技術解説(富士フイルムヘルスケア)

2019年9月号

Step up MRI 2019

最新のMRI技術を搭載した日立1.5T超電導MRIシステム「ECHELON Smart Plus」

八杉 幸浩[(株)日立製作所ヘルスケアビジネスユニット]

1.5T超電導MRI「ECHELON Smart Plus」は,高画質に加え,日立独自の静音化技術により被検者に快適な検査環境を提供するとともに,操作者の支援機能や被検者の動きによる再撮像の頻度を低減する機能を搭載した。さらに,撮像時間の短縮化技術を新たに搭載した。これにより,ワークフローの改善や検査時間の低減を行い,また,高度な自動化技術にて操作者の負担を軽減した最新のMRIシステムである。

●開発の背景

MRI検査は,CTやPETなど放射線を使用する検査と比較すると,放射線被ばくがなく低侵襲であり,また,形態情報だけでなく機能情報も得られる特徴がある。特に,水分含有量の多い軟部組織のコントラスト分解能に優れ,脳や脊髄の診断には欠かせない検査になっている。しかし,MRI検査は1回の検査で複数のコントラスト画像を撮像するために,一般的に数十分の時間がかかり,検査中は大きな音がするなど被検者に負担がかかるという問題がある。
ECHELON Smart Plus(図1)は,「クオリティ」「スピード」「コンフォート」をコンセプトとしており,診断に最も重要な高画質を実現しながら,静音化技術や操作者を支援するアプリケーションを搭載することで,被検者だけでなくMRIシステムを操作する操作者にも快適な検査環境を提供する。

図1 ECHELON Smart Plus

図1 ECHELON Smart Plus

 

●画質,撮像時間に影響の少ない静音化技術“Smart Comfort”

MRI検査で大きな音が出る原因は,傾斜磁場コイルに電流を流すことで電流と磁場の間に働く電磁力によって傾斜磁場コイルが振動するためである。日立独自の静音化技術Smart Comfortは,傾斜磁場パルスの形状を最適化し,撮像パラメータを調整することで,撮像時間,コントラスト,SNR,空間分解能をほぼ変更しない条件で,撮像音を最大で94%低減する。
これは,傾斜磁場は印加電流と印加時間の積で与えられ,この波形で撮像音の音質が変化するため,シミュレーションを活用することで低騒音波形の最適化を行って実現される(図2)。
この技術はMR撮像で重要であるT1強調画像,T2強調画像やMRA画像,さらには拡散強調画像(以下,DWI)など,装置調整用のプリスキャンを含めた主なルーチン検査で利用することができる。また,radial scan技術“RADAR”との併用も可能であり,動きの影響を抑えた静音撮像が実現されている。

図2 静音最適化傾斜磁場波形

図2 静音最適化傾斜磁場波形

 

●撮像時間を大幅に短縮する新技術“IP-RAPID”

IP-RAPIDはアンダーサンプリングと繰り返し演算処理“IP”(Iterative Process)を活用した画像再構成演算を適用し,画質を維持したまま撮像時間を短縮する技術である(図3)。
この技術により,複数チャンネルの受信コイルを用いた高速撮像法である“RAPID”で得られた画像に対して,繰り返し演算を適用し,画質を維持しながらノイズなどのアーチファクトを効果的に低減することができる。すなわち,parallel imaging高速化の課題を改善する技術であると言える。
本技術はparallel imaging手法が基本であるため,2D,3D撮像やDWIなどの多くの撮像シーケンスに適用できるというメリットがある。また,専用の高速画像処理演算ハードウエアの搭載により,画像再構成時間も高速化しており,前述の静音化シーケンスにも併用できる。さらに,すべての撮像部位,すべてのRAPID受信コイルに利用できることも特徴として挙げられる。
撮像時間を維持しながら空間分解能の向上や,スライス枚数の増加に対しても利用でき,DWIシーケンスの場合はエコーファクタの低減により,SNRを維持しながら画像歪みを改善することもできる。まさに,ルーチン検査に応用できる撮像時間短縮技術である(図4)。

図3 高速化ソリューションIP-RAPID

図3 高速化ソリューションIP-RAPID

 

図4 IP-RAPIDの効果例

図4 IP-RAPIDの効果例

 

●オペレータの操作を簡略化する“AutoExam”

AutoExam(図5)は,撮像の条件設定や撮像位置決め(AutoPose),画像処理(AutoAnalysis,AutoClip),画像表示,画像保存の機能をまとめて登録することにより高度な自動化を実現し,ワンクリックによる頭部検査実施を可能とする機能である。
新機能の“AutoClip”は,頭部MRAのクリッピング画像を画像処理により自動で作成する機能である。この機能は,特徴量に基づいて脳領域を3D画像から識別抽出することで不要部分のクリッピング処理を実施し,従来はオペレータの大きな手間となっていた画像処理操作を自動化処理により不要とする。

図5 AutoExamによる検査簡略化

図5 AutoExamによる検査簡略化

 

●画像例

図6に,ECHELON Smart Plusの画像例を示す。
基本シーケンスはもちろん,DIXON法“FatSep”やマルチエコー加算“ADAGE”,3D-T1強調脂肪抑制機能“TIGRE”,アイソボクセル高速3D撮像“isoFSE”,バンドアーチファクト低減完全バランス型シーケンス“PBSG”など多彩なシーケンスをそろえており,頭部,体幹部,四肢関節といった全身の検査に対応して高画質を提供することができる。

図6 ECHELON Smart Plusの画像例

図6 ECHELON Smart Plusの画像例

 

●問い合わせ先
株式会社日立製作所
ヘルスケアビジネスユニット
〒110-0015
東京都台東区東上野2-16-1
上野イーストタワー
http://www.hitachi.co.jp/healthcare

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