GEヘルスケア・ジャパン

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Technical Note

2010年7月号
Dual Energy Imagingの技術的特徴

CT−“Gemstone Spectral Imaging”の技術的特徴

平本卓也
MI & CT Sales & Marketing部

Dual Energyに関する研究は古くから行われてきたが,製品化としては骨密度や一般撮影が早く,その有効性は広く浸透している。例えば,骨密度では定量性の精度向上,一般撮影では骨外しに関して有名であろう。CTでも古くから実験され,さまざまな撮影方式が考案されてきた。代表的なものはrotate-rotate法や2管球方式,Fast kV Switching方式などである。これらの方式に共通することは,何らかの手法を用いてエネルギーを弁別し,画像を得る必要があることであるが,エネルギー弁別におけるタイムラグ(Dual Energy時間分解能)の問題が大きい場合にはミスレジストレーションを増大させてしまい,MRIのケミカルシフトに似た独特のアーチファクトとなって画像に現れる(図1)。
GEでは,新たなシンチレータ素材“Gemstone”を開発し搭載した「Discovery CT 750HD」にて,超高速のFast kV Switching方式を使った“Gemstone Spectral Imaging(GSI)”で撮影を行い,ミスレジストレーションのない画像を得ることができると同時に,水密度等価画像やIodine密度等価画像に代表される物質密度画像,101種類のエネルギー別単色X線等価画像(monochromatic imaging)を得ることができる。本稿では,GSIを支える技術とその特徴を紹介する。

図1 Dual Energy時間分解能の差による画像への影響
図1 Dual Energy時間分解能の差による画像への影響

■ GSIを支える技術

GSIでは,超高速に80kVpと140kVpを切り替え,それぞれのエネルギー別プロジェクションデータを収集するために従来CTで使用されていたハードウエアと違うものが必要となる。1つは出力側であり,X線のエネルギーを超高速に切り替えるために,ジェネレータに管電圧を超高速に切り替えることが可能なHD Generatorを採用し,管球も専用のPerfomix HD Tubeを採用した。
一方,収集側では,新しいシンチレータ素材としてガーネットと同じ分子構造体であるGemstoneを独自開発した(図2)。このGemstoneは,20年ぶりの新素材で,プライマリスピードはGOSに比べ100倍の反応速度を持ち,アフターグローはGOSに比べ1/4と,従来のものと比較して飛躍的に向上し,優れた光学特性を持っている(図3)。ここで得られた信号をオーバーフローしないようにviewデータとするために,DASも専用の新型Volara HD DASを採用し,サンプリング収集レートを最大7131Hzと,従来比約2.5倍のサンプリングを実現した。これらのコンポーネントを根本から変更することにより,従来のDual Energy CTでは不可能であった超高速のFast kV Switching撮影であるGSIを可能とした。


図2 ガーネットの結晶構造を持つGemstone
図2 ガーネットの結晶構造を持つGemstone

図3 Gemstone光学特性
図3 Gemstone光学特性

■ GSIの特徴

GSIとは,Dual Energyの原理に基づいたものであるが,従来の方法と違いビームハードニング効果による影響がほとんどなくなり,40keVから140keVまでの101種の単色X線等価画像の構築が可能になった。通常のCT撮影や従来のDual Energy撮影では,ビームハードニング補正を水に対するキャリブレーションデータをもとに行っていたため,0HU付近でのCT値の精度は担保することができていた。しかし,高吸収体などが存在する場合は,CT値の精度が悪くなるのと同時に,アーチファクトとなって画像化される。GSIは,Fast kV Switching技術により高速回転中にkVを超高速で切り替え,同一軌跡をたどる2種類のエネルギーのviewデータより水とIodineの密度をもとにした生データに分け,そこでプロジェクションベースで水とIodineの2つの物質からビームハードニング補正を行うため(図4),画像化されるときのCT値精度やアーチファクト減少に大きく関与する。


図4 GSIのビームハードニング補正
図4 GSIのビームハードニング補正

また,GSI専用アプリケーションとして“GSI Viewer”があり,さまざまな物質解析に特化している。その機能の一部を紹介する。HU attenuation Curve(図5 a)は,NIST1)のWebでも公開されている物質別のエネルギー減弱数テーブル2)を使用するとよくわかる。例えば,脂質に富んだ物質では低エネルギーになるにつれ,CT値の低下が認められIodineや線維性の物質とは違った減弱曲線を描くのがよくわかり,物質弁別する上で確立されたエビデンスを使用することができる。このエネルギー減弱数テーブルを,GSI Viewerにインポートする機能を備えており,物質密度画像の基準データとしても使用できるため,さまざまな物質へのフレキシブルな対応が可能となる。なお,GSI解析に使用する元データは,前述のようにプロジェクションベースで高吸収体側からもビームハードニング補正がなされた後,material density imageが構築され,これをもとに計算される。Fast kV Switchingが使用できない従来のDual Energyでは, イメージベースとなるため,水のみのビームハードニング補正しかできず精度が悪くなっていた点3),4)が改善された。
また,別の機能としてScatter Plot(図5 b)がある。これは,基準とする2つの物質密度による散布図で,例えば造影剤に関しては,主成分はIodineと水であり,この2つの密度を基準にすることで造影剤密度がわかる。つまり,従来であればCT値による評価だけであったが,本機能を使うことで造影剤の取り込みがどの程度なのかを密度情報としてとらえることができる。また,それぞれの密度散布別にカラーリングを施すことで,物質による色分けのオーバーレイを可能とする。


図5 GSI Viewerの一部機能紹介
図5 GSI Viewerの一部機能紹介

最近,Dual Energyへの関心が高い。2010年5月19〜21日まで12th Annual International Symposium on Multidetector Row CTがサンフランシスコにて行われたが,Dual Energyへの注目度はかなり大きかった。実際に,GSIを使用した発表がDual Energyへのセッションで最も多く,特にmonochromatic imagingの有用性が注目されていた。これからも,FOVやヘリカル不可などの撮影制限を受けないGSIスキャンがDual Energyの普及へつながることを期待しつつ,さらなる開発に力を注いでいきたい。


●参考文献
1) National Institute of Standards and Technology http://www.nist.gov/index.html
2) Tables of X-Ray Mass Attenuation Coefficients and Mass Energy-Absorption Coefficients(http://www.nist.gov/physlab/data/xraycoef/index.cfm)Physical Reference Data (http://www.nist.gov/physlab/data/index.cfm
3) Maas, C., Baer, M., Kachelries, M. : Image-based dual energy CT using optimized precorrection functions ; A practical new approach of material decomposition in image domain Med. Phys., 36・8, 3818?3829, 2009.
4) Santamaria-Pang, A., Dutta, S., Makrogiannis, S. : Automated liver lesion characterization using fast kVp switching dual energy computed tomography imaging. Proc. SPIE, 7624, 76240V, 2010.

マルチスライスCTスキャナ LightSpeed
医療機器認証番号21100BZY00104000号
類型Discovery CT750 HD