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    【訪問看護システム編(8)】 

    Q 訪問看護で使用する看護実践用語標準マスターについて教えてください。

    2021-5-20

    訪問看護システム編

    Q 訪問看護で使用する看護実践用語標準マスターについて教えてください。

    回答者・東京医療保健大学医療情報学科 瀬戸僚馬先生

    A 在宅は病院と性質が異なるため「在宅領域」の標準マスターが用意されています。活用して,要望を出して標準マスターを成長させよう!

    ●なぜ在宅にも標準マスターが必要か
    ●看護実践用語標準マスター「在宅領域」とは
    ●標準マスターは使うことで成長する

    詳しく解説!

    前回(第24回:訪問看護システム編番外編) では、日本在宅看護学会学術集会の交流集会を紹介する形で、在宅看護分野のシステム導入の現状や諸課題について共有しました。その中で「看護実践用語標準マスター」がまだ使いにくい、あるいはよくわからない、といった声があったことを取り上げました。今回はこの疑問を解消するため、在宅分野におけるマスターを解説したいと思います。

    ●なぜ在宅にも標準マスターが必要か

    病院であれば、診療行為の多くには行為別の診療報酬が定義されています。例えば、尿道に留置カテーテルを設置すれば40点(≒400円)で、そのコードは「J063」です。ただし、病院であっても「清拭」「食事介助」など日常生活援助は入院基本料の範疇(はんちゅう)なので定義はなく、指導についても「退院時リハビリテーション指導料(B006-3)」のように医療チーム全体での評価になるため、看護師の指導そのものを表現する方法はありません。それでも、在宅と比べれば病院の方が出来高計算用の医事データを用いて、どのようなケアが行われたのか可視化する余地が大きいと言えます。
    ところが在宅になると、こうした手段が著しく限られてきます。もとより医療のように個別行為を評価することが生活を主軸とする介護にはそぐわないし、個別行為の積み上げを前提とした介護報酬制度にはなっていません。これは医療保険を適用する訪問看護でも同じです。
    ただ、訪問看護事業所からすれば誰がどのような行為をしたのか可視化しにくいし、よって担当者が入れ替わる中でケアの一貫性を保ちにくいという課題も生じます。そのため現実的には、各ベンダーが記録システム向けに既成のマスターを提供し、訪問看護事業所もこれをそのまま(特にクラウドサービスの場合)、あるいはカスタマイズして(特にサーバ・クライアントシステムの場合)使用することになります。ここで問題になるのは、ベンダーに依存するマスターを持つことでリプレイスする際に他社への移行が困難になること、そして、ベンダーをまたぐデータ活用が難しくなることです。もっともこれらの課題は、電子カルテをはじめ病院情報システムでも長年抱えてきたものです。

    ●看護実践用語標準マスター「在宅領域」とは

    2016年に厚生労働省標準規格となった看護実践用語標準マスターは、〈看護観察編〉と〈看護行為編〉で構成されています。このうち看護行為編は、さらに基本看護実践標準用語と高度専門看護実践標準用語に細分化されています。この高度専門看護実践標準用語の一分野として「在宅領域」(図1)が設けられていることはあまり知られていません。
    ここを病院と在宅で分けるのには、大きな意味があります。看護実践用語標準マスターは、医師の指示で行う医行為は含まれていません。病院の場合、これらの行為の実施主体は、看護師ではなく医師にあります。実際に処置を行うのが医師の指示を受けた看護師だとしても、実施主体は変わりません。よって、これらは前述の「留置カテーテル設置(J063)」のように、処置など別のマスターで定義すべき行為と言えます(なお、留置したカテーテルを管理することは看護行為の一つです)。
    ただ、在宅の場合は、少し毛色が変わってきます。もちろん訪問看護指示書を通じて医師の指示を受けてはいますが(そもそも看護師は医師の指示なしに医行為を行うことはできない)、指示をした医師と指示を受ける看護師は、異なる事業所に属していることが多くあります。つまり訪問看護師は業務上の指示命令を受ける立場にはないので、業務の実施主体としては訪問看護師自身ということになります。そうだとすれば、これらの行為もマスターに積むことが自然です。筆者が特に興味深いと思っているのは、「簡易処置・検査の実施(G257)」です。これは簡易処置・検査器材を用いて、処置・検査を行う「ケア」と定義されています。病院の業務としてはあいまいすぎますが、在宅の業務としてはこうしたフレキシビリティの高い表現が必要な場面もあるでしょう。

    図1 高度専門看護実践標準用語の在宅領域の一例

    図1 高度専門看護実践標準用語の在宅領域の一例

     

    ●標準マスターは使うことで成長する

    もっとも看護実践用語標準マスターは、必ずしも必要な用語が100パーセント網羅された存在ではありません。というよりも、100パーセント網羅することはそもそも不可能です。これは医薬品や検体検査のようにモノの存在を前提とした分野と、看護や介護のようにモノを前提としない生活関連分野との大きな差です。例えば、表面的には「患者の話を聞く」という行為が、目的論では「睡眠の援助」になるような場面が多々あり、この場面でどちらが正しい表現かは一概に言えません。客観的には「話を聞く」が適切に見えるでしょうが、こうした表層的なデータを積み上げても看護師や介護職員が何をしているのか皆目見当がつかなくなってしまいます。この点が、日本看護協会が看護業務指針(2016年版)において、記録は「看護職の思考と行為を示すもの」と述べるゆえんです。だからマスター表現の妥当性は、科学的に担保されたものというより、所定の手続きに従ってコンセンサスを得たものという位置づけです。
    ちなみに、本連載の第18回〔訪問看護システム編(6)〕でも紹介したオンライン診療の"D to P with N"という類型は、まだ標準マスターに収載されていません。現状では「訪問診療支援(H300)」などで表現するしかありませんが、これではニュアンスが変わってしまいます。"D to P with N"を行う訪問看護師が増えれば、当然に登録要望が出てくるでしょうし、こうした要望が標準マスター更新に反映されていくことは言うまでもありません。
    標準マスターは国が開発を進める公器なので、誰でも意見を述べることができます。そして、使って意見を挙げていくことで成長する存在でもあります。ぜひ積極的にご活用いただき、要望をマスターの維持管理受託者(一般財団法人 医療情報システム開発センター:MEDIS-DC)にいただければ幸いです。

     

    *今回教えてくれたのは*
    瀬戸 僚馬(せと りょうま) 東京医療保健大学 医療保健学部 医療情報学科、大学情報マネジメント室
    2001年国際医療福祉大学保健学部卒業。津久井赤十字病院(現・相模原赤十字病院)にて臨床、杏林大学医学部付属病院にて情報システム担当の後、2009年に東京医療保健大学に赴任。現在、同大学医療保健学部医療情報学科教授、大学情報マネジメント室室長補佐。博士(医療福祉経営学)。2012年に第13回日本医療情報学会看護学術大会長、2018年に日本医療マネジメント学会東京支部学術集会長を歴任。2016年から日本医療情報学会看護部会病棟デバイスワーキンググループ長、2017年から一般財団法人医療情報システム開発センターにて看護実践用語標準マスター普及推進作業班主査。

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