最新型PET/CT「Discovery PET/CT 600 Motion」−Motion Free PET/CTの有用性

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PET/CTの融合画像は臨床診断に有用であるが、時にPETとCT画像のズレが問題となる。特に横隔膜近傍病変では、呼吸性移動によるズレの頻度が高くなる。この呼吸性移動の問題を解決できる装置として、GE社製『Discovery PET/CT 600 Motion』(図1)が発売された。この装置の最大の特長は、PETとCT双方で呼吸同期収集を行い、分割した同一位相ごとに吸収補正と画像融合を行う「Motion Match」と名づけられている技術である。2009年8月、当施設では全国に先駆けてこの装置を導入したので、以下に使用経験を報告する。

厚地記念放射線医学研究所 厚地記念クリニック・PET画像診断センター
陣之内正史

図1 Discovery PET/CT 600 Motion
図1 Discovery PET/CT 600 Motion

s Discovery PET/CT 600 Motionのスペックと評価結果

 同装置のスペックとしては、リングのボア径が700mmで、従来のDiscovery ST(DST)シリーズと同じであるが、リング径が810mmと、DSTシリーズの886mmより小さくなり、感度が改善している。これは、臨床における腫瘍PET検査のほとんどが3D収集で行われていることに考慮して、2D収集用のセプタを省いたことによる。3D専用としたのは、ノイズ成分の推定アルゴリズムの開発が進み、VUE Point Plusのような画質・定量精度の高い三次元逐次近似画像再構成法が出てきた結果でもある。クリスタルはBGO 4.7mm×6.3mm×30mm厚で(Discovery ST Eliteと同じ)、検出器は8×6matrix/block×256blocksである。
  収集モードは上記のとおり、3D専用でDynamic収集やリストモード収集も標準装備となっている。CT部分は、16列検出器のBrightSpeed Elite Proである。
  詳細は割愛するが、当施設で測定した感度、空間分解能、計数率特性(Peak NECR)、散乱成分比率、および画質のいずれも定格を満たしていた。特に、感度とNECRは定格以上の優れた結果であった。

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s 臨床画像

 スタティックでの全身像は、最長180cmまでの収集が可能で、1ベッド1分でも診断可能な画質が得られる(図2)。また、小さい病変も明瞭に描出できた(図3)。
 さらに、この装置の特長として、ベッドごとに収集時間を変えるフレーム毎可変収集が可能なこと、加えてその応用として、全身像収集の中で、横隔膜近傍の任意フレームを呼吸同期同時収集可能なことがある。

図2 収集時間による画像比較
図2 収集時間による画像比較
リストモードを使用してレトロスペクティブに画像再構成処理
図3 全身像で小さい病変も描出可能
図3 全身像で小さい病変も描出可能

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s 呼吸同期、Motion Matchの実際

 胸部〜上腹部、特に横隔膜近傍における呼吸性移動の問題を解決する方法として、GEでは、“Motion Free PET/CT”というコンセプトで呼吸同期収集を提案してきた。これは、呼吸同期PETと呼吸同期シネCTを用いて、呼吸位相ごとに吸収補正を行い、微小病変の確実な描出と定量精度を高める“Motion Match”技術である。今回、導入した最新のPET/CTは、このMotion Matchを自動化し、ルーチンでの検査を現実化できる装置となっている。

1.呼吸情報収集装置とデータ収集
  呼吸情報は、バリアン社製の呼吸監視装置(Real-time Positioning Management System:RPM)を用いて、CTとPETを同時に収集している。具体的には、胸部または上腹部の上に置いたターゲットが上下する位置情報を、PETテーブルの末端に置いたカメラで収集し、専用パソコン上にサイン曲線として得る(図4)。CTの場合、X線照射情報をRPM波形データに書き込み、その波形データをコンソールに転送してCT画像の位相分割を行う。PETの場合は、RPMからトリガー信号を得てゲート収集を行うことにより位相分割を行う。最後に画像再構成を行うが、あらかじめCTおよびPETの分割数をそろえることにより、自動で位相ごとのフェーズマッチ(位相の合わせ込み=Motion Match)を行うことが可能となる。

2.PET/CTの追加PARC(PET Acquisition Reconstruction Computer)システム
  呼吸同期の膨大なデータを短時間で処理するためのシステムである。

3.シネCT収集
  CTはコンベンショナルでの連続撮影を行う。ヘリカル撮影と違ってテーブルが動かないので、より精度の高い呼吸同期CT撮影を行うことが可能である。16列CTでは2cmのスキャン範囲を1呼吸で収集する。PETの1スキャン範囲に相当する16cmをカバーする場合は8呼吸分(8スキャン)必要で、呼吸の長さによるが、30秒前後のCT撮影時間となる。

4.リストモードPET収集
  PETはサイノグラムに時間データを付与できるリストモード収集を行う。1スキャン範囲を10分間程度でデータ収集を行う。CTとPETのデータ収集時間は合計で十数分である。2スキャンする場合には、20分程度で終了できるように、PET収集時間をやや短縮している。

5.Motion Match
  PETをリストモードで収集しているため、呼吸位相はレトロスペクティブに任意に分割できるが、当施設では、呼気終末で横隔膜が動いていない位相をとらえるために奇数分割が望ましいと考え、5分割としている。CTとPETの5位相分の再構成画像を作成し、位相ごとに吸収補正を行い(Motion Match)、5セットのPET/CT画像ができることになる。従来、この処理は煩雑なワークフローで、また、画像再構成の時間がかかっていたことなどから研究利用レベルにとどまっていた。しかし、本装置ではコンソール上で位相分割とシリーズ化を自動で行えるようになったことで大幅にワークフローを改善したこと、上記のPARCにより、画像再構成時間が短縮(1フレームあたり最短40秒)されたことにより、トータルの処理時間は5分程度になっている。

6.同期画像表示
  データ収集処理コンソール上では、融合画像の動画表示が可能である。診断用のワークステーション(Advantage WorkstationとXeleris)では、融合画像の動画表示が自動でないため、現時点ではマニュアルで作成する必要がある。この点、新しいバージョンのAdvantage Workstation(Volume Share4)では、自動化ソフトがオプション設定されるということである。

図4 呼吸監視装置RPM(バリアン社製)
図4 呼吸監視装置RPM(バリアン社製)

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s 呼吸同期の経験例

 2009年8月の導入から9月までの約1か月間に、30例の呼吸同期(Motion Match)を行った。同期が成功する割合は75%程度であり、呼吸の安定しない例や眠ってしまう例では、同期がうまくいかない場合があった。
 同期画像を分割すると、位相によって集積程度が異なる。これは呼吸性移動の一部を画像化しているためであり、移動の大きい位相では、ボケによって集積が低下することになる。5分割の場合、集積が最も高くなる位相は、2〜3相のことが多かった。高集積位相でのSUVは、肺野病変の場合、合算像に比べて平均20〜30%程度増加し、小さい病変ほど補正効果が大きいことがわかった。図5に、その一例を示す。
 また、呼吸同期で得られた融合画像の動画を見ていて、肺野病変が上下だけではなく前後にも動いていることがわかり(図6)、正直なところ驚いた。また、腹部病変も同様で、肝病変の呼吸性移動は当然であるが、後腹膜の膵臓や副腎も同様に動いていることが確認できた。今後、PET診断報告書には、このような病変の動きについても記載する必要性がありそうだ。

図5 左肺上葉S1+2外側の小結節(転移)
図5 左肺上葉S1+2外側の小結節(転移)
同期ではSUVが高値として描出される。
(PET journal NO.8 2009 WINTERより引用)
図6 両肺多発転移
図6 両肺多発転移
上段は左肺上葉と下葉の病変で、下段は右肺上葉の病変。それぞれ左から呼気時、吸気時で、右はその2つを重ねた画像である。いずれも上下、前後に動いているのがわかる。特に左肺上葉と右肺上葉の病変は、上下よりも前後の動きが大きい。(PET journal NO.8 2009 WINTERより引用)

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s まとめ:呼吸同期の意義と有用性

 呼吸同期をすることによりPETとCTのズレがなくなり、PET/CT融合画像の視覚的な診断が容易となる。定量性も改善し、呼吸性移動による集積のボケがなく、SUVの過小評価が改善されることになる。これまで、肺野の小病変では部分容積効果に加え、動きによりSUVが過小評価されていたが、呼吸同期のデータによって良悪性の判断基準が変わる可能性もある。
 また、PET/CT融合画像の動画情報は、定位放射線治療計画への応用が期待される。

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s おわりに

 GE社の最新PET/CTであるDiscovery PET/CT 600 Motionは、ルーチン検査で大事な全身スキャンや局所スキャンの画質は良好であり、1ベッドあたり1分収集でも診断可能なレベルの画像が得られた。
  また、最大の特長である呼吸同期は、10分程度のデータ収集と5分のMotion Match処理により、各位相で吸収補正された同期画像が得られ、ルーチンでの臨床利用が可能である。

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GE社のPET-CTについてはこちらをご参照ください。

●お問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
(2009年8月1日より社名が変更になりました)
〒191-8503 東京都日野市旭が丘4-7-127 TEL 0120-202-021(カスタマー・コールセンター)
http://www.gehealthcare.co.jp