フィリップスエレクトロニクスジャパン
Technical Note

2012年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

CT−「Brilliance iCT」におけるAbdominal Imaging

梭タ真一
マーケティング本部CTクリニカルサイエンス

腹部領域の画像診断においてCTが貢献できることは,正確なCT値と均一性・低ノイズ・十分な造影効果を有する画像を提供することであり,それに耐えうるハードの性能が必要となる。本稿では,「Brilliance iCT」に搭載されているいくつかの最新技術について解説する。

■Clear Ray Reconstruction ─ CT value accuracy

図1 Clear Ray Reconstructionの概念図
図1 Clear Ray Reconstructionの概念図

CT値を定量的な指標として使用するには,その精度が一定レベルで保たれていなければならない。その精度が体格や部位によって異なるようでは,信頼性は懐疑的なものとなるであろう。例えば,大きな被写体では,小さな被写体に比べ全体的に黒い(CT値が低い)画像が得られたことはないだろうか?1)また,高吸収体の周囲で,ダークバンドと呼ばれるような黒い帯状アーチファクトの出現を経験したことはないだろうか?
CTでは,CT値の精度を保つためにキャリブレーションを行う。その方法は,水ファントムや空中での撮影をもとに,CT値を水なら0HU,空気なら−1024HUに補正している。これを行うことで,CT値の均一性を保ち,精度を高めている。しかしながら,このキャリブレーションに用いられる水ファントムは,多くの場合は正円形であり,腹部のような楕円形の部位とは形状が異なる。仮に,楕円のキャリブレーションが行えたとしても,被検者の体格はさまざまであり,ファントム形状やサイズを増やすことで解決できる問題ではない。さらに,ファントムは単一な物質(ここでは水)で構成されており,人体の骨や臓器,あるいは造影剤などのように異なる吸収体を考慮したキャリブレーションを行うことは不可能に近い。
さて,いままで用いてきたこのキャリブレーションという言葉は,この場合においては,不都合な値を補正すると言い換えられる。この不都合な値をもたらす要因は,2つ考えられる。1つは散乱線であり,もう1つは,ビームハードニング効果である。この2つの要因が含まれたX線減弱信号は,ディテクターで検出され,画像になる。この状態から原因を完全に切り分けることは難しい。
そこでキャリブレーションアルゴリズムの見直し,つまり再構成法を改良することで,この対策を行ったのが“Clear Ray Reconstruction”である。散乱線の対策としては,放射線治療で知られるモンテカルロシミュレーションを用いている。モンテカルロシミュレーションを画像再構成のたびに行っていては,画像出力までに数十日を要する。そのため,膨大なシミュレーション結果をデータベース化することで,従来と同等の再構成時間を可能としている。もう1つの不都合な値となるビームハードニング効果を抑制する対策としても,数十万通りのデータベースを用意している。先に述べたように,これをファントムキャリブレーションで行うならば,さまざまなファントム形状を用いて,設置時や点検時には膨大な時間をキャリブレーションに費やされることになるであろう。
そして,何よりも特筆すべきは,Clear Ray Reconstructionでは,管球角度ごと・1viewごとにこのデータベースを適用している点である。これにより,さまざまな被写体形状に,より近いキャリブレーションテーブルの適用が可能であり,撮影パラメータでこれらを考慮したSFOVの選択も不要である。
このように,Clear Ray Reconstructionは従来からの再構成法を見直し,被写体間や撮影部位によるCT値のバラツキを抑え,より精度を高めることで腹部領域での画質改善に貢献している(図1)。

■iDose4 ─Higher spatial & contrast resolution

図2 iDose4 reconstruction概念図
図2 iDose4 reconstruction概念図

腹部領域において,CT画像には微小なコントラスト差やCTAにおける微細構造,そして,十分な造影コントラストを表現することが求められる。
従来からのFiltered Back Projection(FBP)には,再構成時間の短縮や分解能向上といったメリットがあるが,一方デメリットとしては,メリットを追求すればするほど,画像ノイズの増加を招くことが現状の課題であった。
“iDose4”は,iterative reconstruction(IR)を応用した再構成法であり,FBPの問題であったノイズの除去(De-Noise)を主な目的としている。そのプロセスは,raw data領域でのNoiseモデルを用いたIRと,image領域でのAnatomical Modelを用いたIRで行われている。このHybrid IRにより,De-Noiseプロセスの高速化とNPSシフトを抑えたFBP同等の画像品質を提供している。さらに iDose4には,7段階のDe-Noiseレベルが設定可能であり,被ばく低減レベルや画像ノイズレベルに応じた柔軟な画質調整が行える(図2)。
先に挙げた腹部画像に求められる項目とノイズは,密接な関係を持つ。まず,微小なコントラスト差は,ノイズ低減により,観察者の視認性やCNRの向上が期待できる2)。従来は,線量の増加によりこれらを改善していたが,これ以上の被ばく線量増加を抑制することにもつながる。次に,微細な構造を表現するためには,再構成フィルターや焦点サイズの選択を変更する必要がある。しかしながら多くの場合,一定の画像ノイズレベルや守られるべき被ばくレベルの中では,装置の十分なパフォーマンスを発揮するには至らなかった。iDose4は,高分解能な再構成フィルターを使用した時に発生するノイズを,従来のFBP再構成のノイズレベルと同等で画像出力が可能である。これにより,再構成フィルターを,CATPHANで10lp/cm程度が視認可能なものを使用しても,臨床応用が可能である。
そして,low-kVテクニックについて述べる。これは,造影コントラストを十分に得るために低い管電圧を設定し,実効エネルギーをヨード造影剤のk-吸収端に近づけることで,さらなる造影効果をねらったものである。80kV,100kVの使用で,およそ20〜36%の造影効果の向上が期待できる3)〜6)。ただしこのテクニックは,従来使用していた120kVからの大幅な線量不足を招き,腹部のようなノイズにシビアな領域では,低体重の被検者や小児などに応用が限られてきた。それから,体格の大きな被検者や従来と同等のノイズレベルを求める場合,pitchを低くしてスキャンスピードを犠牲にするのが現状であった。しかし,iDose4によるDe-Noise効果は,これらの課題であった線量不足を補い,大幅に適用の範囲を広げている。これにより,従来と同等の撮影が可能であり,造影効果を上げる,あるいは,造影効果を同等のまま造影剤量の減量を行うことがすでに臨床応用されている。
このようにiDose4によるDe-Noiseの効果は,被ばく低減のみならず,low contrast, contrast enhancement,spatial resolution,scan speedと多くの課題を克服し,装置パフォーマンスを発揮するための重要な役割を果たしている。

■iMRC ─Is large power necessary for X-ray tube?

iDose4の項で述べたlow-kVテクニックは,iDose4だけでなく,“iMRC”と呼ばれる高出力・大容量管球によっても支えられている。どの装置でも実効エネルギーの違いはあれ,120kV以下の管電圧の選択が可能である。しかしながら,low-kVによる撮影法は,逐次近似法を応用した画像再構成が登場する以前は,テクニックとしては知られていたが,実際の使用においてはあまり応用されてこなかった。それは,管球出力が不十分であったからにほかならない。またdynamic撮影では,複数回の設定された高速撮影が決められたdelay timeで開始される。そのため,高い管電流を続けて何度も使用し,素早いクーリング性能を有していなくてはならない。これを可能にするためには,高出力・大容量管球が必要不可欠である。このようなハイスペックな管球は,多くの場合,心臓撮影のための高速回転を有する装置でなければ必要がないと思われがちであるが,このようなlow-kVテクニックやdynamic撮影などでも,不可欠なテクノロジーと言える(図3)。

図3 Brilliance iCTに搭載されているiMRC管球
図3 Brilliance iCTに搭載されているiMRC管球

●参考文献
1) Ning, R., Tang, X., Conover, D. : X-ray scatter correction algorithm for cone beam CT imaging. Medical Physics, 31, 1195, 2004.
2) Mieville, F.A., Gudinchet, F., Brunelle, F., et al. : Iterative reconstruction methods in two different MDCT scanners ; Physical metrics and 4-alternative forced-choice detectability experiments - A phantom approach. Phys. Med., 2012.
3) Marin, D., Nelson, R.C., Samei, E., et al. : Hypervascular liver tumors ; Low tube voltage, high tube current multidetector CT during late hepatic arterial phase for detection─Initial clinical experience. Radiology, 251, 771〜779, 2009.
4) Nakaura, T., Awai, K., Maruyama, N., et al. : Abdominal dynamic CT in patients with renal dysfunction ; Contrast agent dose reduction with low tube voltage and high tube current-time product settings at 256-detector row CT. Radiology, 261, 467〜476, 2011.
5) Schindera, S.T., Diedrichsen, L., Muller, H.C., et al. : Iterative reconstruction algorithm for abdominal multidetector CT at different tube voltages ; Assessment of diagnostic accuracy, image quality, and radiation dose in a phantom study. Radiology, 260, 454〜462, 2011.
6) Bae, K.T. : Intravenous contrast medium administration and scan timing at CT ; Considerations and approaches. Radiology, 256, 32〜61, 2010.
   

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