◆インタビュー◆ ロボットと人・社会の未来 
石黒  浩 さん   
ロボットで高齢者施設を“生きがいが見つかる場所”に 
コミュニケーションロボットが高齢者から言葉を引き出す

2019-8-21


石黒  浩 さん

最先端のロボット研究で世界から注目されている石黒 浩さん。石黒さんは、人間にそっくりなアンドロイドや自分自身と瓜二つのジェミノイドの開発で広く知られていますが、高齢者支援にも活用できる対話ロボット「CommU(コミュー)」や遠隔操作型ロボット「テレノイド」など、多彩なロボットの研究・開発に取り組んでいます。高齢者支援におけるロボット活用、そして、ロボットと人、社会がかかわる未来についてお話をうかがいました。

「人間とは何か」を考えロボット研究に取り組む

石黒さん:僕はもともと、ロボットに興味があったわけではありません。大学で学んだコンピュータビジョン(画像認識)の研究を経て、ロボット研究に取り組み始めましたが、僕の根本的な興味は「人間とは何か」ということです。人間そっくりのアンドロイドも人間を理解するために開発したもので、多くのロボット研究プロジェクトの中の一つです。
さまざまなロボットのうち、高齢者支援での活用が期待できるのがコミュニケーションのためのロボットです。僕らが開発したテレノイドをはじめ、コミュニケーションロボットはすでに、高齢者施設に導入されています。

高齢者支援のためのコミュニケーションロボット

石黒さん:遠隔操作型のテレノイドは、国内外の高齢者施設での実験を通して、大きな効果があると実感しています。人間と認識できる必要最小限の見た目と動きを持つため、最初は怖いと思われることもありますが、実際にはすぐに慣れます。実験ではほとんどの対象者が抵抗感なく受け入れ、介護スタッフが操作するテレノイドとの対話を楽しみました。アンケートでは、自分の子どもと話すよりもテレノイドと話したいという回答の方が多かったのです。ロボットとの対話を楽しむことが、認知症予防にもつながると期待されます。また、抑うつ状態でふさぎ込んでいたり、普段は人と話せなかったりする認知症の方でも、テレノイド相手だと、愛着を示し、積極的に話しかける姿も見られ、その様子はテレビなどでも多く紹介されています。
CommUは、音声認識の機能を持ったコミュニケーションロボットです。複数のCommU同士が連携して対話し、そこに人間が参加することで、参加者は“会話をしている”と感じることができます。これまでは、音声認識の精度の問題で会話が途切れることがありましたが、音声認識を失敗してもあいまいに答えて、参加者に質問を続けることで会話が破綻しないマルチロボット対話制御システムを開発し、NTTドコモと高齢者向けに共同研究を行っています。
ロボットを活用した高齢者のコミュニケーション支援は、認知機能の維持や改善が期待でき、ひいてはADLの維持・向上にもつながります。

介護現場へのロボット普及にはマーケットの確立が必要

石黒さん:僕らの実験に参加してくれた高齢者は非常に喜んでくれますし、スタッフも欲しいと言ってくれます。しかし、介護の現場というのは予算的に余裕がないため、なかなか導入に至らないのが実情です。補助金など国からの支援があっても、ずっと続けるわけにはいかないため、ロボットを開発・普及させるためには本物のマーケットが生まれる必要があります。そのためには、企業がビジネスチャンスととらえて投資するか、一般に広く使われるようなロボットを開発してから介護現場に導入していくか、いずれかの方法になるかと思いますが、後者の方が可能性は高いと考えています。
介護分野へのロボット普及には課題もありますが、高齢者支援におけるロボットの可能性を理解し、支援してくれる自治体も出てきています。宮城県は、実証実験への協力や、テレノイド導入に対する補助など、積極的に支援してくれており、自分たちのところから新しい取り組みを広げていこうとしています。

ロボットの助けを借りて誰もが生きがいを持てる未来

石黒さん:パソコンやスマートフォン、ロボットにより世の中は大きく変わりました。これらの道具を使うためには、今はまだ、人間が使い方を覚えて命令しなくてはなりませんが、コンピュータやロボットがもっと進化して、人間に気を利かせて動くようになれば、誰もがそれぞれの能力を発揮できるようになります。ロボットが人間の代わりに働くというよりも、人間がロボットを使って働きやすくなる未来が来ると思っています。
そんな未来がいつ来るかは、スマートフォンがこれほど急速に普及して人々の生活を変えるとは誰も予想していなかったように、はっきりとは言えません。
3年後かもしれないし、30年後かもしれない。来るべき未来に向けて、いろいろなことに興味を持ち、新しいことにチャレンジする気持ちを持つことは大切です。
高齢者施設においても、ロボットの助けを借りることで、自分ひとりでできなくなったことをできるようになる、社会的な役割を果たせるようになることで、生きがいを持って過ごせることが理想です。ロボットによって引き出された能力を生かして、施設にいながら起業したっていい。もっといろいろな人が高齢者施設にいていいはずです。今は、高齢者施設が最期の場所のようになっていますが、ロボットを活用することで、もう一度社会貢献ができる場所、あるいは生きがいが見つかる場所になるといいですね。

(2018年8月20日取材)

*テレノイド:人間のミニマルデザインをめざした遠隔操作型アンドロイド。男性にも女性にも、大人にも子どもにも見えるデザインにより、遠隔で話している相手など、任意の人を想像し、その人が目の前にいるように感じながら話すことができる

*テレノイド:人間のミニマルデザインをめざした遠隔操作型アンドロイド。男性にも女性にも、大人にも子どもにも見えるデザインにより、遠隔で話している相手など、任意の人を想像し、その人が目の前にいるように感じながら話すことができる

 

*CommU(コミュー):カメラ、マイク、スピーカーを搭載し、音声認識でコミュニケーションを行う、卓上型の社会的対話ロボット。ネットワークを利用した遠隔操作も可能

*CommU(コミュー):カメラ、マイク、スピーカーを搭載し、音声認識でコミュニケーションを行う、卓上型の社会的対話ロボット。ネットワークを利用した遠隔操作も可能

 

 

石黒  浩 さん[大阪大学 大学院 基礎工学研究科 教授(栄誉教授)ATR 石黒浩特別研究所 客員所長(ATRフェロー)科学技術振興機構 ERATO 石黒共生HRIプロジェクト研究総括] 
1991年大阪大学基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。2009年より大阪大学基礎工学研究科教授。(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。科学技術振興機構ERATO 石黒共生HRIプロジェクト研究総括。2015年に文部科学大臣表彰、およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞を受賞。近著に『アンドロイドは人間になれるか』(文春新書)。


(ケアビジョン Vol.1(2018年10月7日発行)より転載)
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