GEヘルスケア・ジャパン

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Technical Note

2011年8月号
DMG技術の最新動向を探る

DMG―新機能"SenoBright"を支える製品技術

新井教郎
研究開発本部R&D部 MK本部MK企画部

GEヘルスケアのマンモグラフィ開発の歴史は古く,1960年代(当時フランスCGR社)から始まる。65年にMo陽極のX線管を開発し,これにMoフィルターを付加させることを考案。翌66年,世界で初めて乳房撮影専用装置を開発した。2000年には,世界に先駆けてフルフィールドデジタルマンモグラフィ「Senographe 2000D」の発売を開始した。
そして今回,“SenoBright"の名称でリリースした,デュアルエナジーサブトラクション法を用いた造影撮影技術(Contrast Enhanced Spectral Mammography:CESM)は,マンモグラフィの新しい可能性を示している。

■臨床画像の例示

まずはCESMが有用であった臨床画像を提示する。左乳房に,1cm大のしこりを自覚し受診した79歳,女性である(図1)。通常のマンモグラフィ(MMG)画像では高密度の乳腺組織に隠れて描出されなかった病巣が,CESMによって濃染像として明瞭に描出されている。同部位の超音波画像では,悪性を疑う不整形の低エコー腫瘤像を認め,同ガイド下での穿刺吸引細胞診にて浸潤性乳管癌と診断された。

図1 左乳房の浸潤性乳管癌 (画像ご提供:三河乳がんクリニック様)
図1 左乳房の浸潤性乳管癌
(画像ご提供:三河乳がんクリニック様)

■CESMとは

CESMは,造影剤を静注後,1回の圧迫の中で,I(ヨウ素)のK-吸収端以下のエネルギーのX線と,K-吸収端を超えるエネルギーのX線を2回続けて照射する。これを通常のマンモグラフィ検査と同様,両側2方向ずつの合計4ポジション(RCC,RMLO,LMLO,LCC)で行い,GE独自のアルゴリズムによって,圧迫厚とAOPより計測された乳腺密度,撮影条件,そして,低エネルギーと高エネルギー2つの計測データから組織中のIの濃度分布を計算し,画像化する技術(図2)である。一連の検査を,通常のマンモグラフィと同程度の撮影時間,1.2〜1.5倍程度の被ばく量で可能とした背景には,マンモグラフィに用いられるX線特性への深い理解と製品設計に対する一貫したコンセプトがある。

図2 標準的なCESMの撮影手順
図2 標準的なCESMの撮影手順

■CESMを可能にさせた製品技術

Senographeシリーズは,Mo(モリブデン)とRh(ロジウム)の二重陽極のX線管,GEが誇る高精度制御技術による高圧発生系,柱状結晶構造と特徴的な減衰特性を有するCsI(ヨウ化セシウム)を素材としたX線検出素子,間接変換方式と100μmのピクセルサイズを持つ検出器モジュールによって高感度,低ノイズを可能としたシステムである。

1.X線管と高圧発生系

図3 CESMで用いるX線のエネルギー特性
図3 CESMで用いるX線のエネルギー特性

元来,X線撮影装置は骨の性状などを透視することが目的で,X線透過能力の高いことが重要であった。そのため,X線管の陽極には,低エネルギー領域で特性X線のないW(タングステン)を用い,軟線遮断用にAl(アルミニウム)などの付加フィルターが用いられていた。しかし,軟部組織のわずかなX線の減衰の差を画像化するマンモグラフィでは,撮影にふさわしいX線の線質もまったく異なる。17keVおよび20keVに特性X線を有し,20keVにK-吸収端を持つMoと,20keVおよび23keVに特性X線を有し,23keVにK-吸収端を持つRhをターゲットおよびフィルター素材とすることで,乳腺密度や乳房厚に応じたきめ細かな撮影条件の設定を可能にし,かつ,吸収線量を低く抑えつつ良好な軟部組織コントラストを達成している。
X線エネルギーの特性を積極的に活用する発想は,CESMの技術にも生かされている。Iを含む物質のX線に対する減衰係数は,K-吸収端である33keVで急峻に増大するが,Iを含まない物質はエネルギーとともに漸減するため,33keVよりも高いエネルギーのX線の減衰は,Iの有無によって大きな差が生じることが知られている。GEの持つ高精度制御の高圧発生系により,瞬時に最大49keVの管電圧に切り替えると同時に,33keV以下のX線を低減するCu(銅)付加フィルターによってX線の線質を変え,投与された造影剤中に含まれるIを特異的に画像化している(図3)。

2.X線検出素子


図4 一般的なX線検出素子の線減弱係数1)

GEが採用しているX線検出素子CsIにもIが含まれていることから,K-吸収端33keVより高いX線に対して高い感度を有する(図4)。一般的に,乳房撮影装置で使用される検出器は,15〜25keVのX線に対する特性を重視しているため,33keV以上のX線に対しては十分な感度が確保しにい。Iを含まない検出素子では,より大きな管電流が必要となり,結果的に被ばく量を増加させてしまう。CESMが,低エネルギーと高エネルギーのX線を2回照射しても,被ばく量が通常のマンモグラフィの1.2〜1.5倍程度に収められる理由はここにある。

3.ピクセルサイズと受光方式

高画質の秘密は,検出器のピクセルサイズにもある。100μmのピクセルサイズを確保することで,1つ1つのピクセルに入射するフォトンの数を確保し,読み出す信号のS/Nを向上させている。ピクセルの一辺を半分にすると,入射フォトン数は1/4となり,同じフォトン数を入射させようとすれば4倍の照射量が必要となる。低コントラスト時には,隣接するピクセルとの信号強度の差が統計学的に有意であることが識別のポイントとなるため,高S/Nは特に重要であり,ノイズに強い計測を行うことが大切である。
もちろん,ピクセルサイズの大きさを確保すると,空間分解能特性という点では不利だが,ここでもSenographeのユニークな設計が役立っている。柱状結晶構造を持つCsIの中で発生した光は,結晶構造に沿って適度に拡散をしながら,直下とその近傍のフォトダイオードに到達する。光の拡散によって,複数の素子が相互相関を有する形でフォトンを検出するが,この相互相関は2次元のガウス分布で記述されるため,このガウス分布の逆関数を補正関数に用いれば,光の拡散に伴う分解能の劣化を精度良く補償しつつ,滑らかで連続的なデータが取得できる。
ピクセルサイズが大きい時のもう1つのリスクとして,部分容積効果の影響によるコントラストの低下が考えられるが,高いコントラストを有する構造であれば,優れたS/N特性からその存在の有無を指摘でき,低コントラストの場合には,空間分解能よりも計測系のS/N特性の方が画質に対して支配的になるため,問題とはならない。CESM画像のノイズは高エネルギー,低エネルギー,2つの収集データに含まれるノイズの二乗和の平方根に比例するため,良好な画質の維持のためには両方の計測データの質を確保することが重要である。
CESMは,Senographeのハードウェア特性を最大限に生かしたアプリケーションなのである。

医用画像はアナログからデジタルの時代となり,最も飛躍的な発展を遂げた分野であるが,特にマンモグラフィにもたらした恩恵は多大である。データ収集後の輝度の調整や変調,さまざまな平滑化や輪郭強調などの画像処理,同一患者の時系列データの比較や統計学的手法を用いた診断支援システムなど,これまでのアナログ画像では困難であったさまざまな問題を解決するばかりか,新たな可能性も切り開くものである。
しかし,マンモグラフィのデジタル化が有益な形で結実しているのは,アナログの時代からこの分野で基準をつくり,標準化を進め,常に技術の向上と臨床診断の質の向上をめざしてたゆまぬ努力を重ねてこられた諸先生がたのご尽力があったからにほかならない。デジタル時代のマンモグラフィの役割と乳がんに対するより良い医療の提供のために,そして限りない可能性を開くために,引き続きご助言,ご指導いただければ幸いです。

●参考文献
1) Yaffe, M.J., et al. : Detectors for Digital Mammography. Technology in Cancer Research & Treatment, 3・4, 309〜324, 2004.

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