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別冊付録

CURRENT TECHNOLOGY

日立のRadial Scan“RADAR”の技術と臨床応用

近年,特に高磁場MRI装置において,体動,脈拍,呼吸などのモーションアーチファクトの低減手段として回転状にk空間(周波数空間,受信したMR信号はここに取得される)を充填する手法が提案されています。日立は,このRadial Scanの独自技術を開発し,“RADAR(RADial Acquisition Regime)”と称して搭載しました。今回はこの技術の詳細に関して,1.5T超電導MRI装置「ECHELON」を中心に解説します。

Radial Scanの技術

図1に示すように,一般的な撮像手法はk空間に平行にデータを取得しますが,これをCartesian Scanと呼びます。これに対しRadial Scanでは,k空間を回転状にデータ取得します。さらに,Radial Scan にCartesian Scanを組み合わせ,ブレードと呼ばれる帯状に部分的な位相エンコードを行い,このブレードで回転状に全データを取得する方法もあります。

図1 Cartesian ScanとRadial Scanにおける画像再構成方法
図1 Cartesian ScanとRadial Scanにおける画像再構成方法

Cartesian Scanでは,k空間に充填したデータを二次元逆フーリエ変換処理して画像を再構成しますが,Radial Scanでは回転状にデータを充填したk空間に対し,まず位相補正をエコー間またはブレード間で行います。次に,グリッディング処理と呼ばれる,k空間の正確な格子上にデータが並ぶように取得データの補完処理による位置補正を行い,このデータを二次元逆フーリエ変換することで画像を再構成します。

Radial ScanがCartesian Scanと比較してモーションアーチファクトを低減できる要因としては,次の3点があります。
 (1) 位相エンコード方向のアーチファクト収束がないこと
 (2) k空間中心部分の積算効果
 (3) エコーまたはブレードごとの信号補正の効果

モーションアーチファクトは,通常の二次元逆フーリエ変換法においては位相エンコード方向に収束した特異的なアーチファクトとなります。特に,呼吸や拍動などの周期性のある動きに対しては,TRとの干渉により顕著なアーチファクトとなりやすい性質があります。これに対し,回転状にデータ取得するRadial Scanでは,位相エンコードを用いない,または部分的な位相エンコードに制限することで,アーチファクトの収束方向が拡散するため,モーションアーチファクトが分散して低減され目立たなくなります((1))。
また,Radial Scanでは,常にk空間中心部分のデータを取得するため,積算効果によるアーチファクト低減効果もあります((2))。Cartesian Scanでは,位相エンコードの中央部分が画像のコントラストを決定する最も重要なデータであり,この取得タイミングで被検者に動きがあった場合,きわめて大きなモーションアーチファクトを生じ,撮像の失敗となります。つまり,撮像時に取得するデータの重要性に違いがあるということです。これにRadial Scanでは,常にk空間中央部分のデータを取得するので,被検者に動きがあっても平均化され,この影響が低減されます。
一方,Radial Scanでは,k空間中心の信号を毎回取得するため,傾斜磁場の誤差などによりデータの位置が狂うとかえって大きなアーチファクトとなります。そのため,エコー信号や各ブレード間のデータで位相補正処理が必要です。また,この処理によりモーションアーチファクトを低減する効果もあります((3))。

シミュレーションによる検証

モーションアーチファクトの低減効果について検証を行った結果を図2に示します。シミュレーションでは,モデルの上半分に最大変位10mmの上下運動を与え,この変位タイミングを,図のグラフで示すように約30%の範囲での呼吸運動を模した形で作成しました。シミュレーション手法は,Cartesian ScanとRadial Scanにおいて静止状態と運動状態におけるpoint spread functionを計算し,この二次元データをモデルデータにconvolutionすることで行っています。結果画像を見ると,Cartesian Scanでは本来静止した下半分の部分も含め,画像全体にモーションアーチファクトの影響が出ているのに対し,Radial Scanではクリアな画像が得られることがわかります。

図2 モーションアーチファクトの低減効果シミュレーション
図2 モーションアーチファクトの低減効果シミュレーション

日立のRadial Scan“RADAR”

表1 Radial Scan手法の比較

前述の位相補正処理として,ブレードにて荒い画像をいったん再構成して被検者の動きをパターン認識し,これを戻した上で全データにて画像再構成するという実空間による補正手法が,PROPELLER法1)として提案されています。しかし,この方法はブレードタイプであることが必要で,FSE法での適用が基本となります。また,パターン認識のポストプロセス処理に時間がかかり,誤認識による補正ミスの可能性もあります。これに対して日立は,一次の逆フーリエ変換を行った投影空間で補正を行う手法を独自に開発し,“RADAR”2)として製品化しました。
RADARと一般的なRadial Scan手法であるPROPELLER法との比較を表1に示します。RADARは,1エコーでのRadial Scanが可能でSE法に適用できるため,良好なコントラストのT1強調画像が得られる点が特長です。一方,PROPELLER法では,T1強調画像もFSE法で撮像することになり,特にRadial Scanではブレードにすべてのエコーが集積してk空間の中央付近に置かれるため,長いTEデータの影響を受けてコントラストが低下するという問題があります。

RADARの特長

RADARは,容易に使えるRadial Scanをコンセプトとしています。この特長を以下で説明します。

1.シーケンスを選ばない
RADARは,SE,FSE,FIR,DWI,BASG(バランス系高速撮像)といった幅広いシーケンスに適用可能です。図3aはRADARを適用した頭部DWIの画像例ですが,歪みが少ない画像が得られています。図3bは腹部腎動脈のBASGによる3D MIP像とMPR像で,呼吸のアーチファクトが低減されています。

図3 RADARのシーケンス適用例
図3 RADARのシーケンス適用例

2.任意の撮像断面
高度な位相補正処理と全方向の折返し除去対応により,任意の撮像断面を設定できます。図4に,RADAR-FLAIRによる頭部のサジタル像とコロナル像を示します。

図4 RADARの撮像断面例(頭部RADAR-FLAIR)
図4 RADARの撮像断面例(頭部RADAR-FLAIR)

3.高い操作性と汎用性
撮像時にRADARの適用の有無をワンクリックで容易に切替えできます。また,RADAR-FSEではブレードタイプに,RADAR-SEでは1エコータイプに,シームレスに切替え可能です。さらに,すべての受信コイルで利用可能で,T1強調画像,T2強調画像,PD強調画像,FLAIR,STIR,Dual Contrastといった,任意の画像コントラストでの撮像が可能です。このようにRADARは,特別なシーケンスではなく,高い操作性と汎用性が特長です。
図5aはShoulderコイルによる肩関節の画像例で,通常のFSEと比較して呼吸によるモーションアーチファクトが低減されています。図5bのBodyコイルによる画像では,自由呼吸下のRADAR-FSEで,呼吸同期を併用した場合と同等の画像が得られています。

図5 RADARの各部位撮像例
図5 RADARの各部位撮像例

図6 RADAR-RAPID臨床画像例
図6 RADAR-RAPID臨床画像例

4.撮像時間の短縮
Radial Scanでは回転状にk空間の取得を行うため,高周波領域である周辺部のデータが不足し,空間分解能が低下します。このため,Cartesian Scanと同等の空間分解能を得るにはπ/2倍(約1.6倍)の撮像時間がかかります。ただし,現実には動きのある被検者に適用するため,Cartesian Scanでの高周波データ取得は重要性が低く,Radial Scanでの同一時間撮像の方が画像は良好であると考えられます。そこで,RADARでは,TimeモードとResolutionモードの2つを用意し,撮像時間を延長しない設定も可能にしました。
RADAR-RAPID(Rapid Acquisition through a Parallel Imaging Design)は,RADAR撮像において撮像時間のさらなる高速化を実現する技術で,日立がRAPIDと呼ぶPallarel Imaging技術を適用して撮像時間の大幅な短縮を可能にしています。RAPIDは,マルチチャンネル受信コイルによって独立して取得した異なる画像情報から,この感度分布を利用して位相エンコードを間引いた場合の画像データの折返し歪みを展開する技術です。これをRADARに適用するために,Radial ScanとCartesian Scanを組み合わせたブレードタイプにおいて,位相エンコード部分を間引くことで効果的に撮像時間を短縮します。図6に,RADAR-RAPIDによる自由呼吸下での腹部画像例を示します。

図7 頭部Dual Contrast RADAR-FSE
図7 頭部Dual Contrast RADAR-FSE

5.高画質
一般的に,Radial ScanによるFSE法では,T1強調画像,PD強調画像,STIRにおけるコントラスト低下の問題が指摘されています。これは,通常のFSE法と比較して,ブレードタイプのRadial Scanでは実効TE以外のエコーがk空間中央部分に配置され,コントラストが劣化するためです。RADARではこの影響を低減するために,k空間中央部分に特殊なフィルタを適用しています。図7にDual Contrast RADAR-FSEの画像を示します。良好なコントラストのPD強調画像が得られています。

臨床画像例

RADARによるモーションアーチファクト低減画像例を図8〜11に示します。
図8はSE法による頭部T1強調画像で,血流のアーチファクトがRADAR-SEの適用により低減されています。図9はパーキンソン病症例で,頭部のモーションアーチファクトが低減されています。図10は卵巣嚢腫症例で,腹壁の呼吸によるアーチファクトの顕著な低減効果が得られています。同様に,図11は子宮筋腫症例で,アーチファクトが低減されています。

図8 頭部T1強調画像
図8 頭部T1強調画像
図9 パーキンソン病T2強調画像
図9 パーキンソン病T2強調画像
図10 卵巣嚢腫T2強調画像
図10 卵巣嚢腫T2強調画像
図11 子宮筋腫T2強調画像
図11 子宮筋腫T2強調画像

●参考文献
1) Pipe, J. G.:Motion correction with PROPELLER MRI;Application to head motion and free-breathing cardiac imaging. Magn. Reson. Med., 42・5, 963〜969, 1999.
2) Takizawa, M., Takahashi, T.:Robust correction algorithm for radial sampling on Open MRI system, In, Proceedings of ISMRM Workshop on Non-Cartesian MR, Sedona, USA, Abstract 3, 2007.

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