島大学)

田村 学 氏(東京女子医科大学)

田村 学 氏
(東京女子医科大学)

     
市川智継 氏(岡山大学)

市川智継 氏
(岡山大学)

宮北康二 氏(国立がん研究センター中央病院)

宮北康二 氏
(国立がん研究センター中央病院)

 

 

会場風景

会場風景

また,Work in Progressは3社からの発表が行われ,日立メディコは「ラジアルスキャンによる術中DWI撮像」を発表し,東京女子医科大学で始まっている術中DWI撮像について,また,永久磁石MRI装置の技術について説明した。

次回は,日本医科大学脳神経外科の森田明夫氏が大会長を務め,2015年6月20日(土)に羽田空港に近接したJ&J東京サイエンスセンターおよびLISE(神奈川県川崎市)にて開催される予定である。

 

第14回日本術中画像情報学会プログラム

■シンポジウム(1)術中MRIの撮影に関する問題点
座長 吉田 純(名古屋大学・さくら総合病院),青木茂樹(順天堂大学)

S1-1 脳腫瘍手術における術中MRI撮像シークエンスの選択について:T1 plain画像に関する検討
櫻田 香(山形大学)

S1-2 脳実質内病変生検術直後の術中MRI所見
種井隆文(名古屋セントラル病院)

S1-3 神経膠腫摘出術における術中DTI tractographyの有用性
増田洋亮(筑波大学)

S1-4 術中MRIによるナビゲーション情報の更新
前澤 聡(名古屋大学)

■シンポジウム(2)術中MRIの有用性と安全性
座長 若林俊彦(名古屋大学),平野宏文(鹿児島大学)

S2-1 当院における術中MRIの下垂体手術への応用
山本洋平(東京慈恵会医科大学柏病院)

S2-2 内視鏡下経鼻的経蝶形骨洞腫瘍摘出術における術中MRIの使用経験とそのピットフォール
伊藤美以子(山形大学)

S2-3 術中MRIは膠芽腫の生存率改善に影響しているか
平野宏文(鹿児島大学)

S2-4 術中MRI(0.4T)変更後における運用経験
田村 学(東京女子医科大学)

S2-5 当院の術中MRI導入と安全管理
市川智継(岡山大学)

S2-6 術中MRIの使用におけるトラブルシューティング
上月暎浩(筑波大学)

S2-7 事務局報告 術中MRIのインシデント全国調査
宮北康二(国立がん研究センター中央病院)

■ワークショップ 術中MRIガイドライン
座長 嘉山孝正(山形大学),伊関 洋(早稲田大学)
解説 藤井正純(名古屋大学),継 淳(東海大学),
丸山隆志(東京女子医科大学),田中俊英(東京慈恵会医科大学)

■特別講演(1)
座長 端 和夫(新さっぽろ脳神経外科病院)
ブリガムアンドウィメンズ病院画像誘導手術プログラムにおける医工連携型研究
波多伸彦(Brigham and Women’s Hospital)

■一般口演(1)新しい医療機器の開発
座長:渡邉英寿(自治医科大学),白根礼造(宮城県立こども病院)

O1-1 手術記録動画ファイルの講座内アーカイブ用途でのLTO-6磁気テープの使用経験
中山八州男(富山大学)

O1-2 開頭術におけるハイビジョン内視鏡の有用性
白銀一貴(日本医科大学)

O1-3 ナビゲーションシステムを備えたハイブリッド手術室の導入と活用
福井伸行(京都大学)

O1-4 執刀外科医の術中意思決定を支援する非接触直感操作型インタフェースOpect
吉光喜太郎(東京女子医科大学)

O1-5 異種生態情報を統合表示する術中言語機能モニタリングシステム(IEMAS)の医療機器開発
田村 学(東京女子医科大学)

■基調講演
座長 水野正明(名古屋大学),斉藤延人(東京大学)

基調講演1:シミュレーション画像の評価法・エンドポイント
金 太一(東京大学)

基調講演2:医療機器のエンドポイント・有効性と安全性の評価
村垣善浩(東京女子医科大学)

■特別講演(2)
座長 成田善孝(国立がん研究センター中央病院)
新しい医療テクノロジーをより早く導入し,医療に役立てるために〜規制と臨床の立場から〜
方 眞美〔独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)〕

■シンポジウム(3)ナビゲーション技術の応用とさらなる可能性
座長 本郷一博(信州大学),加藤庸子(藤田保健衛生大学)

S3-1 術中3T-MRIによるアップデートナビゲーションシステムの使用経験
荒川芳輝(京都大学)

S3-2 手術用ナビゲーション画面のタブレット型情報端末への画像投影
木下 学(大阪府立成人病センター)

S3-3 腹臥位,側臥位での術中ナビゲーションにおけるレジストレーションの工夫
荻原利浩(信州大学)

S3-4 磁場式ナビゲーションシステムStealthStation S7の有用性
黒住和彦(岡山大学)

S3-5 磁場式ナビゲーションを用いたフレームレス定位的血腫・膿瘍ドレナージ術の有用性
三塚健太郎(山梨大学)

S3-6 脳外科領域における手術ナビゲーションシステム導入のためのf-MRIの賦活部位をSeed PointとしたTractographyの支援研究
八木一夫(首都大学東京)

S3-7 Q ball imagingトラクトグラフィ融合ナビゲーションの有用性
齊藤邦昭(杏林大学)

■一般口演(2)術中モニタリングの標準化に必要なこと
座長 川合謙介(NTT東日本関東病院)

O2-1 術中運動野誘発電位モニタリングにおける刺激強度と波形振幅・刺激閾値のばらつきの関係
岡本英未子(筑波大学)

O2-2 SLF,言語機能モニターを用いた脳腫瘍外科の有用性と限界
村田大樹(京都大学)

O2-3 確実な錐体路同定をめざしたNavigation-assisted subcortical mapping
山口文雄(日本医科大学)

O2-4 全身麻酔下頭皮導出視覚誘発電位モニタリングの留意点
浅野修一郎(帝京大学)

■シンポジウム(4)確実な手術のためのシミュレーション
座長 野崎和彦(滋賀医科大学),長谷川光宏(藤田保健衛生大学)

S4-1 高精細な3次元合成画像を作成するうえでの各検査条件の研究
野本 淳(東邦大学)

S4-2 脊椎脊髄疾患に対する立体模型を用いた術前シミュレーション
原田直幸(東邦大学)

S4-3 破裂脳動脈瘤の術前シミュレーションにおける3次元融合画像の有用性
篠原直樹(HITO病院)

S4-4 コンピューターグラフィックスによる術前シミュレーションとiPadでの閲覧の有用性
岡田 啓(杏林大学)

S4-5 Fiber tracking画像による皮質脊髄路描出に影響を及ぼす因子の検討
大竹 誠(横浜市立大学)

S4-6 時空間を統合した3次元コンピュータグラフィックスによる脳動静脈奇形の治療戦略
野村征司(東京大学)

S4-7 脳腫瘍手術における裸眼3Dディスプレイの有用性と今後の展望
長久伸也(藤田保健衛生大学)

■Work in Progress
座長 森田明夫(日本医科大学)

WP-1 ラジアルスキャンによる術中DWI撮像
八杉幸浩(株式会社日立メディコ)

WP-2 術中MRI/CT/ANGIO用ナビゲーションの再考と将来
惠藤信一郎(ブレインラボ株式会社)

WP-3 医療用裸眼3Dディスプレイシステム「HyperViewer」の概要
橋本敬介(東芝メディカルシステムズ株式会社)

■一般口演(3)5ALA・ICG画像技術の有用性と問題点
座長 中瀬裕之(奈良県立医科大学),塩川芳昭(杏林大学)

O3-1 グリオーマ手術における高輝度LEDレーザー併用5-ALA蛍光診断の有用性〜病理学的所見の立場
樋口直司(日本医科大学)

O3-2 5ALA術中蛍光染色による脳腫瘍切除の有用性とピットフォール
松田良介(奈良県立医科大学)

O3-3 脳神経外科手術時におけるICG videographyの有用性と工夫
弘中康雄(奈良県立医科大学)

O3-4 術中ICG,Flow800のAVM,脳動脈瘤への応用
山田康博(藤田保健衛生大学)

O3-5 術中ICG蛍光撮影が有用であった脊髄腫瘍の一例
原科純一(東邦大学医療センター大橋病院)

O3-6 ICG蛍光血管撮影を用いて計測した頭蓋内正常動脈におけるwall-to-lumen ratioの検討
中川大地(東京大学)


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