MR古今東西 
IP-RAPID活用術 
撮像時間短縮と空間分解能向上に活用するためのパラメータ設定

2020-4-24


はじめに

MRI検査の長い撮像時間を短縮する技術はいくつかありますが,いずれも画質とのトレードオフが生じます。撮像時間のわずかな短縮であれば,画質への影響も少ないでしょう。しかし,撮像時間を大幅に短縮した場合,変更したパラメータによってはノイズの増大をはじめ,空間分解能低下やさまざまなアーチファクトの増大,またはそれらが複合的に発生し,画質劣化を生じることもあります。
1.5T超電導MRI「ECHELON Smart Plus」で新しく搭載された撮像時間を短縮する新技術“IP-RAPID”は,アンダーサンプリングと繰り返し演算処理(Iterative Process:IP)を活用した画像再構成演算を適用しています。IP-RAPIDを使用した撮像時間の短縮技術は,従来の技術で撮像時間を短縮した時に発生していたさまざまな画質劣化の影響を低減させます。
IP-RAPIDを撮像時間短縮に活用することで,画質を維持しながら撮像時間を大幅に短縮したMRI検査を提供することが可能です。また,IP-RAPIDを空間分解能向上に活用することで,撮像時間を維持しながら高い空間分解能を有した画質を提供することも可能です。
今回は,「IP-RAPID活用術」と題して,ECHELON Smart Plusに新しく搭載されたIP-RAPIDの活用方法についてまとめました。IP-RAPIDで適用可能な受信コイルと各種シーケンスの紹介から,IP-RAPIDを撮像時間短縮に活用するケースと空間分解能向上に活用するケースについて,IP-RAPIDパラメータ設定の考え方を紹介します。

IP-RAPIDの適用受信コイルとシーケンス

IP-RAPIDは,ECHELON Smart Plusの複数チャンネルを有する受信コイルで適用可能です。つまり,ほとんどの受信コイルでIP-RAPIDを使用することができます。また,適用シーケンスは,非造影MRAなどで使用されるTOF,BASGをはじめ,部位を問わず全身で使用される頻度の多いSE,FSE,FIR,GEなどの基本シーケンス,1回の撮像で脂肪抑制画像とin Phase(脂肪抑制前)画像を同時に得るマルチコントラスト計測技術のFatSep,拡散強調画像で使用されるDW-EPIに加えて,静音機能“Smart Comfort”で使用されるさまざまなSoftシーケンスとの併用も可能です。このように,IP-RAPIDの適用受信コイルや適用シーケンスを広げることで,多くの施設の運用に合わせた設定が可能です。

IP-RAPIDの設定方法

IP-RAPIDは,画像のSNRを向上できる機能です。IP-RAPIDは,パラメータ全表示(図1)の「RAPID」というカテゴリから設定を行います。

図1 パラメータ全表示(黄色枠が「RAPID」カテゴリ)

図1 パラメータ全表示(黄色枠が「RAPID」カテゴリ)

 

IP-RAPIDをTOFで設定する場合,「RAPID」カテゴリの「RAPID(Phase)」パラメータを1.0以上に設定した後,「RAPID(IP-Scan)」パラメータを1.1以上に設定します。「RAPID(Phase)」と「RAPID(IP-Scan)」の値を掛け合わせた値が自動計算され,「RAPID(Total)」に表示されます。「RAPID(Phase)」と「RAPID(IP-Scan)」に任意の値を設定し,「RAPID(Total)」の値が大きくなるほど,より大幅な撮像時間の短縮が可能となります(図2)。
IP-RAPIDをTOF以外(SE,FSE,FIR,GE,BASG,FatSep,DW-EPI,Softなど)で設定する場合,「RAPID」カテゴリの「RAPID(Phase)」パラメータを1.1以上に設定した後,「RAPID(IP-Recon)」強度を選択します(図3)。
選択できる「RAPID(IP-Recon)」強度は,Light,Medium,Heavyの3段階です(図4)。LightからMedium,またはMediumからHeavyを選択するほど,よりノイズを低減する効果が強くなります。併せて「RAPID(Phase)」を大きくするほど,より大幅な撮像時間の短縮が可能となります。

図2 TOFでのIP-RAPIDの設定例

図2 TOFでのIP-RAPIDの設定例

図3 TOF以外でのIP-RAPIDの設定例

図3 TOF以外でのIP-RAPIDの設定例

   
図4 RAPID(IP-Recon)強度の選択肢

図4 RAPID(IP-Recon)強度の選択肢

 

 

IP-RAPIDを撮像時間短縮に活用するケース

IP-RAPIDを撮像時間短縮に活用する場合のパラメータ設定の考え方を,シーケンスごとに紹介します。

●頭部MRA
図5 aは,IP-RAPIDを使用していない画像です。それに対して図5 bは,IP-RAPIDを使用している画像です。MRAでのIP-RAPIDはk-spaceをCircularで充填するため,RAPID(IP-Scan)の倍速数が小さくても大きな撮像時間短縮効果が得られます。また,図5 cもIP-RAPIDを使用しており,大幅な撮像時間短縮を目的とする場合,RAPID(IP-Scan)の倍速数を大きくします。RAPID(IP-Scan)の倍速数を上げることは,画像のSNRと空間分解能に影響します。場合によっては,RAPID(IP-Scan)以外のパラメータを調整することも必要です。

図5 頭部MRA *Freq/Phase=周波数エンコード数/位相エンコード数 a:IP-RAPID off, Phase=2.0, Freq/Phase=256×256, scan time=4:48 b:IP-RAPID on, Phase=2.0, IP-Scan=1.3, Total=2.6, Freq/Phase=256×256, scan time=2:55 c:IP-RAPID on, Phase=2.0, IP-Scan=2.0, Total=4.0, Freq/Phase=256×256, scan time=1:55

図5 頭部MRA *Freq/Phase=周波数エンコード数/位相エンコード数
a:IP-RAPID off, Phase=2.0, Freq/Phase=256×256, scan time=4:48
b:IP-RAPID on, Phase=2.0, IP-Scan=1.3, Total=2.6, Freq/Phase=256×256, scan time=2:55
c:IP-RAPID on, Phase=2.0, IP-Scan=2.0, Total=4.0, Freq/Phase=256×256, scan time=1:55

 

●股関節FatSep T2WI
図6 aは,IP-RAPIDを使用していない画像です。それに対して図6 bは,IP-RAPIDを使用している画像です。RAPID(Phase)の倍速数によって撮像時間短縮の調整を行い,RAPID(IP-Recon)強度の選択によって画像のSNRと空間分解能の調整を行います。また,図6 cもIP-RAPIDを使用している画像で,bよりもRAPID(Phase)の倍速数を上げて撮像時間を短縮しています。RAPID(Phase)の倍速数を大きく上げる場合には,SNRと空間分解能のバランスを考慮しながら,適切なRAPID(IP-Recon)強度を選択してください。

図6 股関節FatSep T2WI(上段:in Phase画像,下段:脂肪抑制画像) a:IP-RAPID off, Phase=1.1, Freq/Phase=256×256, scan time=2:49 b:IP-RAPID on, Phase=1.6, IP-Recon=Light, Freq/Phase=256×256, scan time=1:58 c:IP-RAPID on, Phase=2.5, IP-Recon=Medium, Freq/Phase=256×256, scan time=1:18

図6 股関節FatSep T2WI(上段:in Phase画像,下段:脂肪抑制画像)
a:IP-RAPID off, Phase=1.1, Freq/Phase=256×256, scan time=2:49
b:IP-RAPID on, Phase=1.6, IP-Recon=Light, Freq/Phase=256×256, scan time=1:58
c:IP-RAPID on, Phase=2.5, IP-Recon=Medium, Freq/Phase=256×256, scan time=1:18

 

●足関節FatSep T2WI
図7 aは,IP-RAPIDを使用していない画像です。それに対して図7 b,cは,IP-RAPIDを使用しています。RAPID(IP-Recon)強度の選択によって画像のSNRと空間分解能の調整を行うことは,部位にかかわらず同様です。

図7 足関節FatSep T2WI(上段:in Phase画像,下段:脂肪抑制画像) a:IP-RAPID off, Phase=1.5, Freq/Phase=320×288, scan time=2:55 b:IP-RAPID on, Phase=2.0, IP-Recon=Light, Freq/Phase=320×288, scan time=2:12 c:IP-RAPID on, Phase=2.7, IP-Recon=Medium, Freq/Phase=320×288, scan time=1:35

図7 足関節FatSep T2WI(上段:in Phase画像,下段:脂肪抑制画像)
a:IP-RAPID off, Phase=1.5, Freq/Phase=320×288, scan time=2:55
b:IP-RAPID on, Phase=2.0, IP-Recon=Light, Freq/Phase=320×288, scan time=2:12
c:IP-RAPID on, Phase=2.7, IP-Recon=Medium, Freq/Phase=320×288, scan time=1:35

 

●肩関節Radial Stack T2*WI
図8 aは,IP-RAPIDを使用していない画像です。それに対して図8 b,cは,IP-RAPIDを使用し,撮像時間の短縮を図っています。

図8 肩関節Radial Stack T2*WI a:IP-RAPID off, Phase=1.2, Freq/Phase=224×224, scan time=3:08 b:IP-RAPID on, Phase=1.5, IP-Recon=Light, Freq/Phase=224×224, scan time=2:31 c:IP-RAPID on, Phase=2.0, IP-Recon=Medium, Freq/Phase=224×224, scan time=1:54

図8 肩関節Radial Stack T2*WI
a:IP-RAPID off, Phase=1.2, Freq/Phase=224×224, scan time=3:08
b:IP-RAPID on, Phase=1.5, IP-Recon=Light, Freq/Phase=224×224, scan time=2:31
c:IP-RAPID on, Phase=2.0, IP-Recon=Medium, Freq/Phase=224×224, scan time=1:54

 

IP-RAPIDを空間分解能向上に活用するケース

IP-RAPIDを空間分解能向上に活用する場合のパラメータ設定の考え方を,シーケンスごとに紹介します。

●頭部MRA
図9 aは,IP-RAPIDを使用していない画像です。それに対して図9 b,cは,IP-RAPIDを使用している画像です。空間分解能向上を目的とする場合,Freq/Phaseを大きくする必要があります。しかし,その結果,撮像時間の延長やボクセルサイズが小さくなることによるSNRの低下が発生します。IP-RAPIDを活用することで,これらのリスクを低減させ,高い空間分解能を持った画像を得ることができます。

図9 頭部MRA a:IP-RAPID off, Phase=2.0, Freq/Phase=256×256, scan time=4:48 b:IP-RAPID on, Phase=1.6, IP-Scan=1.1, Total=1.7, Freq/Phase=288×288, scan time=4:48 c:IP-RAPID on, Phase=1.6, IP-Scan=1.2, Total=1.9, Freq/Phase=320×308, scan time=4:48

図9 頭部MRA
a:IP-RAPID off, Phase=2.0, Freq/Phase=256×256, scan time=4:48
b:IP-RAPID on, Phase=1.6, IP-Scan=1.1, Total=1.7, Freq/Phase=288×288, scan time=4:48
c:IP-RAPID on, Phase=1.6, IP-Scan=1.2, Total=1.9, Freq/Phase=320×308, scan time=4:48

 

●膝関節PDWI
図10 aは,IP-RAPIDを使用していない画像です。それに対して図10 b,cはIP-RAPIDを使用して,撮像時間を維持したまま空間分解能を向上しています。頭部MRAと同様に,空間分解能を向上させるためにはFreq/Phaseを大きくする必要があります。そしてIP-RAPIDを活用することで,その結果生じる撮像時間の延長やSNR低下の影響を低減させることができます。

図10 膝関節PDWI a:IP-RAPID off, Phase=1.6, Freq/Phase=288×288, scan time=2:58 b:IP-RAPID on, Phase=1.8, IP-Recon=Light, Freq/Phase=320×320, scan time=2:58 c:IP-RAPID on, Phase=2.0, IP-Recon=Medium, Freq/Phase=352×352, scan time=2:56

図10 膝関節PDWI
a:IP-RAPID off, Phase=1.6, Freq/Phase=288×288, scan time=2:58
b:IP-RAPID on, Phase=1.8, IP-Recon=Light, Freq/Phase=320×320, scan time=2:58
c:IP-RAPID on, Phase=2.0, IP-Recon=Medium, Freq/Phase=352×352, scan time=2:56

 

まとめ

IP-RAPIDを撮像時間短縮に活用するケースと空間分解能向上に活用するケースについて,IP-RAPIDパラメータ設定の考え方を中心に紹介しました。限られたMRI検査時間の中,臨床現場での課題を解決する技術としてIP-RAPIDがお役に立てることを確信しております。

*ECHELON Smart,FatSepは株式会社日立製作所の登録商標です。
*ECHELON Smart Plusは日立MRイメージング装置 ECHELON Smartの呼称です。

販売名:日立MRイメージング装置 ECHELON Smart
医療機器認証番号:第229ABBZX00028000号


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