日立New 3T MRIについて 
瀧澤 将宏(株式会社日立製作所ヘルスケアビジネスユニット)
[技術講演]

Hi Advanced MRセミナー in Japan HITACHI 3T MRI×AI 未来への挑戦

2019-4-25


瀧澤 将宏(株式会社日立製作所ヘルスケアビジネスユニット)

日立製作所は,1983年に初めてMRIを製品化し,以降,永久磁石型オープンMRIを軸に開発を行ってきた。現在は,オープンMRIに加え,ミッドレンジの超電導型1.5T MRI「ECHELON Smart」,プレミアムクラスの超電導型1.5T MRI「ECHELON OVAL」,超電導型3T MRI「TRILLIUM OVAL」をラインアップしており,日立MRIは全世界で累計7300台以上の導入実績がある。
本講演では,日立3T MRIの特徴を概説した上で,さらに進化した最新の3T MRI「TRILLIUM OVAL Cattleya」について紹介する。

日立3T MRIの特徴

1.ハードウエア
日立は,3T MRIの開発に当たり,“オープンの日立”を継承した高性能超電導MRIをめざした。オープン性と高性能(高画質)の両立を実現するための要となるのが,楕円(OVAL)ボアと4ch-4port照射である。
患者の快適性(オープンボア)と静磁場の均一性は従来,トレードオフの関係にあった。そこで日立は,解決策として傾斜磁場コイルを楕円化することにより,静磁場と傾斜磁場の性能を維持し,患者快適性を確保する装置をめざした。開発においては,日立グループの技術力を結集し,核融合装置の開発に用いたシミュレーション技術を駆使して,楕円傾斜磁場コイルの開発に成功した。
また,照射コイルのチャンネル数については,シミュレーション技術で最適なチャンネル数を模索し,全体・部分ROIのB1不均一が改善する4ch-4port照射を採用した。4ch-4port照射ではSAR管理が複雑になるが,安全性のシミュレーションによる検証においても,日立グループの演算設備が活用された。
さらに,ワークフロー向上のために実装されたWIT RFコイルシステムは,撮像部位に合わせてコイルを配置することで,スムーズな検査を支援する。四肢領域は専用コイルを用意し,高空間分解能画像の取得を支援する。また,32chヘッドコイルでは,高感度を利用した高空間分解能画像や,冠状断面や矢状断面の広範囲の画像も撮像できる。

2.基盤技術
ハードウエア性能に加え,“RF Shimming”や脂肪抑制といった基盤技術がTRILLIUM OVALの高画質を支えている。
RF Shimmingは,照射不均一による画像ムラを解決するため,約3秒間のBlink ScanによりRF照射分布(B1マップ)を取得して最適なRF照射分布を計算し,全身領域の均一度の向上に貢献する。また,脂肪抑制においては,複数のRFパルスを組み合わせる脂肪抑制パルス“H-Sinc”を開発し,体幹部や乳房領域においても従来法に比べ安定した脂肪抑制が可能となっている。

3.アプリケーション
さらに,アプリケーションも豊富にラインアップしている。3T MRIで重要な3Dシーケンスは,画像種に応じて最適な調整が可能な“isoFSE”(iso-voxel FSEシーケンス)や,バンディングアーチファクトを抑制する“PBSG”(位相サイクルBalancedシーケンス),高速撮像が可能な“BSI”(EPI型磁化率強調シーケンス)が搭載されている。
このほか,短時間で良好な水脂肪分離画像を得られる“FatSep”,体動アーチファクトを低減する“RADAR”,特定の血管の信号を抑制する局所励起サチュレーションパルス“BeamSat”などが実装されている。
このように多彩な技術が実装されたTRILLIUM OVALは,日立の技術の結晶であり,多くの臨床現場で活用されている。

TRILLIUM OVAL Cattleyaの特徴

日立は2019年1月,TRILLIUM OVALからさらに進化した新しい3T MRI TRILLIUM OVAL Cattleyaを発表した。TRILLIUM OVAL Cattleyaは,「SPEED」「QUALITY」「COMFORT」の3つをコンセプトに掲げている。

1.SPEED
TRILLIUM OVAL Cattleyaは,一連の検査ワークフローを向上させるSynergy Driveコンセプトに基づき,患者のセッティングから解析までを支援するさまざまな機能を搭載している。
また,撮像においては,32chヘッドコイルによる高SNRを撮像時間短縮に活用することで,従来と比べ短時間での頭部プロトコールを実現する(図1)。特に,脳出血と脳梗塞を鑑別する緊急検査では,T2*強調画像と拡散強調画像(DWI)を1分弱で取得できる。

図1 32chコイルの高SNRを活用した撮像時間短縮

図1 32chコイルの高SNRを活用した撮像時間短縮

 

2.QUALITY
TRILLIUM OVAL Cattleyaでは,脳脊髄液と白質を抑制するwhite matter attenuated IRやBSI,isoMSDEなどの高機能撮像に加え,CSI(Chemical Shift Imaging)やPWI(Perfusion Weighted Image),DKI(Diffusion Kurtosis Imaging),QSM(Quantitative Susceptibility Mapping)などの解析処理をオンコンソールで実現した。
PWIは,ラベル位置の設定が容易であることに加え,2種のシーケンスを搭載しているという特徴がある(図2)。GRASEシーケンスでは高速撮像,isoFSEシーケンスでは歪み低減と,使用目的に応じて選択でき,従来検査にPWIを追加しやすくなっている。

図2 PWIの特徴

図2 PWIの特徴

 

isoMSDEは,isoFESに血流抑制プリパルスを併用したアプリケーションである。血流信号を抑制することで,血管壁の性状評価が可能になる(図3)。

図3 isoMSDEによる血管壁の性状評価

図3 isoMSDEによる血管壁の性状評価

 

磁化率イメージング(図4)については,BSIとQSMの同時取得が可能となっている。また,シングルエコー(RSSG)とマルチエコー(RSSG EPI)が選択可能で,歪み低減にはシングルエコー,高速撮像にはマルチエコーと,目的に合わせて使い分けができる。さらに,QSM計算においては,適応型エッジ保存フィルタを繰り返し適用することで計算精度を向上させた1)。日立のQSMは,磁化率マップのゴールドスタンダードであるCOSMOS法2)と比べて,良好な相関が得られている(図5)。

図4 磁化率イメージング(BSIとQSMを同時取得)

図4 磁化率イメージング(BSIとQSMを同時取得)

 

図5 QSMとCOSMOS法2)の比較

図5 QSMとCOSMOS法2)の比較

 

3.COMFORT
COMFORTとしては,横隔膜Navigator(横隔膜ナビ)を用いた腹部撮像が挙げられる。横隔膜ナビを併用する腹部撮像には2つのモードがある(図6)。Breath holdモードは,複数回息止めをする撮像で,各息止めにおける横隔膜位置のズレを補正して撮像することで,再撮像を回避することができる。もう一つのNavi gateモードは,自由呼吸下で撮像し,横隔膜位置が特定の領域(Gate window)に入ったデータだけを選択的に使用することで,高分解能画像を取得することができる。
また,横隔膜ナビと高速脂肪抑制シーケンスTIGREを組み合わせた“Liver Drive”は,肝造影ダイナミック検査フローを改善する。自由呼吸下撮像で肝細胞相を従来よりも高空間分解能に撮像できるとともに,スライス厚を薄くすることで空間分解能の高いMPRを観察することができる。

図6 横隔膜ナビを併用した腹部撮像

図6 横隔膜ナビを併用した腹部撮像

 

●参考文献
1)Shirai, T., et al., Proc. ISMRM, 3319, 2015.
2)Liu, T., et al., Magn. Reson. Med., 61・1, 196〜204, 2009.


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