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healthymagination series 2011
Advanced Report No.1

第34回日本脳神経CI学会総会

MR非造影3D ASL Perfusion 〜基礎から臨床応用まで〜

木村浩彦
福井大学医学部病態解析医学講座放射線医学領域教授

木村浩彦 1987年 福井医科大学医学部卒業,同大学放射線科入局。1993年 Pennsylvania大学付属病院放射線科に留学。1999年 福井医科大学医学部放射線医学講師。同助教授などを経て,2007年より現職。専門は中枢神経領域の画像診断。

2011年2月4(金),5日(土)の2日間,米子コンベンションセンター(鳥取県米子市)で,第34回日本脳神経CI学会総会が開催された。2日目に行われたGEヘルスケア・ジャパン共催のランチョンセミナー3では,福井大学医学部病態解析医学講座放射線医学領域教授の木村浩彦氏が,「MR非造影3D ASL Perfusion〜基礎から臨床応用まで〜」をテーマに,arterial spin labeling(ASL)の原理や技術,臨床的有用性について講演した。


本講演では,はじめに非造影Perfusionの撮像技術であるASLの基本的な原理を説明し,ASLの技術的な進歩を解説する。さらに,ASLによる定量的なPerfusion画像を得るためのモデリングについて概説する。その上で,自験例を中心に脳血管疾患,脳腫瘍症例におけるASLの臨床応用と有用性を報告する。

■ASLの基本的な原理

Perfusion(灌流)とは,組織の毛細血管における血流動態を表す。単位時間に単位容積の組織の毛細血管床に動脈血を輸送する割合であり,単位時間あたりに入れ替わる血液量で表される(ml/min/100g)。その測定方法には,SPECT,PETなどの核医学的手法やヨード造影剤をトレーサとするCT Perfusionなどがある。なかでもPETは定量性が高く,従来からゴールドスタンダードとされてきたが,撮像時間が長く,施設が限られるなどの問題点があった。
一方で,MR Perfusionの撮像技術には,Gd造影剤をトレーサとしたDynamic Susceptibility Contrast(DSC)とASLがある。ASLは,血液のスピンを内因性のトレーサとして用いるため,造影剤を使用せず,拡散性があり,理想的と言えるが,SNRが低いなどの欠点がある。
DSCとASLの違いについて図1に示す。

図1 DSCとASLの違い
図1 DSCとASLの違い

DSCでは,血管内にGd造影剤を注入し,その造影剤が脳組織内を灌流していくのを見ることで血流を測定する。一方,ASLは,頸部の血管にRF照射を行い,血液のスピンを反転させて,それを造影剤の代わりのトレーサとして利用する。脳実質は反転したスピンを受けるが,血流量が多いところはわずかながら低信号となる。それを正確に測定するためには,コントロールスキャンが必要となる。これは,ラベリングした画像とは別に,スピンが変化しない状態の画像を撮像して,2つのサブトラクション画像をPerfusion Weighted画像として利用するものである。図2がCASLの基本的な原理である。

図2 CASLの原理
図2 CASLの原理

■ASLの最近の技術進歩

ASLの臨床応用には,いくつか課題があった。前述したように,SNRが低いことに加え,動きに弱い,撮像断面が限定される,susceptibility artifactによる頭蓋底部の評価が困難といった課題であるが,最近になって改善されてきた。CASLでは,3T装置の登場によってSNRが向上し,それとともにラベリングの方法として,頸部でスピンを反転させる技術も進歩してきた。また,動きに弱い点については,血液のスピンだけを信号化するために,脳内にもともとあるスピンを抑える“background suppression”という信号抑制技術を用いる。撮像断面が限られる課題については,撮像シーケンスを従来の2D EPIから3D FSEに変更することで解決する。同様に頭蓋底部の評価が困難という課題も,FSEでのデータ収集により改善が図られる。
SNRの向上につながるCASLのラベリングの技術として考え出されたのがpulsed-continuous labelingである。もともとスピンの反転には,1つのグラディエントに持続的にRFを出す方法をとってきたが,3T装置の場合,熱やSARの増大により用いることができなかった。そこで,RFを細かくして,グラディエントをプラスとマイナスに振り,この間の位相を調整するようにした。さらに,background suppressionと組み合わせることで,ラベリングと背景信号の抑制を同時に行い,背景信号が弱まったタイミングで撮像する。当施設ではこの技術を用いたpulsed continuous ASL(pCASL)を,4〜5mmスライス厚,
30〜35枚程度,5〜6分の収集時間で全脳を撮像している。pCASLによる1.5秒のラベリング時間の後,頸部からの血流に乗ったスピンが関心領域に分布するのを待ち(post label wait),spiral SE法で収集を行う(図3)。pCASLと従来のPASL(FAIR)とを比較すると,SNRが改善されていることに加え,PASLでは後方灌流領域が非常に高信号に描出されていたが,pCASLではpost label wait時間待って信号収集を行うため,スピンが全脳に広がることで,信号が均一に分布するようになる(図4)。
スピンの到達時間の遅れはpCASLの重大なピットフォールにもなりうる。図5はもやもや病の症例であるが,post label waitが1.5秒では,頭頂葉の皮質にラベリングした血流が届く前に画像化してしまうため,低信号に見える。しかし,3秒ほど待機すると遅れてきたスピンが到達して,血流が保たれていたとわかることがあるので注意を要する。

図3 正常ボランティアのpCASL血流画像
図3 正常ボランティアのpCASL血流画像

図4 pCASLとPASL(FAIR)の比較
図4 pCASLとPASL(FAIR)の比較

図5 スピン到達時間延長のピットフォール
図5 スピン到達時間延長のピットフォール

■ASLによる定量的血流画像

ASLの定量性については,スピンのtransit timeの補正が重要である。CASLでは,頸部で反転させたスピンが脳内に運ばれるうちにすべて緩和し,元の状態に戻ってしまう。この効果を定量性モデルに組み込まなければ,正確な定量化はできない。
その手法としては,PETで行われているように,血管内と血管外を一定の係数でスピンが出入りする解析モデルをつくり,頸部から関心領域までスピンが到達する時間を考慮するため,前述のpost label wait時間を変更し,複数回撮像していく。この時の信号変化を解析モデルに当てはめることで,血流と到達時間をマッピングすることができ,正確な血流を測定することができる。しかし,この方法は撮像に時間がかかるため,臨床現場ではすべての症例で測定することは難しいと思われる。

■ASLの臨床応用

ASLの症例画像を提示する。ASLにおいて低信号となる理由は,血流が低下していること以外に,側副血行路や頸部から関心領域へのスピンの到達が遅れていることが考えられる。この2つの要因を念頭に置きつつ,病態に応じて解釈していくことが,診断においては重要となる。

●症例1:超急性期脳梗塞(図6)
80歳,男性。発症から1.5時間後にrt-PA静注療法を施行した。National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)15点でスタートしたが,CT上ではあまり変化がなく,発症から80分の時点の拡散強調画像(DWI)では左の島皮質が高信号で描出されている。また,T2*像ではわずかながら左右の信号に差が現れ,左側にデオキシヘモグロビンを反映したようなサインが出ていて,MRAでは左側の中大脳動脈第一分岐部(MCA)が描出されていない。ASLではMCAで広範囲に血流が欠損している。血流欠損だけではなく,スピンの遅れがあるとも考えられるが,diffusion-perfusion mismatchとなっている。

図6 症例1:超急性期脳梗塞
図6 症例1:超急性期脳梗塞

●症例2:急性期脳梗塞(図7)
51歳,女性。症例1よりも軽症であるが,DWIでは左側のinsulaがわずかに高信号となっており,MRAでは狭窄が認められた。ASLでは,左側の皮質に信号が到達しているのがわかるが,血管内も高信号となっており,狭窄が原因で,スピンの到達が遅れていると考えられる。

図7 症例2:急性期脳梗塞
図7 症例2:急性期脳梗塞

●症例3:急性期脳梗塞(発症2日,再開通後)(図8)
60歳代,女性。rt-PA静注療法を行わずに,自然再開通した症例だが,DWIでは非常に広範囲で高信号となっており,ASLでも同様に高信号となっている。再開通の場合,高信号に描出されるものとされないものがあり,それが予後にも関連すると考えられる。

図8 症例3:急性期脳梗塞(発症2日,再開通後)
図8 症例3:急性期脳梗塞(発症2日,再開通後)

●症例4:一過性脳虚血発作(TIA)(図9)
60歳代,女性。DWIで点状の高信号が認められ,MRAでは右MCA末梢の血管が少なく描出されており,内頸動脈の起始部に大きな狭窄がある。ASLでは右側のスピンの到達が遅れており,PET-OEFとも似た血流パターンを示している。さらに磁化率強調画像(SWI)を追加すると,PET-OEFと似たパターンで,低信号となっている。このようにASL-CBFやSWIとの組み合わせは,術前の病態診断,術後のフォローアップにも有用であると考える。

図9 症例4:一過性脳虚血発作(TIA) a:DWIとMRA b:MRIとPETの比較(上段より,ASL-CBF,SWI,PET-CBF,PET-OEF)
図9 症例4:一過性脳虚血発作(TIA)
a:DWIとMRA
b:MRIとPETの比較(上段より,ASL-CBF,SWI,PET-CBF,PET-OEF)

●症例5:MELAS(図10)
40歳代,男性。ミトコンドリアの異常をベースに,細胞レベルでの虚血発作を起こす病態で,DWIでは右側の皮質が高信号となっているが,これがMELASの活動性病変である。ASLでは,DWIの高信号部位を含み,より広範囲で高信号となっている。病変部は,MRSでlactateが高く,MRAでは血管が拡張していることが特徴である。4か月後のフォローアップでは,右側の高信号がなくなったが,反対側に新たな病変が疑われた。このように病変の活動性を観察する上で,ASLは,簡便に利用することができる。

図10 症例5:MELAS
図10 症例5:MELAS

●症例6:glioma(GBM)(図11)
典型的なglioblastoma multiforme(GBM)症例であり,Gd造影T1強調画像では,右側の視床を中心にリングエンハンスを呈しており,3D-pCASLとT2-DSCでも,ともにリング状に血流が上がっている。最近の報告では,脳腫瘍における3D-pCASLとT2-DSCの視覚的な評価,相対的な値が非常に似ているとされている。

図11 症例6:glioma(GBM)
図11 症例6:glioma(GBM)

●症例7:cavernous sinus tumor(図12)
頭蓋底部の腫瘍についてもASLを適用できる。腫瘍は側頭葉の海綿静脈洞にあり,meninginoma,lymphoma,特発性肥厚性硬膜炎などの鑑別が必要だが,CASLで高信号を呈することから,meninginomaが疑われる。T2-DSCではこのような頭蓋底の評価はできないが,CASLでは可能となる。

図12 症例7:cavernous sinus tumor
図12 症例7:cavernous sinus tumor

●症例8:orbital tumor(図13)
眼窩内のmeninginomaが,Gd造影剤で少し染まっているのがわかる。3D-pCASLでは,眼窩内の眼球後部から眼窩尖部,さらに頭蓋内にも高信号が認められる。眼窩のようなsusceptibility artifactが問題となる部位でも,ASLが適用できる。

図13 症例8:orbital tumor
図13 症例8:orbital tumor

■まとめ

ASL Perfusion画像で高信号を呈するものは,脳梗塞に関する病態としては梗塞後の再開通やぜいたく灌流,腫瘍では髄膜種や悪性度の高いglioma,てんかん発作後,偏頭痛,posterior reversible encephalopathy syndrome(PRES),感染や炎症などがある。一方,低信号を呈するものは,脳梗塞に関しては虚血,ペナンプラ,てんかん発作後(発作間期),血管攣宿,腫瘍(低悪性度),leukoaraiosis,腫瘍壊死部などがある。

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