訪問看護システム編

◆連載◆ 教えて! ICT&ロボットのギモン <第15回> 
【訪問看護システム編(5)】 

Q 訪問看護でのデータ蓄積・分析のポイントは?

2020-3-18


Q 訪問看護でのデータ蓄積・分析のポイントは?

回答者・東京医療保健大学医療情報学科 瀬戸僚馬先生

A 粒度変換が可能な標準化された訪問看護メニューが必要です。

データの蓄積・分析は、急性期医療が経験豊富
●訪問看護の領域は“見える化”には積極的
●標準化では粒度にも着目しよう! 〜エビシューマイは点心か? 海鮮料理か?〜

詳しく解説!

訪問看護事業所における記録の電子化が急速に進む中、これらのシステムを通じたデータ分析、そして訪問看護領域の見える化に対する期待も高まっています。今回は、このデータ分析をどのように進めるかについてお話します。

●データの蓄積・分析は、急性期医療が経験豊富

データの蓄積・分析においては、急性期医療が豊富な経験を有しています。急性期医療を見える化するデータ蓄積・分析の手段としては、2003年に診断群分類(DPC:Diagnosis Procedure Combination)と、これに基づく包括支払い制度(PDPS:Per Diem Payment System)が導入されてからだいぶ時間が経ちました。今では、DPCの影響評価に関する調査の結果は厚生労働省のWebサイトで公表されていますし、そのデータを基に患者・市民向けの情報提供サイトを再構築する民間の取り組みも複数あります。これは、診療報酬の出来高データ(EFファイル)でプロセスを切り取りつつ、そこではカバーできない患者状態を様式1などのデータとして蓄積するという仕組みです。他方、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB:National Database)は、診療報酬のデータが中心になりますが、DPCと異なり地域ごとにデータが集計されるという特徴があります。また、一般社団法人National Clinical Databaseが運営する手術に関するデータベースのように、関心事項を絞って詳細なデータを蓄積するという手法もあります。
いずれにせよ、データの蓄積は、現場にも集約する機関にも膨大な負荷が生じるので、できるだけ負担を少なくするように目的に合わせた各種データベース設計が行われています。そこでは、すでに標準化されている診療報酬のデータを生かしつつも、それだけで表現できないものに、どこまで手間をかけてデータを蓄積するかが大きな論点となってきました。このようなデータベース整備に20年近い経験を持つ急性期医療と比べると、訪問看護領域におけるデータ蓄積や分析は、いまだ黎明期といえます。

●訪問看護の領域は“見える化”には積極的

もっとも、訪問看護領域の専門団体は、こうしたデータの蓄積にはかなり積極的です。一般社団法人全国訪問看護事業協会が平成30年度老人保健健康増進等事業「介護保険サービス提供主体におけるICTを活用したサービスの質向上のための調査研究事業」の成果物として作成した「訪問看護ステーションにおける事業所自己評価のガイドライン第2版」には、利用者の状況、地域への取り組みの状況、多機能化への取り組み状況などについて、ストラクチャー・プロセス・アウトカムを自己評価するための指標が掲げられています。
また、公益財団法人日本訪問看護財団も、積極的に独自調査を行い、訪問看護の可視化を進めています。平成28年度「訪問看護ステーションにおける介護予防訪問看護の実態調査報告書」を例に挙げると、その中の一つには介護予防訪問看護の利用者の約5%は「人工肛門・人工膀胱の管理」を必要としている、などのかなり詳細なデータも蓄積されています。これらの専門団体のような積極性があれば、近い将来、訪問看護の見える化は、行いやすいものになっていくでしょう。
ちなみに、データ蓄積の技術的基盤も徐々に整理されています。例えば電子カルテシステムなどに実装することを前提に設計された「看護実践用語標準マスター」(2016年に厚生労働省標準規格に認定)には、「高度専門看護実践標準用語 在宅領域」という用語体系が実装されており、そこには「住宅調査」のような在宅医療向けの用語がすでに整備されています。こうした標準規格を使って訪問看護事業所の記録データを蓄積することで、上記のような調査事業へのデータ提出も円滑になるものと考えます。

●データの標準化では粒度にも着目しよう! 〜エビシューマイは点心か? 海鮮料理か?〜

ただし、指標としてのデータと、業務計画やその記録としてのデータには、粒度の差があります。粒度について、料理のメニューを例に説明します。例えば、何を食べているかを集計する際には、「中華料理」や「点心」など粗めの表現を用いる必要があります。これに対し、実際に調理をする際には「エビシューマイ」のような細かい表現が必要です。これを文字だけで機械的に分類すると、エビシューマイは、エビチリ(エビのチリソース炒め)と同じく海鮮料理の分類に入ってしまいます。そこで焼売だから点心だと定義するためには、中華料理/点心/焼売/エビシューマイという粒度の変換を可能とするようなメニューが必要になります。
訪問看護の領域でも、このあたりの粒度変換は可能になりつつあります。現在、「指標」など粒度が粗めのもの〈中華料理〉は専門団体の調査などで提案されており、逆に最も粒度が細かい存在として標準マスター〈エビシューマイ〉も存在します。もちろん、粒度が最も細かい標準マスターにも粒度変換の機能はありますが、これはメニューというよりは中華料理の百科事典に近いものです。いくら説明が細かくても、メニューの代わりに百科事典を置く店はないでしょう。訪問看護のデータ分析を円滑にするには、こうした粒度変換を実現できる標準的なメニューが必要です。
幸い、こうしたメニューの標準化も進みつつあります。かつて筆者が委員長を務めた、平成30年度老人保健事業推進費等補助金「訪問看護の情報標準化のための『訪問看護記録書(Ⅱ)』の記録・共有のあり方に関する調査研究」でも、こうしたデータ蓄積を可能にする観点から記録様式を検討しました。訪問看護の場合、記録書の様式が標準化されれば、それが粒度変換を可能にするメニューとしての位置づけを持ちます。ここでの粒度は〈点心〉から〈焼売〉ぐらいなので、さらに細かい表現をしたければ、自主的に標準マスターを使って〈エビシューマイ〉と表現すればいいのです。
現在、厚生労働省は「介護事業所におけるICTを通じた情報連携推進事業」を行っています。訪問看護事業所は、医療保険と介護保険をどちらも取り扱うことが一般的なので、介護事業所という位置づけもあります。この介護事業所は、病院などの医療施設との連携が不可欠であり、そこにICTを使う議論が急速に進んでいます。こうした様式の整備は、メニューを標準化する上で非常に大きな役割を果たします。
これからICT化を検討している訪問看護ステーションは、これらの事業動向をウォッチしつつ、標準化されたメニューが実装されたシステムを導入していくことをお勧めします。

●参考URL

1)全国訪問看護事業協会
訪問看護ステーションにおける事業所自己評価のガイドライン第2版
https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/h30-1-guide.pdf

2)日本訪問看護財団
平成28年度「訪問看護ステーションにおける介護予防訪問看護の実態調査報告書」
https://www.jvnf.or.jp/home/wp-content/uploads/2016/04/b169365418cac47967863f093e3c800a-1.pdf

3)医療情報システム開発センター
看護実践用語標準マスターの概要<看護行為編>
http://www2.medis.or.jp/master/kango/koui/gaiyo.pdf

4)首相官邸
未来投資会議構造改革徹底推進会合(健康・医療・介護)資料(平成31年4月22日)
介護分野のICT化、業務効率化の推進について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/health/dai6/siryou4.pdf

 

*今回教えてくれたのは*
瀬戸 僚馬(せと りょうま) 東京医療保健大学 医療保健学部 医療情報学科、大学情報マネジメント室
2001年国際医療福祉大学保健学部卒業。津久井赤十字病院(現・相模原赤十字病院)にて臨床、杏林大学医学部付属病院にて情報システム担当の後、2009年に東京医療保健大学に赴任。現在、同大学医療保健学部医療情報学科准教授、大学情報マネジメント室室長補佐。博士(医療福祉経営学)。2012年に第13回日本医療情報学会看護学術大会長、2018年に日本医療マネジメント学会東京支部学術集会長を歴任。2016年から日本医療情報学会看護部会病棟デバイスワーキンググループ長、2017年から一般財団法人医療情報システム開発センターにて看護実践用語標準マスター普及推進作業班主査。

*「教えて! ICT&ロボットのギモン」とは?*
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