GEヘルスケア・ジャパン

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Technical Note

2011年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

SPECT−心臓用半導体SPECT装置 「Discovery NM 530c」─半導体検出器の心臓検査への活用

河窪雅宏
MIセールス&マーケティング部

GEヘルスケア・ジャパン(株)は,2010年11月に半導体検出器を採用した心臓用SPECT装置「Discovery NM 530c」(図1)を,国内で初めて発売した。登場から半世紀以上を経た現在のアンガー型検出器に代わる次世代の検出器として,1990年代から折に触れ話題となっていた半導体検出器であるが,SPECT装置としての実用化には,ずいぶんと長い時間を要したと言える。
本稿では,半導体検出器の特長を最大限に生かすためにGEが取り組んだ心臓用SPECT装置への実用化技術“Alcyone Technology”を中心に,Discovery NM 530cの特長を紹介する。

図1 心臓用半導体SPECT装置「Discovery NM 530c」
図1 心臓用半導体SPECT装置「Discovery NM 530c」

■半導体検出器の特長を生かすために ─Alcyone Technology

半導体検出器には多くの特長があるが,従来のアンガー型検出器と比較した場合,特筆すべきは,放射線を直接電気信号に変換する効率の良さと,固有分解能(画素サイズ)が設計段階で決定されることであろう。
これらの特長を生かすためには,従来の方式である検出器とパラレルコリメータの組み合わせは適切とは言えない。なぜならば,画像生成に及ぼす因子の大半をコリメータが占め,半導体検出器のメリットを十分に引き出せないからである。また,検出器を回転させることで,断層像の作成に必要なデータ収集を行う方式も,効率面や回転中心のズレなど機械的な面から好ましくない。Alcyone Technologyでは,これらの問題を解決すべく以下のような方法が採用された。
(1) γ線を直接電気信号に変える半導体検出器による,エネルギー分解能,感度の向上とSPECT分解能の改善
(2) 検出器を回転させることなくSPECTが可能なデータ収集方式
(3) 収集領域に焦点を合わせたデータ収集を可能とし,感度とSPECT分解能を両立させた集束コリメーション技術
(4) 最適な画質を得ることが可能な画像再構成技術
これらの組み合わせは,従来のアンガー型カメラでは得ることのできなかった感度とSPECT分解能の向上を果たしたのみならず,エネルギー分解能や計数率特性も飛躍的に高め,散乱線を低下させるなど画質的にも従来とは一線を画するものとなっている。以下では,これらの技術についてもう少し詳細を説明する。

■CZT半導体検出器

半導体検出器は,p層/空乏層/n層から構成され,入射した放射線の電離作用により生成される電子と正孔対を測定することにより,放射線を直接検出する。GEでは,カドミウムとテルルに少量の亜鉛を加えたCZT(CdZnTe:テルル化亜鉛カドミウム)半導体検出器を採用している(図2)。これにより,NaIクリスタルでいったん光に変換され,さらに光電子増倍管(PMT)により電子に変換されて増幅するという,従来の方式に比べ変換効率が格段に向上している。
図3に示すように,核医学検査で多用されるテクネチウムのγ線(140keV)が1個入射したときに,初段増幅にかかわる電子の数(情報キャリアー)を比べると,アンガー型検出器では約700個程度となるが,CZT半導体検出器では約3万3000個の電子に直接変換され,信号読み出し用に設計されたカスタムチップ(ASIC)を経て増幅される。この情報キャリアーの違いが変換効率を上げ,また,エネルギー分解能を高める大きな要因となる。

図2 半導体クリスタルとモジュール
図2 半導体クリスタルとモジュール

図3 アンガー型検出器とCZT半導体検出器の放射線検出原理の違い
図3 アンガー型検出器とCZT半導体検出器の放射線検出原理の違い

■検出器を回転させないデータ収集技術

心臓の検査におけるデータ収集は,心臓の位置関係から左前方向180°分の収集を行う。この場合,従来では2個の検出器を相対的に90°の角度に配置し,90°回転させることによって180°分のデータを取得している。
これに対しAlcyone Technologyでは,LAO方向に小型の検出器を半円状に並べて,180°分のデータを一度にボリュームスキャンする(図4)。さらに,頭足方向からもいくつかの検出器を加えることで,クオリティをさらに向上させている。

図4 ピンホールコリメータを採用した検出器の配置
図4 ピンホールコリメータを採用した検出器の配置

■集束コリメーション技術による感度と分解能の両立

放射線をコリメートする方法として,パラレルコリメータが一般的に使用されている。しかし,検出器に密接するコリメータは,厄介な散乱体になることに加え,よほど高分解能・高精度なコリメータにしなければ,半導体検出器の性能を最大限に生かすことができない。これを解決したのが,図4でも示したピンホールコリメータの採用である。ピンホールコリメータは,一般的には甲状腺などの小臓器を拡大して分解能を上げる目的で使われるが,拡大するほど感度は犠牲となる。そこでAlcyone Technologyでは,半導体検出器の固有分解能が非常に良いことに着目し,心臓のSPECT撮影に十分な分解能を維持しつつ,縮小撮影することで感度も犠牲にしない手法を採った。
使用している半導体検出器の固有分解能は2.5mmであるが,拍動している心臓ではこれ以上分解能を上げても,動きによるボケのため画質向上には寄与せず,感度向上に目を向けるのが得策と言える。よって,検出器ピンホール間距離(DPD)と線源ピンホール間距離(SPD)のバランスを取ることで,分解能と感度の最良な関係を実現している(図5)。またエネルギースペクトルより,ピンホールコリメータの採用は,赤矢印で示すように散乱線を少なくするとともに,99mTc(140keV)と123I(159keV)の光電ピークが明瞭に分離され,2核種同時収集においても双方の影響が受けにくいことがわかる(図6)。

図5 Alcyone Technologyによるコリメート方式の違い
図5 Alcyone Technologyによるコリメート方式の違い

図6 2核種同時収集時のエネルギースペクトル 123Iの高エネルギー(529keV)からの散乱線が非常に少ないのがわかる(↓)。
図6 2核種同時収集時のエネルギースペクトル
123Iの高エネルギー(529keV)からの散乱線が非常に少ないのがわかる(↓)。

■3D逐次近似画像再構成

データ収集は,リストモードにて収集され,3次元の逐次近似画像再構成が行われる。したがって,収集後に収集のウィンドウ幅などの条件を変更して,再構成し直すことが可能である。

Discovery NM 530cは,心臓用SPECT装置として半導体検出器の特長を最大限に発揮するよう開発された。システムとしての感度は約3〜4倍,SPECT分解能は約2倍(弊社アンガー型心臓用SPECT装置「Ventri」比)で,しかも,散乱線の影響が少なくクリアーなイメージ(図7)が得られることや,2核種同時収集,ダイナミックSPECTによる冠動脈血流予備能や心筋血流量測定の可能性が期待されている。
アンガー型カメラの性能向上があまり期待できなくなった現在,半導体SPECT装置の登場が,次なる核医学発展への起爆剤となることに期待したい。

図7 同一症例における比較画像
図7 同一症例における比較画像

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