Philips INNOVATION and VALUE(フィリップス・ジャパン)
2025年6月号
MR SmartSpeed Symposium
Dual AI engineで高速化と高画質化のさらなる高みを追求するAll-in-Oneの高速撮像技術「SmartSpeed Precise」
株式会社フィリップス・ジャパンは2025年4月11日(金),同日より販売を開始した新しい高速撮像技術「SmartSpeed Precise」の発表イベント「SmartSpeed Symposium次世代SmartSpeedがもたらす革新と将来展望」をTKPガーデンシティPREMIUMみなとみらい(神奈川県横浜市)で開催した。シンポジウムでは技術紹介に加え,3名のスピーカーによりNeuro,Neuro/Spine,Bodyの領域における初期使用経験が報告された。
市場をリードしてきたフィリップスの高速化技術
1999年にイメージベースのパラレルイメージング「SENSE」を開発したフィリップスは,25年以上にわたりMRIの高速化をリードしてきた。2017年にはSENSEと圧縮センシングの統合(ONE-GO)により大幅な撮像時間短縮を可能にする「Compressed SENSE」をリリース,これにAI技術を統合することで高画質と高速化をさらに進化させた「SmartSpeed」を2022年に発表した。SmartSpeedは全世界で1280システム,日本国内で279システムが導入され(2025年3月27日現在),MRI検査に新たな価値を提供している。そして今回発表したのが,SmartSpeedに新たなAI再構成エンジンをシームレスに統合した「Dual AI engine」による次世代高速撮像技術「SmartSpeed Precise」である。
Dual AI engineでさらなる高速化と高画質化を同時に追求
シンポジウムでは,SmartSpeed Preciseのコンセプトや原理について,MRクリニカルサイエンティストの小原 真氏が発表した。Smart Speed Preciseのコンセプトは,イメージングチェーンすべてをDual AI engineで有機的に統合したAll-in-Oneデザインにより,高速化に加えて,さらに一段階上の高画質化との両立を図ることである。フィリップスが提供する「SmartSpeed AI」は,SENSEによる折り返しの展開とDeep Learning「Adaptive-CS-Net」によるスパース変換とデノイズを,1つの逐次再構成ループの中に組み込んだONE-GO Physics-Driven AIである。折り返しの展開と除去を効果的に行うことでg-factorノイズの増幅を抑制し,高いSNRを維持したまま高速化を達成する。SmartSpeed Preciseは,ここにリンギングアーチファクトの除去と高精細(超解像)化を学習したAI「Precise Image Net」を組み込んだDual AI engineプラットフォームである。データサンプリング,AI学習,2つのAI機能のバランス設計など,Dual AIに基づきすべてを一から最適化することで,パフォーマンスの最大化を図っている。結果,パラレルイメージングと比べて撮像時間を67%短縮*1し,80%以上の高精細化*2を実現する。
*1 パラレルイメージング(SENSE)と比較した場合
*2 パラレルイメージング(SENSE,C-SENSE)と比較した場合
■SmartSpeed Preciseの臨床画像〔画像提供:(株)フィリップス・ジャパン〕

読影負荷を軽減しアウトカムを改善するSmartSpeed Precise
シンポジウム冒頭に,MRビジネスマーケティングマネージャーの奥秋知幸氏と Royal PhilipsでMRのBU Leaderを務めるIoannis Panagiotelis氏が
挨拶した。Panagiotelis氏は,「医療ニーズが増大し,医療従事者が不足する中においても,SmartSpeed PreciseなどのAIやITを実装していくことで,医療従事者の負荷を増やすことなく患者アウトカムを改善することができる」と述べ,イノベーションで医療課題を解決していくというフィリップスのビジョンを改めて示した。

Ioannis Panagiotelis氏
(Royal Philips)
【Neuro】
臨床からの報告では,1題目に北海道大学病院の藤間憲幸氏がNeuro領域での経験を報告した。藤間氏は,Dual AIと聞くと人工的な画質やハルシネーションが心配されるかもしれないが,SmartSpeed Preciseでは自然な質感で,筋肉の間の脂肪や血管のフローボイドも明瞭に見えると述べ,その理由として,(1) SmartSpeed AIにより解剖学的構造の信号をしっかり残しつつデノイズしていること,(2) 高精度なデノイズ画像を基にすることで超解像処理の効果が高まることを挙げた。そして,眼窩内リンパ腫,下垂体腺腫,転移性脳腫瘍,多系統萎縮症などの画像を提示し,SmartSpeed Preciseでは病変のエッジや内部性状をクリアに観察でき,病変の詳細な評価が可能で,これまで見えなかったような所見も確認できるようになる可能性があると述べた。また,分解能を70%程度に落としても,超解像により従来よりも空間分解能が向上した画像を得られるとして,撮像時間短縮にも利用できることを紹介した。
さらに,single-shotの併用による超高速化についても述べ,ハーフスキャン併用でもSmartSpeed Preciseを適用することで,ボケのない高精細な画像を得られるとし,例えば7秒で撮像したT2WIも100秒程度で撮像した画像と同等の高画質を得られることを紹介した。
【Neuro/Spine】
2題目として千葉大学の横田 元氏がNeuro/Spine領域での経験を報告し,SmartSpeed Preciseの超解像画像の有用性について紹介した。てんかん原性病変の一つである海馬硬化症では,海馬の信号上昇や萎縮,内部層構造の不明瞭化を評価するが,海馬は皮質と白質がロール状に巻かれた複雑な構造をしており,障害されている位置の評価も重要なため,読影では精細な画像が必要となる。横田氏はSmartSpeed Preciseの画像を示し,超解像画像ではノイズが抑制され,海馬の構造を明瞭に視認できることを説明した。また,glymphatic system機能の低下を示している可能性がある血管周囲腔の拡張についても,SmartSpeed Preciseの超解像画像では,線状構造が明瞭に描出され評価しやすいと述べた。ほかにも,血管芽腫では微小なフローボイドを検出できることや,脳表ヘモジデリン沈着症では灰白質と白質が明瞭化し感度が向上すること,硬膜外血腫における硬膜の明瞭な認識,四肢末梢神経のアキシャル画像ではfascicleのつぶつぶ感を認識しやすく神経の同定に有用であることなどを解説し,超解像画像では微細な構造や病変を一目で認識,診断でき,臨床に非常に役立つと述べた。
【Body】
最後に浜松医科大学の尾崎公美氏がBody領域の初期経験を紹介した。尾崎氏は,上腹部MRIで最も検査数が多い膵囊胞性病変を取り上げ,精査や経過観察における有用性を報告した。膵囊胞性病変のルーチンプロトコールでは5mmでの撮像となっているが,最新のガイドラインでは5mm以下の結節の評価が求められている。そこで同院では,フィリップスの「MR 7700」導入を機に2mmでの撮像を追加し,thin sliceによるSNR低下に対してSmartSpeed Preciseを適用することで超解像化を試みた。尾崎氏は,2mm+SmartSpeed Preciseの画像は主膵管全体だけでなく,膵囊胞性病変の内部(隔壁,多房性,壁肥厚)や主膵管との連続性の有無を明瞭に視認できることを臨床画像で示し,日常的に多くの膵囊胞性病変の精査や経過観察を行う中で,非常に有用な活用法であると述べた。また,5mm以下の小囊胞性病変の検出率や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)壁在結節の検出率も向上し,シーケンスを追加することなくより正確な画像診断が可能であると述べた。尾崎氏は,胆囊病変の評価における有用性についても触れ,SmartSpeed Preciseは上腹部において日常診療の診断向上に直結する有用な画像を提供してくれると使用所感を報告した。

最後に,プレシジョンダイアグノシス事業部事業部長の門原 寛氏が閉会挨拶に立ち,「SENSEが登場して26年となる今年,新たにSmartSpeed Preciseを発表した。国内で約800システム(2025年4月現在)が導入されているCompressed SENSEとあわせて活用し,臨床に役立てていただきたい。フィリップスはこれからも,フィードバックを基に高速化技術をますます発展させていく」と述べ,シンポジウムを締めくくった。