日立メディコ

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別冊付録

Special Interview

サッカーとスポーツ医学とMRI
悲願のJFAメディカルセンター開設

財団法人日本サッカー協会専務理事 田嶋幸三

財団法人日本サッカー協会専務理事 田嶋幸三

2009年8月1日,福島県のJヴィレッジ内に「JFAメディカルセンター」がオープンした。国際サッカー連盟(FIFA)の助成制度であるGoal Programによる初の医療施設であり,(財)日本サッカー協会(JFA)と福島県,楢葉町が協働して建設・運営にあたることで開設に至った。ここに導入されたのが,日立メディコ社が誇る世界初の高磁場超電導型1.2TオープンMRI「OASIS」の国内第1号機である。スポーツ医療や地域医療をはじめ,スポーツ医学の研究においても必須である最先端のMRIを擁する同センターは,国内のみならず世界からも注目されている。医療施設の設置というGoal Projectを申請したJFAの田嶋幸三専務理事に,JFAメディカルセンターにかける想いや,オープンMRI「OASIS」への期待などについてお話しをうかがった。

((財)日本サッカー協会は株式会社日立メディコと,JFAメディカルセンターの協賛契約を締結:2009年4月1日〜2013年3月31日の4年間)

JFAメディカルセンター開設に至る道程─Jヴィレッジ誕生時から12年越しの悲願達成まで

1997年,福島県楢葉町に日本で初めてのサッカー専用ナショナルトレーニングセンターである「Jヴィレッジ」が誕生し,今年で12年目になります。スポーツと医療は一体でなければいけないというのが,われわれの基本的な考え方でもあったので,実は当時から,Jヴィレッジ内に医療施設をつくることは計画されていました。しかし,試算したところ初期投資や採算面での見通しが立たず,その時は実現には至らなかったという経緯があります。
Jヴィレッジには多くの子供たちや選手たちが試合や練習で集まるわけですから,ケガなどの不測の事態が起こることは想定できましたし,医療施設の必要性は常々考えていました。現実にはやはり,軽度から重度までのケガが起こります。その時には,近所の診療所で簡単な応急手当をしていただいたり,骨折やアキレス腱の断裂など重傷の場合は,救急車で数十分かかる近隣の病院まで運んだりしていました。また,ケガをしたプロ選手たちが試合に出場できるかどうかという判断を下す際に,MRIによる診断が必要ということで,東京の病院まで2時間以上かけて運んだこともあるなど,少なからぬ不便が生じていたことは間違いないです。
それから10年が経過した2007年,JFAはFIFAのGoal Projectとしてメディカルセンター設立の助成を申請。FIFAの承認を受け,40万ドルの助成金が補助されることになったのです。FIFAは1999年からGoal Programという,各加盟協会の施策であるFIFA Goal Projectを助成する制度を設置し,サッカーの普及・発展活動のための施設等に財政的援助を行っています。今回,FIFAのGoal Programとしては,世界初となる医療施設への助成となります。現在,すでに3期まで承認され,計120万ドルの助成金が援助されます。
第一期の承認を機にJFAは,メディカルセンター設立に向けた具体的な検討を始めました。福島県や楢葉町,Jヴィレッジが相談していく中で,地域に整形外科の医療施設がなかったこともあり,楢葉町が施設の建設費用を負担し,JFAが医療機器の費用を負担するという,スポーツ団体と自治体がパートナーシップをとって協働する方向性が決まりました。楢葉町がJFAに施設を貸し付け,JFAが運営・維持を行うことになります。こうしてJFAメディカルセンター設置が実現することになりました。
12年前と大きく違っているのは,2006年に「JFAアカデミー福島」が開校し,今では中高生の男女あわせて120名近くの子供たちが寮生活を送っていますし,2005年からは日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)の東京電力女子サッカー部マリーゼが本拠地として活動しています。つまり,常時150名ほどがJヴィレッジで活動しているわけです。それを考えると,最低限採算がとれて運営できるのではないかとシミュレーションしました。
トップアスリートを診る最先端のスポーツ医学の発信基地であること,そして,近隣のスポーツ障害をもつ人たちや高齢者のための施設として社会貢献をすること,この2つを目的に開設しました。

MRIなくしてメディカルセンターなし─超電導型1.2TオープンMRI「OASIS」を導入

JFAが担当する医療機器の購入にあたって,MRIが一番のポイントになりました。ご存知のように安価なものではないので,導入にはそれなりの覚悟をもたなければならないですが,何かあった時に長時間かけて検査を受けに行かなければならない不便は強く感じていましたので,MRIがなければ,ここに医療施設をつくる意味はないのではないかと考え,導入を決定しました。スポーツ外傷・障害などの整形外科診療はもちろん,高齢化が進む地域医療にも大きく貢献できるのではないかと考えています。
MRIの機種選定に関しては,関連各社にアナウンスし,お見積りいただき,スポーツ医学委員会で選考していきました。通常の診療以外に先端的な研究も行うことを前提にして,クオリティの高さも考えた上での機種選定をしたと聞いています。JFAメディカルセンターは,日本のスポーツ医学の発展に,そして,世界のサッカーの発展に寄与できることを前提として考えています。研究を行う上では,オープン型の方が膝を曲げたり腰を曲げたり,自在な体位でMRIが撮れるということが重視された選択になったと思います。そして,日立メディコ社の超電導型1.2TオープンMRI「OASIS」の導入が決まりました。
私自身,いつもトンネル型のMRIで撮っていましたので,オープン型というのは非常に斬新で魅力的なものであると感じていました。やはり,われわれJFAがサッカー,スポーツを専門とした医療施設をつくるとすれば最先端の設備が求められるので,日本初の第1号機であるOASISへの期待は大きいものがあります。

サッカーのプリントが施されたOASIS─元気が出る明るい病院をめざして

JFAの医療施設ということで,いわゆる真っ白な普通の病院という感じではなく,活気があって病院なのに元気が出るような,「早く治してスポーツをしなければ!」と思えるような施設というコンセプトの建築デザインにしました。そして,日立メディコ社には, MRIにサッカーをテーマにしたプリントを施すことをお願いしました。メディカルセンターで実際にOASISを見た時,MRI室に入ったという感じがしなかったというのが一番の大きな印象です。
先日,私も初めてOASISでMRIを撮ってきました。オープン型ですから,今までの閉塞された空間とまったく違うイメージで,すごく開放感がありました。技師さんにうかがったら,中には閉所恐怖症の方がいらっしゃるということでしたが,このOASISでは今まで検査できなかったことは1回もないそうです。そういう意味ではやはり,オープン型であるということと,サッカーのプリントなどの雰囲気作りにも気を配ったおかげで,非常に明るくて元気の出るMRI室になったと思います。
9月14日に現地で行われた「FIFA Goal Programセレモニー」にFIFAのブラッター会長がいらっしゃったときも,MRIのサッカープリントをとても喜んでいらっしゃいました。

世界に向けたJFAメディカルセンターの挑戦─MRIによるスポーツ医学研究への期待

スポーツ選手にケガはつきものですが,例えば非常に高額な年俸をもらっているサッカー選手が1週間休んでも,クラブとしては大きな損失になりますし,選手本人にとっても一日も早い復帰はとても重要なことです。MRIなどを駆使したトップレベルの医療を受けて,復帰できる時期を見極めて休む期間を減らすこと,もしくは早く治してより高いパフォーマンスを出せるようにすることは,スポーツ医学の責任と言えるのではないでしょうか。世界に比べて日本では,スポーツ医学の研究が遅れていますので,これからJFAメディカルセンターの果たす役割は大きいのではないかと思います。
日本では,スポーツ選手に限らず,若年層や子供たちに対しての医療サービスはほとんどないのが現状です。例えば,ちょっとした捻挫でも無理してプレーを続けることによって,将来のスポーツ人生に大きなマイナス影響が出るということがあるので,非常に重要な問題だと考えています。そういう意味で,JFAアカデミーの子供たちや,Jヴィレッジを訪れる子供たちが,気軽にJFAメディカルセンターで診療を受けられるということが一番大事だと思っています。
さらに,JFAメディカルセンターではOASISを使って,12〜17歳までのJFAアカデミーの子供たちの骨の発育・発達の特徴(骨年齢計測)を継続して定期的に検査する研究を始めました(Special Reportage 参照)。MRIで骨年齢の時間的な経過を調べる研究は初めてということで,成果が期待されています。
「JFA2005年宣言」でわれわれは,ヨーロッパの100年以上に及ぶサッカーの歴史を,半分の50年で追いつき追い越すという目標を掲げました。JFAメディカルセンターはその実現に向けた柱のひとつですから,ここでの研究成果を積極的に世界に発信していきたいと考えています。

日本流サッカー発展のビジョン─ワールドカップ2010南アフリカ大会への意気込み

日本人は欧米人と比べて体力的に劣ると言われますが,逆に日本人特有の優れた部分もありますので,そこをもっと伸ばしていって,欧米人に負けないような子供たちを育てていくことが,JFAアカデミーの使命ではないかと思っています。それにより選手の層が厚くなっていけば,日本全体のレベルも自ずと上がっていくと思います。
また,日本独自のサッカースタイルをつくっていく必要があります。サッカーはクリエイティブなスポーツですので,リーダーシップが取れるクリエイティブな選手を育成していく環境をつくっていきたいと思っています。ただし,サッカー技術ばかりを求めて基本をないがしろにしないよう,JFAアカデミーでも徹底して指導しています。
今年の6月にはいよいよ,ワールドカップの南アフリカ大会が開催されます。日本代表チームの岡田武史監督がベスト4をねらうと言った以上,われわれも一丸となって勝利をめざしたいと思っていますので,皆さんの応援をぜひよろしくお願いいたします。

(2009年12月17日取材:財団法人 日本サッカー協会にて)

●プロフィール
1957年熊本県生まれ。76年,浦和南高校主将として全国高校サッカー選手権優勝。筑波大学大学院修士課程体育研究科修了。古河電工入社,日本代表フォワードとして活躍。83〜86年,西独ケルン体育大学留学。帰国後,筑波大学,立教大学サッカー部コーチ,立教大学助教授,筑波大学客員助教授。2001年,U17日本代表監督として世界大会出場。JFAの各種委員を歴任,2006年から現職。

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