日立メディコ

ホーム の中の inNavi Suiteの中の 日立メディコの中の 別冊付録の中の 磁遊空間 Vol.23の中の 術中MRIで脳腫瘍手術の生存率が大幅に向上 実施施設が連携して,国内外に情報発信を! 若林俊彦 名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学教授

別冊付録

Insight

術中MRIで脳腫瘍手術の生存率が大幅に向上
実施施設が連携して,国内外に情報発信を!

若林俊彦(名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学教授)

若林俊彦(名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学教授)

■6月18日に,研究会から学会となった「日本術中画像情報学会」が名古屋で開催されました。世話人として,また,大会長の所属教室の教授として尽力されてきた中で,学会の意義や役割についてのお考えをお聞かせください。

術中画像情報の開発にかける体制や予算規模などで圧倒的な差がある欧米に対抗するためにも,学会となって,活動の場を広げていくことは大きな意味があると思います。われわれの叡智を結集し,お互いに切磋琢磨して,国内だけでなく海外に向けて,日本発の開発や情報発信を行っていくことが重要です。関連する他学会とも連携して活動していけば,大きな動きになると確信しています。

■今回の学会では,「術中MRIの世界」というシンポジウムが企画され,名古屋大学をはじめ,全国8施設から現状が報告されました。術中MRIをどのように評価されていますか。

術中MRIのパイオニアである東京女子医科大学病院では,これまでに970例の経験があります。当大学の関連病院である名古屋セントラル病院は約500例,当院は約230例(4月現在)と,国内の施設を合算すれば,欧米に匹敵するだけの実績を上げているのではないかと思います。
当院では,脳腫瘍(特にglioma)はもちろん,深部の良性腫瘍については術中MRIでリアルタイムに摘出状況を確認し,安全の確保と最大限の切除を両立させています。摘出率を高めることで,glioblastomaの2年後生存率が17%から42%へと,大幅に向上しました(当院比)。2006年の導入時には,術中MRIの撮像に1回で2時間近くかかっていましたが,5年経った今ではスタッフの熟練により,40分を切るまでになっています。こうなると,術中MRIのデメリットはほとんどないと言えます。
最近では,gliomaの患者さんを中心に,当院への紹介が増加しています。術中MRIの治療成績が認知されてきた結果でしょうし,大学病院としての役割を果たすことにもなっていると思います。

■術中MRIを実施しているのは,国内でまだ11施設にすぎません。普及を妨げている要因は何でしょうか。

主要な要因として,MRIを設置するにはシールドや荷重への対応など,手術室や建物の改築・新築が必要で,導入コストがかかることが挙げられます。診療報酬としては現在,術中画像診断加算がつくようになりましたので,以前に比べると収入面ではプラスになりましたが,初期費用を補うまでには到底至っておりません。導入へのハードルはまだまだ高いというのが現実ですが,軽くて可動性のある装置の開発や,2ルームで診断用に併用するなど,運用面の工夫が模索されています。

■名古屋大学病院は0.4TオープンMRI(APERTO)を中心にした「Brain THEATER」を構築しましたが,術中MRIにおける永久磁石型オープンMRIのメリットをどのようにお考えですか。

永久磁石なので運用コストが安く,5ガウスラインが狭いために安全性が高いことが挙げられます。各種器具は非磁性体のものを使っていますが,あまり気にせずに作業ができます。かつ,手術室に置いてもコンパクトで,じゃまになりません。また,0.4Tと高磁場ではないものの,画質は十分なレベルを達成しています。当院では,3T MRIで撮像した術前画像と,術中のブレインシフトした画像をフュージョンする「変形フュージョン技術」を活用しているので,中磁場でもまったく問題はありません。これらのメリットは,術中MRIとしての重要な要素と言えます。

■最後に,伝統ある脳神経外科教室の第四代教授としての方針,取り組んでいる研究などについてお聞かせください。

当教室は代々,教育に力を入れています。早期から,手術を自分の眼と手で実体験させ,豊富な経験を積ませて,実力派の人材を輩出しています。また,私が進めているプロジェクトは,それぞれの分野でパイオニアだった歴代教授の成果を集大成した,脳神経外科ロボット手術の開発です。再生医療,細胞治療,遺伝子治療をサブミリメートル単位で行う,いわゆるナノサージェリーです。まず,海外の技術を導入して日本をアジアの拠点とし,次に日本独自のロボティックスを開発したいと思っています。

(2011年6月29日取材)

1981年
  名古屋大学医学部医学科卒業
85年
  名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了
87年
  ハンガリー国立脳神経外科科学研究所へ留学
89年
  ウイーン大学脳神経外科にて研修
同年,名古屋大学医学部脳神経外科助手
97年
  文部省在外研究員としてカナダ・トロント大学に留学。名古屋大学医学部附属病院脳神経外科講師
2001年
  名古屋大学医学部バイオ医療学(東レ)寄附講座助教授
02年
  名古屋大学医学部附属病院遺伝子・再生医療センター遺伝子医療分野准教授(医局長兼任)
08年〜
  名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学教授,同附属病院遺伝子再生医療センター副センター長(兼任)
09年〜
  名古屋大学大学院医学系研究科副研究科長(兼任)

▲ページトップへ

目次に戻る