法人内5施設でのクラウドPACSにより画像統合管理・統合参照を実現 医療法人道北勤労者医療協会 道北勤医協一条通病院 SDSシリーズ(テクマトリックス)

はじめに

当法人は,北海道旭川市にて1978年11月に診療所を開院。現在,外科,整形外科,救急の外来と3つの病棟(168床)を持つ一条通病院と,内科,小児科の外来診療を行う併設診療所の一条クリニック,さらに旭川市内3か所と稚内市に内科診療所を開設している。

一条通病院と市内診療所間では,病診連携を積極的に行っており,日常の疾患管理を診療所で行い,時間外診療や内科以外の診療科受診,検査,入院治療など,必要に応じて病院を利用する例が多くある。このような場合,病診間で情報を共有できれば,医療の質の向上や患者サービスにとって大きなメリットとなる。

今回のPACS導入の第一の目的は,病院でのフィルムレス運用であったが,同時に市内診療所も合わせて,相互に画像情報を共有できるようなシステムを構築したいと考えた。

システム選定

一条通病院では,医事コンピュータと外来の処方システム以外のHISやRISを導入しておらず,当面PACSはほぼ単独に近い形で運用することになるため,以下のような条件を満たすことを希望した。

(1) 画像サーバを病院に置き,市内診療所を含めたすべての画像を一元管理すること
(2) 画像をサーバに格納する前に,画像や付帯情報に問題がないことを確認する検像システムを有すること。さらに,画像の患者情報と医事コンピュータから得たDICOM MWM情報を照合し,矛盾がないことを確認した上で,不足情報を補完する機能を持つこと
(3) 画像と所見を一括管理できるレポートシステムを有すること
(4) 撮った画像を医師が見ないまま放置されることを防ぐため,未読管理ができること
(5) 病診間のネットワークに障害が発生した場合も,診療への影響を最小限にとどめること
(6) 24時間365日,トラブル発生に対応するサービス体制を持つこと
(7) 近い将来,電子カルテやフルオーダリングシステムと柔軟に連携できること

このような条件で数社のシステムを比較した結果,「端末を限定しないWeb型の検像システム」「病診間ネットワーク障害の耐性」「既存のシステムとの連携」「将来的なオーダリングシステムとの連携の柔軟性」などを評価し,テクマトリックスのSDSシリーズの導入を決定,2011年9月より運用を開始した。

システム構成

当法人のシステムは,図1のような構成である。システムの構成全体について,ネットワーク構成,画像サーバへの画像送信時の仕組み,画像サーバからの画像配信時の仕組み,各院所でのシステム連携,検像システムの5つについて述べる。

図1 一条通病院と診療所間の画像連携システム図
図1 一条通病院と診療所間の画像連携システム図

1.ネットワーク構成
病院と併設の一条クリニックとは,LANで直接つながっている。そのほかの3つの診療所とは,IP-VPN網を利用したセキュアなネットワークで接続するという構成である。全院所が仮想的に同一ネットワークで接続されている構成になっている。

2.画像サーバへの画像送信時の仕組み
併設の一条クリニックは,病院とLANが接続されているため,直接病院の画像サーバにデータが送信されてくる。そのほか3つの診療所で発生した画像データに関しては,各診療所に配置したDICOM送信ゲートウェイ(GW)から病院に送信されてくる。このDICOM送信GWはIP-VPN網への入り口を一本化しているだけではなく,各診療所から送信する際のDICOM送信GWではDICOM wavelet形式での圧縮をしてから画像送信することによって,送信時のネットワーク通信速度の高速化を図っている。このように,すべての施設の画像データを病院の画像サーバで管理している。

3.画像サーバからの画像配信時の仕組み
ただ単純にそのまま病院の画像サーバから画像配信するのでは,今回構築したIP-VPN網が帯域保証するタイプのネットワークではないため,画像配信・受信スピードを確保できない。そのため,3つの各診療所に設置しているDICOM送信GWには,ある程度の期間保持(約2〜3年)が可能な画像サーバと,画像ビューワのアプリケーションサーバの機能も持たせてある。
これらの工夫により,画像ビューワ起動高速化と画像ダウンロードスピードの高速化を実現し,各診療所,つまり画像サーバから見た遠隔地であっても,スピーディなPACS運用が可能となった。同時に,DICOM送信GWにて画像の期間保持をしているため,法人全体として,画像保管を分散多重保管することにもなっている。単にディスク障害ということだけではなく,広域ネットワークのネットワーク障害にも耐性を持ったことにより,より強い安全性を確保したフィルムレス運用が可能になった。

4.各院所でのシステム連携
このようなクラウドシステムでは,通常,個々の院所での個別対応ができない可能性もあるが,今回は各診療所で,医事コンピュータとの患者基本情報の連携,DICOM MWM連携を実現し,病院と併設診療所でも,医事コンピュータとの患者基本情報の連携,DICOM MWM連携,画像・レポート参照連携(画面連携)を実現している。個々の院所での利便性を落とさずにシステムを構築することができた。

5.検像システム
フィルムレスになり,いままでフィルムで実施していた画像確認作業をどうするかが,診療放射線技師の立場として最大の課題であった。今回導入したPACSは,検像システムに関してもクラウド型であるため,どの端末でも検像システムが使え,さらにすべてのモダリティの検像業務を実施できるため,効率的で柔軟な運用が可能になった。もちろん,同一操作に対する排他処理などもしっかりと実施されていて,操作のコンフリクトが発生することもない。

稼働後の評価

1.パフォーマンス面
画像表示の応答性に関しては,いずれのモダリティも即座に表示されていてまったく問題はない。CTは,シンスライスデータも画像サーバに格納しているため,日常的に数百スライスのデータを扱うことになるが,待ち時間はほとんど発生しない。各診療所に関しても,冗長構成を採用していることもあるが,ストレスなく表示されている。

2.保守面
当院のPACSは,1つの管理画面ですべてのサーバハードウエア・ソフトウエアの稼働状況,リソース使用状況を把握することができる。検像と同様,任意の端末から,これらすべての操作ができるのは,システム管理者として非常に使いやすい。
さらに,テクマトリックスのサポートセンターでは,常時この管理画面を監視していて,エラー発生時にはエンジニアから連絡が来ることになっているが,現在のところそのような障害は発生していない。そのほか,問題がある時は電話やリモートメンテナンスでの対応になるが,常にシステムを熟知したエンジニアが対応してくれるのでありがたい。

(たかまつ あつし)
1979年東京都立診療放射線専門学校卒業。
84年より道北勤医協一条通病院勤務。現在 同院放射線科技師長。

(インナービジョン2012年2月号 別冊付録 ITvision No.25より転載)