WEB REPORTインナービジョン誌掲載記事TOPに戻る GEのWomen's Healthcare


▲ページトップへ


聖路加国際病院の乳がん診療戦略
ブレストセンター”によるチーム医療を推進
中村 聖路加国際病院では2005年5月、“ブレストセンター”を立ち上げ、乳がん診療に携わるスタッフが集結し、1人の患者さんをみんなで診ていくというチーム医療の体制をつくりました。スタッフは、抗がん剤治療を行う医師も含めて乳腺外科医が11名、放射線科医が2名、形成外科医が2名、専任看護師(ブレストケアナース)が4名、専門薬剤師が3名で、ほかに放射線治療医が3名協力してくれています。これらのスタッフは各科に所属しながら、ブレストセンターでは協力しあってコミュニケーションをとりつつ、1人の患者さんを総合的に診療していくことを実践しています。
角田 ブレストセンターでは、中村先生のような主治医を縦糸だとすると、放射線科医や病理医、麻酔医などが横糸を通すような仕事をしています。そうすると、“線”ではなく“面”や“立体”で患者さんを診ることができますし、お互いにチェックしあって、違う見方ができることが非常に大事だと思います。
中村 ブレストセンターをつくったことで、乳がんの診療に必要な情報をセンターに集めて提供できるようになったこと、専門知識を持つ看護師や薬剤師が力を発揮する場ができたことが成果として挙げられます。当院は医師だけでなく、コ・メディカルのみなさんにモチベーションの高い人がたくさんいて、みんなでより良い医療を目指すという気運があります。ここでチーム医療が実践できるのは、みんなの高い志があればこそですね。

▲ページトップへ

ブレストセンターにおける乳がん診療の流れ
画像診断によるていねいな確認がポイント
中村 検診の精査で受診される人がほとんどなので、まずマンモグラフィや超音波検査などを行い、良悪性の鑑別、病変の広がり、がんのタイプなどを画像診断上ある程度推測します。そして、画像ガイド下(ほとんどが超音波ガイド下)に針生検を行って、がんのタイプやホルモンの感受性、発育に関係する受容体の多寡を確認します。これにより、治療戦略が変わってきますから非常に大切です。腫瘍の大きさにより、手術が先か、抗がん剤が先かというコースを決めます。コースによりその都度、関係するスタッフがかかわっていきます。
 手術先行としてスタートした場合でも、外来センチネルリンパ節生検で転移が認められれば手術予定をキャンセルし、抗がん剤治療を半年間ほど行った後に、3か月ごとにMRIや超音波による治療効果判定を行い、最終的に全摘か温存かをディスカッションして決めます。手術前日には超音波検査で切除範囲にマーキングし、切除部位は術中病理検査や術中マンモグラフィ検査で取り残しをチェックします。角田先生との間で、複雑でていねいな情報のキャッチボールを繰り返しています。このように、術前の抗がん剤治療や精密な画像診断による確認を行うことにより、80%に及ぶ乳房温存率が確保できているわけです。また、範囲の広い乳がんで乳房再建手術も同時に行う場合、形成外科医も加わって手術方法を決めていきます。
 患者さんの数だけ複雑な診断・治療の流れがあるわけですが、ブレストセンターがあることで1か所で効率良くチーム医療が行えるようになり、成果が上がっていると思います。

▲ページトップへ

乳がん診療における画像診断の位置付け
各モダリティの特長による使い分け
角田 マンモグラフィと超音波検査の2つは画像診断の基本です。石灰化病変に関しては超音波よりマンモグラフィの方が圧倒的に検出率が良いのですが、高密度なデンスブレストでは超音波の方が有用です。乳管では、石灰化があればマンモグラフィは非常に有用ですが、乳管そのものを見る場合は、超音波の方が圧倒的に有用です。それぞれにメリット、デメリットがあるので、必ず両方行います。
 この基本の上に、CTあるいはMRIを行います。CTは乳房だけでなく、全体を広範囲で短時間に撮れるというメリットがありますが、MRIの方が感度が良いと言われていますので、基本的にはMRIを行っています。また、術前化学療法の効果を見るためにもMRIは必須です。ただ、MRIは必要な時にすぐ撮れるという理想には遠く、順番待ちになってしまうのが現実ですね。
 このほか、超音波ガイド下とマンモグラフィガイド下の針生検がありますが、非常に重要な検査です。マンモトームは2004年からは保険点数もついて、外来で侵襲も少なくできるようになりました。

▲ページトップへ

モダリティの技術革新は乳がん診療に何をもたらすか
3T MRIや分子イメージングへの期待
中村 超音波やマンモグラフィ下の針生検以外に、MRIをガイドにする方法も必要になると思います。われわれ外科医にとっても、患者さんの痛みや傷を最小限に抑えて診断を付けることは目標のひとつですから。
 また、化学療法後の効果判定や残存腫瘍の検出などで、ファンクショナルMRIやMRスペクトロスコピーの応用に興味を持っています。特に、3Tの超高磁場MRIでは、それらがかなり高精度で行えるのではないかと期待しています。

角田 デジタルマンモグラフィは最近の技術革新により、急速に普及してきました。ノルウエーの大規模スクリーニングやアメリカの多施設共同研究などで、デジタルマンモグラフィの有用性が証明され、デンスブレストにはアナログよりデジタルの方が検出能が良いという結果が出たことも、注目された一因かもしれません。当院でもすでに予防医療センターでは、デジタルマンモグラフィによる検査とモニタ診断を行っています。ただ、デジタルマンモグラフィは精度管理が非常に重要ですし、読影法にも一定のルールがありますから、放射線科医はそういう面でのサポートを行う必要があると思います。
 3T MRIはSN比の面でも、拡散強調画像などのアプリケーションの面でも、非常に期待が持てますね。MRIは感度に優れるものの、特異度が少し弱いところがありますので、技術革新によって改善されることが大きく期待されます。
 PETやPET-CTについては、乳がんの検出率を見ても触診と大差がないので、検診に使うことはあまり意味がないと思います。ただ、術後のフォローアップで全身の転移をチェックしたりするのには非常に有効だと言えます。

中村 近い将来、分子イメージング・分子セラピーの臨床応用も期待されます。例えば、がんの新生血管をブロックする治療薬の効果をより早い段階で予測したり、抗体療法の定量的治療効果判定などにPETが役立つ可能性があります。また、CTやMRIの特異的造影剤の開発により、がんの新生血管の変異や多寡の変化を早期に予測することができるかもしれません。
 化学療法が進歩して、技術革新で画像診断の精度も上がると、われわれ外科医の出番が少なくなるかもしれませんが、患者さんにとっては良いことですから、これからは角田先生の役割がますます重要になるでしょうね。

角田 手術のための乳がんの鑑別診断から温存療法のための範囲診断、そして、術前化学療法のための効果判定へと、画像診断に求められる役割は変わってきています。私たちは、日々の進歩や変革に応えなければならない立場に立っているのだと思います。

▲ページトップへ

乳がん診療のHealthcare Re-imagined.とは?
中村 乳がん診療の常識を超えるとしたら、外科手術をしないことを目指すことです。自分のバックグラウンドを放棄することにつながるかもしれませんが、大きな夢ですね。
角田 乳がんは早期発見により確実に治ることは確かです。画像診断による検診が常識になることを願っています。
中村 とにかく、自分の健康は自分で守るという意識を持つことが大事です。人生には3つの坂がある、上り坂と下り坂とまさかという坂だと。まさか自分だけはと思わず、まず始めの一歩を踏み出してほしいですね。


中村清吾先生
聖路加国際病院 ブレストセンター長/乳腺外科部長
1982年千葉大学医学部卒業。同年,聖路加国際病院外科レジデント,89年から外科医幹を務める。93年からは病院情報システム室室長を兼務し,97年にMDアンダーソンがんセンターにて研修後,聖路加国際病院外科副医長。2003年に外科医長を経て,2005年から現職。

角田博子先生
聖路加国際病院放射線科医長
1985年筑波大学医学専門学群卒業。同年、筑波大学附属病院放射線科研修医および医員。89年埼玉小児医療センター放射線科研修医、90年筑波大学附属病院放射線科医員、91年きぬ医師会病院放射線科診療科長、99年東京都立府中病院診療放射線科主事。2002年より聖路加国際病院放射線科医幹、同副医長を経て2005年から現職。

 

 


チーム医療を担うブレストセンターのスタッフ

●お問い合わせ先
GE横河メディカルシステム
カスタマー・コールセンター 0120-202-021
http://www.gehealthcare.co.jp/