Vol. 7 3D画像と動画を無線配信できるPACSをめざして

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1000床を超える当院において、新病棟第一期工事を機に、効率的なフィルムレス運用を1日も早く実現するために、PACSの導入が決定された。システム選定に関しては、選定委員会にて、画像の表示スピード、画像表示機能をはじめ、操作性、信頼性、実績、柔軟性、将来性、費用等を総合的に判断して、GE社の「Centricity PACS」を導入することになった。筆者は一連の選定過程や、ネットワークの構成などの一部にかかわる機会があり、放射線科医の視点から見て、気づいたことを述べる。

久留米大学医学部放射線医学教室
安陪等思

s 無線LANによるユビキタス環境の実現

 導入準備をさまざまな職員と進めていく中で、私の中で重要視していたことが2つあった。1つは、画像と患者、診療医の接点を簡便にすること、もう1つは、大容量のデータを院内の隅々まで配信し、活用できることである。

 ハードコピーとしてのフィルムの手軽さは、ベッドサイドで患者にフィルムを見せながら説明する医師の姿に端的に現れている。その状況を確保するために、病棟を無線LAN環境とし、患者は回診カートの画面で自分自身の情報に接することが可能な状況を作ることを考えた(図1、2)。また、病棟ではカンファランス、回診が日常的に行われるので、その環境において、できるかぎりフィルムの利便性を損なわないようにしようと考えた。従来のカンファランスでは、主治医が症例提示をしている場合に、シャウカステンにかかった多くのフィルムをほかの医師たちは発表者の声に耳を傾けながら観察することができていたが、1例について1モニタでの選択された画像表示になるとそれは困難となる。そこでカンファランス室においても、無線LANを用いてGE社の画像ビューワを手元で参照できるMCA端末(CF-H1:パナソニック社製)の使用環境を整えた。さらに、iPod touch(アップル社製)で参照できるように準備を進めている。その結果、多くの目で観察することで見落としが少なくなるような環境を作ることができた(図3〜5)。

図1 図2 図3 カンファランス風景 大型モニタ1画面で画像を表示
図1,2
無線LAN環境とバッテリ駆動の端末により、ベッドサイドへ移動して患者の情報を閲覧可能
図3 カンファランス風景
    大型モニタ1画面で画像を表示
   
     
図4 カンファランス時に手元で症例の詳細を参照 GE社の画像ビューワを参照できるMCA端末(CF-H1:パナソニック社製)を使用 図5:CF-H1:パナソニック社製 図5:iPod touch(アップル社製)
図4
カンファランス時に手元で症例の詳細を参照
GE社の画像ビューワを参照できるMCA端末
(CF-H1:パナソニック社製)を使用
  図5
  図4のMCA端末と準備中のモバイル表示装置iPod touch(アップル社製)

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s ユーザーの視点でカスタマイズ

 次に、GE社の統合画像システム「Centricity iDIR」をモディファイして、カンファランス用、回診用、その他の選択用に検査を選択しておくことができるようにした。また、選択した検査の中からキーイメージを事前に選ぶことで、プレゼンテーションがスムーズに行えるようにした。キーイメージはパワーポイントに貼り付けて保存することができるようにしたため、使い慣れたソフトウェアで症例提示が行えるようになっている。キーイメージからは元の検査にリンクが貼られており、簡単に一連の画像を参照できるようになっている。また、せっかく選択した画像は、外来に患者が再来した場合や他科を受診した場合には、診療医が容易に参照できる仕組みを組み込んだ。フィルム運用の場合であれば、その症例のすべてのフィルムが入っている袋の中で、選択されたフィルムが別の袋に入れてあり、その中のキーとなるイメージに印がついているような感じである。さらに、カンファランスや回診を 1つのイベントととらえ、事前にイベントごとに症例を登録することができるようにし、イベントの流れを損なわないように工夫した。ユーザーの視点からの注文に応じたカスタマイズが可能な点はありがたかった(図6、7)。

図6 目的別に起動できる画面遷移図 カスタマイズ化されたCentricity iDIR
図6 目的別に起動できる画面遷移図 カスタマイズ化されたCentricity iDIR
 
図7 カンファランスシステムの登録・参照画面
図7 カンファランスシステムの登録・参照画面

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s いつでも、どこでも3D画像を作成・閲覧

 フィルムをなくしてデジタルデータを配信することで得られる最大のメリットは何かというと、最新機器から得られる大容量、高精細のデータを損なうことなく診療に用いることができることであろう。CTもMRIもボリュームデータを排出しているのに、フィルムではそのメリットを享受することができないのである。また、3D画像は作成されたものが静止画であれば(例えば、フィルムに焼き付けると)2D画像であることは自明である。3D画像はモニタ上で動く必要がある。わが国に初導入されたWebビューワの「Centricty RA600DW(Centricity IW)」を用いることで、院内の全端末で3D画像の作成が可能な環境を整備できた。次の課題として、適切に作成された3D画像を動画保存、もしくは多方向から自在に観察できるものとして保存、活用できるように、「Centricity CDS」 を用いたシステム構築を行うことにしている。

 もう1つの課題としては、レポートを介しての読影医と臨床医とのコミュニケーション構築があると思っている。これは、業務の効率化と診療の質の向上ともに、将来的には遠隔画像診断における欠点を補うツールとなると思われる。


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s 当院の事情とCentricity PACSへの期待

 本来、電子カルテやオーダリングが整備され、RISが整った上でのPACSというのが正しい姿なのかもしれないが、当院では電子カルテと画像診断についてのオーダリングはなく、RISとの連携も不完全な状況でのPACS運用となった。そのような状況においては、人のコミュニケーションが不足すると、あちこちで不平不満、そして、思わぬ事態が発生することもある。大規模なシステムの導入に際しては、十分な組織作りが大切であると痛感した。

 一方、初めて導入する場合は全体図を描くことは困難であり、その隅々までを把握することも困難である。今回の導入に当たっては、製品の柔軟性を重視した点は良かったと思っている。ただし、GE社製品のラインナップの多さと多機能であるがゆえの問題でもあるが、操作性の統一と機能の統合が望まれる。今後も、国内ユーザーの意見やニーズを十分に吸い取り、さらなる進化を望みたい。

 稼働したばかりではあるが、当院におけるCentricity PACSが成長し、成熟することに期待している。

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GE社のPACSについてはこちらをご参照ください。

●お問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
(2009年8月1日より社名が変更になりました)
〒191-8503 東京都日野市旭が丘4-7-127 TEL 0120-202-021(カスタマー・コールセンター)
http://www.gehealthcare.co.jp