CCT2010ランチョンセミナー「心臓カテーテルによる再生医療」

healthymagination series

重症心不全患者に対する心筋再生医療の確立に向けて
〜自己心筋幹細胞の可能性〜

竹原 有史
旭川医科大学心血管再生・先端医療開発講座

  竹原 有史   座長:京都府立医科大学大学院医学研究科循環器内科学教授 松原弘明氏(右),米国セコイア病院 日野原知明氏
竹原 有史
旭川医科大学心血管再生・先端医療開発講座
1992年自治医科大学卒,旭川医科大学循環器内科,京都大学探索医療センター開発部などを経て,2008年より現職。京都府立医科大学循環器内科客員講師を兼務
座長:京都府立医科大学大学院医学研究科循環器内科学教授 松原弘明氏(右),米国セコイア病院 日野原知明氏

CCT(Complex Cardiovascular Therapeutics)2010が,1月28日(木)〜30日(土)に神戸国際展示場を中心に開催された。29日にGEヘルスケア・ジャパンが共催したランチョンセミナー「心臓カテーテルによる再生医療」では,重症心不全に対する最先端の治療法として注目される心筋再生治療について,旭川医科大学心血管再生・先端医療開発講座の竹原有史氏とSkirball Center for Cardiovascular Research,The Cardiovascular Research FoundationのJ.F.Granada氏が講演した。

 

s 心臓に対する再生医療の取り組み

 心臓に対する再生医療は,2000年前後から本格的に始まり,2006年から2007年に発表された骨髄細胞を使用した急性心筋梗塞に対する細胞治療のトライアルでは,3〜5%の心機能の改善が確認された(図1)。ただし,虚血性心疾患の血管新生治療としては効果が認められたが,慢性心筋梗塞に対しては良い成績は出ていない。2008年の骨格筋芽細胞を使ったトライアルも同様に,心臓の組織の修復に必要な心筋細胞への分化の程度が低かったことから,心機能の改善効果は明らかではない。
  2006年に京都大学の山中伸弥教授がヒトのiPS細胞の作成に成功し,ES細胞に匹敵するセル・ソースとして一躍注目を浴びた。ヒト皮膚線維芽細胞から生成したiPS細胞は,心筋に分化すると心筋の転写因子が発現することが確認されているが,由来細胞の種類によって奇形腫をつくりやすい問題がある。体細胞組織由来のiPS細胞では,わずか0.019%の分化抵抗性の細胞が残っていても奇形腫が形成されるという報告がある。
  一方で,心臓は再生しない臓器だと考えられてきたが,2009年の“Science”で発表されたBergmann O.らのレポートによると,14Cを使った炭素年代法による心臓の心筋細胞年齢の測定で,70歳までに約50%の心筋細胞が新しく置き換っていることが明らかになった。心臓には自己複製をする細胞があり,そのソースとして心筋幹細胞が心筋細胞に分化していることが示唆された。

図1 重症心不全に対する細胞治療のアプローチ
図1 重症心不全に対する細胞治療のアプローチ

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s 心筋幹細胞の単離・培養に成功

 このような背景から,われわれは2002年から心臓の幹細胞を用いた心筋再生の研究に取り組み,マウスの心臓の細胞から心筋幹細胞を単離し,培養することに成功した。心臓の組織を無血清培地で浮遊培養を行うことで,スフェロイドを形成する細胞群(Cardiosphere-derived stem cells:CSC)を取得できる。CSCは,浮遊培養後,接着培養を行うと増殖性の強い細胞になる。Geneマーカーでは,異なる10個のクローンからiPS細胞のような未分化の転写因子を確認できた。CSCでは,骨髄細胞からの培養細胞にはない,心筋の初期の転写因子を持つクローンが複数確認され,これが心筋細胞にコミットしやすい特徴だと考えられる。CSCの幹細胞としての性格は,平滑筋・内皮,軟骨などの細胞への多分化能があり,心筋細胞として分化させた場合,活動電位を呈する収縮心筋細胞になることが確認できた。
  次に,このCSCが重症心不全患者の心臓組織から採取・培養が可能かを検討した。対象は,年齢68〜82歳,虚血性心疾患4例,心臓弁膜症1例で,心不全症状分類(NYHA)のクラスUおよびVの重症患者である。心筋生検で採取した細胞を,細胞の生着率を高める成長因子であるbFGFを加えて培養すると,6〜8週で約1億個まで増殖する。この細胞のクオリティを調べたところ,健常細胞からのstem cellと同等であることが確認された。
  次に,この細胞を移植したときの効果を確認する実験を行った(図2)。ブタの慢性虚血不全心モデルを用いた前臨床試験(GLP基準適合)で,プラセボ群,bFGFとCSCを投与する群,bFGF単独群で比較した。bFGFとCSCを直接心筋注した群では,移植部位でヒト心筋トロポニンI(cTnI)タンパクが陽性になる心筋細胞が見え,FISH(in situ ハイブリタイゼーション)でも,ブタの心筋細胞にヒトのY染色体が確認でき,移植細胞がブタの心筋内でヒトの心筋細胞に分化したことがわかる。心筋細胞の増加を,心筋のdensityで比較すると,プラセボ群に比べて約2倍,再生心筋細胞の20%以上が,移植したヒト心筋幹細胞由来の分化心筋細胞であることが確認できた。

図2 ブタの慢性虚血不全心モデルにおけるCSCの心筋分化
図2 ブタの慢性虚血不全心モデルにおけるCSCの心筋分化

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s 重症心不全患者の臨床試験を開始

 これらの成果を受けて,臨床フェーズへの適用の方向性を検討した。重症心不全では,特発性・拡張型の心筋症で人工心臓の装着や心移植が必要な症例と,重症の虚血性心筋症が考えられるが,今回のスタディではCABGや左室形成術を行っても予後の改善が見られない重症の虚血性心筋症患者を対象にした。
  スタディ名は,「ALCADIA(AutoLogous human CArdiac-Derived stem cell to treat Ischemic cArdiomyopathy )」で,京都府立医科大学医学倫理審査委員会,厚生労働省ヒト幹細胞臨床試験指針に従い,神戸臨床情報研究センターとの共同研究で作成されたプロトコルに基づいた第T相臨床試験として2009年9月に厚生労働省科学技術部会の承認を受けた。文部科学省・経済産業省・NEDO橋渡し研究推進合同事業(2009年〜2013年)に採択され,日本のUMINと国際臨床試験登録機関(ClinicalTrials.gov)に登録している。現在,京都府立医科大学を中心にリクルートを行っており,国立循環器病センター,旭川医科大学などと共同研究を行う予定だ。スタディの適応および適応除外の条件は図3のとおりだが,細胞移植に対する心筋バイアビリティはMRIで評価し,エコーで心機能を評価してエントリーを行う。
  スタディのスキームは,入院後,患者から生検鉗子で心臓の組織を採取し,その組織を高度に管理されたCell processing centerで培養し,約1億個まで増殖する。CABG手術中に開胸下で,培養した細胞の移植と,生着を促進するbFGFゼラチンハイドロゲルシートの投与を行う。経過が良ければ,4週間後に退院,6か月後にMRIとエコーで評価する(図4)。

図3 ALCADIAの適応患者の条件と除外条件
図3 ALCADIAの適応患者の条件と除外条件
 
図4 ALCADIAのスタディ・スキーム
図4 ALCADIAのスタディ・スキーム

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s 障害心筋への細胞投与方法が課題

 今後の心筋再生治療の課題は,細胞の種類にかかわらず,効果的な細胞の投与方法の検討だ。2009年のレポートでは,CABGとヒト骨髄細胞移植を併用した治療で,冠動脈からの投与と心筋への直接投与を比較したところ,冠動脈からのアプローチではほとんど生着せず,心機能の改善も見られなかった。われわれの自己心臓由来心筋幹細胞においても,直接心筋投与の妥当性を検討していくことが必要だと考えている。
  今回のスタディでは,重症の虚血性心筋症において自己心臓由来の心筋幹細胞治療の効果と安全性を明らかにすることが目的だが,将来的に効果が明らかになれば,心臓移植を必要とする拡張型心筋症などへの適応拡大を図っていきたいと考えている。その際に,開胸ではなく,カテーテルを使った病変部への直接投与などが可能になれば,さらに低侵襲の治療が可能になるのではと期待している。


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●CCT2010
循環器領域の運用を支援するモダリティやシステムを展示
 
 (株)GEヘルスケア・ジャパンは,CCT2010(1月28日〜30日,神戸国際展示場ほか)に出展し,循環器領域の運用に合わせたシステムを中心に,ワークステーションとモニタを使って展示を構成した。
 モダリティでは,血管撮影装置「Innovaシリーズ」のワークステーション,「Discovery CT 750HD」による心臓領域のさまざまな画像を,3Dワークステーション「Advantage Workstation VolumeShare4 XT」の画像処理を含めて紹介した。
 また,ネットワーク系では,循環器部門のデータマネジメントシステム「Centricity Cardiology Xi2」,循環器領域専用画像解析ワークステーション「Centricity CA1000」などを展示。Centricity Cardiology Xi2では,アンギオの動画像,CTやMRIのDICOM画像,心電図などの波形データやその他の数値データなどを一元管理し,電子カルテなど病院情報システムとリンクして,トータルに循環器部門のデータマネジメントを行うことができる。さらに,Centricity Webによって院内の端末から画像やレポートを参照でき,これまで病院情報システムとの連携が難しかった循環器のデータを,病院全体で共有を可能にすることをアピールした。
 
ブース全景
ブース全景
血管撮影装置「Innovaシリーズ」をワークステーションで展示
血管撮影装置「Innovaシリーズ」を
ワークステーションで展示
マンモグラフィ用ワークステーション「SenoAdvantage2.1」
「Discovery CT 750HD」による心臓画像を紹介。
左が3Dワークステーション
「Advantage Workstation VolumeShare4 XT」
     
「Discovery CT 750HD」の心臓,血管系のアプリケーションや画像をプレゼンテーションで紹介
「Discovery CT 750HD」の心臓,血管系の
アプリケーションや画像をプレゼンテーションで紹介
循環器部門のIT化を進めるシステムを展示。データマネジメントシステム「Centricity Cardiology Xi2」と「Centricity CA1000」
循環器部門のIT化を進めるシステムを展示。
データマネジメントシステム「Centricity Cardiology Xi2」と「Centricity CA1000」
 

●お問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
〒191-8503 東京都日野市旭が丘4-7-127 TEL 0120-202-021(カスタマー・コールセンター)
http://www.gehealthcare.co.jp