日立メディコ

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別冊付録

Insight

脳卒中診療におけるMRIの役割と頸動脈プラークイメージングの可能性
正確な適応の判断におけるMRIの有用性

岩渕 聡(東邦大学医療センター大橋病院脳神経外科教授・脳卒中センター長)

岩渕 聡(東邦大学医療センター大橋病院脳神経外科教授・脳卒中センター長)

■東京都では2009年3月から「脳卒中救急搬送体制」の運用を開始しました。その急性期医療機関である東邦大学医療センター大橋病院の取り組みについてお聞かせください。

急性期脳梗塞の治療においては,2005年10月にt-PA(アルテプラーゼ)静注による血栓溶解療法が保険収載されましたが,その適応は発症後3時間以内と,きわめて迅速な処置が求められます。当院では東京都の救急搬送体制の立ち上げと同時期に脳卒中センターを開設し,24時間体制でt-PA静注療法が可能な学際的チーム医療を確立しました。開設時に3床だった脳卒中ケアユニットは,現在は6床に増えています。

■脳卒中センターでは,具体的にどのような診療が行われているのでしょうか。

急性期脳梗塞の治療法としては,t-PA静注療法が第一選択となりますが,t-PAが禁忌の場合や無効の場合には,血栓を吸引したり回収するデバイスを用いる血管内治療を行います。当院には,複数の日本脳神経血管内治療学会指導医・専門医がいますので,脳血管内治療を積極的に行っているのが特徴です。

■治療の適応を決める上で,画像診断は非常に重要だと思われますが,診断の流れをお聞かせください。

脳卒中疑いの患者さんの場合,最初にCT撮影を行い,出血か梗塞かを判定します。出血がなく麻痺があれば急性期脳梗塞の可能性が非常に高いので,t-PAの適応を判断します。次に,MRIの拡散強調画像(DWI)と灌流画像(PWI)で“diffusion/perfusion mismatch”の評価を行って,虚血性ペナンブラの診断を行うのが理想です。当院では,MRIの稼働時間内であれば,必ず拡散強調画像を撮像し,再灌流の可否を判断しています。
また,t-PAが無効かどうかの判断は,静注後約1時間が目安となりますので,その間に次の治療に移行する準備を行います。虚血領域が不可逆性変化に陥っている場合は,再灌流により出血する可能性が高く,安全に治療を行うためにも,治療の適応を判断する根拠が必要です。そこで,MRIによる評価がきわめて重要となりますが,24時間稼働できるMRIの検査体制が整っていないことが,多くの施設で課題となっています。

■日立メディコの1.5T MRI「ECHELON Vega」による頸動脈プラークイメージングの検討を行っているとのことですが,そのねらいをお聞かせください。

当院では,頸動脈ステント留置術を多く行っていますが,その際,プラークの性状によっては手技中に塞栓性合併症を引き起こす危険性があります。状況に応じて予防措置や治療法の変更が求められますので,プラークの性状評価はきわめて重要です。MRプラークイメージングについては,以前は別の1.5T装置でblack-blood法を用いて行っていましたが,表面コイルや心電図同期を用いなければならないほか,体動の影響を受けやすく,スライス枚数に制限があったため,プラーク全体の性状評価に多くの課題がありました。
その後,岩手医科大学の佐々木真理教授と日立メディコ社との共同研究により,同社の体動補正法であるRADARを用いたMRプラークイメージングの手法が検討され,撮像法の標準化も提唱されました。プラーク性状解析ソフトウェアも開発されたため,2011年夏から,当院でもそれらを用いた検討を開始しました。通常は,胸鎖乳突筋をプラーク信号輝度の判定基準としていますが,当院では頭板状筋を判定基準として,これまでに30例ほどの検討を行っています。本法では,スライス数が9スライスと多く広範囲の撮像が可能なほか,以前と比べてはるかに高画質・高コントラストで,十分な手応えを感じています。今後は,スライス厚やスライス幅を薄くして,3Dで撮像することを検討しています。

■脳神経外科領域において,MRIは今後,どのような役割を果たしていくとお考えでしょうか。

MRIについては,急性期脳塞栓症に対して,前述のようなデバイス,回収デバイスを選択する際に,T2*強調画像や磁化率強調画像(SWI)などを用いて,脳動脈内の血栓の性状評価など,質的診断がますます発展していくと予想しています。メーカーとしても,高い技術力で貢献してほしいと願っています。

(2012年2月29日取材)

1984年
  東邦大学医学部卒業
88年
  東邦大学大学院医学研究科博士課程修了
90年
  麻生飯塚病院脳血管内外科にて脳血管内治療研修
93年
  東邦大学医学部講師
95年
  ニュージーランド・オタゴ大学留学
96年
  アメリカ・シカゴ大学留学
2006年
  東邦大学医療センター大橋病院脳神経外科 助教授
07年
  同准教授
08年
  同教授,脳卒中センター長(兼任)
11年
  東邦大学医療センター大橋病院院長補佐

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