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Technical Note

2010年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

CT−Brillianceシリーズの最新技術動向─“被ばく低減”と“画質担保”の観点から

樋口 江
ヘルスケア事業部マーケティング本部CT/NM統括部

マルチスライスCTの普及で三次元データは取得が容易となり,現在多くの施設でルーチンとして用いられている。昨今のトピックスとして,64スライス超のプレミアム機種の発売や,ヨード系造影剤のk吸収端を用いた低管電圧撮影(k-edge Imaging)1),2),エネルギー特性を利用した画像化(Energy Subtraction),機能診断(Functional,Molecular Imaging)などが挙げられる。一方で,CT検査での被ばくのリスクや発がんに関する報告3)〜5)が,ニュースに取り上げられ関心が高まっているとともに,被ばくに対する対策がよりいっそうシビアに求められている。また,マルチスライスCTにおいて散乱線の増加や各種アーチファクトの影響により,従来のシングルCTと比較してスライス面内で画質が劣化しているとの意見も耳にする。
本稿では,“被ばく低減”と“画質担保”の観点からBrillianceシリーズに搭載されている最新技術とアプリケーションを解説し,将来技術についても述べていきたい。


■最新被ばく対策技術─Eclipse DoseRight Collimator/Various Wedge & Filter

ヘリカルスキャンを行う際,画像再構成のアルゴリズム上,スキャン開始・停止位置で1/2回転以上のプロジェクションデータが必要とされる。この現象はover-rangingとして知られており,主に検出器幅やスキャンピッチに依存する(検出器幅:40mm,ピッチ:0.9程度で約6.5cm)ため,CT装置が広範囲・高速化の方向に進めば進むほど,ムダな被ばくは増大する。
そこで,最新の256スライスCT「Brilliance iCT」には,図1に示す“Eclipse DoseRight Collimator”と呼ばれる機能が実装されている。本機能では,スキャンの開始・終了時に発生するムダ被ばくのX線ビームをヘリカルスキャンと連動し遮蔽することで,最大30%程度の被ばくを低減する。
また,広範囲検出器のCTほど,Auto Exposure Control(CT-AEC:管電流自動変調機構)での被ばく低減が行いづらくなるため,患者の体型や部位ごとに,X線ビーム形状や強度を最適化することが求められる。Brilliance iCTには,管球側に付加フィルタを2種類,ウェッジ(図1 c)を3種類用意してあり,スキャンプランと連動して最適な組み合わせが自動選択される仕組みとなっているため,目的とする画質を損なうことなく各スキャンでの被ばくを最適化する。

図1 被ばく低減のための各種最新技術
図1 被ばく低減のための各種最新技術

図2 散乱線対策の各種最新技術
図2 散乱線対策の各種最新技術

■画質担保のための散乱線対策技術─ClearRay Collimator/ClearRay Reconstruction

検出器の多列化に伴い,散乱線により画像にいくつかの問題が生じる。1つは,画像に寄与するSNRの低下,もう1つは線質効果によるカッピングアーチファクト,とりわけ重要な問題としてCT値のシフトが挙げられる。CT値は相対値であるが,臨床の場でしばしば絶対値的な扱い(定量評価)がされることもあり,CT値のシフトは無視できない。また散乱線は,被写体サイズに比例して含有量も増加するため,被写体サイズによらず画質を担保する(≒CT値を担保する)ことは,今後のCT開発の中で急務と言える。
Brilliance iCTには種々の問題に先駆け,検出器側に二次元Anti Scatter Grid“ClearRay Collimator”を実装している。一方,2009年の北米放射線学会(RSNA 2009)で「Brilliance 64」向けに“ClearRay Reconstruction”を発表している。ClearRay Reconstruction(図3)では,画像再構成の際にモンテカルロシミュレーションを利用し画像に寄与する散乱線成分を除去して,CT値のバラツキを抑制するとともに,カッピングアーチファクトの抑制も行う。
モンテカルロシミュレーションの医用利用は,放射線治療でのEGSやGEANT4が一般的に知られているが,CT装置への応用例は少ない。しかも,CT装置でモンテカルロシミュレーションを用いた場合,20日以上の計算時間を費やしてしまう。そこで,本技術では膨大なシミュレーション結果をデータベース化し用いることで計算時間の問題を解決している。図3に示す画像からも見て取れるように,ClearRay Reconstructionの使用でアーチファクトの低減とCT値のバラツキ・シフトが抑制されている。また,データベースには被写体サイズも考慮したデータテーブルが用意されており,被写体サイズによらず画質の担保を可能とする。

図3 ClearRay Reconstructionによる画像の比較
図3 ClearRay Reconstructionによる画像の比較

■肝臓解析ソフト─Liver Analysis

“Liver Anlysis”(図4)は,弊社ワークステーション「Extended Brilliance Workspace」に搭載された最新アプリケーションである。門脈優位相のみのデータから,Fuzzy Region Competitionにて門脈・肝静脈を自動検出し,血管情報をもとに3D-Voronoi Methodを用いて肝区域を抽出する全工程を自動で行う。生体肝移植の術前,切除容積を決定したり,残肝容積の予測といった,従来手作業で時間を要していた解析を短時間で行うことで,ワークフローの改善,解析時のストレス軽減が期待される。
特にユニークな機能として“RFA(Radiofrequency Ablation)Planning”が挙げられる。RFAのシミュレーションとしてマーキングした病変に対し,体表面から病変部までの距離計測,焼却範囲や形状(楕円球/球状),穿刺生検時のアプローチ角度,エコーガイド下での仮想MPR表示など,複合的に治療戦略をシミュレートすることが可能である。

図4 Liver Analysisによる画像解析例
図4 Liver Analysisによる画像解析例

■将来技術─iDose(W.I.P.)

肝臓に代表される腹部CT検査は多時相スキャンを行う場合が多く,かつ低コントラストを必要とするため,検査全体の被ばくが大きくなる。近年,臨床応用が始まっている肝臓,膵臓のパーフュージョン検査でも同一位置でスキャンを行うため,被ばくの増加は避けられない。これらの対策として,現在標準的に搭載されているCT-AECでは,低コントラストを重要とする腹部領域において,被ばく低減の効果より,画質を均一に担保するメリットの方がメインとなっているのも事実である。弊社では,これらの問題の新しいアプローチとして,これまでのバックプロジェクション法による画像再構成を進化させた“iDose”をRSNA 2009で発表した。
バックプロジェクション法から逐次近似法によるアルゴリズムを用いることで,最大80%の被ばく低減が行える(図5)。逐次近似を行う際,プロジェクションデータからノイズモデルと解剖学的(Anatomical)モデルの2つを考慮し,演算を行う。逐次近似法ではこれまで演算時間の延長が問題視されることも多かったが,iDoseではアルゴリズムの最適化とリコンストラクタの強化により,これまでの演算時間から遅延することなく,秒間20枚(通常:50枚)を達成している。画質を維持したまま大幅に被ばくを低減できる本技術の応用範囲は広い。本技術は,いまだ製品発表されていない将来技術であり,今後の開発動向に期待したい。

図5 iDoseの概要とiDoseで得られた各臨床画像
図5 iDoseの概要とiDoseで得られた各臨床画像

CTは,他モダリティと比べ被ばく量が多いとの意見もあり,被ばく低減が責務であるとは言え,画質担保もおろそかにはできない。弊社ではこれからも2つの相反するパラメータの両立を念頭に置き,製品開発を行っていきたい。


●参考文献
1) Nakayama, Y., Awai, K., Funama, Y.,et al. : Abdominal CT with low tube voltage ; Preliminary observations about radiation dose, contrast enhancement, image quality, and noise. Radiology, 237・3, 945〜951, 2005.
2) Funama, Y., Awai, K., Nakayama, Y.,et al. : Radiation dose reduction without degradation of low-contrast detectability at abdominal multisection CT with a low-tube voltage technique ; Phantom study. Radiology, 237・3, 905〜910, 2005.
3) Berrington de Gonzalez, A., Darby, S., et al. : Risk of cancer from diagnostic X-rays ; Estimates for the UK and 14 other countries. Lancet. 31, 363・9406, 345〜351, 2004.
4) Berrington de Gonzalez, A., Mahesh, M., Kim, K.P., et al. : Projected cancer risks from computed tomographic scans performed in the United States in 2007. Arch. Intern. Med., 169・22, 2071〜2077, 2009.
5) Smith-Bindman, R., Lipson, J., Marcus, R., et al. : Radiation dose associated with common computed tomography examinations and the associated lifetime attributable risk of cancer. Arch. Intern. Med., 169・22, 2078〜2086, 2009.
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