訪問看護システム編

◆連載◆ 教えて! ICT&ロボットのギモン <第24回> 
【訪問看護システム編(番外編)】 

訪問看護にICTを導入する上でのハードルをどう超えるか
~第10回日本在宅看護学会学術集会交流集会での議論から~

2021-3-1

訪問看護システム編


東京医療保健大学医療情報学科 瀬戸僚馬先生

訪問看護事業所において急速にICT導入が進んでいることは、本連載でもしばしば取り上げてきました。それでも、今なお紙媒体による記録を中心としている事業所の方が多いのが実態です。その背景にはさまざまなハードルがありますが、財務的なものについては各種補助金があるため*1、むしろ人材やノウハウが課題ともいえます。
この点について、筆者らは2020年11月14、15日にオンラインで開催された第10回日本在宅看護学会学術集会の交流集会「病院、施設、在宅を繋ぐ情報共有基盤の構築~地域包括ケアシステムにおける標準的なデータセットの構築に向けて~」(14日)を通じて、関係者と議論する機会がありました。この交流集会は筆者と小林美亜氏(静岡大学)が座長を務め、佐野けさ美氏(日本在宅看護学会理事、東京大学)、光城元博氏〔保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)〕、岡峯栄子氏〔医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)〕、大竹尊典氏(厚生労働省老健局老人保健課)が、それぞれの課題や取り組みなどを発表しました。このディスカッションでICT導入のハードルとして挙がってきたのは主に2点です。

■ICTを活用するための人材をどう確保するか

まず、記録のためのICTシステムを導入し、その後に使い続けていくにも、それを支える人材がいないという意見がありました。このヒトの問題は、病院併設の事業所であれば医療情報技師*2など専門人材がいる場合もありますが、小規模な事業所ほど深刻です。他方、デジタルネイティブ世代(子どものころからインターネットに触れてきた、おおむね30代半ばより若い世代)が管理者を務める事業所も増え、小規模であるからこそICTに取り組みやすい事例も散見されます。こうなると訪問看護事業所では、ここ数年でICT化の有無がはっきりと分かれていくでしょう。
さて、人材難の事業所ができることの一つは、アウトソーシングです。情報システムの管理には、「サーバの管理」「タブレット端末の管理」「ネットワークの管理」など段階がいくつもあります。病院の場合は前述の医療情報技師などがこれら情報資産を管理できますが、訪問看護事業所にはハードルが高いといえます。もっとも、多くの訪問看護記録システムはクラウド型なのでサーバ管理は不要なことが多いです。タブレット端末の管理は、自ら行えば複数のアプリケーションを同居させたり、費用を抑えることが可能になります。その反面、通信環境は別に考える必要があるし、トラブル対処も自ら行わなければなりません。他方で、「携帯電話用の通信網を経由してネットワークに接続された端末」の貸し出しを受ける場合は手間も減りますが、もちろん若干のコストが生じることは事実です。
この点では、病院の電子カルテシステム普及の歴史が参考になります。わが国に電子カルテが普及してきた約20年の歴史の中で、人材面も財務面も比較的整った病院では独自路線を歩む病院も多いですが、リソースが少ない病院ほど「既製服」を着るようにパッケージ化されたシステム運用が定着しつつあります。この点は訪問看護も同じなので、人材難を感じる事業所では、ぜひ表面的な価格に振り回されるのではなく、「既製服」としての利点を生かしたシステム管理の負担軽減をお勧めします。

■標準化された用語はどこまで導入すべきか

もう一点のハードルは、標準化です。これはデータを蓄積したり、地域連携を進める上で重要なことという理解は広まってきました。他方で、「標準化された看護用語」は今使っている用語と必ずしも一致しなかったり、使い勝手の悪さを感じることもあるという趣旨の意見もありました。
確かに、地域医療連携においてはある程度の共通言語は必要で、この交流集会でもMEDIS-DCの岡峯氏から紹介があった「回復期等移行チェックリスト」*3では看護実践用語標準マスターをひもづけているなど、標準化用語を実装した取り組みが進んでいるのは事実です。
ただし、当初は病院の電子カルテで用いることを主眼に開発された経緯から、同マスターの用語はきわめて精緻(せいち)という特徴があります。このため、特に看護師などの医療職と介護職が協働する場である在宅では、用語が堅すぎて使いにくいとの意見もみられます。この点は徐々に改善されており、例えば2020年のマスター改訂でも便量に「バナナ大」という用語が追加されるなど、ややカジュアルな用語でも通用性が高いものは収載が進んでいます。看護実践用語マスターはマスターを使っている施設(もちろん訪問看護事業所も含まれる)が要望を出すことはできるので、多くの訪問看護事業所が実装することで意見も増え、さらに使いやすいものになっていくと予想します。
よって、看護用語の標準化は今すぐに着手すべき案件とまではいえませんが、頭の片隅にはおいておくことが望ましいと考えます。その上で、記録システムなどの新規導入や更新などのタイミングを図って、実装を検討していくことが現実的な対応でしょう。

筆者としては、より多くの訪問看護事業所がICT化を実現できることを願っています。こうした学会を通じた交流に限らず、ハードルを感じたことがあればお寄せいただければ幸甚です。

*1 経済産業省の令和元年度補正予算「サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金」により、訪問看護事業所も活用できる「サービス等生産性向上IT導入支援事業」が実施されていた。なお、2020年度の申請はすでに終了している。
https://www.it-hojo.jp/

*2 日本医療情報学会が医学医療、情報処理技術、医療情報システムに関する一定の知識を持つ人材を認定する事業を行っており、医療従事者にもシステムエンジニアにも認定者がいる。
一般社団法人日本医療情報学会 上級医療情報技師能力検定試験 勤務先別合格者(試験統計)
https://www.jami.jp/jadite/new/toukei/first/first-19kinm.html

*3 厚生労働科学研究「地域医療体制班」とMEDIS-DCが合同で開発している、病院から訪問看護ステーションを含む各種施設にADLなどの情報を提供するため書式。電子カルテに蓄積された項目を用いて機械的に出力することで帳票作成の負担を軽減し、地域連携を円滑に行うことをめざしている。
http://www2.medis.or.jp/master/kango/checklist.html

 

*今回教えてくれたのは*
瀬戸 僚馬(せと りょうま) 東京医療保健大学 医療保健学部 医療情報学科、大学情報マネジメント室
2001年国際医療福祉大学保健学部卒業。津久井赤十字病院(現・相模原赤十字病院)にて臨床、杏林大学医学部付属病院にて情報システム担当の後、2009年に東京医療保健大学に赴任。現在、同大学医療保健学部医療情報学科教授、大学情報マネジメント室室長補佐。博士(医療福祉経営学)。2012年に第13回日本医療情報学会看護学術大会長、2018年に日本医療マネジメント学会東京支部学術集会長を歴任。2016年から日本医療情報学会看護部会病棟デバイスワーキンググループ長、2017年から一般財団法人医療情報システム開発センターにて看護実践用語標準マスター普及推進作業班主査。

*「教えて! ICT&ロボットのギモン」とは?*
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