オンライン診療の選び方,活用のポイント
大西 大輔(MICTコンサルティング株式会社 代表取締役)

2020-7-13


いよいよ本格的普及へ! 適用が広がるオンライン診療

はじめに

2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響から,4月に政府は全国に「緊急事態宣言」を発令した。外出自粛が要請される中,受診困難な患者のために,政府は時限的・特例的措置として初診から電話およびオンラインによる診療を行うことを認めた。従来,オンライン診療は,外来診療に比べて取得できる情報が限られているため,外来の補完的サービスと位置付けられ,点数も低く設定されてきた。このたびの時限的措置により,オンライン診療の利用シーンが拡大され,一気に脚光を浴びている。

初診から電話・オンライン診療で何が変わるのか

これまで再診に限定されてきた電話およびオンラインによる診療が,4月10日の厚生労働省事務連絡により,初診から認められることとなった。この通知を境に,オンライン診療は時限的とは言え,疾患も期間もほとんど制限なく利用が可能になったのである。政府は,これらの一連の施策により医療機関の対応が進み,コロナ禍で外来受診が難しくなる中,患者の利便性向上につながればと考えたわけだ。
4月末には厚生労働省のホームページで,電話・オンライン診療に対応する医療機関リストが公表されたが,リストを確認する限りでは,今のところ設備投資なく,すぐに始められる電話診療が先行しているのが現状である。
現在,外来患者の減少により,大きく医業収入が減少している状況で,オンライン診療に取り組む医療機関を増やすためには,設備投資に対する資金的サポートが必要であることが明らかになった。今後,オンライン診療に対する設備購入費用については,経済産業省の「IT導入補助金」などの手当てを活用することが予想されるが,政府にはいつも以上に迅速な対応を求める。

オンライン診療サービスの選び方

オンライン診療サービスを提供するメーカーは,この機が参入チャンスととらえて増加傾向にあり,現在,10社以上のメーカーがサービスを提供している。今後もさらに参入企業が増えていくことが予想される。そこで,数多あるオンライン診療サービスの中から,適切なサービスを選ぶにはどうすればよいか,考えてみることにする。
選定基準において私は,(1) 操作性(UI:User Interface),(2) 機能(function),(3) 導入件数(share),(4) コスト(cost),(5) 事業継続性(BC:Business Continuity),(6) 連携(link)の6つの要素があると考える。

1.操作性
操作性については,患者側と医療機関側の両面の確認が必要だ。特に,リテラシーにバラツキがある患者側は注意が必要だ。医療機関がせっかくオンライン診療サービスの準備をしても,患者が使いにくいと感じれば,当然ながら利用されない。導入を検討している医療機関は,実際に患者の立場に立って操作を確認することが必要である。具体的には,患者は受診する際に,アプリの場合は事前にダウンロードし,個人情報や保険証,クレジットカードなどの情報を事前に登録しておく必要があるが,このアプリの使い勝手は異なる部分なので,注意が必要だ。

2.機 能
機能については,オンライン診療サービスのほとんどは,予約,問診,受付,診察,会計といった機能を備えている。機能の違いを強いて挙げるとすれば,問診入力やバイタル機器との連携などに違いが見られる。また,会計機能については,電子カルテやレセコンといった既存システムとのすみ分け,連携についても注意が必要だ。機能を確認する際,実際の診察場面をイメージし,シミュレーションを行って確認してほしい。

3.コスト
コストについては,無料で提供しているもの,有料で提供しているもの,患者の負担が必要なものなどさまざまだ。ほかの医療システムの選定と同様に,初期費用とランニングコストに分けて考えるとよいだろう。そもそも無料で提供しているオンライン診療サービスは,「メーカー側の収益の仕組みはどうなっているのか」という疑問も浮かぶが,拡大期に無料で配ることで大きくシェアを伸ばしたいと考える企業側の思惑はわかる。拡大期が終わった際にどう変わるかは,メーカーの姿勢をしっかり見極める必要がある。

4.導入件数
導入件数については,結論から言えば,多ければ多いほどサービスがこなれており,サポートもしっかりしていると言えるだろう。ただし,急激に導入件数を伸ばしているメーカーには注意が必要だ。メーカーが対応できる件数を超えてしまうと,導入にかかる時間が長くかかってしまう恐れがある。また,無理な拡大はサービスの低下を招く恐れがある。現在の需要増が予想される時期に,通常と同様の動きをしているメーカーに注目するとよいだろう。拡大期の安定した対応は,事業が安定している証拠でもある。

5.事業継続性
事業継続性とは,そのメーカーが将来的に事業を継続していける体力があるかという意味である。時代の流れに乗って参入した企業の中には,将来どのように収益を上げるのか心配なメーカーもあり,せっかく導入したサービスも,途中で終了してしまうことになりかねない。また,カスタマーサポートも期待できないなど,安心して使うことができない可能性もある。医療機関向けのシステムは安定稼働が必須のため,事業を継続できて,初めて導入可能と判断すべきであろう。

6.連 携
連携については,現在導入している業務システム(電子カルテなど)とどのように連携を図るかを確認する必要がある。システム間の業務の重複ができるだけ少ない方が効率が良いだろう。また,薬局で導入が始まっている「オンライン服薬指導システム」との連携も,今後重要なポイントとなる。患者にとっては診察から処方せんの発行,薬局での服薬指導,医薬品の送付といった一連の流れがスムーズな方が,当然利便性が高まるからだ。

緊急事態宣言が解除されたとは言え,いつ第2波がやってくるかわからない時期に,一度落ち込んだ外来患者数が一気に戻るとは考えにくい。そのような時期だからこそ,出費が伴うシステム導入は,できるだけ失敗したくないと考えるのが医療機関の本音だろう。今回紹介した6つの要素を参考に選定を進めてほしい。

無料のWebミーティングは使用できるか?

一方,コロナ禍においてWebミーティングを利用するのが一般的になった。最近,これらのサービスをオンライン診療に利用できないかという相談をよく耳にする。この問いに対しては,厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」をよく確認してほしいと話している。同指針は2019年7月に改訂されており,その中でオンライン診療サービスと汎用サービスを利用する場合の注意点が明記されているので参考にされたい。
一言で言えば,個人情報の流出やウイルス感染によるシステムへの影響など,セキュリティトラブル時の医療機関側のリスクの程度が異なると言える。オンライン診療を目的に開発されたサービスは,個人情報を保全する対策がしっかりと行われている一方で,汎用サービスは本来,オンライン診療で利用することを想定していないため,そのような対応が行われていないのが現状だ。汎用サービスを使う場合は,医療機関自らがセキュリティ対策を行う必要が生じる。また,
4月10日に出された厚生労働省事務連絡に明記されている「なりすまし防止」の対策や,患者の自己負担分の「請求手続き」については,別の方法を考える必要があるため,医療機関側の負担はある程度大きいと考える。

オンライン診療の活用

今回,オンライン診療が期間の限りなく,どんな疾患でも使えるようになったからといって,すべての診療ケースで使えるとは限らない。どの通知にも,「医師がオンライン診療が可能と判断した場合に限り」と明記しているのはそのためだ。
例えば,初診時はオンライン診療を「トリアージ」として使い,オンラインでの診察時に,医師が対面診療を必要と考えるときは,すぐに対面診療に切り替える運用をしてはどうだろうか。また,病態が安定している定期受診の患者に対しては,コロナ禍において外来受診を控えることで診療間隔を空け過ぎてしまわないように,オンライン診療を取り入れることは有効だと考える。触診や検査,処置・手術ができないオンライン診療には,限界があることをよく理解して,オンライン診療の特性に合わせて賢く利用することをお勧めする。

 

大西 大輔(MICTコンサルティング株式会社 代表取締役)

(おおにし だいすけ)
2001年に一橋大学大学院MBAコース修了後,日本経営グループ入社。2002年に医療IT機器の展示場「MEDiPlaza」を設立し,2007年に東京,大阪,福岡の3拠点を管理する統括マネージャーに就任。2016年にコンサルタントとして独立し,MICTコンサルティングを設立。過去3000件を超える医療機関へのシステム導入の実績から,医師会,保険医協会などの医療系の公的団体を中心に,講演活動および執筆活動を行う。

 

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