第24回腹部放射線研究会イブニングセミナー

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第24回腹部放射線研究会が6月11日(金),12日(土)の2日間,軽井沢プリンスホテル ウエスト(長野)において開催された。11日に行われたGEヘルスケア・ジャパン共催のイブニングセミナーでは,横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター准教授の沼田和司氏が肝臓の超音波診断について,神戸大学医学部附属病院放射線科の三宅基隆氏がCTコロノグラフィーについて講演を行った。

肝臓病変における超音波の最新情報

沼田 和司
横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター准教授

  沼田和司 横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター准教授
沼田 和司
横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター准教授 1985年信州大学医学部卒業後,横浜市立大学附属病院研修医。同大学附属病院第三内科,国立がんセンター病院,都立老人医療センター消化器内科,横浜市立大学附属病院第三内科助手,横浜市立大学附属病院臨床検査部助手,同大学附属市民総合医療センター消化器病センター助手などを経て,2006年より現職。

高分化型肝細胞がんの場合,ソナゾイド造影超音波(以下,造影超音波)を使用したとしても,Kupffer細胞を有するため晩期相で等信号となり,病変の同定が困難な場合がある。また,超音波は時間分解能が高く,リアルタイムに病変を検出することが可能だが,肝硬変が進行して多数の結節を肝臓内に認める場合は,標的病変の同定が困難である。一方,Gd-EOB-DTPA造影MRIは,CTAPよりも高い肝がん検出能を有することが多くの論文で報告されており,特に,肝細胞相は早期肝がんの検出に最も優れた検査法であるとされている。そこで,当院で使用している「LOGIQ E9」(GE社製)に搭載されている“Volume Navigation”機能を使用し,Gd-EOB-DTPA造影MRIの肝細胞相をもとに,超音波で肝細胞がん(HCC)の存在診断能を向上することが可能かどうかについて検討した。


s Volume Navigation機能

Volume Navigationは,CTやMRIのボリュームデータを超音波診断装置にインストールし,磁気センサーで超音波画像とCTやMRIの画像を位置合わせして同期(Fusion)させ,同一画面上で観察可能にするソフトウエアである。CTでは同定困難,かつ超音波Bモードのみではなかなか検出できない病変でも, Gd-EOB-DTPA造影MRIを参照することで,Bモードで容易に同定可能となる(図1)。Volume Navigationには,マーキングした病変の位置を常にトラッキングして表示するGPS機能も搭載されており,画像Fusion後にMRI画像上の病変にマーキングすれば,超音波画像の同じ位置にも緑色のマークが表示される。このマークは,超音波の視野が標的病変から離れ,距離が遠くなるほど大きくなるので,位置関係がわかりやすい。また,Gd-EOB-DTPA造影MRIでは,腫瘍と脈管が同時に描出されることから,超音波ガイド下に穿刺を行う際には穿刺ラインと脈管との位置関係が正確に把握でき,穿刺のガイドとしても有用である。このほか,Volume Navigationはマイクロコンベックスプローブにも対応しており,広範囲の観察と,よりスムーズな穿刺が可能となる。
逆に,Gd-EOB-DTPA造影MRIでは境界不明瞭な病変でも,Volume Navigationで超音波画像とFusionさせれば同定することができる。さらに,Gd-EOB-DTPA造影MRIの肝細胞相で低信号となり,HCCと区別のつきにくい嚢胞は,超音波では後方エコーが増強するため診断が容易なほか,肝内門脈肝静脈短絡症(PV shunt)についてもカラードプラにて鑑別可能である。

図1 Volume NavigationのFusion機能
図1 Volume NavigationのFusion機能
超音波BモードとGd-EOB-DTPA造影MRI画像をFusionさせることで,Bモード単独では同定困難な病変でも容易に同定可能となる。

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s Fusion画像を用いたHCC検出能の検討

前述のとおり,Volume Navigationによって超音波画像とGd-EOB-DTPA造影MRIをFusionさせることで,それぞれの長所が引き出せれば,より多くのHCCが検出可能になると考えている。そこで,実際の症例で検討してみた。

1.検討方法
方法は,超音波BモードとCT(単純CTと造影3相)を撮影し,所見のあった症例についてはGd-EOB-DTPA造影MRIの肝細胞相(T1強調像),およびT2強調像,拡散強調像を撮像した。次に, BモードとGd-EOB-DTPA造影MRIのFusion画像を作成し,Bモード,造影超音波,造影CTとそれぞれ対比させた。本検討では,多血性HCC以外の病変については,可能なかぎり生検を行った。

2.対象
上記の方法で検出し,米国肝臓病学会(American Association for the Study of Liver Diseases:AASLD)のガイドラインに則って診断したHCCは84結節であった。このうち,画像診断のみで検出できた1〜2cmのHCCは43結節,2cm以上のHCCは26結節で,画像診断のみではHCCと診断できなかった15結節は生検でHCCと診断した。平均腫瘍径は1.8cmであった。

3.症例提示
症例は,造影CTにてS6にhypervascularなHCCが認められたが,S7の病変が検出できなかった例である(図2)。超音波Bモード単独では,内部エコーが不均一であり,同定困難であった。そこで,別の角度のGd-EOB-DTPA造影MRIで描出された脈管を目安にして超音波の位置合わせを行い,じっくり観察すると,Gd-EOB-DTPA造影MRIで検出された病変に相当する位置に超音波でも病変が認められた(図3 ▼)。造影超音波の21秒後の早期相では,同病変は早期濃染像を呈し(図4 ▲),その後の晩期相でwashoutを呈した。造影超音波では小さいが典型的な肝がんと診断した。患者さんは,すぐには治療を希望しなかったため経過観察となった。その後,同病変が造影CTでの早期濃染像とwash outを呈したため,造影CTでも典型的な肝がんと診断され,ラジオ波熱焼灼療法(RFA)が施行された。造影超音波では,1つの病変を経時的に観察可能で,血流の有無を非常に明瞭にとらえることができる。

図2 症例提示:造影CTにてS6にhypervascularなHCCが認められたが,S7の病変が検出できなかった例
図2 症例提示:造影CTにてS6にhypervascularなHCCが認められたが,S7の病変が検出できなかった例
a:造影CT動脈相。S7のHCCは同定不可
b:Gd-EOB-DTPA造影MRI肝細胞相
図3 図2の症例の超音波Bモード(a)およびGd-EOB-DTPA造影MRI(b)のFusion画像
図3 図2の症例の超音波Bモード(a)およびGd-EOB-DTPA造影MRI(b)のFusion画像
図4 図2の症例の造影超音波(a)およびGd-EOB-DTPA造影MRI(b)のFusion画像
図4 図2の症例の造影超音波(a)およびGd-EOB-DTPA造影MRI(b)のFusion画像

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s まとめ

今回検討を行った84結節中,Gd-EOB-DTPA造影MRIとFusionした超音波Bモードで検出できたのは83結節で,検出率は99%であった。そこで,他の画像と比較してみると,Bモード単独では検出率は77%(65結節)であった。また,造影超音波単独では,晩期相で欠損像となった病変を存在診断可能と定義すると,検出率は86%(72結節)であった。造影CT単独においても,平衡相でwashoutされた像を存在診断可能と定義すると,検出率は92%(77結節)であった。ただし,造影CTについては,母集団に早期HCCが多かったため,かろうじて有意差が出たということであり,中分化型HCCのみであれば,それほど差はないと思われる。今回の検討では,Gd-EOB-DTPA造影MRIとBモードのFusion画像は,Bモード単独,造影超音波単独,造影CT単独と比較して,より多くのHCC病変を検出できることがわかった。
Volume Navigationでは,CTやMRIのほか,治療前と治療後の超音波画像同士をFusionさせることで,治療後の評価が行えるなど,さまざまな場面で応用可能であり,きわめて有用な機能であると言える。

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GE社の超音波についてはモダリティEXPOをご参照ください。

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