第24回腹部放射線研究会イブニングセミナー

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第24回腹部放射線研究会が6月11日(金),12日(土)の2日間,軽井沢プリンスホテル ウエスト(長野)において開催された。11日に行われたGEヘルスケア・ジャパン共催のイブニングセミナーでは,横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター准教授の沼田和司氏が肝臓の超音波診断について,神戸大学医学部附属病院放射線科の三宅基隆氏がCTコロノグラフィーについて講演を行った。

CTコロノグラフィー 〜スクリーニング導入に向けた取り組みと展望〜

三宅 基隆
神戸大学医学部附属病院放射線科

  三宅 基隆 神戸大学医学部附属病院放射線科
三宅 基隆
神戸大学医学部附属病院放射線科 2002年神戸大学医学部卒業後,姫路医療センター放射線科研修医,兵庫県立がんセンター放射線科専攻医,国立がん研究センター中央病院放射線診断部レジデント,同がん専門修練医を経て,2010年4月より現職。

近年,新しい大腸がんスクリーニング法としてCTコロノグラフィー(CTC)が注目を集めている。国立がん研究センター中央病院(NCCH)では,2005年12月よりCTCを大腸がん術前検査として実臨床に取り入れるとともに,スクリーニング法としての導入を目指した研究・開発を積極的に行ってきた。本講演では,まずCTC検査の有用性と実際を述べたのち,CTCによる大腸がんスクリーニングを目指した開発状況,国内外におけるCTCの現状を紹介する。


s CTC検査の有用性と実際

大腸の検査方法には大腸内視鏡検査(total colonoscopy:TCS),注腸X線検査(barium enema:BE),CTCがある。CTCの利点は,(1) さまざまな表示法を用いて大腸内腔を死角なく観察可能,(2) 大腸全体像や病変部位の把握が容易,(3) 腸管外の情報も同時に取得可能,(4) 大腸がん以外の各種腸疾患にも応用可能,(5) 簡便で安全性が高く,術者の技量が検査の質に影響せず,TCSやBEが施行困難な患者にも施行可能,(6) 診断画像の客観性,再現性に優れているため検査を標準化できる可能性が高い,などが挙げられる。
大腸がん術前検査としてCTCを行う際は,残渣・残液が最も少ないTCS終了直後が最適である。撮影にあたっては,腹部全体を1回の息止めで撮影できる機器,撮影条件で行うことが望ましい。残液による死角をなくし,残渣や残便と病変の鑑別を容易にするため,仰臥位および腹臥位の2体位撮影が基本である。NCCHでは,CTCを大腸がん術前検査として導入して以降,術前検査としてのBE検査数は徐々に減少し,全例CTCに置き換わった。

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s CTCによる大腸がんスクリーニングを目指したインフラ整備

1.Fecal tagging, electronic cleansing法
大量の残液により観察不良な領域が生じたり,病変との鑑別が難しい残渣が残存していたりすることがあり,CTCの診断精度を下げる一因となっている。その解決法の1つが残渣・残液をガストログラフィンやバリウムなどの陽性造影剤で標識(fecal tagging)し,CT値の違いを利用して画像上から除去する(electronic cleansing:EC)方法である(図1)。GEのAdvantage Workstation(AW)は,EC機能を標準搭載している。  欧米ではCTC前処置用のバリウムが販売されているが,日本ではまだ販売されていない。CTCを大腸がんスクリーニングに導入するにあたり,前処置の簡略化,標準化が重要であるため,CTC前処置に最適化されたバリウム製剤や検査食を,わが国でも開発中である。

図1 fecal tagging, electronic cleansing 法による残渣・残液の除去
図1 fecal tagging, electronic cleansing 法による残渣・残液の除去

2.CT装置と撮影条件
被ばく線量をどこまで低減できるかは大きな課題であり,欧米では比較的初期から,低線量CTCの可能性が報告されていた。単に線量を下げただけではノイズが増加し,画質が劣化するため,それに対応するさまざまなフィルタや画像再構成法が開発された。
なかでも,近年開発された逐次近似法を用いた画像再構成法(Advanced Statistical Iterative Reconstruction:ASiR)により,画質を保ったまま線量の低減が可能になった(図2)。ASiRでは,線量を50%低減させても低減前と同等の画質が得られるため,消化管内腔のみならず,実質臓器の診断も十分可能である。

図2 ASiRによる被ばく低減 画質を保ちつつ,約50%の線量軽減を達成。
図2 ASiRによる被ばく低減 画質を保ちつつ,約50%の線量軽減を達成。
(画像ご提供:社団法人鹿児島共済会南風病院,加治屋より子先生のご厚意による)

3.ワークステーション
近年のワークステーションの飛躍的進歩により,従来と比較して短時間でCTCの画像作成や読影が可能となった。AWでは,症例の選択から読影開始までにかかる時間は数十秒程度と非常に短く,ストレスを感じない。この短時間で,データの読み込み,標識された残渣と大腸内腔面の認識,仮想内視鏡画像や,大腸内腔を病理標本のように展開したlumen view の作成,後述するVolume Computer Assisted Reading(VCAR)の計算を含めたすべての計算処理を行って いる。
また,2画面モニタによる広い画像表示スペースが確保されており,CTCの読影に際して重要な,各再構成画像の2体位同時表示が可能であり,病変位置の確認や同定を非常にスムーズに行うことができる。モニタ上には,multiplanar reconstruction(MPR),仮想内視鏡画像,lumen viewなどの各種画像が効率的に配置され,個人の好みによって適宜レイアウトを変更することも可能である(図3)。Fecal taggingが併用されているCTCの場合は,ECの表示を瞬時に切り替えることができる。仮想内視鏡画像やfly throughによる3D画像での観察時も,非常になめらかに画像を動かすことが可能で,視野移動時における画質の変化も少ない。

図3 Advantage WorkstationのCTC読影画面
図3 Advantage WorkstationのCTC読影画面

4.Volume Computer Assisted Reading:VCAR
近年,CTCにおけるコンピュータによる病変検出能は非常に進歩しており,NCCHで行った早期大腸がんにおける検出能の検討では,隆起型病変は100%,平坦型病変でも約70%の検出能を示した。AWには病変の自動検出ソフトウェア“VCAR”が搭載されている(図4)。病変候補が青くマーキングされ,背景の消化管粘膜にオーバーラップされて表示されるようになっており,視覚的に非常にわかりやすい。VCARには,“球形”を認識するアルゴリズムがあり,検出対象となる球径の設定を1〜20mmまでの間で任意に変更できる。大腸ポリープや大腸がんの多くが,早期病変の段階から隆起性病変の形態を呈すため,病変は内部に必ず球形部分を有することになる。このため,このアルゴリズムにより効率的な病変検出が可能と考えられる。

図4 病変の自動検出ソフトウェア“VCAR”
図4 病変の自動検出ソフトウェア“VCAR”

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s 国内外におけるCTCの現状

欧米においては積極的なCTCの臨床導入がすすんでいる。筆者が2007年に訪問した英国のSt. Marks Hospitalでは,当時すでにCTCによる大腸がんスクリーニングが開始されており,毎日10名程度のスクリーニングCTCが行われていた。European Society of Gastrointestinal and Abdominal Radiology(ESGAR)によるCTCのhands on workshopは10年以上の歴史があり,米国においてもInternational Symposium Virtual Colonoscopy(ISVC)が1999年から開催されている。RSNA2008のPlenary sessionではCTCが大腸がんスクリーニングの1法として推薦され,また,ISVCに併設されるCTCトレーニングコースでは,50例の読影経験を積むことで受講証が発行されるなど,読影の質を保つためのシステムが構築されている。
わが国においては,2007年4月に開催されたJRC2007において「第1回CTコロノグラフィートレーニングコース」が開催された。以来毎年実施され,JRC2010では過去最多の参加者,参加企業となり,わが国におけるCTCの需要の高まりを感じた。今後は,多施設共同研究による大規模スタディに基づくエビデンスを,わが国からも積極的に発信していく必要があるであろう。


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