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Technical Note

2010年3月号
CT Colonographyの画像処理・表示法における技術開発の現状

CT−大腸がん早期発見を支えるソフトウエア“Colon VCAR EC”

山口 理絵
CTアプリケーショングループ

わが国の大腸がん患者は増加の一途をたどり,がん罹患数では第2位,死亡数では第3位となった1)。わが国の医療業界においては便潜血検査,注腸X線検査が一般的で,大腸内視鏡検査は術者技術の高さによりその有用性が高く評価されている。しかし,近年の大腸がん患者数増加に伴い,注腸X線検査と大腸内視鏡検査のみでは対応しきれない状況となり,その状況を緩和するために有効な検査がないかと模索されてきた。
CT装置の技術革新に伴い,撮影時間の短縮と高い体軸分解能のボリュームデータが収集可能となり,腹部画像診断への幅も広がった。その応用として注目されてきたのが,CTによるColonography(CTC)である。本稿では,大腸がんの早期発見に向けてのCTC画像診断について述べたい。


大腸解析アプリケーション

わが国では現在,CTCは特殊検査としてとらえられているが,欧米におけるCTCの位置づけは特殊検査という枠を超え,大腸がんスクリーニング検査にも用いられている。CTCで表示可能な画像は,大腸二重造影に模したAir Image,腸管を切り開き360°展開したLumen像,大腸内視鏡像に模した仮想内視鏡像(Navigation),MPR像である(図1)。CTCの検査適用はさまざまであり,大腸ポリープの存在診断,内視鏡挿入困難症例に対しての内視鏡検査の代用,さらには,造影検査を組み合わせることによる術前シミュレーション,腸壁の肥厚状態や転移病変の診断にも有用である。
多くの情報をもたらすCTCではあるが,現在懸念されている事項がいくつかあり,それらの改善が望まれている。懸念事項の1つ目は,前処置の煩雑さである。現在のCTCは,大腸内視鏡像検査と同等の前処置を必要としており,ポリープの検出から治療まで行える内視鏡検査が支持されている。2つ目は画像読影に有する時間,3つ目は被ばくの問題である。
本稿で紹介する「Advantage Workstation Volume Share4」(以下,AWVS4)に搭載された“Colon VCAR EC”は読影診断支援機能“VCAR(Volume Computer Assisted Reading)”と自動サブトラクション機能“EC(Electronic Cleansing)”を有していることから,上記の問題点を解消するソフトウエアとして可能性があり,技術的にも大きく進化しているので,臨床現場での使用に沿って紹介したい。


図1 Colon VCAR EC解析画面
図1 Colon VCAR EC解析画面
AWVS4は2モニタ仕様であり,アキシャル像,仮想内視鏡像,Lumen像,Air Imageが同時に表示可能である。
仰臥位と腹臥位の画像をリンクさせながら,同時に2D画像でも読影が行えるためスループットの向上が望める。
上段:仰臥位 下段:腹臥位

1.前処置の簡略化:EC機能
欧米では徐々に用いられるようになっている前処置として,前日の低残渣食と一緒に,少量のバリウムと検査直前にガストログラフインRを服用する方法がある2)。従来の前処置方法は,残渣・残液とポリープの境界が不明瞭であるため,体位変換を行い残渣・残液とポリープとの鑑別を行っていた。しかし,上記の前処置法を用いると残渣・残液のCT値が上昇するので,ポリープとの境界が明瞭になり,残渣や残液を自動でサブトラクションすることが可能である。従来の前処置法に比べ被検者の負担が少なく,術前の煩雑さも解消できる。Colon VCAR ECは,この自動サブトラクション機能(EC機能)を有する(図2)。まだ,わが国ではバリウムやガストログラフインRをどのように服用させるかが明確化していないため,この方法は一般的に普及はしていないが,EC機能は前処置の簡略化を大幅に進める技術である。


図2 Electronic Cleansing(EC)機能
図2 Electronic Cleansing(EC)機能
従来の前処置法では,残液とポリープとの境界の不明瞭で体位変換をして残液を移動させて読影を行っていた。
本症例は,検査前にバリウムやガストログラフインRを服用し,残渣・残液のCT値を上昇させ除去を行った。

2.読影診断支援:VCAR機能
CTCは,直径6mm以上の隆起病変に関しては大腸内視鏡検査とほぼ同等の検出能であると実証されている3)。しかしながら,検出率と読影時間は経験数により左右されるため,見落とし軽減と読影時間の短縮が望まれている4)。それを補うのが,コンピュータ診断支援システムであると言われている。Colon VCAR ECは,隆起性の球体に色付けをするDCA(Digital Contrast Agent)機能を有し,読影医へ注意を促しポリープ検出をサポートする(図3)。


図3 VCAR(Volume Computer Assisted Reading)機能
図3 VCAR(Volume Computer Assisted Reading)機能
CTC解析は,病変と残渣,大腸襞を見分けながら,病変のみを的確に把握するのに時間を要した。
しかし,DCA機能は隆起病変に自動で色付けをすることで,直感的に読影者に情報を提供する。今後,読影者の負担軽減へつながる機能として臨床応用が期待される。

3.被ばく低減
CTC検査では,空気(最近では被検者の苦痛軽減のため,炭酸ガスを用いる施設もある)を注入して大腸を拡張させ,仰臥位と腹臥位の2回のCT撮影が一般的である。ポリープ描出のみが目的であれば,線量を下げての撮影も可能であるが,壁肥厚状態を診断するにはアキシャル像も読影する必要があり,画質の劣化は看過しがたい。被ばく低減が世間の関心を集める中,いかに被ばくを減らし,良質な画像を維持できるかもCTC検査の普及にかかわってくるであろう。GEのCT装置は,画像再構成技術“ASiR(Advanced Statistical Iterative Reconstruction)”を搭載することで,従来の画質を保ちながら被ばくを40%まで軽減することを可能にした(図4)。


図4 ASiR画像再構成法
図4 ASiR画像再構成法
生データに含まれるノイズを算定するために,統計学的手法を用いて画像の再構成を行い,CT値を正しく算出する。従来の画質を保ちながら,被ばくを40%まで軽減することを可能にした。

わが国でも数年前よりCTCの撮影から読影に至るまでのトレーニングコースが開催されるなど,汎用化に向けて関心は集まりつつある。Colon VCAR ECは,前処置の簡便化,被ばく低減,読影支援までフルサポートするソフトウエアであり,増え続ける大腸がんの早期発見・早期治療の一助となりうる技術革新である。


●参考文献
1) 国立がんセンターがん対策情報センター : がんの死亡・罹患・生存率などの統計情報の収集と分析.
2) Johnson, C.D., Joel, A.M., Fletcher, G. : Noncathartic CT Colonography with Stool Tagging ; Performance With and Without Electronic Stool Subtraction. Am. J. Roentgenol., 190, 361〜366, 2008.
3) An, S., Lee, K.H., Kim, Y.H. : Screening CT Colonography in an Asymptomatic Average-Risk Asian Population ; A 2-Year Experience in a Single Institution. Am. J. Roentgenol., 191, W100〜W106, 2008.
4) Summers, R.M., Handwerker, L.R., Pichhardt, P.J. : Performance of a Previously Validated CT Colonography Computer-Aided Detection System in a New Patient Population. Am. J. Roentgenol., 191, 168? 174, 2008.