日立メディコ

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Technical Note

2009年9月号
特集−Step up MRI 2009−X 各社技術開発の最前線

MRI−高磁場オープンMRI「OASIS」におけるパラレルイメージング技術の開発

八杉 幸浩
MRIマーケティング本部

日立の最新オープンMRIシステム「OASIS」(図1)は,超電導コイルをガントリの上下に配置し,垂直磁場方式によりオープンデザインを実現したユニークな高磁場MRI装置である。
これまでの永久磁石によるオープンMRIでは,画像SNRを最優先することから,高速撮像技術であるパラレルイメージングの実現は困難であったが,OASISでは一般的な高磁場MRI装置と同様に高速撮像に対する高い要求に応えるため,垂直磁場方式では前例の少ないパラレルイメージング技術と,これに対応した受信コイルを新たに開発した。


図1 OASIS外観
図1 OASIS外観

◆RAPID(パラレルイメージング)の概要

日立ではパラレルイメージングを“RAPID(Rapid Acquisition through a Parallel Imaging Design)”と呼ぶ。以下に,RAPIDの利点と欠点を示す。

●RAPIDの利点
・高速化:RAPIDファクタに応じた撮像時間短縮
・画像歪みの低減:特にDWIでエコー数低減により効果的

●RAPIDの欠点
・撮像時間短縮に応じた画像SNRの低下:受信コイルの感度向上が必要
・撮像方向(位相エンコード方向)に応じたコイル構成:受信コイルの冗長チャンネルが必要

撮像時間短縮と引き換えに,それ相応の画像SNRの低下が生じる。したがって,RAPIDは先に述べたように,基本的には画像SNRに余裕のある高磁場MRI装置特有の技術であると言える。
RAPIDでは,受信コイルの感度分布コントロールが重要であり,感度の向上のみならず受信コイルに高い性能が要求される。


◆RAPIDの原理

RAPIDの原理を簡単に解説する。図2に示すように,すべての位相エンコードを計測する場合と比較して,50%の信号採取とすると撮像時間は半減する。撮像視野と空間分解能が同じであれば,画像は位相エンコード情報が不足するために,この方向に折り返しが発生する。そこで,感度分布の異なった受信コイルを複数用いて同時に計測し,複数の画像を取得して,あらかじめ計測しておいたそれぞれの受信コイルの感度分布情報からこの折り返しを展開するというものである。ここで重要な点は,位相エンコード方向に十分な感度分布差が要求されるということである。図3は受信コイルの感度分布の例であるが,図3 aの悪い例では2つのコイルに十分な感度分布差がないために,折り返しを正確に展開できない。


図2 RAPIDの原理
図2 RAPIDの原理
 
図3 受信コイル感度分布の必要性
図3 受信コイル感度分布の必要性

◆水平磁場方式のRAPIDコイル

昨今の水平磁場MRI装置の受信コイルは,マルチアレイコイルが一般的となっている。これは複数の小径コイル(エレメントコイル)から構成され,個々のコイルの感度を高め,この出力を束ねることで受信感度の向上を図るものである。しかしながら,感度の均一性という観点からは問題があり,感度均一補正処理が必須となっている。
このアレイコイルはRAPIDにも有用で,撮像方向(位相エンコード方向)によって束ねるエレメントを変更し,必要な感度分布差を得る。図4は,腹部用受信コイルの例であるが,すべての方向でRAPIDを実現するには最低でも8エレメント(上下に4エレメント配置)が必要であり,それぞれを撮像方向に応じて束ねて使用する。このため,現在の水平磁場MRI装置の基本仕様は8チャンネル受信システムとなっている。


図4 水平磁場装置のRAPIDコイル構成例
図4 水平磁場装置のRAPIDコイル構成例

◆OASISのRAPIDコイル

上記の水平磁場方式のRAPIDコイルに対して,OASISでは垂直磁場方式であるため,同様な構成の受信コイルは使用していない。OASISのRAPIDコイルは,図5に示すように高感度のソレノイドコイル(エレメントNo. 1,2)をベースとして,これに感度分布差を付与する補助コイル(エレメントNo. 3〜6)を設けている。図5のように,撮像方向に応じて補助コイルの使用方法を変えることで,ソレノイドコイルの高感度と高い均一性を最大限に活用している。この場合,エレメントNo. 5とNo. 6の2コイルは上下に配置して受信する必要があり,垂直磁場方式では困難な受信方向であるが,これは図6に示すバタフライコイルで実現している。
このOASISのRAPIDコイルでは,すべての方向でRAPIDを実現するのに6チャンネルで済むことがわかる。装置としては8チャンネルの受信システムとなっているので,余剰の受信チャンネルを活用して撮像視野を拡大する場合などに,複数の受信コイルの同時使用も可能となっている。このように,OASISでは効率的な受信チャンネルでRAPIDを実現し,ソレノイドコイルベースの受信コイルとして,高感度と均一な感度特性を特長としている。
図7に,水平磁場1.5T MRI装置「ECHELON Vega」とOASISの腹部用コイルの外観を示すが,両者の構成の違いがよくわかる。OASISのRAPID Body Coil(図7 b)は分割式で使いやすさにも配慮されている。


図5 OASISのRAPIDコイル構成例
図5 OASISのRAPIDコイル構成例
 
図6 バタフライコイルの原理
図6 バタフライコイルの原理
 
図7 受信コイルの外観比較
図7 受信コイルの外観比較

オープンMRIは,その高い有用性からますます活躍の場を広げている。高磁場オープンMRI「OASIS」の登場により,今後,パラレルイメージングをはじめとして高磁場MRIならではの新機能,新技術を搭載し,その効果を臨床の場に提供していきたいと考えている。


【問い合わせ先】 MRIマーケティング本部  TEL 03-3526-8307