日立メディコ

ホーム の中の inNavi Suiteの中の 日立メディコの中の 別冊付録の中の 磁遊空間 Vol.20の中の 磁遊空間20号記念 巻頭座談会 “やさしさMRI”の15年,そして未来。

別冊付録

20号記念 巻頭座談会
"やさしさMRI"の15年,そして未来

杉村和朗/原田潤太/佐々木真理 /藤井正彦

永久磁石型オープンMRIの開放型ガントリによって磁遊空間をもたらす“やさしさMRI”というジャンルを確立した日立メディコ社は,2007年,MRIの高磁場化が進む市場のニーズに応えるため,超電導型1.5T MRI「ECHELON Vega」を発売した。ECHELON Vegaは,ガントリ長160cmのショートボアと強力な傾斜磁場システム(33mT/m,150T/m/s)を有し,被検者にやさしい検査環境と,高機能撮像シーケンスを実現する基本性能,将来性の高い拡張性を備えている。また,体幹部領域は東京慈恵会医科大学,脳神経領域は岩手医科大学,整形領域は神戸大学と3年間の共同研究を行った結果,基本性能のさらなるブラッシュアップが図られたほか,各領域で目覚しい研究成果を挙げている。そこで,磁遊空間20号記念として,3大学の先生方による座談会を企画した。共同研究の成果やこれから求められる技術,MRIの臨床的意義や開発の方向性などについて,ざっくばらんに語り合っていただいた。

杉村 和朗 氏
原田 潤太 氏
佐々木 真理 氏
藤井 正彦 氏
Sugimura Kazurou, M.D.
●司 会
杉村 和朗
神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野教授/同医学部附属病院院長

1977年
 
神戸大学医学部医学科卒業
同附属病院放射線科入局
82年
 
同助手
87年
 
島根医科大学医学部附属病院助教授
94年
 
同附属病院教授
98年〜
 
神戸大学大学院医学系研究科放射線医学分野教授
2004年
 
同大学医学部附属病院副院長兼務
2008年〜
 
同院院長兼務
 
Harada Junta, M.D.
●出席者
原田 潤太
東京慈恵会医科大学大学院医学研究科器官病態・治療学放射線医学教授/同大学附属柏病院放射線部診療部長

1974年
 
岩手医科大学医学部卒業
東京慈恵会医科大学附属病院長直属の研修医として放射線科で研修開始
76年
 
同大学放射線医学教室助手
84年
 
同講師
87年
 
同大学附属柏病院放射線科診療科長
91年
 
同大学放射線医学教室助教授
2000年〜
 
同大学附属柏病院放射線部部長
2002年〜
 
同大学放射線医学教室教授
 
Sasaki Makoto, M.D.
●出席者
佐々木真理
岩手医科大学先端医療研究センター教授

1984年
 
岩手医科大学医学部卒業
88年
 
同大学院医学研究科卒業
同附属病院中央放射線部助手
94年
 
米国国立衛生研究所(NIH)留学
96年
 
岩手医科大学放射線医学講座講師
2007年
 
同先端医療研究センター准教授
2009年〜
 
同教授
 
Fujii Masahiko, M.D.
●出席者
藤井 正彦
神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野准教授/同医学部附属病院放射線科長

1982年
 
神戸大学医学部卒業
同附属病院放射線科入局
89年
 
同助手
92年
 
三木市立三木市民病院放射線科医長
2000年
 
神戸大学医学部附属病院放射線科講師
2001年
 
同附属病院放射線部助教授・副部長
2007年
 
同附属病院放射線部准教授・部長
2010年〜
 
同大学院医学研究科放射線医学分野准教授/同附属病院放射線科長
 

共同研究における3大学の役割と成果─ECHELON Vegaの評価

●体幹部領域の研究成果【東京慈恵会医科大学】
─安定した高画質が得られるアプリケーションを開発

司会(杉村): 本日は,「“やさしさMRI”の15年,そして未来。」をテーマに,ECHELON Vegaの3大学における共同研究の成果をはじめ,超電導型MRIやオープン型MRIの現状と未来への展望について話し合っていただきます。
日立メディコ社はこれまでに,永久磁石型のオープンMRIで多くの成果を上げていますので,新たに超電導型1.5T装置を開発するにあたっては,そのような経験やノウハウを踏まえて特徴付けしていこうということで,先生方がさまざまな面から助言をし,研究開発を進めてきたという経緯があります。また,開発陣とわれわれが定期的に会合をもち,かなりホットなディスカッションを行い,そこで出てきた要望を開発陣が一つひとつクリアしながら熱意を持って進めてきました。共同研究にあたっては,大学ごとに具体的なテーマやクリアしなければならない重点項目があったと思いますが,その成果を中心に原田先生からお話しください。
原田: 杉村先生,原田先生体幹部領域における研究成果としては第一に“NATURAL(NATural Uniformity Realization ALgorithm)”という感度補正技術があります。マルチチャンネルコイルを使用すると,どうしてもスライス面内の受信感度が不均一になりますので,画像の均一補正機能としてNATURALを開発し,それが安定的に使えるようになりました。
また,脂肪抑制パルスを併用した3D高速T1強調RFスポイルドSARGEシーケンスの“TIGRE(T1 weighted GRadient Echo nature of sequence)”によって,息止め,あるいは呼吸同期を使ってダイナミックスキャンが行えるようになり,非常にクリアな画像が得られています。
体動補正技術の“RADAR(RADial Acquisition Regime)”については,後で佐々木先生から詳しいお話があると思いますが,これを体幹部にも応用して,非常に高精細なアーチファクトのない画像が撮像できるようになりました。呼吸による腹壁のモーションアーチファクトも低減されています。
また,ECHELON Vegaを用いた主な研究テーマには,body diffusion(躯幹部拡散強調画像),前立腺がんの拡散強調画像(DWI),非造影MRA,心臓MRIなどがあります。ECHELON Vegaでは,パラレルイメージングのRAPIDファクタが効果的に働き,歪みの少ないDWIが得られますので,body diffusionについては症例を選んで,頭から骨盤までを3回で,あるいは全身を5回で撮像し,がんの診断などに用いています。
一方,前立腺がんのDWIについては,今年のECR(European Congress of Radiology)に論文が採択されたのですが,その内容は,前立腺がんをDWIのADC mapではなく信号強度で評価するというものです。具体的には,骨盤腔にランドマークを置いて前立腺がんのDWIを撮像し,信号強度を数値化して平均値よりも高信号な部分をマッピングした上で,T2強調像とフュージョンして評価します。すでに11例について,摘出標本とフュージョン画像との比較を行っていますが,病変部が非常に明瞭に描出されており,前立腺がんのより正確な評価が可能になっています。
佐々木: body diffusionではアーチファクトが問題となりますが,ECHELON Vegaでは,感度ムラ補正技術とパラレルイメージング技術,radial系のスキャン技術の完成度が上がっており,アーチファクトが最小限に抑えられています。また,radial系は,いわゆるPROPELLERやBLADEと言われるcartesianとradialの組み合わせのスキャンと,通常のradial scanとがシームレスにつながっていますので,シーケンスを選ばずにfast spin echoやgradient echo,spin echoで自由に使えることが非常に大きなメリットです。
司会(杉村): ところで,原田先生は以前,オープンMRIを活用して腎臓の凍結治療(クライオサージェリー)の治験に取り組まれていたと思いますが,現在はどのような状況でしょうか。
原田: 凍結治療については,2000年に当大学(柏病院)と北海道大学で,肝臓がん,腎臓がん,子宮筋腫を対象に60例に対して臨床試験が行われました。フォローアップも行って非常に治療成績が良かったにもかかわらず,その後なかなか薬事承認されなかったのですが,ついに,今年1月8日に正式に承認されました。凍結治療は,病変に1.4mm径の針を刺して凍らせるのですが,最大の特長は,凍結範囲を画像で確認できるということです。私どもは臨床試験の際,日立メディコ社製のオープンMRIガイド下で治療を行ったのですが,MRIでは氷は真っ黒に描出されますので,0℃の範囲が非常に明瞭に見えます。もちろん,MRIだけでなく超音波やCTでも描出されますので,穿刺さえきちんと行えば非常に良い治療法だと思います。
司会(杉村): 凍結治療は,日本では詳しい方があまりおりませんので,先生にはぜひリーダーとして牽引していっていただきたいですね。

●基本性能の向上と脳神経領域の研究成果【岩手医科大学】
─MRA,MRSの評価とプラークイメージングの可能性

司会(杉村): MRIの基礎的,物理的な面に関して非常に造詣の深い佐々木先生には,共同研究にあたり,ECHELON Vegaの基本性能を検証していただくことをお願いしていました。その点も含め,現在までの成果についてお話しください。
佐々木: ECHELON Vegaの基本性能については,SNRの向上を図るために,システム全体をコイル,回路系,再構成系からすべて見直しました。開発の皆さんもとても努力され,短期間で2〜3割はSNRが向上したのではないかと思います。
次に行ったのは,基本シーケンスのブラッシュアップでした。まず,fast spin echoですが,実はメーカーによって実装の仕方がかなり違います。原法は非常にフレキシブルな仕様なのですが,プログラミングが大変難しいということで,なかなか製品化されにくいという経緯があります。ECHELON Vegaのfast spin echoも自由度が低かったので,抜本的に見直していただいたところ,約2か月で改良が終了し,きわめて完成度が高くなっています。いまは普通に使えば最もアーチファクトの少ない最適な条件で撮像できますので,fast spin echoの改良は全体の画質の向上に大きく貢献しています。
次にMRAですが,これも画質改善のために,例えばslice selectionやMTCパルス,flow compensationといったところまですべて見直していただきました。time of flight(TOF)MRAだけでなく,phase contrast MRAもphase correctionの最適化,また,再構成法もphase subtractionだけでなくcomplex differenceを実装していただくなど,オーバーオールの性能向上ができたと思います。一方,造影MRAについては,ECHELON Vegaでは,リアルタイムのサブトラクション透視下で造影剤の到達を視認して撮像をスタートできますので,当初から非常に高いレベルにありました。
もう1つ大事なのは,3D gradient echoのT1強調像です。これは,いわゆる3D-SPGRというspoiled gradient echo系と,MP-RAGEに代表されるIR preparation系の両方があると思いますが,やはりシーケンスレベルで見直していただき,現在はSPGR系とMP-RAGE系の両方を自由に使えるようになっています。これにより,現在行われている,3DのT1強調像を用いた多施設共同研究,国際研究においても承認を得ることができました。そういう意味で,キラーシーケンスのブラッシュアップが短期間ですんだことは,非常に大きかったと思います。
司会(杉村): ECHELON Vegaでは,MR spectroscopy(MRS)が非常にユニークな方法で行われていると聞いていますが,どのようなものでしょうか。
佐々木: MRSはすばらしいと思います。日立メディコ社のMRIは,使いやすく,患者さんにやさしいことがコンセプトになっていますが,まさにそれを体現した真のクリニカルMRSのパッケージが実現できていると言っても過言ではありません。
操作法は一言で言うと,ボタンを1つ押すだけです。計測のときもROIを決めてボタンを1つ押せば全自動ですみますし,その後の解析も,現在の標準的な解析ワークステーションとして使用されているLCモデルのエンジンを内蔵していますので,ワンボタンで解析結果が自動で出てきます。また,解析結果は本体に自動的にセーブされるので,通常の検査の後に気軽にMRSが追加できます。製品としては,single voxelとdual voxelのMRSがありますが,現在岩手医科大学でベータテストを行っているchemical shift imaging(CSI)についても,まったく同じようにワンボタンで行えますので,とても使いやすいです。
藤井: 基本性能の向上は,SNRの向上はもちろん,アーチファクトの減少にもつながります。共同研究を始めた当初は,胸椎の画質があまり良くありませんでしたが,この3年間での画質改善は非常に顕著で,脊椎のどの領域であっても十分に診断に役立つレベルになっています。
原田: 3大学の共同研究では,互いの研究成果がすぐに反映されるコネクションの良さがすばらしかったですね。ECHELON Vegaは,すでに多くの施設で稼働しているので,われわれの研究成果がそれらの装置にも反映されていけば,とても有用だと思います。
佐々木: 最近,われわれは頸動脈のプラークイメージングの研究を行っています。これは現在,非常に注目されている領域の1つですが,頸動脈プラークの内部性状を画像で判定することで,いわゆる不安定プラークを予測して,外科的治療の合併症,特に頸動脈ステントの合併症の減少や将来の脳卒中の予防につなげていこうというものです。超音波やCTでは十分な診断能がないのでMRIに対する期待が高いのですが,これまでの方法ではなかなか頸動脈プラークの性状をうまく判定できませんでした。その理由はいくつかあるのですが,従来のMRプラークイメージングは,心電図同期をかけてdouble IRを用いたblack blood法という非常に特殊な方法で撮像していたため,撮像時間がかなりかかる上,心電図同期をかけるので一見きれいな画像に見えますが,肝心のコントラストが失われてしまうという問題がありました。そこで,心電図同期の代わりに,RADARのradial scan技術を使って体動を抑制し,撮像時間,特にパラメータのTRを最適に設定して頸動脈プラークイメージングを行ったところ,非常に良い結果が得られました。撮像時間も短時間ですみ,多くの装置で施行できますので,国内でこれから行われる多施設共同研究にも使用できる手法として,注目を集めています。
この研究で一番大きかったことは,radial scan系の自由度の高さです。通常は,fast spin echoのT2強調系しか撮れないことが多いのですが,spin echoのT1強調でも同じ手法が使えたことはとても有益でした。

●整形領域の研究成果【神戸大学】
─μTEによる軟骨イメージングで成果

司会(杉村): 神戸大学の研究テーマは骨軟部,整形領域ですが,これは,もともと藤井先生が骨軟部を専門とされていることに加えて,日立メディコ社がこれまでオープンMRIで整形領域に非常に力を入れてきましたので,1.5T装置の開発にあたっても,大きな特長にしたいというねらいがありました。そこで,具体的にどのような研究を行ってきたのかご説明ください。
藤井: 佐々木先生,藤井先生日立メディコ社がオープンMRIで培ってきた技術やコイルがありますので,われわれはぜひそれを活用したいと考えました。中でも,オープンMRIの良さというのは,患者さんにやさしいこと,関節の機能を可視化しやすいこと,実際に症状が出るときの角度で撮像できること,さらにはキネマティックMRIの可能性などが挙げられると思います。そこで,できるだけこうした点を1.5T装置で実現するためのコイルやデバイスの開発を行いました。
その結果,比較的狭いガントリでも手首の関節などを十分に評価できるようになり,さらに頸椎や膝関節についても,ガントリ径を最大に活用するためのデバイスを非常に短期間で開発していただきました。同時に,1.5Tの良さを引き出すため,空間分解能を向上させるコイル,通称“マイクロコイル”の開発も同時に行い,高解像度かつ任意の角度で関節の靭帯などが評価可能になりました。実臨床では,頸椎の術後の患者さんの脊柱管狭窄症がどのように改善したのか,あるいは,その後の運動機能の回復状態を見るための研究がスタートしています。
もう1つはリウマチ患者の手の撮像です。従来のトンネル型のガントリでは,片手ずつしか撮像できなかったのですが,両手を一度に撮像することを試みています。現在は,Cardiac Coilを利用し,感度域を調整しながら進めていますが,同時に両手の撮像に特化した最適なコイルの開発を行っています。これにより,お腹の上で手を楽に伸ばした状態で,両手同時に単純X線写真に近い肢位で撮像できるようになりました。その際,撮像領域がガントリのかなり上の方にくるのですが,感度ムラもなく,脂肪抑制もわれわれの期待以上で,かなりの高画質が得られています。今後は,造影の程度をできるだけ客観的に評価するためのソフトウエアをコンソール上で試していく予定です。
次に,軟骨のイメージングですが,軟骨の性状を評価するためのT2マッピング,深部の軟骨の石灰化層と深層を評価するために超短TE(μTE)シーケンスの開発を行い,軟骨イメージングのワンストップショッピングをめざしました。例えば,軟骨が損傷する場合,以前は表層側からダメージを受けると考えられていたのですが,最近では,スポーツなどで衝撃を受けたときに軟骨の深部に亀裂が入ると,軟骨下骨から血管が進入し,軟骨を内側から破壊することがわかってきました。そこで,深部を評価するために,従来は真っ黒に描出されてしまっていたところを,μTEによって白く表示することで診断に役立てています。また,腱や靭帯,手や足の関節の診断などにも有用性が期待できます。
μTEについては,今年のECRで発表する予定です。
司会(杉村): 佐々木先生,脳神経領域のμTEの可能性についてはいかがでしょうか。
佐々木: まだ実際に試みてはいませんが,髄鞘の病変で,通常の画像ではとらえることのできないわずかな変化をとらえる上で,μTEは有望ではないかと考えています。
藤井: 最後に,先ほど原田先生から前立腺のDWIのお話がありましたが,われわれは四肢や整形領域でも,DWIを神経根のイメージングに活用できるのではないかと考えています。これまで,MR myelographyで脊髄腔内の硬膜内を評価していたのですが,そこから先がなかなか連続して評価できなかったので,新たな評価法として期待しています。
司会(杉村): 日立メディコ社の超音波装置の優れた技術であるReal-time Virtual Sonography(RVS)を使って,MR画像を超音波画像と融合させて活用しようということで,いま藤井先生が準備を進めているところです。
藤井: 具体的には,超音波下の前立腺生検,さらには穿刺による治療にMR画像を活用すれば,小さながんでも高精度に診断でき,その治療効果判定にも寄与できるのではないかということです。超音波装置を操作する際に,超音波画像をT2強調像もしくはDWIと連動させれば,より高い確率で診断できるのではないかと考えています。

ECHELON Vegaの今後のテーマ

司会(杉村): ECHELON Vegaの共同研究を通じて,それぞれの施設でさまざまな成果が挙がっていますが,一方で,今後のテーマも見えてきました。それについて,それぞれお考えをお聞かせください。
佐々木: やはり,できるだけ情報感度を高くして,いま現在足りないものや求められているものを十分ディスカッションした上で,最短距離の開発をこれからも進めていただければと思います。また,水平磁場のECHELON Vegaのノウハウを,垂直磁場1.2TオープンMRI「OASIS」にも最短期間で反映させ,OASISのプラットフォームにも生かしていくことが重要と思います。
藤井: 骨関節領域において,ECHELON Vegaのライバルは3T装置です。やはり,高解像度で高SNRが得られますので,われわれとしては,1.5Tの次の方向性として,さらに超高磁場装置の開発を進めていただきたいと思います。
整形領域は,軟骨にしてもリウマチの滑膜にしても対象が小さく,撮像時間もT2マッピングですと10分強,μTEでも同じくらいかかりますので,ルーチンで使用するにはハードルが高いということがあります。その点で,佐々木先生が行われた基本性能の向上が確実に効果を上げていますので,トピックス的なシーケンスの開発だけでなく,基本の見直しを常に行い,全体の底上げを図っていただきたいですね。中でも,脂肪抑制は課題の1つだと思っています。体幹部,整形,脳神経などさまざまな領域で広く役立つ技術ですので,それぞれの担当領域で磨き上げれば,すべての施設での研究に生きてくると思います。

これからのMRIとECHELON Vegaに求められるものとは─臨床的意義や開発の方向性への提言

司会(杉村): 藤井先生から3T装置のお話がありましたが,MRAなどは,やはり3Tはすばらしいと思います。基本性能が大事な領域では特に有用性が高いように思われますが,一方,1.5T装置は長い時間をかけて世界中でブラッシュアップされただけあって,優れたコイルや最適なシーケンスなど,良い点がたくさんあります。今後のMRIの方向性を踏まえ,ECHELON Vegaがさらに良い装置になっていくための助言をお願いします。
原田: 3T装置は,いくつか課題もあるようですが,可能性は非常に高いですし,やはりもっと詳細な画像を得ることができれば,体幹部領域でも必須の武器になってくると思います。日立メディコ社にも,ぜひ開発に取り組んでいただきたいと思います。
また,ECHELON Vegaではユーザーインターフェイスの向上がめざましかったので,患者さんへのやさしさをさらに追究するという意味でも,静音技術に力を入れていただきたいですね。
佐々木: 脳神経領域では3Tがスタンダードになりつつあると思いますが,ECHELON VegaのMRSやCSIは使いやすく,スペクトルの精度も十分高いと感じています。また最近,アルツハイマー病の多施設共同研究などにおいて,3Tでは3DのT1強調像の画像歪みがかなり強いことがわかってきました。現時点では1.5Tの活躍の場はかなり残されていると考えますが,一方では,装置の完成度の高さが求められますので,ECHELON Vegaについてもより完成度を高めることが存在意義につながっていくと思います。特に最近は,ポストプロセッシング技術の向上によって,いろいろな付加価値画像が登場し,画像処理のニーズが高まっていますので,ポストプロセッシング技術にはより力を入れてほしいです。
藤井: 整形領域では,軟骨のイメージングにおいては,スライス厚2〜3mmで,512×512マトリックスで表示しようとすると非常に高いSNRが求められますので,やはり,日立メディコ社には3T装置の開発を進めていただきたいです。一方,1.2TのOASISは非常に良い装置だと思います。垂直磁場を採用しているので,コイル等の工夫によって,実質的には1.5Tと遜色のない画質が得られるので期待しています。
また現在,整形領域では新しい取り組みとして,代謝性疾患にMRSを活用するということが行われています。例えば,糖尿病を筋肉の脂質代謝のイメージングで評価することもありますし,スポーツ医学では,筋力の回復や増強について,ATPやpHから見ていく試みも行われています。このように,MRIの応用範囲もどんどん広がっていますので,常に新しい情報を集めて装置の開発に生かしていってほしいと思います。
司会(杉村): これまで,日本のMRIの研究開発は大学が中心となって行い,また,各メーカーもそれぞれ新しい技術を開発はするものの,実臨床ではあまり役立たないこともあるなど,医療の現場と開発陣との間に大きなギャップがありました。その点で,十分な意見交換が行われた今回の共同研究は大変意義深いものであり,また,3年間という短期間でECHELON Vegaをここまで高いレベルに磨き上げられたという点からも,日本における共同研究の新しいモデルと言えるのではないかと思います。日立メディコ社が,今後も世界に誇れるすばらしい装置を開発し,3T装置の開発にも取り組んでいただくことを願って,本日の座談会を終わらせていただきます。ありがとうございました。


集合写真

〈2010年1月9日,大阪にて〉

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