画像診断レポートの見落としの要因とその対策
松村 泰志(大阪大学大学院 医学系研究科 医療情報学)

2020-7-1


画像診断レポートの見落としを防げ!

はじめに

画像診断レポートの見落としにより,診断が遅れ,治療の機会を失った事例がいくつも報告されている。多くが,がんの初期所見を見落とし,気づいた時には進行がんとなっていた事例である。厚生労働省医政局総務課医療安全推進室では,事務連絡「画像診断報告書等の確認不足に関する医療安全対策について」〔2017(平成29)年11月10日〕と「画像診断報告書等の確認不足に関する医療安全対策について(再周知のお願い)」〔2018(平成30)年6月14日)で繰り返し注意喚起し,報道でもこの問題が大きく取り上げられた。
過去には,こうした問題が浮上していなかったことから,病院情報システムの導入によって惹起される問題ととらえられた。フィルムの時代では,撮影後フィルムとレポートが同時に主治医に届いていたが,PACSの導入により,撮影後すぐに主治医は画像を閲覧し,関心のある部分を確認して医療的判断を下し,その後に画像診断医が作成したレポートが届く流れとなり,画像レポートを見落とししやすい状況となる。しかし,繰り返し注意喚起がされ,医師は注意を払っていると思われるにもかかわらず,事例は繰り返し発生している。その原因を調べていくと,ほかにもさまざまな要因があり,防止対策は簡単ではないことが認識された。おそらく過去にも同様のことは起こっていたが,紙の診療録では過去のレポートが探しにくいために,この問題が発覚しなかった可能性もある。この問題への抜本的な対策には,システムを利用した組織的な対応が必要と考えられるようになった。
筆者らは,厚生労働科学研究費補助金を受け「医療安全に資する病院情報システムの機能を普及させるための施策に関する研究」を実施していたが,画像診断レポートの見落とし問題が大きく取り上げられるようになったことから,厚生労働省から,2018(平成30)年度はこの問題を検討するよう依頼があり,集中的に検討して報告書にまとめた。その内容は,医療安全推進室の事務連絡「画像診断報告書等の確認不足に対する医療安全対策の取組について」〔2019(令和元)年12月11日〕にまとめられ,研究班の報告書が別添資料とされた。本稿では,この報告書を要約して紹介する。

画像診断レポート見落としの要因

主治医は,疑っている疾患の有無を確認するため,あるいは治療対象疾患の経過を評価するためなど,目的があって画像検査をオーダする。PACSの導入により,画像が撮られるとすぐに主治医は画像を閲覧することができる。一方,画像診断レポートは,撮影後,画像診断医によって作成されるので,少し遅れて閲覧可能となる。主治医は専門とする臓器の画像を評価することができるため,撮られた画像を直接見て目的を達成することになる。しかし,その画像には,主治医の関心領域以外にがんの初期像が映し出されていることがあり,画像診断医は,その所見を含めてレポートを作成するが,主治医は,遅れて到着するレポートの確認を忘れてしまう(見たと勘違いしてしまう)ことがある。
別の事例では,オーダ医と対応すべき医師が異なり(例えば入院主治医と外来主治医,救急外来対応医と入院主治医,外来主治医の異動時など),画像検査が実施されたことや,レポートが未確認であることに交代した医師が気づかないで,画像診断レポートが未確認のまま放置されてしまう。
オーダ医がレポートを確認する際にも見落としが生じうる。検査目的である特定の臓器の所見は確認するが,それ以外の所見を注意深く読まないことがある。また,レポートに多くの情報が記載されており,その中に重要所見が埋没し気づくことが難しい場合もある。さらに,専門的略語が使用され,オーダ医に異常所見であることが伝わらなかった事例の報告もあった。このほか,画像レポートを見て,がんの初期が疑われる所見があることを認識していながら,それについて追加の検査,専門科への紹介などの対応をし忘れてしまった事例もある。

画像診断レポート見落とし防止の基本的対策

画像診断レポート見落としを防止するために,以下の4段階の対策を1段目から実施することが勧められる。

(1)教育:主治医の立場になる医師に,画像診断レポートを確認することの必要性について教育し,認識させる。また,レポートを見た時に,その要約を経過記録に記載し,患者に説明した内容も経過記録に記載するのが,診療録記載上の基本的ルールであることを教育する。

(2)レポートの存在を気づかせる:現実の医療では,急性疾患の対応に集中していたり,他の重症度の高い患者の対応を並行して行っているなど,医師は余裕のない状況に置かれることがしばしばあり,医師への注意喚起だけで問題は解決しない。第2段目の対策として,システムにより,主治医に未読レポートの存在に気づかせる方法が有効である。余裕のない状況にある医師が,遅れて到着する画像診断レポートを自発的に確認することは難しいが,この機能があると,レポートの見落としの重大さを理解する医師であればレポートを確認する。画像診断医の協力が得られ,重要所見を含むレポートに印が付けられると,重要所見の見落としはさらに起こりにくくなる。また,レポート中の重要所見がわかりやすく表現されることで,忙しい状況下にある医師でも,指摘された所見を見逃してしまうことなく,正しくとらえて対応することができる。

(3)第三者による未読監査:こうした対応をとっても,現実にはレポートの確認漏れが生じる。大阪大学医学部附属病院(阪大病院)の調査では,予期せぬ重要所見を含むレポートの数は500件に1件の割合であった。つまり,500件のうち499件は,見落としたとしても重大な事態には発展しない。この頻度が油断させる要因でもある。第3段目の対策として,未読レポートを第三者が監視し,医師に対して未読のまま放置しないよう指導する。この対策をとるためには,未読レポートをリストアップするシステムの機能が必要となる。

(4)第三者による対応の確認:未読監査は有効であるように見えるが,レポートの全記載内容を注意して読まずにレポートを見たことにする行動があると,労力をかけて監査をする意味がなくなる。第4段目の対策は,画像診断医が重要所見を含むレポートに印を付け,第三者が,その患者に対し適切な診療がされているかを,診療録を見て確認する監査の実施である。この対策であれば,主治医が重要な所見を含むレポートを見ていなくても,あるいは,見ているが追加検査などの適切な診療をし忘れていることがあったとしても,重大な事態への展開を未然に防ぐことができる。

こうした医師に向けた対策に加え,患者に対して,検査を受けた場合にその内容を主治医から聞くように,検査前に患者に渡す説明文書に記載し促している医療機関があり,有効な対策と思われる。また,診断レポートのうち,診断部分を患者に渡す運用をしている医療機関もある。

画像診断レポートの見落とし防止対策システム

画像レポート見落としは,システムを利用して組織的に対策を取るべき対象である。研究班では,多くの病院の担当者から,対策システムに求める機能を収集したところ,対策にはいくつかのバリエーションがあり,それぞれ長所,短所があることがわかった。また,対策のためにどこかの部署に負担がかかり,その負担に耐えられるポイントが医療機関により異なることもわかった。研究班では,こうしたバリエーションを排除して,最適と思える対策案を示すのではなく,バリエーションがあることを認め,それを整理することに努めた。
対策システムの機能として,以下のものが挙げられた。

(1)レポートの存在を知らせる機能。主治医が画像診断レポートを探そうとしなくても,レポートの存在に気づく仕組みが必要である。主治医は経過記録を頻回に見るので,経過記録にレポート作成時にレポートがあることがわかるように表示し,そこからレポートを表示するなどの機能があると,基本的にレポートを見落としにくくなる。このような機能がない場合でも,診療内容の全体を表示する画面があり,この画面が頻度高く閲覧されるのであれば,この画面上で画像検査の実施およびレポートの有無が表示されるとよい。また,画像と画像診断レポートがセットで表示され,画像があっても画像診断レポートが未作成状態であることをすぐに把握できる機能が必要である。

(2)画像診断医が,読影時に重要所見を含むレポートを見つけた場合に,このレポートにフラグを立てる機能。画像レポート見落とし対策は,画像診断医が診断レポートに対して重要フラグを付与するか否かが大きな分かれ目となる。がんを疑う所見などは,重要フラグを付与する対象となるが,結節陰影が認められた場合,これが悪性か否かは確率的なものであり,重要フラグを付与すべき基準を明確に定めることはできない。また,画像診断医が重要フラグを付与する操作を忘れることも起こりうる。こうした理由から,画像診断医にとっては,重要フラグの付与が義務化されると,心理的な負担を負うことになる。重要フラグが付与されていないレポートを主治医が見落とし,その結果重大な問題が発生した場合でも,画像診断医の責任とはならないことについて医療機関内で合意されることが画像診断医による重要フラグ付与の必要条件となる。一方,重要フラグが付与されることで,主治医に重要所見の存在を気づかせる工夫ができ,主治医は意識してレポートを取り扱うため,重要所見の見落とし防止に対する効果は大きい。さらに,第三者の監査を実施する場合,重要フラグが付与されたレポートに限定することで,監査対象レポートは圧倒的に少なくでき,監査の負担を大きく減らすことができる。また,主治医が重要所見に対し適切な対応をしたかを,診療録を見て確認することが可能となる。

(3)レポートの中で,重要所見の記載欄が,スクロールバーを操作しなくても目にとまるようなレポートの表示上の工夫が望まれる。診断欄と所見欄を分離してそれぞれにスクロールバーを付ける方法,診断欄を上に表示する方法などが考えられる。

(4)当該患者のカルテ画面を開かなくても,レポートが作成されたことを通知する機能。この機能が,対策システムの中心的な機能となる。救急対応をした患者などで,その後,患者が来院しないこともある。したがって,当該患者のカルテ画面を開かなくても通知される機能が必要である。医師がログインをした時に,未読レポートがあることを知らされ,当該医師が見るべきレポートのリストが表示されるなどがあるとよい。当然,当該患者のカルテ画面を開けば,未読レポートの存在に気づかせる機能も必要である。

(5)(4)の通知先医師は,オーダ医を基本としながらも,研修医がオーダをする運用をしていたり,主治医が交代する場合など,オーダ医が通知先として適切でない場合がある。オーダ時に通知先の医師を指定する機能,通知を受けた医師が主治医でない場合に主治医に通知を転送できる機能が必要である。通知先を診療科の医師全員とすることで通知漏れを防ごうとすることがあるが,責任者が曖昧になり,各医師は膨大な通知を受けることになり,通知の意味が薄れるのでよくない。

(6)既読・未読ステータスを管理する機能を持たせ,医師がレポートを読んだ際に既読ボタンを押す機能(能動的既読管理機能)が必要である。この際,再度読み直す場合に印を付けておくなどの機能が望ましい。一つの病院で複数のレポートビューワを持つ構成があり,その場合には,どちらか一方のビューワで既読とした場合に,既読のステータスとなるようなシステム的な工夫が必要となる。レポートの閲覧ログから,受動的に既読とする機能も考えられるが,主治医が見たのかを判別する必要があること,しっかり内容を読んだのかを判定できないことなど,対策機能として十分とはなり難い。能動的既読管理に加えて受動的既読管理がある場合には,だれも見ていないレポートが特定できる利点がある。

(7)第三者による監査支援機能。この機能は,患者を横断的に調べ,(6)での未読ステータスのレポートを一覧表示させる機能となる。監査を診療科の指導医がする場合があり,診療科で絞り込みする機能が必要である。また,重要フラグを付ける運用が取られる場合には,重要フラグが付いたレポートを絞り込む機能が必要である。重要フラグが付いたレポートについては,既読となっていた場合でも,カルテを閲覧して適切な診療がされているかを確認すべきである。阪大病院では,診療情報管理士がこの監査を実施しているが,レポートは読まれているものの適切に追加検査などの対応がされていない事例が散見され,主治医に通知している。主治医からは感謝されることが多い。

研究班では,こうした対策に有効な機能を整理して示すことに加え,これらの機能を持つ病院情報システムを普及させ,適切に利用されるようにするための施策の検討もタスクとしている。画像診断レポート見落とし防止対策機能を備えた病院情報システムを普及させるためには,各ベンダーの病院情報システムの次のバージョンのパッケージソフトウエアに,これらの機能を含めてもらうことが重要と考えた。そこで,まず,厚生労働省からの事務連絡の資料(報告書)に機能仕様項目を含ませた。この機能仕様項目にまとめる際に,保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS),日本画像医療システム工業会(JIRA)の担当者に検討会に参加していただき,実現が無理でないことを確認した。また,実現の難易度を考慮し,実現を期待する時期を示すこととした。開発ベンダーに,この機能仕様項目を見ていただき,次のバージョンのパッケージソフトウエアに機能追加をしてもらうことを期待した。対策システムは,オーダリングシステム,レポートシステム,通知システム,経過記録システムなど,多くのアプリケーションが関連しており,これらが別ベンダーから提供される構成のシステムも多い。したがって,各アプリケーションが必要機能を追加することに加え,これらのアプリケーションを統合させて機能するよう調整することも必要となってくる。決して簡単ではない。現行のシステムを改造して対策する場合にはかなりの費用がかかるので,次の病院情報システム更新時に,これらの機能が備わったものにして,しっかり対策するのが現実的な方法と考える。
各病院がさまざまな要望を出して,ベンダー側がさまざまな対策システムをつくることになると,個々の機能がオプション機能となり,値段が高くなってしまい,病院にとっても良い結果とならない。通知文の資料に含めたシステム機能仕様項目では,対策システムの機能として考えられるものを,できるだけ網羅的に拾い出し,その位置付けを明確にするように努めた。開発ベンダーに,病院ごとに対策機能の考え方が異なることを理解してもらい,パッケージとして提供する対策システムでは,1つのシステムで,設定を変更することで病院ごとの運用の違いを吸収させて,システムの提供価格が上がらないことを期待したい。

想定される運用

画像診断レポート見落とし対策の運用法を大きく分類すると,画像診断医が重要所見に印を付けて,それを中心に監査する方法,全画像診断レポートの既読管理機能を使って未読レポートを調べ,これをなくすようにする運用の2通りがある。前者の方法であれば,システムに特別な機能がなくても実施できる。画像診断医が重要所見を含むレポートを作成した際に,これをプリント出力し,診療情報管理士などが,これを主治医に送付することに加え,主治医が適切に診療をしていることを診療録で確認を行う。この運用の欠点は,画像診断医が重要所見にフラグを付け忘れると,監査の対象から外れてしまうことである。一方,全レポートの未読管理を軸に対策する方法では,システムの機能は必須となる。この対策の欠点は,監査の業務にかなりの負担がかかること,主治医がレポートを読んでいるが適切な診療をしなかった場合に防ぐことができないことである。阪大病院では,放射線科の協力を得られ,前者の方法を基本として対策している。

今後の展開の可能性

研究班では,対策システムを普及させ,病院にしっかりした対策が行き渡るようにするための施策を検討する予定である。各ベンダーが開発したパッケージソフトウエアを評価すること,病院機能評価で本件について,どのようなシステムを導入し組織的に対策がされているかを評価することなどが考えられる。
重要所見を含むレポートにフラグを付ける部分について,画像診断医の協力が得られないことはある。阪大病院では,画像診断レポートの自然言語処理の研究をしており,フリーテキストで記載されたレポートを構造化レポートに変換する技術を開発している。この技術の応用として,ある臓器で初めてがんを疑う所見が記載されたレポートを探し,フラグを付けることをめざしている。こうした機能が実現できれば,画像診断医の負担をかけずに有効に対策できることになる。

●参考文献
1)松村泰志 : 医療安全に資する病院情報システムの機能を普及させるための施策に関する研究.厚生労働科学研究成果データベース(文献番号:201821058A, 課題番号:H30-医療-指定-020), 2018.
https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201821058A

 

松村 泰志(大阪大学大学院 医学系研究科 医療情報学)

(まつむら やすし)
1985年大阪大学医学部卒業。同大学医学部附属病院第一内科,大阪警察病院循環器内科に勤務。89年より大阪大学大学院博士課程。医学博士。92年より同大学医学部附属病院医療情報部助手,99年より同助教授・副部長,2010年より大阪大学大学院医学系研究科医学専攻情報統合医学講座医療情報学教授,医療情報部部長,2014年より病院長補佐。医療の質・安全学会理事,日本医療情報学会評議員,日本生体医工学会理事を務める。

 

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