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ホーム の中の inNavi Suiteの中の 日立メディコの中の 別冊付録の中の 磁遊空間 Vol.23の中の 頸動脈プラークイメージング ─第31回日本脳神経外科コングレス総会ランチョンセミナーLS3-4 MRプラークイメージングの現状と将来 MR plaque imaging:current concepts 佐々木真理

別冊付録

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MRプラークイメージングの現状と将来
MR plaque imaging:current concepts

佐々木真理(岩手医科大学医歯薬総合研究所超高磁場MRI診断・病態研究部門教授)

佐々木真理(岩手医科大学医歯薬総合研究所超高磁場MRI診断・病態研究部門教授)

頸部頸動脈狭窄は脳卒中の重要な危険因子であり,しばしば頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)や頸動脈ステント術(carotid arterial stent:CAS)による外科的治療の対象となる。CEAについては症候性,無症候性ともに治療適応基準および治療効果がほぼ確立しているが,CASについては,SAPPHIRE(Stenting and Angioplasty with Protection in Patients at High Risk for Endarterectomy)スタディでCEA高リスク群における非劣性が証明されたものの,CEA適応例におけるメタ解析やICSS(International Carotid Stenting Study)の結果ではCEAよりも治療成績がやや悪く,CREST(Carotid Revascularization Endarterectomy Versus Stenting Trial)でも脳卒中イベントが多いという結果になった。また,国内のJ-CASES(Japan Carotid Artery Stent Education System)の市販後調査でも同様の結果であった。すなわち,脳卒中イベントを減らすことがCASの治療成績向上に重要であり,その点で,術前画像診断の意義はこれからますます大きくなると考えられる。
本講演では,CEA/CASの術前画像診断,なかでも塞栓性合併症の予測に有望な MRプラークイメージングの現状と将来について述べる。

CEA/CASの術前画像診断

CEAやCASの術前画像診断の目的はいくつかあるが,主に,治療適応の決定(NASCET狭窄率の判定),術後過灌流の予測(脳血管反応性の評価),塞栓性合併症の予測(プラーク性状の判定)の3つを挙げることができる。ここでは特に,塞栓性合併症の予測について述べる。

●塞栓性合併症の予測

塞栓性合併症を予測するために,超音波やCT,MRIを用いたプラーク性状判定が試みられている。頸動脈プラークの存在診断は頸部超音波検査で十分と思われるが,質的診断,特に不安定(脆弱)プラークかどうかの評価に超音波,CT,MRIのいずれが最適かということについては,いまだ十分に検証されていない。
不安定プラークは,脂質コアやプラーク内出血を主体とし,薄い線維性被膜を有しているため,脂質・出血と線維とのコントラストをいかにつけるかがプラークイメージングの重要なポイントである。表1に,超音波,CT,MRIにおけるプラーク性状と画像所見の関係を示す。MRIはコントラストに優れ,出血成分と脂質成分が比較的高信号となることが多く,また,石灰化が高度でも評価の妨げとならないため,プラーク性状の判定に最も有望と考えられる。

表1 超音波,CT,MRIのプラーク性状と画像所見
表1 超音波,CT,MRIのプラーク性状と画像所見

MRプラークイメージングの課題

MRプラークイメージングには一般に,T1強調画像,プロトン密度強調画像,T2強調画像などが用いられる。しかし,これらのプラーク性状識別能は必ずしも十分ではなく,特に脂質成分と線維成分の信号強度がオーバーラップすることが多い(表1)。そのため,さまざまな撮像法が追加され,複雑で時間のかかる検査となってしまう。加えて,表面コイルやblack-blood(BB)法などの特殊なハード・ソフトが必要なこと,撮像時間が長くスライス枚数が少ないこと,プラーク信号輝度の判定基準を顎下腺と胸鎖乳突筋のどちらにするかコンセンサスが得られていないことなど,多くの問題点が挙げられる。なかでも,最も重要なT1強調画像の撮像法の施設間差異が大きいことが,最大の問題と思われる。

MRプラークイメージングの撮像法の比較

MRプラークイメージングのT1強調画像としては,現在,spin echo(SE)法,心電図同期併用BB法fast spin echo(FSE)法(ECG-BB-FSE法),Magnetization prepared rapid gradient echo(MP-RAGE)法,3D-spoiled gradient echo(GRE)法(3D-TOF MRA法),3D-FSE法の5種類が用いられている。

●ECG-BB-FSE法

ECG-BB-FSE法の特徴は,高画質なことである。心電図同期を用いるため,確実な体動補正が可能となり,血管の拍動などによるアーチファクトのないシャープな画像を得ることができる。また,doubleもしくはquad IRパルスを用いるため,確実な血管信号抑制効果が得られる。一方,検査時間が長く撮像できる枚数が少ないこと,T1コントラストに大きく関与する繰り返し時間(TR)が心拍数に規定されるため,肝心のプラークのコントラストが低下したり,患者の心拍数によって変動したりすることが問題である。本手法では,TRをR-R intervalに設定するため800〜1000msとなるが,通常の脳のT1強調画像のTRが500ms以下であることを考えると,不適切に大きな値であることがわかる。T2強調画像では同様にTRは1600〜2000msとなり,通常は3000ms程度が用いられることを考えると,やはり不適切な値と言える。
図1は,SE法によるT1強調画像のプラークイメージングである。TRが延長するに従い,驚くほどコントラストが低下することがわかる。心電図同期がいかにコントラストを損なう原因となっているかが理解できる。

図1 TRの違いによるMRプラークイメージングの比較(SE法T1強調画像)
図1 TRの違いによるMRプラークイメージングの比較(SE法T1強調画像)

●MP-RAGE法

プラークイメージングに用いられるMP-RAGE法は,水励起による脂肪抑制とIRによる血液抑制を組み合わせた特殊法(direct thrombus imaging)である。コントラストが高く,3D撮像法なので比較的短時間で広範囲をカバーでき,部分容積効果を軽減し,多断面再構成が可能といった多くの利点を有している。一方,脂質成分や壊死成分の信号がしばしば抑制され,線維成分より低信号になることがある。これは,MP-RAGE法に限らず,IRパルスを使う撮像法すべてに起こりうる現象と思われる。また,特許の関係で特定企業以外では使用できないことも普及を妨げている。

●4種類のT1強調画像の直接比較結果

このように,どの撮像法にも利点と欠点があるが,そもそも異なる撮像法で高信号を呈するプラークが同一のものを指しているかどうかについては,いまだ確認されていない。そこで,われわれは,現在広く用いられている4種類のT1強調画像の直接比較を行った。
 SE法(TR 500ms)では,出血成分主体のプラークは明瞭な高信号,脂質・壊死成分主体のものは筋肉より若干高信号,線維成分主体のものは筋肉と同程度で,素直で良好なコントラストとなっている。それに対して,ECG-BB-FSE法ではコントラストが明らかに低下していることがわかる。一方,MP-RAGE法や3D-TOF MRA法では,出血成分主体のプラークは明瞭な高信号となるが,出血を伴わない脂質・壊死成分主体のプラークは筋肉と等信号から低信号となっている。
このようにT1強調画像ひとつとっても,施設によって撮像法はまちまちで,コントラストが不十分な手法もあり,安定した指標として問題が多いことが明らかとなった。

望ましいMRプラークイメージング

以上のことから,望ましいMRプラークイメージングの条件として,(1) 通常の頸部用(neuro vascular:NV)コイルを使用すること,(2) 心電図同期を用いないこと,(3) コントラストが良好で,出血・脂質成分と線維成分との区別が可能であること,(4) 体動補正や血液信号の抑制,脂肪抑制が十分で,基本画質が良好であること,(5) 空間分解能,撮像時間,撮像枚数のバランスが良く,検査効率が良好であること,(6) すべてのメーカーの装置で撮像可能なこと,という6つを挙げたいと思う。
われわれは, 循環器病研究委託費「無症候性頸動脈狭窄症に対する治療方針の確立に関する研究」(主任研究者:名古屋市立大学・山田和雄教授)で,MRプラークイメージングの標準化に取り組んだ。その際作成したMRプラークイメージングの標準化案は表2の通りである。この中で,心電図同期に代わる体動抑制法としてself-navigated(hybrid)radial scanを挙げているが,これは, k-spaceのデータを放射状に充填し,その後,self-navigationの手法で体動補正を行う手法である。日立メディコ社のMRI装置ではRADAR(RADial Acquisition Regime)と呼ばれている。

表2 MRプラークイメージングの標準化案
表2 MRプラークイメージングの標準化案

この標準化案に則って,日立メディコ社製1.5T MRI 「ECHELON Vega」にて撮像した画像を提示する(図2)。両側の内頸動脈にあるプラークが,明瞭に描出されていることがわかる。脂質主体のプラークで,T1強調画像で軽度高信号を呈しているが(←),潰瘍の部分は強い高信号を呈しており(↓),同部の血栓を描出していると考えられる。
われわれは最近,CEAの術前患者40例に標準化案MRプラークイメージングの撮像を行い,病理所見と比較した。ROC解析で求めたカットオフ値を用いると,T1強調画像では,出血成分とそれ以外とを鑑別する感度・特異度は89%・100%,脂質成分・出血成分と線維成分とを鑑別する感度・特異度は94%・100%と,きわめて良好な結果となった。従来の報告では,出血成分と他成分の識別感度・特異度は70〜84%・84〜97%,脂質・出血成分と線維成分の識別感度・特異度は85〜95%・75〜92%なので,それらと比べても優れた結果であると言える。また,T2強調画像では,脂質成分が高信号を呈する傾向があり,高い感度で他成分と識別可能であった。以上のことから,最適化された撮像条件であれば,T1強調画像を主体とし,T2強調画像を一部組み合わせることで,プラーク性状の正確な判定が可能であることが予想される。

図2  標準化案に則って撮像したMRプラークイメージング画像
図2 標準化案に則って撮像したMRプラークイメージング画像

プラーク性状解析ソフトによる定量評価

上記のように良好なコントラストの画像が安定して得られれば定量化も可能と考え,日立メディコ社と共同でプラーク性状の解析ソフトウエアを開発した。筋肉と内頸動脈を囲み,プラーク内性状についてカラーマップを作成し,その面積を自動で積算することができる(図3)。

図3 プラーク性状解析ソフトウエア
図3 プラーク性状解析ソフトウエア

図4は,T1強調画像のカラーマップである。上段がCEA術前のMR画像,下段が手術標本だが,非常に良好な一致が得られている。このソフトウエアを,術前だけでなく薬剤治療のフォローアップにも使用できるのではないかと考え,現在,抗血小板薬(シロスタゾール)を投与中の患者に対し,定期的なフォローアップを行っている。3D超音波検査でプラークの退縮が見られる患者では,ベースラインと比較して線維成分が増加し,出血・脂質成分が減少している傾向が認められる。

図4  プラーク性状解析ソフトウエアによるT1強調画像カラーマップ
図4 プラーク性状解析ソフトウエアによるT1強調画像カラーマップ

標準化プラークイメージングのメリットとデメリット

標準化MRプラークイメージングは,コントラストが良好で安定しているほか,短時間で多くのスライスが撮像できるというメリットがある。当院では,6分間で約9枚の画像を撮像しているが,左右の頸動脈分岐部の高さが違う場合でも,両側のプラークが評価できる。なにより,多くの1.5T装置で撮像できることは,大きなメリットと考える。
一方,この手法にも課題がある。1つ目は,拍動や体動によるアーチファクトであり,self-navigated radial scanを用いても時に解消できないことがある。2つ目は,BB法と比べて血液信号の抑制が不十分な点である。ただし,血液信号が抑制できないのは主に非狭窄例であり,狭窄例の術前検査に用いる限りはほとんど問題にならないと思われる。3つ目は,部分容積効果である。3〜4mmの厚めのスライスで撮像するため,どうしても解析精度が落ちてしまう。その点では, MP-RAGE法や3D-FSE法のような3D撮像法が優れていると言える。

MRプラークイメージングの将来

MRプラークイメージングは今後,日常診療におけるプラスアルファの検査として多くの施設で平易に行うことができ,かつ多施設研究などで使用可能な検査となるべきであると考えている。そして,より高いコントラストで安定した画像を得ることで,CEAやCASのハイリスク例の指標としての意義を確立し,治療方針決定や塞栓性合併症の低減に貢献することが期待できる。
ただし,そこがゴールではなく,脳卒中イベントにかかわる脳動脈硬化や脳動脈解離などの頭蓋内血管壁病変をも描出しうる汎用的な血管壁イメージング(vessel wall imaging)に進化していかなければならないと考えている。

まとめ

MRプラークイメージングは,CEA/CASの塞栓性合併症予測に有望と考えられるが,現時点では手法が特殊かつ煩雑で,汎用性には難があると言わざるを得ない。また,コントラストが不十分で,かつ装置や施設間の差異が大きい点は深刻な問題と考えられる。今後,標準化・最適化と精度検証をさらに進めていく必要があり,これまで主流であった手法からいかに脱却していくかを考えていかねばならない。

(文責・編集部)

佐々木真理(Makoto Sasaki)
1984年岩手医科大学医学部卒業。88年同大学院医学研究科卒業後,同大学中央放射線部助手。94年米国国立衛生研究所(NIH)留学。96年岩手医科大学放射線医学講座講師。2007年同大学先端医療研究センター(現・医歯薬総合研究所)准教授。2009年同教授。2011年〜現職。

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