Vol.8 新たな乳がん専門クリニックの誕生 ─三河乳がんクリニックの挑戦 三河乳がんクリニック 水谷三浩/ 將z則正

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三河乳がんクリニック(以下、MBCC)は、東海地区初の乳がん専門の有床診療施設として2009年春、愛知県安城市に誕生した(図1)。MBCCが目指すところは、乳がんクリニックの名にふさわしいがん専門施設・組織を築き上げることである。そのためには、プロフェッショナルとしての学識と技量を持った人材(医師・技師・薬剤師・看護師などすべて)、および精密で技術力の高い専用機器などの設備が求められる。「臨床、研究、教育」を3本の柱に据えながら、真の専門家から構成される乳がん医療チームを育て創り上げることが、開設者であり臨床の責任者たる筆者(水谷)の使命と考えている。本稿では、MBCCの概要について紹介する。

三河乳がんクリニック
水谷三浩/ 將z則正

図1 三河乳がんクリニック外観
図1 三河乳がんクリニック外観

s MBCCの特徴

1.開設の理念

乳がん医療専門施設として、MBCCでは、以下のような開設の理念を掲げている。
 ・高水準の乳がん診療によって乳がん死ゼロを目指す。
 ・乳がんの医療の全経過において責任をもって担当する。
 ・どんな時も患者を中心に考えた乳がん診療を徹底する。
 ・温かく優しい手作りの医療をスタッフ一同で実践する。
 ・患者のこころのケアも含めた全人的医療に取り組む。

2.シンボル

  図2は、筆者が考案したMBCCのシンボル“ダブルリボン”である。1つ目のピンクリボンの輪は乳がん患者とその家族を、そして2つ目の輪はわれわれクリニックのスタッフを表している。この両者(2つの輪)が手をつないで1つのチームを構成し、患者一人ひとりの乳がん診療に最善を尽くしていくという、MBCCスタッフの取り組みとその姿勢の象徴である。

図2 三河乳がんクリニックのシンボル“ダブルリボン”
図2 三河乳がんクリニックのシンボル
“ダブルリボン”


3.ヒーリングアイテム(丹羽善久氏の作品など)の導入

 葛藤を重ねるうちに、がん患者の多くは深い孤独感にとらわれ、自己の存在に懐疑的にすらなってしまうことがある。消耗しきっている患者にとって、MBCCは癒しと憩いの空間たり得えないだろうか。この困難な命題を解決することも、MBCCの重要課題として考えている。その上で、充実した専門スタッフの育成と配置が最も本質的事項であることは論を待たない。さらに、MBCCでは、傷つき疲れた心を和ませてくれる数々のアイテムも取り入れた。丹羽善久氏(通称“ぜんきゅうさん”)の作品(図3)は、その最たるものである。同氏は、愛知県在住のアーティストであり、柔らかく温かみのある絵と文字を組合わせた作品で知られる。同氏の厚意あふれるご協力のもと、作品を多数展示した。このほかにも、土や木の温もりが感じられるような調度品〔信楽焼の洗面や浴槽、飛騨の匠の家具など(図4)〕も随所に設置した。

図3 “ぜんきゅうさん”の作品がお出迎えする
図3 “ぜんきゅうさん”の作品がお出迎えする

図4 クリニック内観
図4 クリニック内観

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s 高水準の乳がん診療の展開

 MBCCでは、高水準の乳がん診療を実践できる診療システムの構築を目指している。言い換えると、個別化、適正化が十分に検討された診療(EBM)を、日々の臨床で展開できるシステムを作り上げたい。具体的には、画像診断による乳がんの発見・診断に始まる手術から薬物治療、放射線治療といった一連のプロセスのすべてが重要なステップであり、それぞれの過程の精度を検証し管理していくことである。

 実際に、乳がん専門施設に期待されるのは、診断・治療ともに一般病院では難しい症例への対処であろう。そのために不可欠な医療機器については、最新かつ最高水準の装置を整備した。乳がん診療において、マンモグラフィと超音波はルーチン検査として位置付けられると同時に、存在診断、鑑別診断として最も基本となる重要な検査法である。これらの検査機器の導入については、非常にこだわり決して妥協しなかった。その一方で、CT、MRI、RIなどの大型診断機器については、あえて導入しなかった。当面は、高性能機器類を保有し、患者に至便性がある基幹病院に依頼することとし、いわば贅肉を削ぎ落としてのスタートである。


 マンモグラフィはGE社製「Senographe DS LaVerite」(図5)を、超音波診断装置は同じくGE社製の「LOGIQ E9」(図6)と「LOGIQ 7」を採用した。Senographe DS LaVeriteは、スクリーニングからステレオ生検までのあらゆる乳房画像診断に対応できる、フラットパネルディテクタ(FPD)を搭載したフルデジタルマンモグラフィである。撮影においてはスループットが良く、1人あたり従来の装置の半分程度の時間で終了できる。なお、唯一同装置に搭載されているモリブデン/ロジウムの二重陽極(GE特許)と、新開発のFine View技術によって、低被ばくでも高画質画像が保証されている。ステレオ生検においては、精度が高い位置決めシステムと、側臥位での検査を可能にするDBIテーブルとの組み合わせにより、被検者の安定した体位で、正確かつ効率的に検査することが可能となった。加えて、ステレオ生検時の視認エリアが広いため、穿刺方向を縦横両方向から選択することもできる。これにより、最も傷の目立たない方向から、また、施行者が最もアクセスしやすい方向からアプローチすることも可能である。

図5 Senographe DS LaVerite
図5 Senographe DS LaVerite

図6 新しい愛機 LOGIQ E 9 と筆者(水谷)
図6 新しい愛機 LOGIQ E 9 と筆者(水谷)

 ところで、DSとはフランス語で“女神”、LaVeriteは“その真実”という意味なのだそうだ。良性か悪性か、真実を追究するための質の高いバイオプシーの実現を目指したGE社の意気込みが強く感じられるネーミングである。周知のように、うつ伏せで施行するステレオバイオプシー装置は専用装置であり、相当高価な上に、かなりの占有スペースを要する。一方、座位で受けるステレオ生検は、被検者の精神的・肉体的負担が軽視できないため、どちらも一長一短があった。しかし、Senographe DS LaVeriteでは、側臥位でのステレオ生検という独自の手法で明快な答えを出した。今後、MBCCで多数の症例を蓄積し、同装置の有効性について報告したい。

  次に超音波について、筆者はこれまでに愛知県がんセンター中央病院で「LOGIQ 700」を、続いて同愛知病院では「LOGIQ 9」を愛機として使い込んできた、いや戦友としてまさに乳がんと闘ってきたという深い思い入れがある。LOGIQ E9はこれらの後継機種であり、図6のように、とてもコンパクトながらGE社の誇る最新のフラッグシップマシンである。同装置では、浅部から深部まで均一な画像が得られるビームフォーマーと、プローブの広帯域、高感度を実現するAcoustic Amplifier技術により、さらなる高画質が実現されている。また、人間工学的にも検査担当者に優しい設計を採用し、操作性にも最大限の配慮がなされているようだ。加えて、筆者もこれまで高く評価してきた、厚み方向のビームを制御するマトリクスアレイプローブや、保存画像からでも加工が可能なRAW Data技術も踏襲されており、完成度の高い装置に仕上がっている。これらの選定は、クリニックを受診される患者およびスタッフに対し、その期待と責任に応えるべく内容を徹底的に吟味し追究した上での選択であり、必然的結果と考えている。


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s おわりに

 現在は、医療に対し非常に厳しく批判的、かつ辛辣な評価がなされる時代である。効率化を徹底し、適切に収益を上げて健全運営を実現すると同時にリスクマネージメントにも心を砕き、トラブルを最小限にとどめることが、病院事業においても必要不可欠と考えられる。厳しい医療情勢の最中ではあるが、患者を絶えず中心に据え、患者の期待する高水準の医療サービスを提供できるならば、患者や社会が病院組織を守ってくれるものと筆者は固く信じている。院内外の関係者のご理解とご支持を得て“わかり合い高め合う”乳がん医療チームが結成され、MBCCが安城の地から日本へ、世界へと発信しうる組織となることを、心から願うものである。


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GE社の超音波についてはこちらをご参照ください。

●お問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
(2009年8月1日より社名が変更になりました)
〒191-8503 東京都日野市旭が丘4-7-127 TEL 0120-202-021(カスタマー・コールセンター)
http://www.gehealthcare.co.jp