順天堂高齢者医療センターと富士通,コロナ禍における高齢者の運動機能や認知機能の低下を防ぐため遠隔デイサービスを実現するシステムの共同研究を開始

2021-3-2

介護

富士通


順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター(注1)(以下,順天堂高齢者医療センター)と富士通(株)(注2)(以下,富士通)は,コロナ禍において通所介護サービス(以下,デイサービス)の利用が困難な高齢者の運動機能や認知機能の低下を防ぐ遠隔デイサービスの実現に向けて,オンラインで心身の状態を精緻に把握し,運動療法(注3)および芸術療法(注4)の提供から療法中の見守りまで幅広い支援を可能にするシステムを開発し,有効性を検証する共同研究を2021年3月2日から開始する。

本共同研究では,運動時の動画から身体の骨格座標や関節角度などを推定するAI技術や,画面上の表情から感情などを推定する表情認識AI技術,慣性センサー(注5)のデータから歩行特徴を抽出するデジタル化技術など,高齢者一人ひとりの状態に合わせた運動療法や芸術療法に必要な様々な技術を組み合わせたシステムの有効性を幅広く検証する。

両者は共同研究成果をもとに,オンライン化が進むニューノーマルな時代に向け,有事の際にも高齢者が遠隔で適切なサービスを継続的かつ安定的に受けられ,健康で幸福な生活を送れる環境づくりに貢献することを目指す。

●背景

近年,高齢者の認知症の増加は深刻な社会課題の一つとなっており,内閣府の調査(注6)では,2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人は認知症を発症すると推定されている。認知症の対策として非薬物療法であるロコモティブシンドローム(注7)予防運動などの運動療法や臨床美術といった芸術療法などの有効性が示され始めており,通所介護事業者などがデイサービスとして提供している。

しかし,新型コロナウイルス感染症への感染リスクを恐れて外出を控える高齢者が増えており,デイサービスを受けられないことで運動機能が低下し,それにより認知機能の低下を招く恐れがある。こうした状況への対策として,リモートツールや動画配信を活用する取り組みは始まっているが,画面越しに相手の状態を把握することが難しいため,一方的な情報伝達に留まってしまい,適切な療法を実施できないことが課題となっている。

順天堂高齢者医療センターと富士通は,このようなコロナ禍のデイサービスにおける喫緊の課題を解決するため,オンラインでも高齢者の心身の状態を精緻に把握できる富士通の様々な技術により,運動療法や芸術療法の提供から療法中の見守り,療法の計画立案や計画の見直しまで,通所介護事業者によるサービス提供の継続をオンラインで幅広く支援するシステムの有効性を検証する。

●共同研究について

1.期間
2021年3月2日(火曜日)から2022年3月31日(木曜日)まで

2.両者の役割
順天堂高齢者医療センター:被験者の募集,各種検査や療法の実施,システムの有効性評価
富士通:システムの試作,被験者の各種データを用いた技術評価ならびに技術改良

3.検証内容
順天堂高齢者医療センターが,同センターを受診している軽度認知障害の患者を被験者(20名を予定)として募集する。そして認知機能や歩行能力などの運動機能の測定や,ロコモティブシンドローム予防運動の指導ノウハウを有する順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科(注8)(以下,順天堂スポーツ健康科学研究科)と連携し,オンライン下での運動療法ならびに芸術療法の試験提供を定期的に行う。その際に収集した歩行データや動画データを用いて,以下の技術の有効性を両者で検証する。
また,解析したデータに加え認知機能スコアや体組成などの各種属性データを含めて一元化し,対象者の心身の状態や各療法の効果を視覚的に捉えやすくするダッシュボード機能とその有効性を検証する。

1.関節可動域自動測定AI技術
順天堂高齢者医療センターが撮影した運動療法時の被験者の身体動作映像をもとに,AIが3次元骨格を推定することで関節角度を自動測定し,関節の曲がり具合などから適切な動作を行っているかどうかを可視化。
本技術を応用し,指導者の見本動作との比較分析や,動作のモデリングなどの多角的な動作評価方法を合わせて検証するほか,各運動の動作を自動で評価するなど,高齢者が手間なく楽しく継続的に運動療法へ取り組めるための支援を目指す。

2.表情認識AI技術
順天堂高齢者医療センターが撮影した運動療法および芸術療法時の被験者の表情に関する映像を,(株)富士通研究所(注9)(以下,富士通研究所)が開発したAIで解析し,表情筋の動きから療法による感情などの変化を可視化。
運動療法や芸術療法が目指す自己肯定感の醸成などの精神面での療法効果を表情から評価可能か検証するとともに,遠隔環境においても対面指導と同様に患者の負荷や不快感などを汲み取り,患者の心の状態に合わせた指導の支援を目指す。

3.歩行特徴デジタル化技術
被験者の両足と腰に装着した慣性センサーで収集した歩行動作に関する3次元の角速度や加速度のデータを富士通研究所が開発したエンジンが高精度に自動で解析し,歩幅や歩数をはじめとする基礎的な歩行能力や,腰の回転などの詳細特徴を表すパラメータの変化を可視化。
在宅を想定した歩行動作の測定も検証し,心身の変化に伴う日々の運動能力の変化を詳細に把握することで,遠隔環境においても身体状態を把握でき,個人に最適な運動指導の計画立案に寄与することを目指す。

図 共同研究で目指すビジョン

図 共同研究で目指すビジョン

 

●今後について

順天堂高齢者医療センターは,本共同研究で得られた成果をデイサービスの現場課題解決に利活用できるか評価するとともに,これまで科学的実証が難しかった各療法の認知症に対する効果を可視化し解析することで非薬物療法におけるエビデンスを強化する。今後は,そのエビデンスに基づき,順天堂スポーツ健康科学研究科との連携を強化しながら,認知症予防に向けたより効果的な各療法の確立を目指す。

富士通は本共同研究を踏まえて,オンライン診療活用への期待が高まるニューノーマル時代に向け,有事の際にも高齢者の運動機能や認知機能の低下を防ぎ,人々の健康や介護を支援するヘルスケアソリューションを開発し,2021年度からの段階的なサービス提供を目指す。将来的にはオンラインによって高齢者と専門家や専門家同士の接点を増やし,日々の見守りと同時に高齢者が自らの健康維持や管理に向き合うことを支援することで,健康で幸福な生活を享受できる健康長寿社会の実現に貢献する。

注釈
注1
順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター:
所在地 東京都江東区,院長 津田 裕士。
 注2
富士通(株):
本社 東京都港区,代表取締役社長 時田 隆仁。
注3
運動療法:
身体の障害や疾患の治療や予防のために運動を活用すること。特に移動するための運動器の能力を維持し,回復することを目的に行う体操をロコモティブシンドローム予防運動と総称する。
注4
芸術療法:
臨床美術(clinical art)療法に代表される,表現活動の意味や役割を活かした心理療法の総称。一般高齢者の健康増進や認知症の予防治療,一般社会でのストレス軽減,児童生徒の情操教育などへの効果が期待されている。
注5
慣性センサー:
物体の回転速度を表す角速度や加速度を測定するセンサー。近年身体の動きの検出に用いられている。
注6
内閣府「平成28年版高齢社会白書 第1章第2節 3.高齢者の健康・福祉」:
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/gaiyou/s1_2_3.html
注7
ロコモティブシンドローム:
立つ,歩くなどの移動に必要な運動器の能力が不足したり衰えたりした状態を指す。
注8
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科:
所在地 千葉県印西市,研究科長 内藤 久士。
注9
(株)富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市,代表取締役社長 原 裕貴。

 

●問い合わせ先
順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター
メンタルクリニック(医学研究科精神・行動科学 教授) 柴田 展人
TEL 03-5632-3111

富士通コンタクトライン(総合窓口)
TEL 0120-933-200
受付時間: 9時~17時30分(土曜日・日曜日・祝日・同社指定の休業日を除く)

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