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Technical Note

2012年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

MRI−Ingeniaフルデジタルテクノロジーの技術革新

門原 寛/小原 真
ヘルスケア事業部マーケティング本部

■限界を迎えた多チャンネル化競争

MRIが誕生し,高画質化と高速化の技術革新が一貫して取り組まれ,1990年代以降,マルチチャンネル化された受信サーフェイスコイル(フェイズドアレイコイル)の導入がスタートした。そして,撮像の高速化技術“SENSE(Sensitivity Encoding)”が99年に製品化されたことによって,高画質と高速化を両立する最も効率的なアプローチとして,受信コイルの多チャンネル化競争が始まった。臨床に導入される受信コイルのチャンネル数は,4,8,16,32と倍々に増加を続け,研究レベルでは100チャンネルレベルまでの開発が行われている。しかし,このコイルの多チャンネル化は,一見単純なアプローチとして映るかもしれないが,実は大きな技術的限界に直面している。それは,スタンダードなMRIシステムでは,信号を受信してからデジタル変換を行うまでの信号処理設計が,依然としてアナログであることに関連している。図1 a,bには,スタンダードなアナログベースの受信システムを基本に,多チャンネル化が進められた場合の回路図を示している。そして,多チャンネル化された新しいコイルが開発されれば,本体のRFレシーバーもアップグレードしなければならない。仮に,将来100チャンネル受信コイルシステムを開発した場合には,本体の信号処理電子回路システムも100チャンネル用にアップグレードしなければならない。よって,現実的には現在のデザインのままでは,将来性や拡張性に限界があると言わざるを得ない。

図1 アナログ回路とデジタル回路(dStream)
図1 アナログ回路とデジタル回路(dStream)

■チャンネル数に依存しないフルデジタル回路の導入

「Ingenia 3.0T/1.5T」(図2 a)では,信号処理回路から従来のアナログ処理過程を排除する,フルデジタル化へと舵を切った。この設計を“dStream”と呼ぶ。dStreamの設計は,図1 cに示すとおり,受信電子機器の革命的なコンパクト化(赤枠が旧基盤で,青枠が新基盤)によってコイル内にADCを内蔵することに成功したことが出発点となった。そして,図1 dに示すとおり,コイルで受信したアナログ信号を電気的ロスなく,受信直後にコイル内でデジタル変換することで,画像再構成コンピュータへのデータ送信に必要となるのは1本の光ファイバケーブルだけとなる(図2 b)。これは,コイルが何チャンネルに増加しようと変わらない。つまりdStreamは,コイルのチャンネル数が無限に増加しても処理回路側の制限を受けない,恒久的なシステムであると言える。

図2 Ingenia3.0T/1.5T
図2 Ingenia3.0T/1.5T

■信号ロスを省き,SNRが増加

これらRF受信プロセスのデジタル化,簡素化は,システムの半永久的な拡張能力と同時に,画質の向上にも大きく寄与する。アナログケーブルの距離が長くなれば,信号ロスが起こる。コイルが多チャンネル化されると,各コイルにつながっているワイヤーを束ねて配線するために,クロストークも増加する。しかも,従来のアナログ回路では,コイルの多チャンネル化に伴う回路の拡張を簡素化するために,複数のアナログ信号同士を多重化(multiplexing)することでADCの数を減らすという技術が用いられている。図1 a,bでは,その典型例を示している。2チャンネル受信回路(図1 a)では4つのADCが用いられているが,複数チャンネル受信回路(図1 b)では3つのADCしか用いられていない。このような処理は,せっかくの多チャンネル化のパフォーマンスを低下させ,SNRの低下,画質の劣化へとつながる。一方,信号受信直後,各コイルで受信した信号ごとにダイレクトにデジタル変換を行うdStreamでは,そのような劣化原因をすべて除くことができる。その結果,画像のSNRを従来システム比で最大40%増加させることに成功した。図3に,従来システムとIngeniaシステムそれぞれで撮像された腹部画像の比較を示しているが,まったく同じ条件での撮像でありながら,SNRに大きな差があることがわかる。

図3 dStreamを用いたSNRの上昇
図3 dStreamを用いたSNRの上昇

■新たなアプリケーション: ダイレクトコロナル全身DWI

図4 ダイレクトコロナルによる 全身DWI (画像ご提供:東海大学様)
図4 ダイレクトコロナルによる 全身DWI
(画像ご提供:東海大学様)

Ingeniaおける静磁場均一性の向上とdS-SENSEによるSENSEの高倍速化は,EPI撮像特有の磁化率アーチファクトやケミカルシフトアーチファクトを低減することが可能となるため,特にDWIにおいてその威力を発揮する。例えば,従来の全身DWI撮像は,撮像範囲を考えるとコロナル断面での撮像が適しているにもかかわらず,アーチファクトを考慮してアキシャル断面で撮像されていた。しかし,マグネットの静磁場均一性の向上,dStreamによるSNR向上,そして,dS-SENSEによるSENSE展開精度の向上によって,SENSEファクタ5を用いたダイレクトコロナルDWIのトライアルが実際にスタートしている。図4に,ダイレクトコロナルによる2スタック全身DWIの画像を示している。従来のように,アキシャル撮像で得られた画像をコロナル断面でMPR再構成を行う場合と異なり,ダイレクトコロナル撮像で得られた画像には信号の不連続が認められない。また,5倍速という高SENSEファクタを使用しても,画像中央部に顕著なノイズ成分は認められず,SENSEの展開エラーも確認できない。これらの結果は,いままで不可能とされたコロナルでのDWIを可能とし,臨床検査の内容と質を大きく変えていく可能性を示唆している。

現在,Ingeniaは国内で10台以上が稼働している。高いSENSEファクタの使用,ダイレクトコロナルDWI,高分解能ダイナミック撮像など,高い磁場の均一性や最大40%まで上昇した高いSNRを生かした新しいアプリケーションの開発が現在も続けられている。一方で,ワイドボアの快適性,最適なコイルエレメント選択の自動化など,患者様やMRIオペレータが直面する検査環境にも確実な変化をもたらしている。快適性とパフォーマンスという2つの課題を妥協なく追究して開発されたIngeniaは,これからのMRIの臨床現場に大きな変革をもたらすシステムであると言えるだろう。

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