METISからの提言―日本の医療機器・技術によるヘルスケア戦略―
第6回 医療機器の適正評価 国立病院機構 大阪医療センター院長 楠岡英雄 氏
はじめに
医療技術産業戦略コンソーシアム(Medical-Engineering Technology Industrial Strategy Consortium:METIS)は,医療の進歩・国民の健康に貢献する医療機器・用具の産業技術力向上および国際競争力強化を目指し,2001(平成13)年3月に設立されたが,その当初から,医療機器そのもの,あるいは医療機器を開発,製造するアカデミアや産業の評価がわが国において適正になされているかについて疑問を持ち,医療機器・医療技術の適正評価が大きな課題であった。しかし,“適正評価”には,研究開発の段階から市場化後まで幅広いフェーズがあり,また,適正に評価されるためには「何をどのように評価してもらいたいか」について積極的にアピールする必要がある。さらに,評価を求める先も,専門家集団から一般国民のレベルまで大きな広がりがある。これまでも,METISにおいて適正評価についての検討はなされてきたが,第4期においては「医療機器の適正な評価」に関する戦略会議を設け,この課題に取り組んでいる。本戦略会議での考え方を以下に示す。
評価のフェーズ
これまで医療機器の評価については保険医療内での評価を中心に議論されてきたが,革新的医療機器の開発と実用化という観点からは,個別機器ではなく産業評価として捉え直し,より上位で基本的な考え方を示すことが必要と考えられる。すなわち,医療機器・医療技術の評価において,市場化後の評価,特に,健康保険診療における診療報酬上の評価(点数)は重要な項目ではあるが,保険収載はあくまで評価結果の一つとして捉える必要がある。本戦略会議では評価を求める時相と対象から,図1のように,開発と市場化後の2つのフェーズに分けて考えている。
図1 医療機器産業の評価の視点
図1 医療機器産業の評価の視点
市場化までへのアプローチ

現代の医療には,医療機器が必要であり,また,その発展が医療の進化に貢献してきたことは誰もが認めるところである。また,医療をさらに発展させ,あるいは効率化させるためには,医療機器の新たな開発や既存製品の改良が必要であることも当然である。しかし,これまでの検討では,医療機器産業の産業育成の観点からの政策立案は必ずしも十分ではなかった。また,医療機器は公共財として,必要なところに安定して継続供給されなければならない。この観点に立った産業育成策も必要と考えられる。今後の医療機器の開発には,海外での医療機器産業育成策との比較も含めて,産業育成の観点から評価を求めていくことが重要である。

このような医療機器の開発・改良に向けての産業支援策としては,公費投資による財政的支援や,開発プロセスを効率化し促進する規制緩和などが考えられる。しかし,行政等からこれらの支援を得るためには,まず医療機器の開発そのものが正当に評価される必要がある。評価の妨げとなると思われる,このフェーズでの個々の問題については,他の戦略会議等においても検討されている。問題点が明らかになれば,それを浮き上がらせる形での評価を求めていくことになると考えられる。

市場化後へのアプローチ

医療機器の市場化後の利用においては,保険医療での使用とともに,保険医療外での使用にも目を向ける必要があり,それに並行した評価を考えなければならない。特に,今後,医療機器の市場を創出していく上で,医療職等の資格を必要としない機器使用を広げていくことが重要である。また,医療機関内での使用のみならず,在宅医療,介護,健診施設,予防関連等での使用に広げていくことも重要である。

一例として,自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator:AED)が挙げられる。体外式除細動器は従来から存在したが,機器の機能・性能が進歩し,その結果,使用資格等が再評価され,規制緩和が行われた。さらに,AEDの普及・使用が救命率の向上につながるという効果が海外で明確に示され,その結果,わが国での規制緩和が行われ,市場の拡大がもたらされた。また,同様のことが在宅医療機器に関しても考えられる。すなわち,医療機器の性能・機能,特に安全性の向上と,医療機器の使用資格の拡大が密接に関連し,これが評価されることで同時に市場拡大にもつながると言える。また,評価の基準がAEDでは救命率であったが,このような事例は限られ,多くの改善・改良事例は医療行為の効率化に寄与するものであり,この点が評価されるようにする必要がある。

市場の拡大に関しては,国内の市場のみならず,海外の市場にも目を向ける必要がある。その際,海外における医療機器の評価軸,例えば,機能・性能,安全性,操作性,価格などのいずれに重点があるかを検討する必要がある。

保険医療での評価

医療機器の評価において保険医療の占める部分はきわめて大きく,重要な課題である。しかし,医薬品と異なり,医療機器の保険医療での評価にはさまざまなパターンがある。医療材料のようにきわめて医薬品に近い評価法がとられるものから,検査診断料等に包括されるものまであり,最適な評価法が保険医療のどこにあるかは医療機器ごとに異なるため,一概に論ずることはきわめて困難である。また,医薬品においては製造販売を行う会社が直接評価を求められるのに対し,医療機器の場合は,学会等の機器の使用者から提案する以外に評価を求めるルートがないものもあり,この点も評価を複雑にしている。

本戦略会議においては,医療機器が創出する新たな機能・改善事項が,どういうメリット・効果を生み出しているかを図2のように評価することを提案している。これまで計測できなかった生体情報や機能の測定の可視化などは評価を得られやすいが,間接的な貢献,例えば,QOL向上,効率化,リスク軽減などは評価が困難であった。また,これらの価値を同列に議論することが評価を複雑化する原因にもなっていたと考えられる。ここに示す考え方は,保険医療における評価以外にも適用可能であるが,わかりにくい効果をどのように表現するかが整理されれば,特に保険医療での評価を求める際に有効と考えている。その一つの方法として,イノベーションを端的に表現できるキーワードの整理を行っている。

また,医療機器は,必要とする場所・時期に遅滞なく存在し,安全,安心に使用できることが求められる。そのため,医療機器をアイドリング・タイムや在庫を含めて保有することによって生じるコストを,医療機関に補償する必要がある。しかし,医療上の必要の発生の有無にかかわらず設備的に保有が必要となる検査診断機器と,治療が発生しなければ利用されない医療材料・治療用具等を同列に扱うことも困難である。さらに,医療機器には定期保守・点検に必要な費用も伴う。これらのコストを保険医療でまかなうか,補助金制度でまかなうかという議論もある。しかし,このようなコストを正当に評価し,負担を求めていく必要がある。

図2 イノベーションの見える化に向けて価値を定義する視点
図2 イノベーションの見える化に向けて価値を定義する視点
おわりに
現在,「医療機器の適正な評価」の戦略会議では,上記の観点から,革新的医療機器開発を誘導する評価,効能効果に見合う評価,改善・改良努力(効果)に見合う評価,安全・安心を確保するために社会的に必要とされる機器の評価,社会的効果・経済効果の評価の表示法,医療機器と手技との関係の評価などについて検討している。また,本検討の結果,医療機器開発における経済的評価の論理的な方法・指針を提供すること,および,産官医(学)の評価に関するコンセンサスを醸成することを目指している。しかし,最終的には,医療機器産業の育成の必要性,保険医療を含めた医療機器の経済的評価について,国民が理解し,その支援や負担を納得する必要がある。国民への働きかけ・情報提供も重要な活動であると考えている。

◎略歴
1975年,大阪大学医学部卒業。大阪大学工学部(助手),同医学部(助手),ジョンズ・ホプキンス大学医学部(助教授),大阪大学医学部(助教授),国立大阪病院(臨床研究部長,副院長)を経て,2007年4月より国立病院機構 大阪医療センター院長(現職)。日本学術会議連携会員等を兼職。

(インナービジョン2011年4月号より転載)
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