技術解説(富士フイルムヘルスケア)

2013年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

心臓領域における被ばく低減とワークフローを考慮した「SCENARIA」の最新技術

萩原 久哉(CT・MR マーケティング本部)

心臓領域でCT に求められる性能として,被ばく低減技術や高画質化技術だけでなく,撮影前から後処理までのワークフローが通常のルーチン検査以上に重要になる。SCCT(Society of CardiovascularComputed Tomography)ガイドライン1)でも,患者様の適切なポジショニング,線量やピッチ,回転速度の最適化などが推奨されている。
本稿では,(1) Patient Positioning,(2) Scan Protocols,(3)  Image Reconstruction,(4) Lower Doseの心臓検査のワークフローに沿って,「SCENARIA」*1図1)の最新技術を紹介する。

図1  SCENARIA外観

図1  SCENARIA外観

 

■ Patient Positioning:IntelliCenter*1(横スライド+小視野用Bow-tieフィルタ)

SCENARIAは,従来の標準寝台とは別に,オプションとして横スライド機構を備えた寝台を組み合わせることができる。この横スライド寝台は,ガントリの左右方向に最大80 mm の移動が可能である。心臓撮影のように撮影領域が小さい場合には,この機構を使って心臓を撮影中心に移動させ,さらに小視野用Bow-tieフィルタを用いてX線を関心領域に絞ることで,被ばくと分解能向上の両方の効果が期待できる。この撮影機能を“IntelliCenter”と呼ぶ。
64 列CT による心臓撮影において,retrospective ECG gatingでは,心臓以外の部位の撮影と比較して被ばく線量が高く,被ばく低減が課題であった。被ばく低減のためには,低管電圧の利用や管電流の低下,prospective ECGtriggering による撮影が挙げられるが,それに加え,SCENARIA ではIntelliCenterの使用が可能である(図2)。
寝台横移動なしで標準のBow-tieフィルタを組み合わせた場合に対して,IntelliCenter を使った場合の被ばく低減効果を,仮想ファントムを用いてシミュレーションした結果,撮影位置全体で24%の被ばく低減となり,さらにFOV外に限った場合では35%の低減効果があるという結果が得られた(図3)。

図2 IntelliCenter を使用して撮影した心臓画像

図2 IntelliCenter を使用して撮影した心臓画像

 

図3 IntelliCenterと被ばく低減率

図3 IntelliCenterと被ばく低減率

 

■ Scan Protocols:CardioConductor*1(心臓撮影条件自動設定)

心臓撮影は,患者様の心拍のコントロールや,数回の息止め練習,適切な撮影条件の設定,最適な心位相の探索など,CT 検査の中でも非常に時間のかかる検査の1つである。SCENARIAは,心臓検査のワークフローを改善するために,心臓の撮影条件を自動設定する“CardioConductor”を搭載した。
CardioConductorは,患者様の息止め練習時の心拍数範囲を取得し,システムの推奨する撮影条件を自動設定する機能である。息止め練習は,コンソールまたはスキャナガントリ(TouchVision)のどちらでも可能である。撮影条件設定は,使い勝手を考慮した「オート」や,自由に条件をカスタマイズする「マニュアル」など,目的に合わせた使い方が選べる。

■ Image Reconstrution:CardioHarmony*1(最適心位相探索支援)

“CardioHarmony”は,心臓撮影後,心位相ごとに作成された画像から心臓全体の動き量を抽出し,これが最小となる位相を最適心位相としてシステムが自動的に提案する機能である。通常,心位相として,初めに70%台の拡張期付近を探索することが多いが,Cardio Harmonyを組み込んでおくだけで,90%台が最適な心位相である場合でも,約20 秒で自動的に探索し,技師が最適な心位相を見つけるまでの時間を短くすることが可能である(図4)。

図4 CardioHarmonyによる再構成

図4 CardioHarmonyによる再構成

 

■ Lower Dose:Intelli IP*1(逐次近似を応用したノイズ低減)

われわれは,統計学的モデル等を用いた逐次近似再構成技術による大幅なノイズ低減をめざしている2)。しかしながら,従来の再構成と比較して,数十倍から数百倍の計算時間が必要となるため,ソフトウェア,ハードウェアの両面からの高速化が必要であり,CT でルーチン使用できる状況にはない。その流れの中で,現段階では,逐次近似を応用したノイズ低減処理として,処理速度を特に重視した“Intelli IP”*2 と,実用的な処理速度において被ばく低減性能を向上させた“Intelli IP(Advanced)”*2をSCENARIAに搭載した。
Intelli IPは,適応型逐次反復処理によって,統計的なデータの信頼性に基づいたノイズ低減処理を投影データと画像データに施すものである。投影空間では,統計的信頼度に基づき,信頼度の低い投影データに対して選択的,反復的にノイズ低減処理が行われる。
一方,Intelli IP(Advanced)は,投影空間上でのノイズ成分を,高精度な統計学的モデルに基づき逐次近似解法により除去した上で,画像空間上で解剖学的情報と統計学的情報を基に画質のコントロールを行う処理であり,画像ノイズやストリークアーチファクトを大幅に低減する効果が期待できる。IntelliIP(Advanced)は,Level. 1 〜7 まで7段階の設定があり,数値が大きくなるほどノイズ低減効果が高くなる。Levelを7段階から選択できるため,撮影条件や目的に応じて効果の調整が可能である。
35 mAs の低線量で撮影した心臓アキシャル像に対して,Intelli IP(Advanced)のLevel. 4 を適用した例を示す(図5)。従来の再構成法と比較すると,IntelliIP(Advanced)により,低線量によるノイズだけでなく,椎体からのストリークアーチファクトが低減していることが確認できる。また,冠動脈のステントなどに高周波強調フィルタ(Stent Filter)を適用した際に生じるノイズを,IntelliIP(Advanced)のLevel. 5 を適用することで効果的に除去し,ステント内腔が見やすくなる(図6)。
このように,Intelli IP(Advanced)は,アーチファクトやノイズを低減し画質を向上する効果と,従来検査より低線量で撮影できる可能性をもたらす。しかしながら,極端な低線量撮影により,本来得られるべき信号が失われてしまうと,逐次近似処理を適用しても信号は元に戻らないため,撮影部位や検査目的に応じた適切な線量と,逐次近似のLevelを選択することが重要である。

図5 心臓画像(Prospective)

図5 心臓画像(Prospective)

 

図6 心臓画像(Retrospective)

図6 心臓画像(Retrospective)

 

*1 SCENARIA,IntelliCenter,Cardio Conductor,CardioHarmony,Intelli IPは,株式会社日立メディコの日本における登録商標です。
*2 Intelli IPは,NormalモードとAdvancedモードの2つがあるが,本稿ではIntelli IP,Intelli IP(Advanced)と記す。

●参考文献
1)Abbara, S., et al. : SCCT guidelines for performance of coronary computed tomographic angiography ; A report of the Society of Cardiovascular Computed Tomography Guidelines Committee. J. Cardiovasc. Comput. Tomogr. , 3・3, 190 〜204, 2009.
2)Takahashi, H., et al. : Motion tolerant iterative reconstruction algorithm for cone-beam helical CT imaging. Fully 3D 2011, 355 〜 358, 2011.

 

【問い合わせ先】CT・MR マーケティング本部 TEL 03-3526-8305

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